第85話 竜軍団と無双
今すぐと言う訳ではないですけど、5章の改稿を考えています。
改稿と言っても、イベントの順番を変えるだけですけど。
5章で失敗したと思ったのは、アカツキが頻繁に出てきたことです。
早い段階で決闘して、竜の門崩壊まで出さないというのが一番良かったのではないかと思いました。
蛆虫野郎の行く末を見届けることもなく、遠方の消えた結界の方を見ると、黒い靄のようなものが見えた。
もちろん、アレは靄なんかではない。全てドラゴンだ。
靄にしか見えないほどの数、密度でこちらに向かってきているということに他ならない。
「うわー、あれ全部ドラゴン?凄い数ね」
「そうですね……」
「きゅー、きゅーう《うー、ドラゴンきらーい》」
ミオとさくらが苦笑して、ドーラは不満そうな顔をする。
ドーラはドラゴンが嫌いみたいだからな。まあ、この秘境で育てば当然か。
「ああ、お終いじゃ……。まさか、こんなことで『竜人種の秘境』が滅びることになるとはのう……」
諦めたような声で族長が言う。
無理もない。『竜人種の秘境』の周囲は、おびただしい数(53291匹)のドラゴンが生息している『竜の森』なのだ。
さらにドラゴン達は竜人種達を目の敵にしている。結界が破られたことを知れば、襲い掛かってこない理由がないだろう。
マップで確認をしても、もれなく全てのドラゴンが結界の穴を目指して進んでいる。
ドラゴンの群れのほとんどは30レベル程度の下位竜種だ。
下位竜種とは、一言で言えば『<竜術>を持たないドラゴンっぽい魔物』を指す。
ここにいるのは、ほとんどが劣火竜、劣風竜、劣地竜、劣水竜の4種類のいずれかである。
大した事のない相手ではあるが、それでも4万近くも存在すればそれなりの脅威だ。
次に50レベル程度の上級竜種である。
上位竜種は明確にドラゴンとわかる姿をしており、<竜術>を覚えている。
下位竜種と同様に、火竜、風竜、地竜、水竜の4種類でおおよそ1万の軍勢が占められている。
100レベル近辺の上位竜種は約1000匹含まれている。
この間『竜人種の秘境』を襲った奈落竜、その前に来た煉獄竜等が該当する。
秘境の戦力では、このクラスのドラゴンが侵入してくると多大な犠牲を出すことになるみたいだ。
それが1000匹、普通だったら確実に滅びる。いや、この戦力を相手にして滅びない国はこの世界にはないだろう。
その上のクラスとなると全部で5匹しかいない。
200レベルクラスが4匹。そして、……300レベルが1匹。コイツがドラゴン達の親玉だろうな。
それにしても、これだけのドラゴンの攻撃を防げる、『竜人種の秘境』の結界は流石だね。
結界に力を入れるのはいいのだが、その分迷宮の方が雑な作りなのはいただけない。
「族長、言っただろ?虫野郎を生かしておくと、後悔するかもしれないって」
「言っておったのう……。まさかこんな事になるとは思いもせんかったのじゃ」
俺の軽口に族長が答える。確かに思っていたよりも影響度が大きかったけどな。
まさか『竜人種の秘境』存続に関わるレベルの悪影響とはな。
「まあ、俺らが来たのが切っ掛けではあるんだが、アレを選んだのは蛆虫野郎だし、それを止めなかったのは族長達だ。申し訳ないんだが、俺達はこの件に関して謝ることはしないからな?」
「そうじゃな……。ワシらの、アカツキの選択の積み重ねがこの結果を招いたのは間違いがない。無関係ではないが、大きな責任がある訳ではないじゃろう。それに、今更何を言ったところで、何かが変わるものでもあるまい」
