第18話 国境の街と新しい奴隷
別の話(ifストーリー)を上げていたんですが、作風が違いすぎるものを混ぜてしまったので、お叱りを受けました。と言うか、短編にすればよかったのに、わざわざ本編と混ぜたのがいけなかったと思います。なので、さっさと2章をあげることにしました。
外道主人公OKと言う人は下記も見てやってください。
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馬車の旅も2日目の夜となった。俺たちは今、夕食をとっている最中だ。食事に関しては奴隷少女2人に完全に任せることにした。簡単に言うと俺とさくらさんは<料理>スキルを付けても役立たずだった。おいスキル、そこはもうちょっと頑張れよ。
ミオは宣言通りに料理の腕が高かった。マリアは<料理>スキルを持っているが、実際にはほとんど経験がなく、ミオの手伝いから始めていた。しかし、マリアの物覚えの良さは料理においても有効で、2日目からはすでに立派な戦力として、食卓に貢献していた。
「ご主人様!どう?おいしい?」
ミオが目を輝かせて聞いてくる。この見た目は8歳、精神年齢24歳の少女は時々外見相応の可愛らしさを見せてくれる。
「ああ、おいしいよ。このコロッケ」
「そうでしょー。コロッケ作りには自信があるんだー」
《コロッケおいしー》
今、俺たちが食べているのはパン(買ったもの)、コロッケ、野菜スープ、卵焼きである。旅の最中にしては不自然なラインナップである。
「いやー。さくら様の作る魔法ってすごいですねー。キッチンまで作れるんだから!」
「正確には部屋を作っただけですからね」
ミオのべた褒めに、さくらが苦笑して返す。
そうそう、さくらには有り余るMPでいくつか新しい魔法を作ってもらっている。
1つが「ワープ」。これは目視できる範囲に一瞬で転移できるという魔法だ。少し工夫して、MP消費と詠唱を調整できるようにしてある。詠唱が長くなるほど消費MPが下がるようにしているのだ。逆に言うと戦闘中などの詠唱したくない場合には、MPは多くかかるがほとんど無詠唱で転移できるようにしている。
ちなみにセルディクが持っていた<無詠唱>スキルだが、<固有魔法>はサポート対象外のようで、詠唱が必須となる。魔法の生まれた経緯を考えれば、サポートされていなくてもしょうがないかもしれないな。
2つ目が「ポータル」。1度行ったことのある場所に転移が出来るという魔法だ。もちろん元の世界は含まれない。正確には過去にこの「ポータル」を設置、もしくは使ったことのある場所に行くことが出来る。つまり、王城とかに行くことは出来ない。いや、行けと言われても絶対に行かないけど…。
3つ目は「ルーム」。これが今回ミオが褒めた魔法だ。簡単に言えばこちらの世界に扉を置いて、その先を異次元の部屋と繋げるという魔法だ。部屋自体には何も置いていないが、手持ちの料理道具を置いて、水魔法で貯めたタンクを用意すれば、簡単にキッチンとなる。街を出る前に色々と料理道具を購入して<無限収納>に入れていたからできたことだ。この扉は動かすことも、<無限収納>に入れることもできる。ただし、生き物が中に入っている場合は、<無限収納>にも入れられない。上手いことルールの穴をつけないものか…。『ルーム』の扉は馬車の中に置いてある。他にもいくつかルームは作っているが、それはおいおい説明していこうと思う。
2つも転移系の魔法があるのは、それだけ俺の中で「移動」の重要性が高いということだ。
ゲームとかでは、世界中を自由に飛び回る手段を手に入れるのは最後の方になる。そうしなければ、シナリオを製作者の思うように進めるのが難しくなるからだ。もっとも、移動はできるけど街には入れてもらえない、なんて手段でそれを防ぐ場合もあるが…。
話はそれたが、この世界はゲームのようでゲームではない。律儀に待っている必要もないので、さっさと高速移動手段を手に入れることにしたのだ。とはいえ、普段の旅は馬車だ。明確な目的地があるわけでもないし、魔物と戦い陣営を強化する必要もある。それに何よりも『観光』が出来なくなるのは困る。
さくらたちと話し合った結果、『元の世界に帰る』は最優先目標ではなくなった。この国を出た後の旅の目的は観光が4割、戦力増強が3割、帰還方法の捜索が1割、残りがその他となっている。帰還方法については現状、エルフの語り部に話を聞くくらいしかできないしね。
「「「「《ご馳走様でした》」」」」
食事が済んだので野営の準備をする。「ご馳走様」は知らないマリアとドーラに教え、「いただきます」も含めて食事の際には言うようにルール化した。
次の街へは明日の昼前には着くようだから、馬車の旅も1度終了する予定だ。
「仁様、お風呂の用意が整いました」
「わかった。ありがとう」
マリアに促されて、俺は風呂へ向かう。もちろん、馬車内にある扉の向こうの「ルーム」だ。簡単なものだが、土魔法でバスタブ(石)を作り、ルームの中に入れた。宿で風呂に入って以来、さくらとミオがどうしてもとお願いしてきたのだ。
結果、料理はキッチンで作り、食後は風呂に入るという「それホントに旅?」状態となっている。あ、一応風呂は男女別ですよ。
風呂上がり、テント内で寝袋で寝る。「ルーム」で寝室を作ってもいいのだが、ベッドはさすがに買ってないし、手持ちの材料では作れない。さらに馬車や馬、「ルーム」の扉が放置状態になってしまうので保留としている。それホントに旅?
