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第82話 十二支の門と決闘依頼

あけまして、以下略。

今年も、以下略。

第82話 十二支の門と決闘依頼


 テンリの一件が終息した後、俺達は『竜人種ドラゴニュートの秘境』にある『竜の門』を巡ることにした。


 『竜の門』は秘境内に12か所存在し、それぞれが世界各地の遺跡へと繋がっている。

 つまり、『竜の門』を使えば世界各地に一瞬で行き来が出来るということである。

 外界との接触を断っているくせに、使い方によっては交通の要となるのだから、中々に皮肉な話である。


「と言う訳で順番!まずは子から!」

「きゅー!《ねー!》」


 俺達はミオが宣言した通り、時計回りに十二支を巡っていくことにしたので、現在は『子の門』に来ている。


 そして、『子の門』も含めた『竜の門』の転移先全てに、『ポータル』を設置する予定だ。

 そうすれば、世界各地への移動時間を極限まで軽減出来るようになる。


 個人的には移動時間も旅行の楽しみの1つなので、削り過ぎるのもどうかと思うのだが、折角目の前に有るのに利用しないというのも勿体ないからな。

 とりあえず『ポータル』だけ置いて、使う使わないは後で決めればいいだろう。

 ついでに言うと、ルセア率いるアドバンス商会が、転移先に支店を増やすつもり満々だとアルタが言っていた。そのうち世界征服しそうな勢いである。


「仁君、この転移先ってナルンカ王国にあった様な遺跡になるんですよね……?」

「ああ、多分同じ造りの遺跡だろうな」

「もし、転移先が土に埋まっていたり、水の中だったりしたらどうするんですか……?」


 さくらの言いたいことはわかる。

 俺達が『竜人種ドラゴニュートの秘境』に入るために使った『竜の門』は洞窟の奥に隠されており、特に問題なく利用することが出来た。

 しかし、世界各地の『竜の門』が同じと言う確証はない。

 壊れてボロボロになっているかもしれないし、土や水の中に埋まっている可能性もある。


「その点はアルタに確認済みだ。より正確に言うのなら、『竜人種ドラゴニュートの秘境』のダンジョンマスターになった時、秘境内の情報にアクセスさせておいたんだ。その結果、全ての『竜の門』が正常に作動することは確認済みだ。ただ、水没している『竜の門』も2つあるんだがな……」


 現在の世界地図からざっくりとした『竜の門』の位置を確認した結果、1つは海の中、1つは湖の中にあることが分かっている。


「水中でも準備すれば行けないことはないからな。折角だし行ってみようと思う」

「出来れば、仁様には残っていただきたいんですけど……」

「却下だ」


 マリアの提案をバッサリと却下する。

 少なくともドーラが転移するというのに、俺だけ安全な場所で待っているというのは格好が悪すぎる。


「転移失敗はないということですね……。じゃあ、もう1つ……。転移先に人がいたらどうするんですか……?」


 土の中、水の中だけでなく、人目の中と言うのも問題である。

 パッと見ただけでは普通の遺跡なので、観光地になっていたり、下手をすると街中にある可能性もある。

 当然、その可能性も考慮済みだ。


「もちろん、さくらに魔法を創ってもらうのさ。そうだな……透明人間になる魔法でも作ってもらえばいいか」


 透明人間になれば、転移した先で人に見つかる可能性は低くなる。大人数で行かず、ドーラと俺(マリアがついてくる)の3人で転移してから他の皆を呼べばいいだろう。


「わかりました、ちょっと待ってくださいね……。……あれ?創れないみたいです……」

「え、マジか?」


 さくらに頼んだ魔法が作れなかったのは、元の世界への転移魔法以来だな。

 魔力不足じゃなくて、純粋に『できない』と言われたモノに限るけど。


「あの、仁様……」

「どうした、マリア?」

「透明人間になる魔法は既にあります。<無属性魔法>です。カスタールのSランク冒険者から失敬したはずです」

「…………、…………、…………ああ、あったな!」


<無属性魔法>

基本属性に含まれない特殊な属性の魔法。かつては無能者の証として扱われていたこともあり、ほとんど伝えられていない。使える魔法は『透明化インビジブル』『気弾エナジーショット』など。