正直な話、俺達が『竜人種の秘境』に来たことで、秘境の中が色々と引っ掻き回されたのは間違いがない。
しかし、ここまでの『最悪の事態』になったのは、秘境の住人の選択の積み重ねの結果だ。
『悪い』と思っていないことに対して、謝ることは出来そうにない。
「ところで、族長にはもう打てる手はないのか?竜人種を生贄に捧げる兵器とか、地下の迷宮に逃げるとか」
「はあ……。お主、わざと言っておるじゃろう?」
「まあな」
本来、ドラゴンが侵入してきた際、族長に打てる手は3つあるはずだった。
1つ目は竜人種を生贄に捧げて使用する兵器。
2つ目は地下の迷宮に逃げること。
3つ目は秘境を捨てて『竜の門』から外に逃げること。
しかし、今現在、これらは全て無意味だ。
<竜魔法>を強化する兵器を使えば、幾ばくかのドラゴンを倒すことは出来るだろう。
もちろん、ドラゴンが全滅する前に竜人種が全滅するのは確実だ。
地下迷宮の中には、対ドラゴン用のスキルが複数個眠っている。
地下迷宮の入り口には結界が張ってあり、リソースが不足して結界が綻んだ場合に、結界が解除されるようになっている。
しかし、『竜の門』を内側から破壊することによって結界が壊れた場合、地下遺跡の結界は解除されないのだ。
しかも、その場合は他の『竜の門』も転移機能を停止してしまう。よって、『竜の門』から『竜人種の秘境』、及び『竜の森』の外に逃げることも出来なくなってしまうのだ。
少し話は変わるが、ダンジョンマスターになって『竜人種の秘境』にまつわる設定を知った時、『竜人種の秘境』の大まかなコンセプトが分かった。
まず、基本的なコンセプトは『竜人種の保全』である。
ちなみに、ここで言う竜人種とは、あくまでも種族のことだ。
竜人種達が弱くなり、結界が綻んできた場合、侵入してきたドラゴンを兵器などで迎撃することになる。
兵器は竜人種を生贄にしなければならないので、竜人種個人を考慮していない、種族基本の設計であることが覗える。
さらに竜人種達が減った場合、地下迷宮に入れるようになり、そこで対ドラゴンのスキルを入手することになる。
しかし、このスキルを使ったとしても、確実に勝てる保証はない。
最悪、秘境を放棄して『竜の門』で逃げ出す必要があるだろう。
『人間に関わるな』と言う掟があるのに、何故『秘境の外に出るな』と言う掟はないのか。
当然、いざと言うときに『竜の門』を使って秘境の外に逃げられるようにするためだ。
これらのことから、例え人数を減らしてでも、竜人種と言う種族を存続させようという意思が感じられる。
その一方で、酷く残酷なコンセプトも同時に内包しているようだ。
それは『仲違いして『竜の門』を壊すようなら滅びてしまえ』と言うモノだ。
何故そんなコンセプトがあると思ったかと言えば、『竜の門』が内側から壊された場合のみ、酷く重いペナルティが課せられるからだ。
そのペナルティとは『結界の部分崩壊』、『地下迷宮の封鎖』、『秘境内の設備無効化』の3つである。
どう考えても、竜人種全滅しろと言わんばかりのラインナップである。
『竜の門』が内側から破壊されるのは、竜人種の間で仲違いが起こったときくらいだと判断したのだろう。
『竜人種の秘境』の製作者は、もしそんなことになるくらいだったら、竜人種は滅んだ方が良い、とでも考えたのかもしれない。
話を戻すと、蛆虫野郎が『竜の門』を壊したことにより、侵入したドラゴンを相手にするために打てる手が、全て無意味なモノに成り下がってしまったのだ。