翌日、予定通り昼前にはリラルカの街が見えてきた。
ここで少しカスタール女王国について説明しておこう。カスタール女王国はその名の通り女王が統治する国だ。ほぼ必ずと言っていいほど王家の直系には女性が生まれる女系一族だ。基本的な資質は質実剛健で、あまり派手すぎるものを好まないとのこと、エルディアのように無駄に華美な装飾とかはせず、機能性を重視することが多いとのこと。
文化的にはエルディアと同じく、中世ヨーロッパがベースのようだが、どことなく日本を感じさせる文化も多いらしい。一般的ではないが、着物のような服もあるようだ。
王家その他が嫌いなことを差し引いても、カスタールの方が大分好みである。
「いよいよ国境!これでこのクソ国から出られるな」
「ご主人様、結構ため込んでたのね…」
うん。ナチュラルにクソって付けるくらいにはね。ちなみに王家とかが嫌いと言う補正を含めたら、勝負にすらならないよ。前評判だけでカスタール圧勝。
「ここまでくれば追手もやってきませんよね…」
さくらは追手を気にしていたようだ。今1番あり得る追手は縦ロール絡みの方なんだけどね。あの爺さんのようなSランク冒険者が大挙して押し寄せてきたら、さすがの俺も無傷とはいかないだろうな(負けるとは言ってない)。
「追手が仁様に害をなすのなら、私が切り捨てます!」
マリアさんは相変わらずの忠誠心ですね。まあ、勇者が追手にでもならない限り、マリアがそうそう後れを取るとも思えないけど。
《ごしゅじんさまー。ごはんたべたいー》
「わかった、わかった。入ったら、まずは食事にしよう」
《わーい》
このドラゴン、食事の魅力に取りつかれているようだった。そんなに竜人族の村の食べものって不味いのかね…。
A:不味いです。そもそも料理と言う概念がありません。基本竜形態です。料理道具が持てません。
「もう昼も近いわね。ご主人様、エルディアとカスタール最初はどちらで食事します?」
「カスタールで」
「即答ですね。仁様、そんなにエルディアが嫌いなんでしょうか…」
「聞く必要ある?」
「…」
エルディア王国側の門に到着した。門では1人1500ゴールドを支払うことになった。なんでも、国境線上にある街で、入国のための税金も兼ねているためだとか。ちなみにエルディア王国側から入って、カスタール女王国側から出る場合にも1500ゴールドかかる。これは、どちらの街から入ったかを示す証明書によって判断する。
この国では別の国に行くのに、正規の手順を踏むと1000ゴールドかかる。エルディア王国側の街に入るのに1000ゴールド、国を跨ぐのに1000ゴールド、カスタール女王国側の街に入るのに1000ゴールドとして帳尻を合わせているらしい。
なので、5人分7500ゴールド支払って街に入る。ドーラを人間形態にしているのは証明書関連のトラブルを防ぐためである。
「さて、軽くこの街を観光して行こうか」
「あ、ご主人様。ベッド買いましょうよ、ベッド」
ミオはベッドが欲しいようだ。
確かに『ルーム』用の設備をこの街で買うのもいいかもしれないな。
「そうだな。だが、『ルーム』の番も必要になるから、全員分というわけにもいかないぞ」
「じゃあとりあえず1個だけ買って、使うのは交代制にしましょう」
さくらもベッドを買うのは賛成のようだ。まあ、1個くらいなら買ってもいいだろう。その分旅が快適になるだろうし…。
「普通の商人とかは、ベッドを旅に持っていかないのだろうか」
「あ、聞いたことがあります。商人はそんなことするくらいなら、そのスペースに売れるものを入れるそうです」
マリアの説明に納得する。俺らとはスタンスが違うらしい。
「そんなことをするのは、貴族とか王族とかが移動する時くらいだと聞きました」
つまりベッド持参で旅をするということは貴族・王族並みの贅沢ということか。
そんな話をしていたら、宿に着いた。マップで馬車を置ける宿で検索したのだ。店員に話をつけ馬車を預かってもらう。ちなみにこの宿はカスタール女王国側にある。門から少し離れるが、俺が強引にこの宿にしたのである。ドーラはお腹がすいていたようで、エルディア側にさっさと泊まることを望んでいたが…。いや、選べるなら王国は選びたくないだろ…。