 <無属性魔法>はカスタールで偽サクヤロマリエの陰謀を暴いたときに、魔法使いの凄い奴(雑な感想)から失敬したユニークスキルである。

 確かに『透明化インビジブル』は透明人間になる魔法だったな。

 さくらの異能である<魔法創造マジッククリエイト>では、既に存在する魔法を創ることは出来ない。今回は珍しく完全に効果が一致してしまったのだろう。


「ご主人様にとっては、Sランク冒険者のユニークスキルですらそんな扱いですわ……」

「しょうがないだろ!あの時はSランク冒険者とユニークスキルのバーゲンセールだったんだから……」


 偽サクヤの騒動ではカスタール中からSランク冒険者が集められていた。

 その時に失敬したユニークスキルの数は多かったが、大した印象は残らずに右から左に流れて行ってしまったのだ。


 一応、さくらに<魔道>のスキル、マリアに<魔法剣><神聖剣>のスキルを与えたが、使っているところを見たことがない。

 ちなみにマリアに与えたスキルの方は、何故か時々レベルが上がっている。

 マリア、基本的に1日中俺と一緒にいるんだけど……。


「確かにあの一件でご主人様が入手したユニークスキルは多いわよね。ま、あるなら態々さくら様に魔法を創ってもらう必要もないわけだし、丁度良かったんじゃないかな」

「そうだな。折角だから使ってみるか。悪いなさくら、余計な手間をかけさせて」

「いえ、気にしないでください……。また何か必要な魔法があったら、いつでも言ってくださいね……?」

「ああ、その時はよろしく頼む」

「はい……!」



 <無属性魔法>の『透明化インビジブル』は、1人が使えば複数人に効果のあるタイプの魔法だったので、とりあえず俺が使ってみることにした。

 『透明化インビジブル』の発動後、俺、ドーラ、マリアの姿が若干薄くなったように感じる。他のメンバーからは消えたように見えるのだろう。


 『透明化インビジブル』は発動中常に魔力(MP)が消費されていく。

 逆に言えば、MPがある限り発動し続けることが出来る。

 元々のMPが馬鹿みたいに高いうえに、<MP自動回復>もある俺にとっては制限などあってないようなものである。


「おー、ご主人様が消えた。これでお風呂覗き放題ね!」

「そもそも、俺が覗こうとしたら、屋敷にいる誰が抵抗できる?」

「誰も抵抗出来ませんわね……」


 屋敷にいるのは、基本的に全員俺の配下である。

 俺が本気で覗こうと思った場合、抵抗する術は誰にもなかったりする。


「出来れば、急には来ないでください……。心の準備が整ってからお願いします……」

「私の裸でよろしければ、いつでも覗いてください」

「きゅー?きゅー!《みたいのー?みていいよー!》」

「まー、見るだけなら嫌とは言わないわよ。本番はもうちょい待ってね」


 1番の問題は、抵抗する術どころか、抵抗したいと思っている者すらいなかったりすることなのだが……。


「いや、そもそも覗かないからな。さっきのは冗談だ」

「なーんだ、残念」

「ミオちゃん、そこで残念そうにするのは、元女子高生としてどうかと思います……」


 そもそも、覗くくらいなら見せてくれと正面から頼むしな。いや、見られている自覚がないというシチュエーションも中々……。


閑話休題。


 いくら回復するとは言え、透明な状態でMPを消費しつつ無駄話をするのもどうかと思うので、さっさと転移をすることにした。


「じゃあ、行ってくる。問題がないようならすぐに呼ぶから待機していてくれ」

「はい……」

「おっけー」

「わかりましたわ」


 透明になった状態で、俺、マリア、ドーラの3人が『子の門』の紋章の上に乗る。

 ドーラが床の紋章に触れることで、転移が発動した。


 目の前の景色が切り替わり、俺達は『竜人種ドラゴニュートの秘境』より遥か北側にある『竜の門』に転移した。


《どうやら人もいないみたいだな》

《そのようですね》


 もし人がいた時のために会話は念話を使うことにしているのだ。

 マップを確認したところ、周囲数km圏内に人に類する生物はいないようだな。


 と言うことで、安心して『透明化インビジブル』を解除する。


 『竜の門』の外は一面雪景色で、今も雪が勢いよく降っている。

 北にあるから雪国と言うのはわかりやすくていいな。滅茶苦茶寒いけど……。


「それにしても寒いな。まあ、こんだけ雪が降っていれば当然か」

「仁様、こちらをどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 そう言ってマリアに手渡された外套を羽織る。