「それでご主人様、あのドラゴン達、どうするんですの?」
「勿論倒すに決まっているだろ?ここに一体何人の配下がいると思っているんだ?」
セラが当たり前のことを尋ねてきた。
「ドーラとブルー、リーフも、この秘境が滅ぼされるのは嫌だよな?」
「きゅー!《ドラゴンなんかにほろぼされるのはやー!》」
「……そうね。私は二度と入れないけど、それでも故郷がなくなるのは悲しいわ」
「そうですねー。さすがに滅ぼされるのは少し寂しいですよー」
「…………」
ドーラ、ブルー、リーフの3人が頷く。
この場にいるのに聞いてもらえなかったミカヅキが凹み、高度が少し下がる。
今現在、『竜人種の秘境』には、ブルーとリーフを含めて97人のテイムされた竜人種が存在する。
恐らく、他の95人の竜人種達も、ブルーやリーフと似たようなことを言うだろう。
俺にテイムされたとは言え、故郷を愛する気持ちがなくなる訳ではないのだから……。
だったら、彼らのご主人様としては、彼らの故郷を守るためにも、ドラゴンの群れを皆殺しにしなければならないだろう。
「と言う訳で、今からドラゴンの群れを倒しに行こうと思う」
皆の前で堂々と宣言する。
正確には、態々倒しに行く必要はなく、ドラゴン達は向こうからどんどんやって来ているのだが……。
「仁様、お手伝いします」
「これで皆も竜殺し。お揃いになるわね」
「きゅー!《ドーラもやるよー!》」
「頑張ります……」
マリア、ミオ、ドーラはやる気十分だし、さくらも普通に参戦するみたいだな。
「あのー、ご主人様、私だけ対空攻撃がほとんどありませんわ」
「そういやそうだな。じゃあ<飛剣術>を与えておくな」
「ありがたいですわ」
俺、ドーラ、マリアは空中戦が出来るし、さくらとミオは魔法と弓で対空攻撃が出来る。
セラだけは単独では空を飛べないし、魔法も全員に配っている<魔術>スキルしかない。
すぐさまセラに<飛剣術LV10>を与える。
「お主ら、何を言っておるのじゃ?あれだけのドラゴンを倒すじゃと?」
「そのつもりだ。ああ、安心していいぞ。今回は俺の都合だから、報酬を要求するつもりはないからな」
「お主、正気なのか……?」
「さあ?少なくとも、本気ではあるな」
族長は信じられないものでも見るような目だ。
ちなみに、自分が正気かは自分では断言できないものですから。
「それと、もし逃げるつもりなら、『丑の門』周辺に集まっておくと良い。今、ほぼ全てのドラゴンが『未の門』に向かっているから、逆側の『丑の門』は手薄になっているはずだ。状況を見計らって『竜の門』を破壊すれば、結界が壊れてそこから逃げ出せるようになるはずだ」
「……そう言えばそうじゃな。あえて、複数の『竜の門』を破壊すれば、逃げられないこともないのじゃな……」
族長にアドバイスを贈る。
『竜の門』が1か所壊れても、他の『竜の門』の結界は動作を続ける。複数の『竜の門』を破壊すると、それぞれの結界が消え去ることになる。
これに関しては、製作者のミスなのか、仕様なのか判断がつかなかった。
「ただ、俺達が優勢な内は止めてくれよ。『丑の門』からもドラゴンが入って来て挟撃されると、流石に集落を守りにくくなるからな」
俺達の勝利条件は、『ドラゴンの全滅』ではなくて、『集落の保護』だからな。
余計な手間は増やさないでほしいものだ。
