第80話 守護者と秘宝
Q:何で仁はアカツキを殺さないの?
A:ドーラの故郷で縁者を殺すのは教育上好ましくないため。
Q:じゃあ、何をされても殺さないの?
A:そんなことはない。
話をしながら迷宮を進んでいるのだが、罠無し、魔物無しなので、迷宮感が0である。
しばらく歩き続け、ようやく守護者のいる部屋に差し掛かった。
「おっと、着いたみたいだな。この先が最初の守護者のいる部屋だ」
「ご主人様、守護者って何?」
「ああ、言っていなかったか。守護者っていうのは特定の存在を守るために配置する魔物のことだ。エステア迷宮のエリアボスがそれに該当するな。扉を守らせた場合、守護者を倒さなければ扉が開かない仕組みだ」
「それっぽいわねー。でも、普通には入れないから減点なのは変わらないわね」
ミオのこの迷宮への評価は、辛口で固定されてしまったようだ。
「仁様、その守護者は討伐するのですか?」
「ああ、そうしようか。……態々結界で守っているのに、さらに守護者で守ろうとするなんて、中に何があるのか気になるからな」
「マップを検索すればいいと思います……?」
「それは最後の手段だな。折角のお宝だ。ネタバレしたら勿体ないだろう」
基本的に宝箱とか財宝の類は、事前に検索しないことに決めているからな。
ヤバい罠とかがあったら、アルタが教えてくれるし……。
なお、守護者は複数存在しており、ダンジョンコアを守っている守護者の位置も確認済みだ。こいつは最後に倒す予定である。
守護者のいる部屋は鉄製の扉で閉じられており、中は戦いを繰り広げられる程度には広くなっている。
そして、件の守護者のステータスがこれである。
オリハルコン・ゴーレム
LV100
<HP自動回復LV10><硬化LV10><門番LV10>
備考:オリハルコン製のゴーレム。とてつもなく硬い。
備考、雑だなー……。
オリハルコン・ゴーレムは高さが2mくらいで、真鍮のような色をしている。
伝説の金属であるオリハルコンは、真鍮に近い金属だという話もあるので、それがベースとなっているのだろう。
岩の塊を人型に積み上げた様な姿をしており、ぶっちゃけると雑な印象を受けた。
そして、ステータスやスキルの構成は……どう見ても防御特化ですね。
スキル数少ない代わりにスキルレベルが高くて、倒しにくさに拍車をかけていますね。
オリハルコンは魔法にも耐性があるので、相当に面倒な相手だな。
しかし、何よりも問題なのは、守護者は倒したら死体が残らないことだ。
オリハルコンを戦利品にすることは出来ないと言う訳だ。これは辛い!
オリハルコン
備考:物理的、魔法的に最高の硬度を誇る伝説の金属。
「守護者は死体が残らない代わりに、ドロップアイテムを設定する義務があるんだよ。相当に確率を低くしていたみたいだけど……、まあ、関係ないわな」
オリハルコン・ゴーレムを腹パンで粉砕した後、落ちていたオリハルコンを拾いながら説明する。
レアドロップみたいだけど、確率論なんて何のあてにもならないだろう。
如何に伝説級とは言え、オリハルコンなんざ斬った日にはさすがの霊刀・未完も刃こぼれを起こしそうだったので、とりあえず殴ってみた。意外と脆かった。
「今や中ボス程度じゃあ、戦闘後の感想すらもらえないのね……」
「流れるような一撃でしたわ。お見事ですわ」
「仁様の援護に入る暇もありませんでした……」
部屋に入る→<縮地法>+<加速>のコンボで接近→腹パンの流れで瞬殺したからな。
『硬い』アピールが強すぎるから、とりあえず一発殴らせてもらったら、その一発で終わっちゃったんだよね。コメントのしようもないよ。
「つ、強すぎます……。これが私の主君のお力ですか……」
あ、俺の戦闘(?)を目の当たりにしたミカヅキが放心している。
こればっかりは慣れて貰わないとどうしようもないね。
「さて、この先には何が置いてあるのかな?」
「きゅー!《おたからだー!》」
守護者を倒したことにより、部屋の奥にある扉が開いた。
守護者で守るくらいなんだから、お宝の1つはあって当然だろう。むしろ無かったらどうしてくれようか……。
扉の先は小さな部屋になっていて、宝箱がポツンと1個置かれていた。
こんなところだけ迷宮の流儀に則っているのか……。
「では、私が宝箱を開けます」
マリアがそう宣言して宝箱を開ける。
マップを見ても罠はない様だが、マリアとしてはどうしても俺には開けさせたくないようだ。本当に過保護……。
と言うか、仮にも勇者が斥候ポジションってどうなの?
