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失伝第1話 縦ロール

短編2話同時更新の2話目です。

少々調子に乗ってしまいました。最初は普通の話だったんだけど…。

あまりしたくはないのですが、状況によっては差し替えるかもしれません。

「クソがぁ!」


-ガシャン!

 俺は机の上にあった花瓶を壁に向かって投げた。けたたましい音を立てて割れる花瓶。


「どうしてうまくいかねえ!やっと短剣を取り戻したのに!こともあろうに『盗賊に家宝を奪われるなど、かつての名家も地に落ちましたな』だと!ふざけんじゃねえよ!お前こそ醜く肥え太って、ズボンが地にずり落ちそうじゃねえか!」


 壁に掛けてあった額縁を殴り飛ばすも苛立ちは収まらない。あんなデブでも貴族としての格は家と同列だ。いくらセバスチャンが元S級冒険者といえども、下手な手出しはできそうにない。


「お嬢様、落ち着いてください。そのようなことをしても何にもなりませんよ」


 冷静なセバスチャンが少し恨めしい。

 セバスチャンに向けて、枕を投げつける。顔に向かってくる枕を避けないセバスチャン。


-ペシン


 情けない音を立てて落ちる枕を受け止めるセバスチャン。クソッ、俺の気を紛らわせるために、避けすらしねえのか。


「うるせえ!そんなこと言ってもこれが落ち着いてられるか!」


 両親が死んでから、当主として苦労してきた。今回の取引が成功すれば、両親が死ぬ前と同じくらいまで立て直せるはずだったのに。


「あの貴族には手を出せねえ!家宝を奪った盗賊は壊滅してる!じゃあどこにこの怒りをぶつければいいんだよ!」


 そこまで考えて、ふと思いついたことがある。


「そうだセバスチャン。短剣を持ってきた冒険者を殺せ!」


 この怒りをぶつけるのにちょうどいい相手がいたじゃねえか。冒険者が相手なら、ん?アイツ冒険者じゃねえとか言ってたっけ?まあいい、大した違いはない。冒険者相手なら殺しても貴族の威光を振りかざせばどうにでもなるだろ。


「買戻しの日にも言いましたが、いくらお嬢様が貴族でも、買戻し相手を殺すのは問題です。特に仲介に入った冒険者ギルドが黙ってはいないでしょう」

「冒険者ギルドのギルド長はセバスチャンの元弟子だろ!何とかしろよ!」


 ギルド長の元師匠だというし、多少の無理も押し通せるだろう。


「頼むよ、セバスチャン。あの冒険者しか当たる相手がいないんだ。このままだとおかしくなっちまう」


 感情がこんがらがり、涙まで出てくる。冗談でもなんでもなく、気が狂ってしまいそうだ。

 しばらくセバスチャンが考え込む。こうなれば、お願いは通ったも同然だ。


「…わかりました。私が彼を殺してきましょう。街中で殺害すると問題が大きくなるので、彼が街を出たら私が追いかけて殺してきます」


 街の門番にお金を払い、人相書きを渡して冒険者が出て行ったときに連絡を入れるように指示することにした。後は連絡が入り次第、セバスチャンが殺しに行く予定だ。


「ありがとう、セバスチャン…」

「人が多いとギルドに感づかれる可能性もありますので、私1人で処理してまいります」


 セバスチャンの実力はギルド長よりも上と言うことを聞いている。1人でも問題ないだろう。俺としても話を大きくしたくないからな。八つ当たりで冒険者を殺したなんて外聞が悪すぎる。信頼できるセバスチャンに任せるのが1番ということだ。