「撃ち漏らして被害を出すのも嫌だから、たまにはステータスダウン無しで個別戦闘の無双でもしようか。何、たかだか5万匹のドラゴンだ。経験値、ステータスだと思って、せいぜい楽しもうじゃないか」
ある意味、俺達のいる場所が対ドラゴンの最終防衛ラインになる。
殲滅が遅れると、後ろにある集落に被害を出してしまうかもしれない。
ステータスの制限をほとんどなくして、迅速な殲滅を心がけよう。
ついでに言えば数が多く、世間的な強者が相手だ。無双ゲーをするにはもってこいだろう。
「よっしゃー!初めての制限解除よ!ミオちゃん無双してやるんだから!」
「きゅー!《どーらのぜんりょくをみせるよー!》」
案の定、ステータス制限解除と言ったらミオ(と何故かドーラ)が食いついてきた。
「……そう言えば、完全なフルパワーは初めてですわね」
「今まで、制限解除が必要な場面がありませんでしたからね……」
セラとさくらがしみじみと言う。
最後に全力を出したのは、セバスチャンとの戦いまで遡ることになる。
その時も全力だったのは俺1人だしな……。
「まあ、全力を使う機会なんて、ない方が良いに決まっているからな」
「出来れば、仁様には全力を使わないでほしいです。代わりに私が働きますので」
「相変わらず、マリアさんはご主人様にダダ甘ですわね」
「それが生き甲斐ですから」
躊躇なく言うマリアは、いつも通りに過保護である。
「今回はそう言う訳にもいかないからな。俺も戦わせてもらう。……おっと、そろそろドラゴンの群れが来るぞ。全員、用意は良いな。さあ、蹂躙してやろう!」
「おー!」×4
「きゅー!《おー!》」
マップを見なくても、先頭グループが接近してきたのがわかる。
さあ、戦闘開始だ。
『竜人種の秘境』防衛作戦について説明しよう。
と言っても、大した戦術なんかは存在しない。基本的に無双ゲーだからな。
まずはドラゴン達についての説明から入ろう。
ドラゴン達は結界に開いた穴から入って来て、そのまま左右に広がって進んでいる。
そして、ドラゴン達の多くは、上位竜種、下位竜種関係なく、火竜、風竜、地竜、水竜のいずれかに含まれる(例外もいる)。
この中で<飛行>スキルが1番高いのは風竜で、火竜、水竜と続き、地竜に関しては<飛行>スキルを持たない。このレベルの差は、そのまま<飛行>の高さとイコールと言っても良い。そして、陸路を進む地竜もいるので、空中、地上問わず、満遍なく守らなければならない。
これに対抗するために、俺達も上下左右に戦力を分散することにして、ドラゴンを1匹たりとも秘境へ通さないようにする必要があった。
俺達メインメンバーは6人いるので、中央、右、左それぞれに地上部隊と空中部隊を置くことにした。
中央の空中部隊はブルーに乗った俺、地上部隊はセラだ。
右の空中部隊はリーフに乗ったさくら、地上部隊はマリア。
左の空中部隊はミカヅキに乗ったミオ、地上部隊はドーラとなっている。
空中部隊の役割は『ドラゴンに乗って空中から数を減らす』ことだ。
俺は<飛剣術>と魔法、さくらは魔法、ミオは弓を連射して敵の数を減らす。
地上部隊の役割は『撃ち漏らしと敵の地上部隊を掃討する』ことである。
マリア、セラの近接戦闘組はここに配置した。
ちなみに、ドーラだけは扱いが特殊で、強力ではあるが射程はそれほど広くない<竜魔法>を使うので、空を飛ぶのに地上部隊となっている。
……本当ならば、ブルーに乗った状態で、ドラゴンの群れに突っ込んで無双したいのだが、いつものようにマリアから止められてしまったので、仕方なく諦めることにした。