ちなみに奴隷2人は苦笑いしていた。帰属意識こそないものの、一応は故郷である国がここまで嫌われているのだから、彼女たちとしては苦笑いしかできないだろう。
5人で買い物+観光に出かける。まずは食事だ。宿の人におすすめの店を聞いたので、向かってみる。そこで出てきたのは何と米のごはんだ。町並みは普通にヨーロッパ寄りだから違和感がある。流石に箸はなく、スプーンで食べる。味噌汁も出てきた。100%日本人が絡んでいる。
勇者か転生者か知らないが、いい仕事をしている。
味噌と米を買えないかと思ったが、どうやら別の街から仕入れているらしく、この街での小売りはしていないようだった。
詳しく聞くと、カスタールでは食べる地域と食べない地域があるらしい。この街ではここでしか出していないようだった。宿の人もそれを知っていてお勧めしてくれたのだろう。
店の人に頼み込んで、多少のお米を売ってもらうことが出来た。量的には心もとないが、ないよりはマシだろう。
《おコメおいしかったー。またたべたいー》
「そうだな。もう、この街にいる間はあの店だけでもいいんじゃないかな?」
「ご主人様…。いくらなんでもそれはもったいないんじゃない?」
確かに、一時滞在の街で1か所でしか食事しないのはもったいない。カスタールに行く以上、また食べる機会もあるだろうとのことで、夕食は別の店に行くことに決めた。
「コメはいずれ大量に手に入れる!」
「そんな力いっぱい叫ばなくても…」
「安心してご主人様!私のレパートリーにはご飯を使った料理もいっぱいあるから」
「ミオ!」
感激のあまり思わずミオを抱きしめる。
「わわわ!流石に心の準備できてないと恥ずかしいよ!」
ミオが恥ずかしがる。この子を買って良かったと思う。マリアもミオも大当たりだ。エルディア王国は嫌いだが、この2人がいたことだけは良かった点かも知れない。
今度はミオがご所望のベッドだ。寝具店に向かう。
寝具店といっても、店内にベッドなどを置いているわけではない。カタログ(カメラっぽい魔法の道具がある)から選んで、店員さんがそれをアイテムボックスや『格納』魔法で取り出す、という手順を踏むのである。スペースとしてはベッド1つ置けるだけあればいいので、大物を扱うお店ではよく使われる手法らしい。さすが異世界、常識が違う。
結局、キングサイズのベッドを1つとその他もろもろの寝具を買うことになった。ちなみに受け取りは俺のアイテムボックス(に見せかけた<無限収納>)に入れた。運搬とかも関係ないから楽だね。この世界の引っ越し業とかが心配になる。
「うはー。キングサイズベッド。これでご主人様との夜の生活もお・ま・か・せ」
「いや、そういう用途ではない」
バッサリ切って捨てる。というかお前、体は8歳児だろう。俺はロリコンではない。たとえロリコンだったとしても、幼女は手を出すものじゃない。愛でるものだ。
「まあ、ご主人様が望まないなら、私としてはこの年齢で無理にとは言わないけどね。でも、この世界じゃあんまりそういうことに文句言う人いないわよ。と言うか貴族とか大体変態だから、そういうことに文句言うってことは貴族を敵に回すのと変わらないし」
この世界の貴族パネェ。
「ついでに言っておくと、貴族でなくても、子供を産む準備が整えば、大体大人の女として扱われるわよ」
この世界パネェ。
しかし、冷静に『ルーム』の特性を考えるとそういう用途向けな気がしてくる。
・外界から完全シャットアウト(音、振動などは外に漏れない)
・酸素の心配は不要(二酸化炭素を酸素に変換しているらしい)
・中の人間が鍵を閉めると外からは開けられない。
「『ルーム』でラブホテル作ったら繁盛するんじゃね?」
「止めて下さい。私の魔法でそんなくだらない事しないで下さい」
さくらさんが怒った。ちなみにミオはツボに入ったのかうずくまってお腹押さえて「うぷぷ、異次元ラブホとか…」なんて言っている。
「《らぶほてる?》」
ドーラとマリアは知らなくていいよ。君たちにはまだ早い。あ、でもマリアはこの世界では女扱いになるのかな?