 うむ、大分マシになったな。


「きゅー、きゅいー!《わーい、ゆきだー!》」


 ちなみにドーラは大はしゃぎで雪の上を走り回っている。

 全く寒そうに見えない。子供は風の子ということだな。


「転ばないように注意しろよー!」

「きゅ!きゅきゅ!?《うん!うわっ!?》」


-ズボ-


 言ったそばからドーラが転んで雪に顔を埋める。

 俺の言葉に反応してよそ見をしたために転んでしまったみたいだな。

 ……俺、悪くないよね?


「きゅいー、きゅうー《えへへー、ころんじゃったー》」

「ドーラちゃん、大丈夫ですか?」

「きゅ!《うん!》」


 そう言うとドーラは立ち上がってまた走り出し始めた。

 本当に元気である。

 『竜人種ドラゴニュートの秘境』に里帰りしている時よりも元気である。族長が憐れである。


 さて、そろそろ他のメンバーを呼び出すかな。


《こっちは雪が降っているから、温かい格好をしておいてくれ》

《はーい》×3


 念話によって、事前に温かい格好をするように促しておく。

 すぐに着終わったという念話が来たので、『サモン』で呼び出した。


「うー、本当に寒いわね!ご主人様温めてー!」

「『ファイアボール』でいいか?」


 ミオが抱き着いてきたので、<火魔法>によって出した炎を見せる。


「死んじゃうわよ!?」

「冗談だ。よっと……」

「今度は抱っこ!?」


 そのままミオを抱え上げて抱っこする。

 人肌で温めるというのは本当に有効みたいだな。随分と温かく感じる。

 見れば、ミオが嬉しいような悲しいような複雑な表情をしている。


「どうした?」

「完全な子ども扱いを悲しく思う自分と、このポジションも悪くないなと思う自分の2人がいるの……」

「そうか……」


 享年16歳、現在8歳、合計24歳の少女は色々と複雑らしい。

 ミオの場合、歳を重ねず・・・に横に積み直しているようなものなので、24歳と言っていいのかは微妙なんだけどな。


「寒いですね……。仁君の言う通り、厚着してきて正解でした……。でも、これでもまだ少し寒いです……」

「実はわたくし、昔から寒さには強いんですの。これくらいなら、厚着しなくても平気ですわね」


 ミオ同様にさくらも寒そうにしている。

 対してセラは寒さに強い様だ。人並み外れて筋肉の密度が高いからだろうか?