「仁様、こちらをどうぞ」
時間をかけずに宝箱を開けたマリアが、中身を確認してから俺に手渡してくる。
スキルオーブ<竜撃>
備考:ユニークスキル<竜撃>を習得できるオーブ。
『スキルオーブ<竜撃>』。
これが『竜人種の秘境』にある迷宮で、守護者が守っていた宝の名前である。
アルタに確認を取ったところ、その名の通り使用するとスキルを習得できるという宝珠のようだ。
「おー、中々面白そうなアイテムね!ここにきて急に迷宮がゲームっぽくなったわ!」
「でも、仁君の話では物にスキルを与えることは出来ないんですよね……?」
さくらの言う通り、スキルと言うのは生物・魔物にしか習得できない。
では、このスキルオーブはいったいどういう理屈でスキルを保持しているのか?
A:スキルオーブは、マスターもお持ちの『魂魄結晶』を素材にしています。疑似とは言え魂があるので生物扱いとなり、スキルを保持・譲渡することが出来ます。
『魂魄結晶』はエステアの迷宮で、40層ボスの死神が落としたドロップアイテムだ。
仮初めの命を与えるアイテムのはずだったが、そんな使い道があるとは思わなかったな。
そして、このスキルオーブの存在は、俺がこの世界に来る以前からスキルと言うものを理解していた者がいることの何よりの証明となる。
恐らく、それはこの『竜人種の秘境』を創りだしたダンジョンマスターに他ならないのだろう。
屋敷に戻ったら、族長に詳しい話を聞いてみるのもありかもしれないな。
「ご主人様も『魂魄結晶』を持っているんだし、その気になればスキルオーブ作れるんじゃない?」
「もし作れたとして、作ってどうするんですの?スキルオーブでは<生殺与奪>以上のことは出来ませんわよ?」
「あー、そういやそうだったわね。自前でそれ以上のことが出来るのよね……」
アルタの説明を聞いたミオとセラが話しているように、<生殺与奪>以上の機能はないようなので、面白いアイテムだとは思うが利用価値はないな。
「それで、<竜撃>と言うのはどのようなスキルなのでしょうか?仁様の強化に繋がるのでしたら、仁様に使っていただきたいのですが……」
マリアの過保(略)。
「でも、名前と入手場所を考えると、どう考えてもドーラちゃん専用スキルですよね……」
「いや、さくら様。この場合、対ドラゴン用のスキルって可能性もありますよ。『竜』を『撃』破するって意味で」
「なるほど……」
とりあえずスキルの詳細を確認してみよう。
<竜撃>
竜人種専用スキル。<竜魔法>をチャージできるようになる。
「ふむ、<竜魔法>をチャージできるようになるようだな。当然、溜めた方が<竜魔法>の威力が上がるんだろうな」
「あちゃー、外したかー。って言うか、本当にゲームっぽくなってきたわね……」
「そうですね……。この迷宮を作ったのも転生者なのでしょうか……?」
「そうかもしれないな」
恐竜娘の例もあるので、竜人種に転生した地球人がいてもおかしくはないだろう。
出来れば、何か情報を残してくれていると助かるのだが……。
「きゅー?《<りゅーげき>ドーラがもらってもいいー?》」
「そうだな……。ちょっと待っていてくれるか?今から俺がこのスキルオーブを使って、スキルポイント増やしてから渡すから」
「きゅーう《はーい》」
「何で態々スキルポイントを増やすんですか……?」
さくらが首を傾げながら聞いてきた。
ドーラしか使えないのなら、そのままドーラに使わせても変わらないからな。
「スキルをコピーして、元の<竜撃>の分だけスキルオーブに戻すつもりだからだよ」
「すいません……。やっぱり意味が分かりません……」
「んー、もしかしてご主人様、スキルオーブを元の状態にして置き直すつもりなの?」
「ああ。ミオ、正解だ」
スキルオーブの性質を調べてみた所、<生殺与奪>を使えばスキルポイントを再充填することが出来るみたいだからな。
「何でですの?戦利品を元に戻すなんて、ご主人様らしくないですわよね?」
セラが不思議そうに尋ねてきた。……俺、そんなに物欲強そうかな?