さて、戦いが始まって少し時間が経過した。
それぞれのメンバーの戦いぶりを見てみよう。
さくらはリーフに乗った状態で魔法を発動し続けている。
さくらには『初級魔法で無双』の美学がわからないらしく、普通にレベル5~7くらいの魔法を連射中だ。
「リーフちゃん、少し右側に向かってください……」
「任せてくださーい」
さくらを乗せたリーフが、指示に従って移動をする。
目標地点に到着した段階で、さくらは魔法を<無詠唱>で発動する。
そうそう、今回の目的は『竜人種の秘境』の防衛と無双なので、セラだけではなく他のメンバーにも殲滅用のスキルを与えている。
より正確に言うのならば、『新しいスキルを与える』もしくは『既存のスキルのレベルを上げる』のどちらかの処置をとっている。
今回、さくらには<無詠唱LV10>や<並列詠唱LV10>を与え、各種属性魔法のレベルを10にした。
「行きます……!『テンペスト』!……『サンダーレイン』……!」
さくらが発動した2つの魔法は、どちらも広範囲に影響を及ぼす魔法だ。
『テンペスト』は<風魔法>で嵐を、『サンダーレイン』は<雷魔法>で落雷を周囲に振りまく強力な魔法である。
それにしても、『テンペスト』と『サンダーレイン』か……。
迷宮で東のレプリカが使ってきたのが記憶に新しいな。あの時はただの行動疎外魔法にしか見えなかったが、実際はそんなこともない様だ。
さくらの担当範囲にいるドラゴン達が強風で体勢を崩して墜落したり、雷の直撃を受けて絶命したりしている。
魔法の効果が切れる頃には、影響範囲にいたドラゴンは1匹もいなくなっていた。
LV100台のドラゴンは元より、1匹だけ紛れ込んでいLV150のドラゴンも例外ではなかった。ちなみに、大した相手でもないから、名前とかの確認はしていない。
「ふわー、凄いですねー」
リーフが感嘆の声を上げる。
口調が穏やかだから、驚いているようには見えないな
「ええ……、でもまだ終わりじゃありません……。次はもう少し左上に行きましょう……。あの辺りのドラゴンがまだ多そうですから……」
「はーい」
さくらとリーフもどちらかと言えば大人しいタイプだ。
意外と相性のいいコンビなのかもしれないな。
……と言うか、運動神経の残念なさくらにとって、自分の代わりに移動してくれる騎獣ってかなり有効なのではないだろうか?……移動砲台?
次はその下、マリアの戦いを見てみよう。
マリアには<飛剣術>、<縮地法>、<HP自動回復>のスキルレベルを10まで上げた。
地上部隊であるマリアは、さくらが撃ち落としたドラゴンや地上を進撃してくるドラゴン達の相手をしている。
マリアには<飛剣術>を与えているので、その気になれば遠距離から一方的な殲滅が出来るのだが、マリアは態々1匹ずつ自らの手で殺している。
<結界術>と<縮地法>、さらに『ワープ』などを駆使することで、超高速移動戦闘を実現しているのだ。
「…………」
マリアは黙々と、凄い速さでドラゴン達を切り捨てている。
範囲魔法程ではないが、個人が武器で魔物を倒す速度としては明らかに異常だ。
瞬きをしている間に、数匹のドラゴンの首が落ちる。
少しすると、巨大な亀のようなドラゴン(LV150)がマリアに近づいてきた。
滅茶苦茶防御力が高そうだな。特に殻に籠られたら攻撃が通らないだろう(一般論)。
次の瞬間、亀ドラゴンは殻に籠る間もなく首が落とされた。
何故、態々首を落とすのだろうか?