A:そうです。


「さくら様、もしよろしければ私の外套を使いますか?」

「大丈夫なんですか……?」

「ええ、大丈夫ですわ。さくら様の方が辛そうですし、どうぞ使ってくださいな」

「ありがとうございます」

「いえいえ」


 セラから外套を借り、それを着たさくらは着膨れしすぎてモコモコしている。

 滅茶苦茶動きにくそうである。


「仁様、『ポータル』の設置が終了いたしました」

「ああマリア、ありがとう」


 マリアからの報告を受ける。

 『サモン』で皆を呼び出す間に、マリアには『ポータル』の設置を頼んでおいたのだ。


「来て早々で申し訳ないけど、『ポータル』を設置し終わったから戻ろうと思う。周囲数km圏内には人もいないし、ここの散策は後回しにするつもりだ」

「きゅうー《もっとあそびたいよー》」

「ごめんな。今日中に後10か所回りたいから、あまり一か所に時間を割けないんだよ」


 『未の門』を除いた全ての『竜の門』を使用する予定なので、一か所に割ける時間は自然と短くなる。

 そして、『申の門エルディア』に割く時間が最小であることだけは確定している。


「きゅー。きゅ?《わかったー。またこようね?》」

「ああ、約束だ」


 雪国自体は嫌いじゃないし、観光したいとも思っているので、いずれ時間があるときにでも来ようと思う。



 その後、1日かけて全ての『竜の門』を巡り切った。

 以下、それぞれの転移先についてまとめる。

 行ったことも聞いたこともない場所はあまり詳しくは調べなかった。後の楽しみにとっておくタイプだからな。


子:???、雪原

丑:???、森

寅:???、湖

卯:イズモ和国、街

辰:???、砂漠

巳:エルフの里、森

午:真紅帝国、森

未:ナルンカ王国、盗賊のアジト

申:エルディア王国、王都北東の草原

酉:サノキア王国、森

戌:???、海

亥:???、荒野


 『子の門』の雪原と同じように、『丑の門』の森、『辰の門』の砂漠、『亥の門』の荒野の周辺には人が住んでいなかった。

 周辺の人里を探索しなければいけないが、その辺りはアドバンス商会のメイドに任せることになるだろう。メイド達もやる気満々だしな……。


 『寅の門』と『戌の門』は水没していた。

 『戌の門』は海の中にあり、当然周囲には何もない。

 『寅の門』は湖、それも貴族向け避暑地にあるようだ。トラブルの元なので後回しである。


 『卯の門』はイズモ和国と言う国の首都に繋がっていた。

 この国に関しては、少々詳しく調べたので説明しよう。

 イズモ和国を一言でいうと、『テンプレ通りの東の国』である。


 江戸時代、戦国時代の日本そのままで、この国の住人たちは和服を着て和食を食べ、日本家屋や長屋で生活している。

 主な武器は刀と弓で、鍛冶の技術は他国を圧倒している。

 カスタール女王国のように中途半端に和風が混ざっている訳でもなく、『竜人種ドラゴニュートの秘境』のように名前だけ和風と言う訳でもない。

 この世界に来て、ここまで完全な和風と言うのは初めてである。


 何故こんな国が存在するのか?

 十中八九、日本人の転移者か転生者の手が入っているとみて間違いがない。

 ここまでわかりやすい和風の国が、異世界で自然発生するとは考えにくいからな。


 余談だが、やたらと歴代勇者の訪問率が高い国としても有名だ。

 もちろん、そいつらの気持ちはわかる。ミオも滅茶苦茶興奮していたし、当然俺も行きたいと思っている。いや、行く。

 とは言え、今は『竜人種ドラゴニュートの秘境』の方が優先なので、行くとしてもその後である。……真紅帝国はどうした。


 『竜の門』の話に戻ろう。


 俺達の行動範囲の都合上、知っている国と言うのが南西方向に固まっている。

 エルディア王国はどうでもいいとして、セラの母国であるサノキア王国にも『竜の門』は繋がっている。貴族国家らしいので俺は行きたくないし、セラも全く興味を示さないので、この国もパスである。


 面白いのは、今後行く予定である真紅帝国とエルフの里にも、『竜の門』が存在しているということだ。

 どちらも目的地(帝都、集落)からは離れているみたいだが、利用すれば大幅な移動時間短縮になるのは間違いない。

 うーむ、観光らしく馬車とかで向かうべきか、折角ショートカットがあるんだから利用するべきか、どちらにするか悩むな。

 ……とりあえず、時間のある限りは馬車、無くなってきたら転移と言う方針で行こう。



「スマン。アカツキの件が少々面倒なことになったのじゃ」


 屋敷に戻った俺達を出迎えた族長が、開口一番に言ったセリフである。

 また虫野郎アカツキか……。


「どういうことだ?」

「うむ、実はアカツキの奴は分家筋の族長候補であるヒスイの親類でな。ヒスイが族長候補第1位に繰り上がったとわかった途端、分家の連中がアカツキを解放するように要求してきたのじゃ」


 元々、ヒスイは族長候補の第3位だったため、分家も含めて発言権はそれほど強くなかった。

 しかし、ドーラとテンリが候補から外れたために繰り上がりでヒスイが第1候補になった。発言権が増したので、禁固刑になった親族の解放を要求した、と言ったところだろう。


「当然、ワシもそれは拒否したのじゃ。そしたら分家の連中、『要求が呑まれない場合、ヒスイを族長候補から外す』などと言いおった」

「族長候補なんて、新しく決め直せばいいじゃないか」


 今のところ、ドーラ、テンリ、ヒスイと言う3人しか話に出てきていないが、それ以外の竜人種ドラゴニュートが候補になってはいけないルールがあるのだろうか?