「いや、どう考えてもこのスキルオーブって『非常用』じゃないか。アルタも言っていただろ?竜人種が全滅寸前になったら、リソース不足で結界が消えるって……」
「もしかして、ドラゴンに攻め入られたときの最後の手段ってこと?」
「多分だけどな。『竜人種の秘境』を作った奴は、いつかリソース不足でドラゴンが入ってくることも想定していたんだろうな」
だからこそ、この迷宮は普通には入れないようになっていたのだろう。
言ってしまえば、この迷宮の解放条件は『竜人種の秘境壊滅』となる。
ダンジョンマスター不在で、その解放条件はルール違反なんだけどな……。
「だから、ここで俺達がアイテムを持って行くと、前ダンジョンマスターの意図から大きく外れることになる。正直、前ダンジョンマスターのやり方は色々と気に食わないが、だからと言って非常用の奥の手を台無しにするのはやり過ぎだろう。レアなスキルを持って行かないという選択肢はないから、妥協点として元に戻して置いておくことにするんだ」
前ダンジョンマスターが、竜人種を守ろうとしているのはわかる。
しかし、前ダンジョンマスターが守ろうとしているのは、竜人種と言う種族であって、個々の竜人種については考慮されていない。
その証拠に、この迷宮は全滅間際にならなければ入ることは出来ないし、竜人種を犠牲にしなければ使用できない兵器も存在している。
はっきり言って気に食わない。だからと言って台無しにするのはやり過ぎだ。
仕方ないから、『スキルは貰うけど元々あった分は戻して置く』と言う半端な対応をすることにしたのだ。
「さて、じゃあ<竜撃>はドーラにプレゼントだ」
「きゅー!《わーい!》」
ドーラに<竜撃>を譲渡して、スキルオーブを元あった場所に戻す。
さすがにオリハルコン・ゴーレムはどうにもならんが、リポップするのだろうか?