「ラブホテルっていうのはね…」
「仁君シャラップ!」
さくらさんが怒った(2回目)。
「ごめんごめん。マリアとドーラはまだ知らなくていいことだよ。ちょっと調子乗りすぎたよ」
まあ、度を越してはいなかったと思うけど、セクハラは良くないよね。
「そうですよ。全く…」
「今度2人でミオにでも聞いてみなよ」
「はい」
《はーい》
「!?」
ミオはそういう立ち位置でいいと思うんだ。
次にやってきたのは木材店と金物屋が混ざったようなお店だ。平たく言えばホームセンターだ。
この間風呂を作った時に感じていたのだが。この世界、魔法のおかげで元の世界よりも、『したいこと』を実現しやすくなっている。しかし、材料がなければそれもできない。そこで、木材とか金属を買い込んでおいて、『したいこと』ができたとき、すぐに対応できるようにしたかったのだ。
基本的に俺の<千里眼><無限収納>と、さくらの<魔法創造>によって、材料さえあれば大抵のことは実現可能となる。
俺は日曜大工の材料を買うようなノリで、普通の一軒家なら余裕で作れるような量の木材や金属類を購入した。
「そんなに買ってどうするんですか?」
マリアが質問してくる。しかし明確な理由はないので、言い訳のようなことを口にしてしまう。
「いや、何かに使うかもしれないじゃん。俺たちの快適な旅人ライフに必要だって」
「一般人から見たら、すでにかなり快適な旅になってるんですけどね…」
俺らの旅が普通ではないことを理解しているマリアが、苦笑しながら言う。でも、異世界人の俺らからしたら、観光はしたいけど、しんどい旅はしたくないというのが正直なところだ。
その他、細々とした物を買いつつ、町並みを堪能した。見栄えを優先しているエルディアと、品質優先のカスタールの比較は中々に面白かった。街としてのスタンスなのかもしれないが、街には同じ用途のお店が大体2件ずつ以上はある。当然、エルディアとカスタール側にそれぞれ1件以上だ。明確なライバル店であり、文化の比較にもなる面白い試みだった。
夕食?昼食のインパクトには勝てなかったよ…。
次の日、(ミオとマリアからのお願いの結果)気は進まないがエルディア側で朝食をとった。一通りの準備はしたけど、1つ忘れていることがある。
「皆さんにお話があります」
俺が切り出した言葉にミオとマリアは不思議そうな顔をする。そりゃあね、急に俺が敬語を使いだしたからね。
「仁君の敬語…。あっ…」
さくらは気付いたようだ。俺が何を切り出すのかを。
俺の異能である<生殺与奪>と<契約の絆>は、配下の数が増えるほどその効果を増すと言っていい。配下とはすなわち奴隷と従魔が基本だ。この2者を比べた場合、従魔よりも奴隷の方が使い勝手が良い。当然だ、価値観と体の構造が基本的に同じなのだから。もちろん従魔は従魔で必要なことは多いだろうが、せっかく街に来ているのだから、奴隷を増やし、俺の戦力を増強していくべきだろう。
ということを丁寧に説明しました。
「つまりご主人様は奴隷を増やしたいのね?」
「私たち、お役に立ててないのでしょうか…」
ミオが端的にまとめ、マリアは泣きそうな顔をする。
「違う違う!マリアとミオはすごく役に立っているって。ただ、俺の異能的に、奴隷を増やすことはメリットが多いから、増やしたいだけなんだ」
慌ててフォローする。マリアとミオに問題があるわけではない。と言うか、この話を切り出すとマリアが凹む未来は見えていたよ。
「仁君、もしかしてマップで何か見えているんですか?」
さくらが意外と鋭い。その通り、面白い奴隷パート3がこの街の奴隷商にいるのだ。
「ああ、その通り。マリアとミオには負けるかもしれないが、面白い奴隷がこの街にいるんだ」