「そう言う訳にもいかんのじゃ。族長候補は本家と分家2つから1人ずつ、3人までしか決められん。故にヒスイを族長候補から外されるわけにもいかず、やむを得ず分家の連中の要求を呑み、アカツキを解放することになったのじゃ」

「それで、また虫野郎アカツキが絡んでくるかもしれないと言う訳か?」


 禁固刑から解放された虫野郎アカツキが、再び絡んでくる可能性は非常に高い。……訂正、再び絡んでくる(確信)。

 次絡んで来たら、そろそろ命の保証は出来なくなってくる。


「絡むだけで済めばよかったんじゃがな……」

「どういうことだ……?」


 族長が不穏なことを呟いたので聞き返す。


「アカツキ解放の件で味を占めた分家の連中とアカツキが、お主に決闘を強制させるように言ってきたのじゃよ。お主達が負けた場合、シラユキ以外の竜人種ドラゴニュートのテイムを全て解除するように条件を付けてきておる」


 ドーラのテイム解除を要求しないのは、ヒスイが族長になるチャンスなので、第1候補のドーラが邪魔だからかな?


「で、族長はそれを受け入れたのか?」

「そんな訳ないじゃろう。アカツキの件はワシの裁量で禁固刑にしたから、ワシに撤回する権利もある。じゃが、お主達に決闘を受け入れさせるのは、ワシ1人の意思で勝手に決められることではないからのう」


 もしここで『勝手に承諾した』などと言われたら、ゴーホーム待った無しだったよ。もちろん、テイムした竜人種ドラゴニュートは1人残らず連れ帰った上で、である。


「とは言え、向こうも強情でな。何とか決闘を受け入れるように、お主達を説得するように頼まれてしまったと言う訳じゃ」

「受け入れるわけないだろう。全く受け入れるメリットがないじゃないか」


 はっきり言って、虫野郎アカツキと顔を合わせて不快にならない未来が想像できない。

 不快になることが分かり切っている決闘など受ける理由が存在しない。


「やはりそうじゃよな……。一応言っておくと、今回決闘を受けた場合、分家側の要求に見合うだけの要求を受け入れる用意はあるのじゃ。アカツキの奴は自分の都合だけを押し通そうとしておったがな……。分家の連中はそこまでアホではなかったようで、お主達の要求があるのも当然と言っておった」

「そんな当たり前のことを言わなきゃいけない段階で、色々と終っているんだけどな」


 どうしてあの虫野郎アカツキは、自分の要求だけで決闘が成立するとか、馬鹿なことを考えているのだろう?


「その通りではあるが、出来ればそれは言わんで貰えると助かる。それと、出来れば決闘を受けてもらえると助かるのじゃ。勝利の報酬として宝物が欲しいのじゃったら、都合をつけることは出来るのじゃぞ?」

「何か勘違いしていないか?宝物は報酬として丁度いいから受け取っているだけで、宝物を引き合いに出せば何でも要求を呑むわけじゃないんだぞ」

「そ、そうじゃったか……。それはスマン……」


 宝物を渡せば、何でも依頼を受けるように思われているなら心外である。


「今の俺に決闘を受ける意思はない。俺が族長に言えるのはそれだけだ」

「む、むう……」


 族長にそう言い放つと、それ以上の話は無駄とばかりに族長の前から立ち去って行く。



「折角の決闘イベントなんだから、受けても良かったんじゃない?」

「不快になるのがわかっている相手との決闘に何の価値があるんだよ。それに、セラとマリア相手に完封されたような奴との戦いで、何か学ぶことがあるとでも言うのか?」

「ないわねー」


 決闘イベントを楽しみにしていたミオが残念そうに言うが、バッサリと切り捨てる。


「正直、そろそろ面倒になって来た。ミオには悪いが、明日の昼までには『竜人種ドラゴニュートの秘境』を出て行こうと思う」

「うーん、料理を教えきれないのは残念だけど、ご主人様の気持ちもわかるから何とも言えないわね。あのアカツキとか言う竜人種ドラゴニュート、相当鬱陶しいもんね」


 ミオは竜人種ドラゴニュート達に料理を教えているからな。

 今日始めたばかりだというのに、強制終了にしてしまうのは少し悪いとは思うが、出て行くのを我慢するほどの理由でもない。


「仁様がお望みでしたら、今すぐにでも切り捨ててきます」

「必要ない。ただ、次に攻撃して来たら容赦はしなくていいから」

「はい、わかりました」


 いつもの通りマリアが物騒なことを言うので軽く止める。

 面倒になってきたのも事実なので、『軽く』以上は止めない。


「ご主人様はアカツキとやらがまた来ると思っていらっしゃるんですの?」

「ああ、来る可能性は低くないと思っている。決闘を無理矢理実行してくるのか、それすら関係なく襲ってくるのかはわからないけどな。……当然、容赦をする気は無い」


 ルール無用の襲撃だった場合、躊躇なく殺してしまおうと思う。

 そう言えば、『竜人種ドラゴニュートの秘境』における決闘のルールってどうなっているんだ?