A:しません。オリハルコン・ゴーレムはリソース不足による結界消滅以外で侵入してきた者への対策です。リソース不足による結界消滅時、オリハルコン・ゴーレムは動作を停止します。
なるほど、言ってしまえば俺のような例外的な奴を排除するための装置ってことか。
確かに、侵入者に破壊されたってことはイコールでスキルオーブ奪われているからな。リポップする意味がそもそも存在しないか……。
さすがにそこまで責任は持てないので、このまま放置だな。
「じゃあ、他の部屋も見て回ろうか」
「きゅーう!《はーい!》」
「次は私が守護者を倒したいですわ」
「今度の守護者は何だろ?」
結論。
全ての守護者はオリハルコン・ゴーレムで、全ての宝物はスキルオーブでした。
いくら何でも、手抜きをし過ぎだと思います。
まあ、そのおかげでスキルとオリハルコンがさらに2個手に入ったので良しとするか。
そして、これがスキルオーブから入手したスキルだ。
<竜滅>
竜人種専用スキル。<竜魔法>にドラゴン特効の追加効果を与える。
<竜鱗>
竜人種専用スキル。<竜魔法>の発動中、被ダメージが減少する。
見事に竜人種専用スキルオンリーだな。当然か……。
ちなみに守護者はマリアとセラが1体ずつ倒したよ。瞬殺だよ。
守護者を全て倒したので、最後に残るラスボスの部屋に向かって進む。
「これで残るはいよいよラスボスだけなんだけど、流石にラスボスまでオリハルコン・ゴーレムってことはないよな……」
「だと良いわねー」
「きゅー《ねー》」
もし、ラスボスまでオリハルコン・ゴーレムを使い回していたら、腹いせにスキルオーブ全部没収します。
話をしている間にラスボス部屋に到着したので、ラスボスのステータスをチェックだ。
ドラゴニュート・オリジン・レプリカ
LV150
<竜魔法LV7><飛行LV10><身体強化LV10><門番LV10>
備考:竜人種の原点たる存在を模倣した魔物。
あ、良かった。さすがにオリハルコン・ゴーレムじゃなかった。
つーか、原点なのか模倣なのかはっきりしろと言いたい。
後、気になるのは<迷宮支配>スキルを覚えていないことだな。
エステアのラスボスは<迷宮支配>を持っていたのに、ここのラスボスは持っていないのは何か理由があるのか?
A:リソースの差です。<迷宮支配>持ちの守護者はリソースを大量に使用します。
つまりは節約ってことだな。
……守護者の部屋以外の道中に魔物もいないし、随分なエコ迷宮だよな。普通の迷宮として運用する気0である。
「で、誰が倒す?」
「きゅーい!《ドーラがたおしたーい!》」
新しいスキルを3つも手に入れたからだろう。ドーラがいつも以上にやる気だ。
「ま、順当じゃない?『竜人種の秘境』にある迷宮のラスボスを倒すのはドーラちゃんが適任よね」
「オリハルコン・ゴーレム戦で力試しできましたし、ボスはドーラさんにお任せしますわ」
「確かに、誰が相応しいかと言われればドーラだろうな。じゃあドーラ、1人で戦うか?」
「きゅう、きゅー《うーうん。さくらといっしょにたたかうー》」
「え……?私ですか……?」
急に話を振られたさくらが驚いている。何故さくらと一緒?
「きゅ、きゅきゅい《だって、さくらもさいきんたたかってないからー》」
「そう言えば、ここ最近さくらが戦っているところを見かけないな」
「えーっと……。はい、迷宮の50層以降、一週間以上戦っていません……」
ばつが悪そうにさくらが答える。
基本的にさくらは戦闘が好きではない。
元々、さくらが戦うことを決めたのは、自衛できる力を手に入れるためだった。
現在、ステータス的にも精神的にもある程度安定してきたさくらにとって、戦いに参加する理由はほとんどないのである。
「よく考えてみたら、戦うのが好きじゃないさくらが、迷宮で最後まで戦い続けていたことの方が不自然なんだよな……」
新人の育成のために参加を控えた1~10層と、例外的にゴリ押しをした31~40層以外、そのほとんどの戦闘にさくらは参加していたのである。
その間、さくらは1度も戦うのが嫌だと言ったことはなかった(日下部戦は除く)。
「そう言えばそうね。さくら様、何でです?」
「それは……、仁君の側にいるためです……」
「「え?」」
思わずミオと2人で声を上げてしまった。
「私は……、仁君と一緒にいたいんです……。一緒に旅を続けていきたいんです……。仁君が私に戦いへの参加を望むのなら、魔物くらい倒してみせます……。だからこそ、魔法使いとして求められた迷宮では戦いを続けました……」
思い返してみれば、さくらが自発的に戦闘に参加したという記憶はない。
カスタールで冒険者をしていた時も、エステアで探索者をしていた時も、さくらは俺に付き合って戦っていた。
「もしかして、今まで無理をさせていたのか?迷宮踏破後にさくらが戦っていないのは、戦うのが限界になったからなのか?」
戦いたくもない人間に、戦いを強要していたとしたら問題だ。それは俺の主義に反する。
「いいえ、無理と言う訳じゃありません……。戦いに関しても、好きではないだけで、絶対に嫌だと言う訳でもないので……」
「そうか、それならいいんだが……」
さくらの様子を見る限り、無理をして言っているという感じではない。
良いか悪いかはさておき、さくらも随分と魔物との戦いに慣れてきているのだろう。
「ただ、迷宮の後は個人戦が中心だったじゃないですか……。他に戦いたい子がいるのに、手を挙げてまで戦う必要性は感じなかったので……。さすがに一週間は間を開け過ぎた気もしますけどね……」
迷宮踏破後は基本的に挙手制で戦闘参加者を決めていた。
当然と言えば当然だが、その間にさくらが挙手をした回数は0回だ。
「なるほど、理由は分かった。けど、無理はするなよ。今後も戦いたくないと思ったら、言ってくれて構わないからな」
「はい、わかりました……。気を使ってくれて、ありがとうございます……」
しかし、さくらが俺と一緒にいることを、ここまで重要視していたとは思わなかったな。
……いや、この世界で最初に話をしたときから、その片鱗はあったのか?