A:ミオから、『正しい竜の殺し方』を聞いていました。
ああ、なるほど。確かにそれは(神話・伝承的に)正しい殺し方と言えるかもしれないな。
恐らく、ミオに頼まれたのだろう。ミオの武器は弓だから、首を落とすのには向かないしな。
高速戦闘をしているマリアだが、その注意はドラゴンには向けられていなかったりする。
……全身全霊で俺の方に意識を向けているのが丸わかりなのだ。超過保護。
どんなに高速で動いていても、決して俺に背を向けないのが良い証拠だろう。
マリアの戦闘に関しては一切心配していない。単純な戦闘センスで言えば、パーティ随一だしな。
それにしても、見えない武器(太陽剣・ソル&月光剣・ルナ)を振るい、ドラゴンの首を斬りまくる美少女って中々に怖い絵面だよな……。
次は反対側のドーラだ。
ドーラは地上部隊なので、それほど高く飛ばずに地上に向けて<竜魔法>を放っている。
どうやら、ドラゴンは竜人種に引き寄せられているわけではなく、<竜魔法>に引き寄せられているようだな。他と比べて明らかにドーラに向かっていくドラゴンの数が多い。
ブルーやリーフ、ミカヅキもいるのだが、彼女たちは<竜魔法>を使っておらず、あくまでも移動用の騎獣としてこの場にいるからな。
余談だが、騎獣であるブルーたちも、俺達が敵を倒すことでどんどん経験値が溜まっていき、ガンガンレベルアップをしている。
乗り物のパワーレベリングとは中々に斬新だ。
ドーラの<竜魔法>はLV7まで上げた。……何か嫌な予感がしたので、LV10までは上げないことにしたのだ。
LV7になったことによって、射程距離が伸びたこともあり、襲い掛かるドラゴン達を焼き尽くしている。
その他、秘境内で入手した<竜撃>、<竜滅>、<竜鱗>もレベル10まで上げている。
……あるいは、この3つのスキルを持っているとドラゴンに狙われやすくなったりするのかもしれないな。
秘境の製作者の真意は『対ドラゴンのスキルでドラゴンを倒す』ではなく、『対ドラゴンのスキルを持った者が囮になって、他の竜人種が逃げる時間を稼ぐ』だったということになる。……あり得る。
「きゅいー、きゅー!《んー、すぺしゃるふぁいあー!》」
<竜撃>スキルによって充填された<竜魔法>が周囲にいたドラゴン達を根こそぎ消滅させる。レベル150台の一際でかいドラゴンも同じ末路だ。
その異様な光景を見ても、ドラゴン達は怯えるどころか、むしろ勢いを増してドーラに群がっていく。
「きゅー!《ふつーのふぁいあー!》」
タメが間に合わないので普通のブレスである。
「きゅ、きゅきゅー!《ん、じゃまー!》」
背後から近づいてきたドラゴンの噛みつきは盾で受け止め、杖で殴り殺す。
ところどころ危なっかしい所はあるが、ドーラもしっかりと無双出来ているみたいだ。
むしろ、ドーラが『竜人種の秘境』で無双しないで、何処で無双するんだという話である。
その上空で、ミオはミカヅキに乗って弓を撃っている。
基本的にはさくらと同じ役割なのだが、弓は範囲攻撃ではないので、さくら程の殲滅力はない。
しかし、下にいるドーラに寄ってくるドラゴン達が大勢いるので、弓を1度撃つだけで必要以上に大勢のドラゴン達を貫いている。
ミオの武器である『星弓・ミーティア』は魔力を込めるほどに威力が増し、矢のサイズも大きくなる。現在、ステータスがほぼ最大となっているミオが魔力を込めれば、電柱サイズの矢が飛んでいくことになるのだ。
ミオは1度に数本の矢を構えて一斉に放った。
曲芸のような技術ではあるが<弓術>スキルの補助もあり、それぞれがドラゴンの急所を貫いていく。
ぶっちゃけると、周囲のドラゴンの数が多すぎて、何処に攻撃してもドラゴンに当たると言った状態ではあるのだが……。
「あーもう!数が多いわね!でも、これでこそ無双って感じよね!」
ミオは忙しなく動き回りながらも、活き活きとした表情をしていた。
やっぱりミオは無双ゲーも好きみたいだな。
「ミオさん、嬉しそうですね」
「そりゃそうよ!相手は侵略者だから倒しまくっても心が痛まないし!世間的には圧倒的な強者扱いされている連中だから、爽快感は圧倒的だし!あ、そう言えばドラゴン肉って美味しいのかしら?」
ミカヅキとの会話中、急に話が飛んだ。それと同時に矢も飛んでいく。
ミオはどうしても料理人目線になってしまうようだな。
実際、食用向きのドラゴンはどれだけいるのだろうか?フェザードラゴンと奈落竜については聞いたが、他のドラゴン達が食用向きかは聞いていないからな。
A:大半のドラゴンは食用には向きません。
「残念!まあ、いいわ。今回は無双出来ただけで十分としましょ。いくよ、ミカちゃん!」
「はい。ミオさん、頑張りましょう」
どうやらミオもアルタに質問をしていたようだ。
そのまま、ミオは電信柱サイズの矢を連射し続けている。
皆の様子を見て回ったが、全員問題はなさそうだな。
もちろん、問題が起こるような生易しいステータスではないんだけどな。
え?俺とセラ?