A:基本的に決闘相手を殺害することは許可されておりません。故意、過失を問わず、相手を殺した場合は殺した側の負けになります。罪にはなりませんが、生涯残る汚点となります。


 罪にはならないのか……。


A:この世界の一般的な決闘では、戦闘を代理人に任せることも出来ますが、『竜人種ドラゴニュートの秘境』のルールでは代理人は許可されていません。


 虫野郎アカツキが俺を指名して決闘を申し込んだということは、戦うのは俺と虫野郎アカツキと言うことになる。

 なるほど、自分を圧倒したマリア、<竜魔法>を消したセラ、奈落竜アビスドラゴンを倒したミオを避けて、俺に決闘を申し込んだのは、俺が憎いというのに加えて、俺が1番弱いと判断したのかもしれないな。

 もしかしたら、このパーティは女子の方が強いとか、素敵な勘違いをしたのかもしれない。


 そう考えると、少し不快になってくるな。


「ちょっとアルタに話を聞いたんだが、状況次第では決闘を受けるかもしれない。マリア、悪いけど攻撃してきても殺すのは止めておいてくれ」

「わかりました」

「マリアちゃん、仁君が決闘を受けるのを止めないんですか……?いつもだったら、危ないことは止めて欲しいと言うじゃないですか……」

「あの程度の者が相手でしたら、危険の内には入りません」


 さくらの質問に対して、マリアはあっさりと答えた。

 マリアにとって、虫野郎アカツキは危険なモノには含まれないらしい。憐れだな。


「そう言えば、もし決闘を受けて、ご主人様が勝った時の要求と言うのは何にするつもりですの?」

「宝物を断ったんだから、別の何かにするんでしょ?」

「ああ、当然そのつもりだ。そして、この秘境にある宝物以上に価値のある物なんて、……竜人種ドラゴニュートしかいないだろ?」


 セラとミオの質問に答える。


「俺の要求は、『ドーラ以外の竜人種ドラゴニュートを数名秘境外に連れ出す』にするだな。ちょっと連れて行きたい奴もいるし……」

「あれ?フリーパスの対価として連れて行かないんじゃなかったの?」

「フリーパス、ちゃんと機能していると思うか?」

「…………」


 ミオは無言で首を横に振った。


 ある程度の面倒トラブルは覚悟の上とは言え、テンリとアカツキの2名が既に絡んできている。

 第3候補のいる分家も友好的な感じはしないし、まだ面倒トラブルは続きそうだ。

 よく考えたら、族長の一族は皇帝の一族ってことになるんだよな。その分家と言うことは、簡単に言えば皇族・貴族ってことだ。

 つまり俺は、貴族関連のトラブルの渦中にいるということになるのか。


「だから、その点も考慮して『数名』なんだよ。全員とか言ったらともかく、90人オーバーの中から数人だ。それくらいは受け入れて貰わないとな。もちろん、本人が望まないのなら連れて行ったりはしないつもりだ」