「そこまでしてご主人様と一緒にいたいなんて、さくら様もご主人様が大好きなのねー。ラブなのねー。……やっぱり、さくら様がご主人様のメインヒロインなのかしら?」
さくらの反応を見て、ミオがニマニマ笑いながらアホなことを言い出した。
「えっと、ミオちゃん……。私が仁君を大好きなのは間違いないんですけど、それが恋愛的な意味かと言われると、ちょっとよくわかりません……。今まで、恋愛なんて1度もしたことがないので、感情の整理が上手くつかないんです……」
「さ、さくら様が不憫すぎる……!?」
衝撃の事実により、ミオの方が涙目になってしまった。
なんだかボス部屋の前なのに微妙な雰囲気になってしまったな。そろそろ話を戻すか。
「それでさくら、ドーラが一緒に戦おうと言っているのはどうする?」
「きゅー、きゅおー?《さくらー、いっしょにたたかおー?》」
キラキラとした目でさくらを見つめているドーラ。これは強い。
「ドーラちゃんにそんな風にお願いされて断れるわけありません……。私もそろそろ戦闘に参加するべきだと思っていたので丁度いいです……。ドーラちゃん、よろしくお願いしますね……」
「きゅー!《よろしくー!》」
さくらとドーラが作戦タイムを終え、いよいよボス部屋へと足を踏み入れた。
ちなみに、ボス部屋へは残りのメンバーも一緒に入っているが、基本的に手を出さない予定だ。邪魔になりそうだったら『ポータル』で出て行くつもりである。
ドラゴニュート・オリジン・レプリカは……名前が長いからラスボスでいいや、ラスボスは100m四方の部屋の中、人型で待機していた。背の高い女性だな。
部屋も広いし、ドラゴニュートって書いてあるから、多分変身するんだろうなー……。
余談ではあるが、このラスボスの部屋は『竜人種の秘境』を守る結界の丁度中心にある。より正確には、この奥にあるダンジョンコアが本当の中心になっている。
付け加えると、ダンジョンコアの真上には族長の屋敷が存在している。
前ダンジョンマスターは大切なものは一か所に集める主義だったのだろう。
「ドーラちゃん、行きますよ……!」
「きゅ!《うん!》」
部屋に入ったところで、まずはドーラがボスに向けて突っ込む。
「きゅー!《ふぁいあー!》」
「GYUOOOOO!」
―ドオオオン!―
ドーラが走りながら、ラスボスはそれを迎え撃つようにそれぞれ開幕で火の<竜魔法>をブッ放した。
ブレスのぶつかり合った中心部分で大爆発が起こる。
ちなみにここのラスボスは喋るのか?……さくらの『コネクト』で翻訳できないから、ただ叫んでいるだけのようだ。
迷宮のラスボスには、対話機能を付けないのがデフォルトだからな。
「きゅーい!《えーい!》」
「GYUOO!?」
ブレスを放ちつつも減速していないドーラが、そのままラスボスに接近して杖を振るう。
ラスボスは両腕をクロスさせて受け止めようとするが、勢いを殺しきれずに吹っ飛ぶ。
「GYOO!」
「きゅきゅー!《そんなのきかないよー!》」
吹き飛びつつも無事に着地したラスボスがドーラに向けて蹴りを放つも、容易く盾で受け止める。ドーラの方は吹き飛ぶどころか、その場から動きすらしない。
「きゅい!《えい!》」
ドーラが盾をラスボスに向けて押し付けるようにしたら、そのままラスボスは後ろ方向に跳躍する。……結構身軽だな。
「私も援護します……!」
さくらはそう言うと<光魔法>の『ライトボール』と、<闇魔法>の『ダークボール』を数個放った。
それぞれ、ドーラを避けるような軌道でラスボスに向かっていく。
「GYUUU!?」