残念ながら俺は現在待機中だ。
ちょっと調子に乗り過ぎてしまったようだからな。
何をしたかと言われれば、右手で『飛剣連斬(必殺技)』、左腕で<並行詠唱>+<無詠唱>のコンボを発動したのだ。
説明しておくと、『飛剣連斬』は<飛剣術>スキルでひたすら連続攻撃をする技で、<並行詠唱>+<無詠唱>のコンボは、ノータイムでの魔法連射だ。ちなみに撃ったのは『ファイアボール』である。基本魔法での無双はお約束である。
どちらも遠距離攻撃の連射技で、簡単に言えば殲滅用の技だ。広範囲攻撃魔法ではないが、相当の殲滅力を持っている。
この2つの殲滅技を、ステータスをかなり上げた状態の俺が使用したらどうなるか?
A:ドラゴンの群れの中心部分に、非常に広範囲にわたる空白地帯が生じます。
と言う訳だ。
現在、俺の目の前の非常に広い空間に、ドラゴンが1匹も来ていないのだ。
もう技を放ち終えてからしばらく経つというのに、未だにドラゴン達が近づいてこない。
凄まじい勢いで俺を避け左右に分かれて進んでいるのだ。
どうやら、俺は最初の攻撃でドラゴン達から恐れられてしまったようだ。
おい、ドーラ相手には恐れ知らずに突っ込むのに、俺が相手になると逃げだすのかよ。
「すっご……」
俺が一通り技を放った後に呟いたブルーの一言である。
ドラゴン形態なのでいまいち分かりにくいが、ブルーがポカーンとした顔をしているのが印象的だった。
《ご主人様ー!暇ですわー!》
下からセラが念話で話しかけてきた。
中心の空中部隊である俺が暇なのに、下にいるセラが暇じゃない理由があるだろうか?
そんなことはない。当然、暇である。
むしろ、未だにセラは1匹たりともドラゴンを倒していないからな。……さすがに可哀想なことをしたか。
《じゃあ、どちらか好きな方に加勢に行け。こちらに向かってくる奴が多くなったら、『サモン』で呼び出すから》
《わかりましたわー!》
そう言ってセラはミオ、ドーラのいる左側へと向かって行った。
ああ、ドーラのいる左側の方が明らかにドラゴンの数が多いからな。
それから10分後、53291匹存在したドラゴン達は、その数を大よそ1000匹まで減らしていた。もうちょいだな。
結局、俺はあれから一切戦闘をしていない。
ああ、未だにドラゴン達は俺を避けているみたいなのだ。
正直に言って、寂しい。しかし、俺を中心に左右に分かれたドラゴンを倒すのは効率が良いらしく、抜け漏れも少ないので丁度良くなってしまったのだ。
俺が下手に動くと、ドラゴンの群れがどう動くのか予想がつかなくなってしまう。だったら、現状維持でいいじゃないかと言う結論に至ってしまったのだ。無念……。
「暇だな……」
「暇ね……」
暇になってしまった俺とブルーが呟く。
左側へと向かったセラはセラで活躍しているみたいだな。今も特大の<飛剣術>が空を飛んでいったし……。
お、今まで結界の中に入ってこなかった、4匹のLV200ドラゴンがやって来たみたいだ。
名前は……、『火神竜』、『水神竜』、『地神竜』、『風神竜』か。無駄に格好いい名前だな。
……っておい!お前らまで左右に分かれて進むんじゃない!
LV200ドラゴン達は、ものの見事に俺のいる中心を避け、左右に分かれて進んでいった。
お前ら、立派なのは名前とレベルだけなのか?