「ねえ、ご主人様」

「なんだ、ミオ?」


 ミオが俺のことを怯えた目で見つめている。


「どうして、ご主人様はそんな怖い顔をして笑っているの?」

「きゅー《こわいよー》」


 ミオは身体をブルっと震わせながら聞いてきた。

 どうやら俺は結構怖い顔をしているようだな。横にいるドーラも微妙に涙目である。


「ああ、虫野郎アカツキも族長の一族の分家と言うことは、貴族による面倒事トラブルに巻き込まれているんだな、と考えたら自然とな」

「ご主人様の貴族トラブル嫌いが凄い……。お願いしますから、その顔止めてください。何でもしますから」


 ミオが慣れ親しんだ土下座の格好をする。

 ……うん、ミオの土下座も見慣れたものだな。


 ミオの土下座を見たら心に少しゆとりが出来た。我ながらどうかと思うが……。


「きゅー!《ごしゅじんさまがもどったー!》」

「ほっ……」


 どうやら元に戻ったみたいだな。


「少し気が変わったな……」

「仁君、どうしたんですか……?」

「ああ、自分で考えていたよりもずっと不快な気持ちになっているみたいだ。だから、この決闘をラストチャンスにしようと思う」


 無意識に怖い顔をするくらいは不快なんだ。

 自覚してしまった以上、何も無しで済ませるつもりはない。


「ラストチャンス?どゆこと?」

「この決闘よりも後に不愉快になることがあれば、俺はもうこの『竜人種ドラゴニュートの秘境』に対して容赦をしないことにする」


 今まで、不愉快な虫野郎アカツキをある程度放置していたのは、ドーラの故郷で同胞に手をかけるのがドーラの教育上よくないと判断したからだ。

 しかし、それもそろそろ限界だ。これ以上虫野郎アカツキを放置するのなら、『竜人種ドラゴニュートの秘境』も事実上の敵として扱うべきだろう。

 そして、俺は敵対する者に容赦をするつもりはない。


「まず、最初は決闘の報酬として秘境の外に連れて行く竜人種ドラゴニュートは、俺の希望する者を2人、ミオが料理を教える予定だった者を数人にするつもりだったんだ」

「それは助かるわね。秘境の外ならしっかりした設備もあるし、メイド部隊の手を借りることも出来るからね。……でも、それを止めるの?」

「止める訳じゃない。ミオの方を1人減らして、代わりに少々致命的な1人を連れて行くことにするだけだ」


 俺が連れて行く予定の3人を、その場にいる全員に伝えた。


「ご主人様、それは鬼畜の所業ですわ」

「うん、正直ドン引きよ……」

「…………」


 ミオ、セラ、さくらが本気でドン引きしている。


「仁様は、この秘境を滅ぼしたいんですか?言ってくだされば私が皆殺しにしますけど?」

「いや、別に滅ぼしたい訳じゃない?ただ、誰を敵に回したのかを理解してもらうだけだ」

「ご主人様を敵に回すとか、洒落にならないことだけは間違いありませんわ……」


 今のところ、俺に(面識有りで)敵対して生きているのはエルディアの王族くらいか?


「確かに最悪の場合は『竜人種ドラゴニュートの秘境』が滅びる可能性もあるけど、それだって掟さえ曲げてしまえばいくらでも回避が可能だからな。さすがにそこまで行ったら掟を曲げてくれると思いたいんだが……。ドーラも故郷が滅びるのは嫌だよな?」

「きゅい、きゅうー!《みれんはないけど、ほろびるのはやー!》」


 俺もドーラの故郷である『竜人種ドラゴニュートの秘境』を滅ぼしたい訳ではない。

 先にも少し述べたが、族長を含むこの秘境の有力者達が掟を少し曲げてくれれば、何の問題もなく取り返しがつく程度のモノである。

 族長は掟を重視しつつも、絶対順守と言う程ではないので、十分に猶予はあるだろう。

 そもそも、これ以上虫野郎アカツキが絡んでこなければ、何の問題も起きないと思うのだが……。



*************************************************************


裏伝


*本編の裏話、こぼれ話。


・無属性魔法

 『透明化インビジブル』、『気弾エナジーショット』等の「無色」に関係する一風変わった魔法が使えるようになるスキル。

 他の属性魔法のように派手な技があるわけではないので、一種のハズレ魔法として扱われていた(『気弾エナジーショット』はMP効率が悪くて遅い波○拳)。

 特に『透明化インビジブル』を覚えれば、様々な犯罪がし放題になるため、持っているだけで犯罪者予備軍として扱われていたこともある。

 「無色」に属するだけあって、使い手までもが「白い目」で見られることになるスキルだった。


20170119改稿:

活動報告・補足(11) の内容を反映。


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[気になる点] 仁ならともかく、たとえ能力が高かったとしても普通に行けば死んでたような奴隷まで、周囲の人間に対して高慢な態度を取り続けているのは違和感。仁の性格に影響されてるってことだと思うけど、あま…
[良い点] れ [気になる点] 普通に関わったヤツらだけやり返せばいいじゃん笑 なんで関係もないドラゴニュートにまで影響を及ぼすことを考えてるのか……。まぁクズな主人公だし仕方ないけども あとマリアの…
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