ラスボスも避けようとするのだが、軌道の変化する球体を読み切れずに数個が着弾した。
『ライトボール』も『ダークボール』も、低レベルの魔法なので威力は低いのだが、遠隔操作が出来て使い勝手がいいので重宝しているのだ。
あくまでも今回の主役はドーラと言うことで、さくらは低レベル魔法による援護に集中してもらっている。
「きゅー!《くらえー!》」
ドーラがもう1度<竜魔法>によるブレスを放った。
ラスボスはさくらの魔法により、<竜魔法>を放つ余裕はなかったようで、ドーラの<竜魔法>が直撃した。やったか!
「GYURIOOOO!」
「きゃう!?《きゃ!?》」
爆炎が収まる前に、その中から現れた尻尾にドーラが吹き飛ばされる。
一応、盾で防いでいたみたいだが、急な一撃に踏ん張りが効かなかったのだろう。
爆炎が収まった後、そこにいたのは当然のごとく竜に変身したラスボスであった。
ラスボスが変身したドラゴンは、火竜や奈落竜、黄金竜のような厳ついドラゴンではなく、どちらかと言うと丸みを帯びたドラゴンだ。
いや、もっと単純な言い方をしよう。ドーラの変身後のフェザードラゴンを、そのまま大きくして、さらに立派にしたような姿だった。
全身が白銀の毛で覆われており、鳥のような羽が3対6枚生えており、まるで後光が差しているかのように輝いていた。
「中々に立派だな」
「神々しいですわね。ドーラさんに似ていますし、ドーラさんもいずれはあの姿になるのでしょうか?」
「そうなると抱き枕にするのにはしんどいな……。いや、むしろベッドにすればいいのか」
「ご主人様にとって、ドーラちゃんはどこまで行っても寝具扱いなのね……」
「もしくはペットですわ……」
ペットでベッド……、アリだな。
俺達が無駄話をしている間に、ドーラたちの方にも動きがあった。
今度はラスボスがドーラに向けて<竜魔法>を放とうとしているのだ。
「きゅー!きゅー!《んー!んー!》」
「GYURYOOOO!!!」
「させません……!『アイスウォール』!」
ドーラが唸り、ラスボスが叫び、さくらが魔法によってドーラを守る。
ラスボスの<竜魔法>はレベル7とかなり強力だが、それでもさくらの設置した『アイスウォール』によって全て防がれている。
「きゅー!きゅー!《んー!んー!》」
「GYUOOOOOOOOO!!!」
ラスボスもブレスを吐き続けて何とか『アイスウォール』を壊そうとしているが、氷の壁はまだまだ壊れそうにない。
そして、ラスボスのブレスが徐々に弱くなり、ついには打ち止めとなったようで途切れる。
「ドーラちゃん……!今です!」
さくらはそう言うと同時に、設置していた『アイスウォール』を消滅させる。
これで、ラスボスとドーラの間には何も存在しなくなった。
「きゅー!《すぺしゃるふぁいあー!》」
―ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!!―
直後、ドーラから放たれたのは、今までとは比べ物にならない程に強力な<竜魔法>だった。んーんー唸っていたのは<竜撃>によるチャージを試していたのだろう。
音が止み、爆炎が晴れた後、ラスボスの姿はどこにもなくなっていた。
今まで、ドーラのブレスでもラスボスのブレスでも焦げ目1つ付かなかったボス部屋の床や壁が、チャージしたブレスによってボロボロに焼け焦げていた。
「中々の威力だな」
「ドーラちゃん、すっご……」
「これは相当な威力ですわね。ステータスを抑えてこれですから、全力で放ったらどれだけの威力になるかわかりませんわね」
「はい。それにドーラちゃんの<竜魔法>はレベル5です。伸びしろも十分にあります」