「あー、そっか。ご主人様は事前にアタリハズレがわかるのよね…」
ミオが納得したように頷く。ちゃっかり自分をアタリだと言っているのが微笑ましい。マリアも立て直したのか質問をしてくる。
「どのような方なのですか?称号かスキルに面白いものがあったのですか?」
「まあ、そうなんだけど…。驚かせたいから内緒でいいか?奴隷商にも俺1人で行かせてほしいんだが…」
「わかりました。どのような方か、楽しみにしていますね」
俺の提案にマリアが引き下がる。
「じゃあ、その間に私たちはショッピングでもしてるわね」
「ああ、そうしてくれ」
ミオは嬉しそうに笑う。
「昨日は必需品中心だったから、今日は嗜好品中心で行くわよ。ご主人様もいろいろ楽しみにしていてね!」
「ベッドって、必需品でしょうか…」
「もちろん必需品よ!」
マリアが首をかしげるが、ミオは自信満々に言う。確かに微妙なラインだ。生活必需品ではあるが、旅の必需品では…ない。
「そんなことより、可愛い衣装でご主人様を悩殺よ!」
「悩殺…、頑張ります」
なぜマリアがそこで力を入れる…。
「あまり過激なのは、私がストップするので安心してください」
さくらがフォローを入れる。うん、ありがたいよ。決して残念ではないよ…。
こうしてみんなと別れた俺は、1人奴隷商へ向かう。
カスタール側にある奴隷商。ここに俺の求める奴隷がいる。
奴隷商に関してはエルディアとの差異はほとんどない。こんなところで個性を出されても困るよね。一応言えば、エルディアは人類至上主義らしく、亜人の奴隷が多く、人間の奴隷は犯罪奴隷がほとんどとのこと。
「戦闘も出来る女奴隷を頼む」
奴隷商に出した条件はこれである。俺の見つけた奴隷のスキルから考えて、この内容で出てくる可能性が高いと考えた。
が、予想に反して出てきた筋骨隆々の女性たちの中に、俺の探している奴隷はいなかった。マップでもう1度細かく検索する。
(あー、またこのパターンか…)
「すまないが他の奴隷も見せてくれないか?」
「構いませんが、どのような条件でしょうか?」
マップとステータスから、この奴隷につながりそうな条件を出す。
「そうだな。捨て値同然で売っている女奴隷だ」
奴隷商も困惑の色を隠せないでいる。そりゃあそうだ。最初に頼んだのが、戦闘用なんて能力的に優れた奴隷なのに、次に頼むのがこれなのだから。
「わかりました。ではこちらへ…」
捨て値同然の奴隷は部屋に呼ばず、別室というのはお約束なのだろう。奴隷商についていき、衛生的にあまり良くなさそうな部屋に入る。
「ここが捨て値同然の奴隷の部屋です。女は服に赤いラインが入っております」
そうしておかないと、男女の区別すら難しい場合もあるからだろう。
マップも使用して辺りを見回す。…いた。しかしあれは…。
「店主。あそこの女はどうしてあそこまでやせ細っている?」
俺はガリガリにやせ細った女奴隷を指さす。
「はい。あの娘は貴族の伝手から売られてきました。もともと見た目は良かったので、普通に食事を与えていたのですが、食べても食べても足らないといい、こちらとしてもそこまで金をかけるわけにもいかないので、食事量を減らしていったらすぐにガリガリにやせ細ってしまいました」
奴隷商のそこまでの話で、彼女の事情をだいたい察することができた。
「ここまでやせ細ってしまいますと、どの伝手でも売れなくて…。彼女でよろしければ、1万ゴールドとなりますが、いかがでしょうか」
安い。ダントツに安い。確かに色々見えているのに、色気も感じないほどにガリガリだからな。
「よし、買おう」
「毎度ありがとうございます。彼女、どういたしますか」