「お嬢様は短気など起こされぬよう、大人しくしていてください。いつもの外面が、いつ剥がれるかわかったものではありませんからな」

「わかったよ…」


 しばらくは外出も控えねえとな。…後、メイドを呼んで部屋の片づけをさせないと…。



 次の日、金を渡して冒険者の奴が外に出ていくのを見張らせていた門番が、大慌てで駆け込んできた。意外と早かったな。

 話によると、同行者が何人もいるみたいだな。とは言え、全員女でしかもガキらしいから、セバスチャンの相手にはなるわけもないけどな。


「同行者はどうしましょうか?確実に目撃されるでしょうけど…」

「殺せ」


 驚くほどスムーズに出てきたな。俺の苛立ちを治めるには、生贄はいくらあっても困らない。


「セバスチャンは<空間魔法>が使えるよな。全員の首を持ってこい」


 アイテムボックスと異なり、<空間魔法>の『格納』は死体を入れることもできる。

 アイテムボックスには死体を入れられないからな。


「悪趣味ですな…」

「いいだろ、この目で見ないと気が済まねえんだよ」


 そういいつつも、拒否はしないセバスチャン。


「っておい!それを持っていくのかよ!」


 セバスチャンが手に持っているのは、冒険者時代から使い続けてきたという愛刀。正直、暗殺なんかに使わせるのは勿体無いほどの逸品だ。


「相手は仮にもドルグを倒した冒険者です。万全を期すためにも、これを持っていきます」

「万全を期すなら武器に毒でも塗っておけよ」


 これは確実に暗殺だ。だったら毒と言うのもアリだろう。


「すいません。かつては死神と呼ばれ、暗殺、不意打ち、闇討ちをしてきましたが、毒を使ったことがないことが、私のささやかな誇りなのです。これを曲げるのはお嬢様のためでもできそうにありません」


 そういえば、前にもそんなことを聞いた記憶があるな。

 ちっ、そこまで言われたら毒を使えとは言えねえじゃねえか。


「わかったよ。でも早く終わらせろよ?俺の苛立ちは全く収まっていねえんだからな?」


 昨日、いったん落ち着きを見せたが、ふとした拍子に苛立ちがこみあげてきて、辺りの物に当たるということを繰り返していた。まともな精神状態じゃないな。


「わかりました。しばらくお待ちください」


 そう言ってセバスチャンは用意していた馬に跨った。


「では、行ってまいります」

「ああ、任せた」


 これであの冒険者の首を見れば、少しは溜飲も下がるだろう。



 1時間たったが、セバスチャンは帰ってきていない。相手は徒歩で、馬を使って追いかけたんだから、とっくに追いついているだろう。


「遅い」


 クソッ、イラつきが収まらない。まさか見つからないのか?ちっ、1人尾行の係りでも付けておくべきだったか。



 夕方になったが、セバスチャンは帰ってこなかった。


「まさか、返り討ちにあったのか?」


 セバスチャンの実力はおそらくこの街で1番だ。それを倒すなんて考えられない。俺の攻撃も未だにまったく通らねえからな。

 だが、何の連絡もなしにここまで遅くなる理由なんて、他に考えられないのも事実だ。


 急激に悪い予想が広がっていった。冒険者を殺せとは言ったが、返り討ちに遭う可能性なんて、まったく考えていなかったからだ。そして、セバスチャンがいなくなった後のことを考えると、イラつきとは別の意味で冷静ではいられない。

 両親を亡くし、若くして当主となった俺をずっと支えてくれたセバスチャン。祖父母の親友で、我が家をずっと守ってくれていたセバスチャン。今頃冷静になって考えると、俺は大切な人間になんて命令を出したんだろう。完全な八つ当たりで、大切な人間を失うってのか。クソッ、癇癪を起こしていた自分を殴り飛ばしてやりたい。


「そうだ、セバスチャンの捜索をしないと!」


 もしかしたら、勝ったけど動けないような怪我をしたのかもしれない。もしそうなら、早く助けに行かないと…。だが1人で街の外、それも俺を恨んでいる奴がいるかもしれないところに出向くのは危険だ。私兵はいるが、正直心もとない。セバスチャンと言う最大戦力に胡坐をかいて、一般兵力を軽視してきた自分の自業自得だな。