<竜魔法LV5>、<竜撃LV1>、ステータス制限と言う条件でこの威力だ。
全て全開にした場合の威力は、きっと恐ろしいレベルとなるのだろうな。
そんな感想を言っている間に、部屋の奥にあった扉が開く。
あの先にはダンジョンコアがあるんだよな。
「終わりました……」
「きゅいー!きゅおー!《かったよー!ごしゅじんさまほめてー!》」
「よーし、よくやったぞドーラ。さくらもお疲れさま」
「きゅー!《わーい!》」
戻ってきたドーラとさくらを労う。
ドーラは抱き着いてきているので、そのまま撫でてあげる。
「はい……。それで仁君はこの後どうするんですか……?ダンジョンコアもありますし、この迷宮のダンジョンマスターになるんですか……?」
「いや、このダンジョンを管理するつもりはない。ただ、一時的にはダンジョンマスターにならざるを得ないが……」
「どゆこと?」
俺がこぼした一言をミオが拾う。
「折角だから、一時的にダンジョンマスターになって、守護者とラスボスを再出現させておこうと思うんだ。さすがにラスボス部屋を素通りさせるわけにもいかないからな。その後、ダンジョンマスターの権限を放棄すれば、まさしく元通りと言う訳だ」
「『立つ鳥跡を濁さず』って奴ね」
「そう言うことだ。『使う前より綺麗に』ってことだな」
「それ、学校のトイレに書いてありましたよ……」
「男子トイレも同じだな」
さくら、ミオとの元の世界トークを終えた後、皆を連れてダンジョンコアのある部屋へと向かう。
「お宝部屋と変わりませんわね」
「そうですね……。その辺りはまた手抜きみたいですね……」
部屋の中はスキルオーブの置かれていた部屋と完全に同じものである。
部屋の中心に設置されていたダンジョンコアは、明らかにエステア王国の迷宮にあったものよりも小さかった。大体3分の1くらいのサイズしかないな。
ダンジョンコアと言うのは、サイズの差が性能の差と考えて良いらしいので、出来ることも3分の1以下と言うことだろう。
「じゃあ、俺がダンジョンマスターになるから」
「うー、ミオちゃんもダンマスなりたかったのにー!」
「慣れている俺がやった方が速いだろ」
エステアの時と同じように、ダンジョンコアに触れることでダンジョンマスターとして登録をする。
既に2回目だからだろう。頭の中に情報が流れてくるような感覚はない。
部屋を見渡しても何も書かれていないし、前ダンジョンマスターはこの迷宮に何の情報も残してはいないようだ。……残念。
ダンジョンマスターの権限を使用して、守護者とラスボスを再出現するように設定する。
折角だからラスボスには<自爆>スキルをプレゼントしておこう。これは必須だ。
設定が終了した段階で、ダンジョンマスターの権限を放棄する。これで次にダンジョンコアに触れた者がダンジョンマスターになれるようになった。
「よし、これで設定終了だ」
「仁様、お疲れ様です」
「これで迷宮探索はお終いだな。もうじき昼になるし、そろそろ一旦帰るとするか」
「はい」×5
「きゅい!《はーい!》」
切り上げようとしたところで、ふと気づいたことがあったので確認を取る。
「そう言えばミカヅキ、途中から一切喋っていなかったな?どうしたんだ?」
今回俺達に付いてきたミカヅキだが、迷宮に入ってからほぼ発言をしていない。そして、ほとんど最初から最後までボーっとしていたように見えた。
「ええと、目の前で起きていることが信じられず、夢でも見ているような感覚になっていました。外の世界では、これが普通のことなのでしょうか……?」