あ、4匹とも仲間達にやられたみたいだ。……立派なのは名前とレベルだけだ(断定)。
もう5分もしない内に、ドラゴンの群れは壊滅した。
LV300のドラゴン1匹しかいなければ、とてもではないがドラゴンの群れとは呼べないだろう。
結局、俺はほとんど何もしていなかったな。
せめて、最後の大物だけは俺が貰うとしようか。
始祖神竜
LV300
スキル:
武術系
<竜闘術LV10>
魔法系
<竜術LV10><始祖竜術LV10>
身体系
<竜体LV10><完全耐性LV->
その他
<変化LV10>
備考:全てのドラゴンの始祖といえる存在。人類に課せられた最終試練の1つ。
<竜闘術>
始祖神竜専用スキル。始祖神竜の扱う格闘術。牙、爪、尾等を使用した空中戦闘技術。
<始祖竜術>
始祖神竜専用スキル。<竜術>を強化し、性質を変えられるようになる。さらに、魔力を消費することでドラゴンを生み出すことが出来る。この能力で生み出したドラゴンは生殖能力がなく、死亡した場合に肉体は残らない。
<竜体>
始祖神竜専用スキル。<身体強化>、<飛行>、<HP自動回復>、<MP自動回復>、<咆哮>、<根性>を含む統合スキル。1日に1度だけ、HPが半分以上ある状態からは即死しなくなる。
<完全耐性>
あらゆる状態異常を無効にし、全ての攻撃に強い耐性を持つ。
うん、とてもラスボスっぽいですね。
<変化>を持っているから、人間形態になれるのかもしれないが、竜人種と敵対している以上、テイムするべきではないだろう。
ついでに備考欄までラスボス仕様だよ。
何だよ、人類に課せられた試練って……。普通の人間にこれが倒せるわけないだろう。
現在、始祖神竜は割れた結界の外で待機している。
レベルや大仰な名前に反してその体躯は大きくない。マップから入手した情報によれば、10mくらいの中型竜のようだ。
全身が真っ黒だが、奈落竜のようにゴツゴツした印象は受けない。鱗も丸みを帯びており、見た目だけなら脅威を感じることはないだろう。
さて、相手が動かないのならこちらから行くしかないだろうな。おっと、その前に……。
《最後のドラゴンは俺が倒してもいいか?》
念話で皆に確認してみる。
ダメと言われる可能性はかなり低いが、念のためである。
《いいですよ……》
《当然です》
《お任せしますわ》
《いーよー!》
《やっちゃえ、ご主人様!》
当然のことながら全員一致で俺が戦うことが可決されました。
それじゃあ、防衛線最後の相手を倒しに行きますかね。
*************************************************************
裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・族長(皇帝)
『竜人種の秘境』の族長は、ある儀式を行うことでその役割を引き継ぐことが出来る。
逆に言えば、不慮の事故などで族長が死んでしまった場合、族長の役割を引き継ぐことが出来なくなる。
そして、製作者の設定により、族長がいなくなった場合、『竜人種の秘境』を守る結界は全て消滅する。これはクーデターが起きて族長が死んだ場合に、竜人種を滅ぼすための措置である。
つまり、族長の最も大きな仕事は『生きている』ことなのである。奈落竜が現れた際、族長が戦えないと言ったのはこれが理由である。万が一にも死亡する危険を冒せなかったのだ。
そのくせ、不用心に仁たちの前に現れたのは、ドラゴン相手ではない、人間相手の警戒に慣れていなかったためである。族長にドジ属性を与えて、誰が得をするのかは知らない。
もう1つ失敗したのは、投稿間隔を10日に1度に変更したことです。
一か所に留まるというダレそうな内容で、投稿間隔が開くと、余計にダラダラ感が増すのです。
失敗するとダレそうな新しい事に挑む。迷走する。ダラダラ感が増す。という完璧な悪循環にハマりました。やっちゃったぜ。
6章の目途が立ったので、5章の残り2話は19日と26日に投稿します。その後は……10日おきか一週間おきかは未定で。