「そうだ!ギルド長に護衛をさせよう」


 最大戦力であるセバスチャンがいない今、この街で次に強いのはギルド長だ。ギルド長を護衛に付ければ、ある程度は安心だ。それに、あの冒険者とも面識があるみたいだし、一緒にいれば俺に手出しはできないだろう。


 急ぎ支度をして、ギルドに向かう。依頼窓口に入り、受付嬢にギルド長を呼びにいかせる。

 しばらくして、ギルド長がやってきた。


「セバスチャンが行方不明になりましたわ!」


 出てきたギルド長に俺はそう言い放つ。


「はあ?セル…セバスチャンが行方不明…。どういうことですかい?」

「それは、買戻しの時の…」


 そこまで言われて、詳しい説明ができないことを思い出した。何といっても暗殺者を差し向けて、返り討ちにあったかもしれないから、探すのを手伝ってほしいとは言えない。セバスチャンのことを思うなら、泥をかぶってでもついてきてもらうべきかもしれないが、そんなことをすれば俺は破滅だ。護衛を依頼したら、100%破滅。依頼をしなければ、あの冒険者が生きていた場合に破滅。なら後者の方がまだマシだ。


「いえ…、何でもありませんわ」


 精神状態が普通じゃないみたいだな。なんとか言い訳を考えて連れて行こうとも考えたが、全く何も思いつかなかった。こうなると引き下がるしかないよな。

 とりあえず、私兵だけで何とか追いかけてみるか。セバスチャンを見捨てるって選択肢だけは最初からないからな。


「私兵を集め、武装させ、出発できる準備を整えなさい!」


 屋敷に戻ると、出迎えたメイドにそう言い放つ。


「部屋で休んでいます。準備ができたら呼びなさい!」


 ギルドまで走ったので、肉体的にも精神的にも疲れているからな。少しだけ休ませてもらおう。


-こんこん。


 準備が終わったのだろうか。部屋の扉がノックされた。しかし誰の声も聞こえない。何だ?仕方ないので俺は扉の前まで歩き出す。疲れが出てきたのか?やけに体が重く感じる。クソッ、支度が終わったんなら口でそう言えよ。


「誰ですの?準備が終わったんですの?」


 扉を開くが、扉の前には誰もいなかった。左右を見渡してみた。


「あっ…」


 右を見ると、セバスチャンと思わしき人物が倒れていた。なんでセバスチャンが倒れているんだ?まさか怪我をしている中で、何とか屋敷までついたというのか?


「セバスチャン!」


 思わず駆け出す。しかし、足取りが重く、数歩走ったところで、足をもつれさせてしまった。

 床に近づいて行く。


-どさ。


 地面にぶつかった衝撃を感じたとき、俺は死を直感した。当たり所が悪かったのか?これは、耐えられそうに、ないな。あれ、セバスチャンの横に、誰か…。


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失伝第1話開始時点

エリザベート

LV15

<身体強化LV2><槍術LV2><気品LV2><作法LV2><精霊魔法LV1><精霊術LV1>


口調が普通ですわの場合、主人公による拷…お仕置きがある場合など、いろいろ考えていたのですが、主人公的に暗殺には暗殺で返す、と言うスタンスを取らせたかったので、お仕置きルートは消えました。

口調に関しては完全に調子に乗ってしまいました。ですわ口調より筆が進むこと進むこと。

20150824修正:

後書きのせいで、悪感情を感じたとのご指摘がありましたので、一部削除いたします。

申し訳ありませんでした。

なお、縦ロールは口調が悪いだけの女性です。性別の設定変更はなく、口調だけが後付けです。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
コミック単行本派、3巻読了。 いいお仕置きでした。
お仕置きルートが見たいんだが
縦ロールの一人称で誰のセリフか混乱してしまいました
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