多少いい服を着せたところで、どうにもならないだろう。
「先ほどの部屋に戻ってもいいだろうか?そこで多少の食事を与える」
「構いませんよ。お金さえいただければ、こちらで用意してもいいですが?」
<無限収納>に出来たてが入っているからそちらを出そう。
「いやいい。アイテムボックスに料理が入っている」
「わかりました。それと契約の方は奴隷術にしますか?隷属の首輪にしますか?どちらも1万ゴールド追加でかかってしまいますが…」
なんでも通常は奴隷の価格に契約の分も含まれているらしいが、捨て値なので別途料金がかかるとのこと。
「奴隷紋で頼む」
「わかりました」
そういうと奴隷商は小間使いに、術士を呼びに行かせる。同じく小間使いが2人がかりで奴隷を運ぶ。
元の部屋に戻ると、小間使いは女奴隷を床に下ろした。
俺は<無限収納>から出来たての料理を取り出す。女奴隷は料理の匂いに反応すると、よろよろと手を伸ばす。パンを1つ取り口に運ぶ。徐々に食べる速度が上がっていく、<無限収納>から次々と取り出す。女奴隷はどんどん食べていく。
「…食べている最中ですが、奴隷契約を開始してもいいでしょうか」
術士が来たようだ。料理を少し多めに出しておく。
「ああ、構わない」
「では…」
奴隷商が貫頭衣をめくり上げるが、女奴隷は気にもかけない。術士が背中に陣を刻む。痛みがあるはずだが、女奴隷は気にもかけない。最後に俺が血をかけて契約終了だが。女奴隷は気にも…いや、こちらを見ている。
「…お代わり…」
気付いたらあれだけ出していた料理がなくなっている。凄いなコイツ。
「わかった、わかった。好きなだけ食べろ」
料理をほとんどあるだけ出す。すぐに食べ始める女奴隷。料金を奴隷商に払うと、奴隷商は終わったら伝えるようにと言って出ていった。結局満足するまで食べ終わったのは、それから1時間後だった。身なりは酷いが、腹いっぱいまで食べたことで、血色の方はかなり良くなっていた。食事さえ与えれば、回復は早いようだ。
改めて、女奴隷の方を見てみる。金髪碧眼の美人だ。その金髪は床近くまで伸びている。ちなみに結構なものをお持ちである。ガリガリの時は萎んでいたけどね。
「ふう、久しぶりにお腹いっぱいになりましたわ。ありがとうございます。あなたが私のご主人様ですわね」
ですわ口調だと。称号に「元貴族令嬢」があるのは知っていたが、まさかですわ口調とは思わなかったぞ。これで縦ロールだったら買うのをやめていたかもしれない…。
「ああ、俺がお前を買った。名前は仁、よろしくな」
「ええ、よろしくお願いいたしますわ。私の名前はセラ・ド…。ただのセラですわ」
名字は捨てたということだろうか。もしくは捨てさせられたというところだろう。
「元貴族か?」
わかっていることを聞く。
「ええ、ですが今はただの奴隷ですわ。気にせずにお使いくださいまし」
諦めたかのような顔をする。
「ただ、私凄く食べますわよ…。今のはさすがに久しぶりのまともな食事だから普段より多く食べましたけど…。普段でもこの半分くらいは余裕で食べますわよ」
辛そうに言う。食事量によっては捨てられるとでも思っているのだろう。
「詳しい話を聞いてもいいか?もちろん言いたくなければ言わなくていい」
「いえ、私の経緯はきちんと知っておいてほしいです。私の経緯を聞いて、ある程度理解しておいていただかなければ、私は簡単に死んでしまうと思いますわ」
簡単に死ぬとは物騒だな。まあ、先ほどまでの姿を見れば大げさではないというのは分かるけど…。
「私が奴隷に落ちたのは、簡単に言えば『よく食べる』からですわ」
20150912改稿:
修正(6)の内容を反映。