「ご主人様がぶっ飛んでいるだけよ。普通な訳ないから。ちなみに他言無用よ」
「はい。こんな話を集落でしたら、どんな結果になるのか想像もつきません」
本当に上の空だったミカヅキに対し、ミオが補足を入れた。
まあ、『竜人種の秘境』の根幹である迷宮が、あんなあっさりと蹂躙されていたら、上の空になるのも仕方がないよね。
そもそも、迷宮が根幹にあるってことを知ったのも初めてっぽいけど……。
迷宮を出た俺達は、一旦竜人種の集落に戻ることにした。
ドーラおススメの観光スポットは他にもあるが、迷宮のインパクトには勝てないだろうから保留することにしたのだ。
それで、今から何をするのかと言えば、ミオによる食文化ハザードの実施である。
「本当に本気だったんだな」
「勿論よ!異世界に来たらやってみたいことベスト30の第8位なんだから!こんな食文化後進地域なんて、格好の狩場……じゃなかった、最高の環境じゃない!」
狩場って言っちゃったよ。この子。
まあ、串焼肉の件を考えれば、狩場以外の何物でもないんだけどな……。
「でも、具体的にはどうするんですの?串焼肉でも配るんですの?」
「ちっちっちっ、ミオちゃんは天丼をしない主義なの。当然、別の料理で竜人種達の胃袋を鷲掴みにするわよ!」
「じゅるり……」
「ミカヅキ、ヨダレが汚い」
「あ、すいません。つい……」
ミオが料理を作ると宣言しただけで、ミカヅキの口元からは涎が溢れていた。
ここに1人、完全に胃袋を鷲掴まれた竜人種がいますね。
「具体的には屋台を出します!その屋台で料理を出すんだけど、料理を渡すのは既にテイムされた竜人種だけ!そんな感じで私の料理を広めつつ、最終的には、テイムした竜人種に料理を教えて、この秘境を完全制圧するの!」
ミオが長広舌を終え、自信満々の表情で胸を張っている。
「普通にガチの侵略行為じゃね?」
「そうともいうわね!上手くいけばテイム希望者も増えるんじゃないかしら」
「別に望んではいないんだがな……」
食文化災害ではなく、食文化侵略でした。
竜人種達って美味い料理に免疫がないから、無駄に効果的なんだよな。
テイム希望者も本当に増えそうだな……。
「それでミオちゃん……、結局何の料理を配るんですか……?」
「いい質問です、さくら様!肝心なのはここからで、ここで配る料理っていうのは、この秘境にある物だけで作れるものに限定するんです。串焼肉の場合、調味料とかタレとかを使いましたけど、今度は手持ちの調味料の使用を禁止します!秘境内だけで再現性のある料理を作ります!地産地消、名物料理はミオちゃんの手によって生み出されるのです!」
「うん、思っていたよりも相当にミオの本気度が高い……」
『竜人種の秘境』……、終わったな。
*************************************************************
ステータス
ドーラ
LV63
スキル:
武術系
<武術LV5><棒術LV10><盾術LV10>
魔法系
<魔法LV5><竜魔法LV5><固有魔法>
技能系
<技能LV3><調剤LV6>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><突進LV10><咆哮LV10><飛行LV10><噛みつきLV10>
その他
<幸運LV1><竜撃LV1 new><竜滅LV1 new><竜鱗LV1 new>
装備:支配者の杖・レプリカ、正義の盾
現在、久しぶりに短編準備中です。合間合間なのでいつ出せるかはわかりません。
クロードが出て来るけど、主役じゃない物語です。むしろ脇役?