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第78話 宝物と串焼肉

 奈落竜アビスドラゴン討伐後、俺達は族長の案内で、『竜人種ドラゴニュートの秘境』の集落に向かうことになった。

 族長とドーラは人間(+羽)形態で空を飛び、俺は不死者の翼ノスフェラトゥで他のメンバーとともに飛んでいる。

 『竜人種ドラゴニュートの秘境』は直径100km以上の広さを誇り、その中に1つ巨大な集落がある。

 ドーラに聞いていた通り、竜人種ドラゴニュートはあまり人間形態にならず、竜形態で日々を過ごしているようだ。


「よっしゃー、これで『竜人種ドラゴニュートの秘境』の観光が出来るわー!」

「でも、料理には期待できないんですよね……。少なくとも、ドーラちゃん情報では……」

「え?マジですか?」


 純粋に『竜人種ドラゴニュートの秘境』への滞在を喜んでいたミオだが、さくらが気まずそうに言ったセリフを聞いて固まる。


「あー……、ドーラの話では、野生の魔物を狩って、その肉を食うって話しか聞いていないな。一応、焼くくらいはするらしいけど……」

「な、なんですとー!?折角の秘境なのに、名物料理無いのー!?」

「それは残念ですわ。結構、楽しみにしていましたのに……」


 食べ物組ミオとセラががっかりしている。

 そう言えば、2人は竜人種ドラゴニュートの食事情について話した時、まだ配下になっていなかったな。


 ドーラが従魔になった時、あまりにも人間の料理を美味しそうに食べるから、今まで何を食っていたのか聞いたのだ。

 その話によると、どうやら竜人種ドラゴニュートには料理という習慣はないらしく、結界の中に発生する魔物(ドラゴンはいない)を狩って食べているそうだ。

 一応、魔物によっては火を通すくらいはしているらしいが、とてもではないが料理とは言えないだろう(自身への戒め)。


「きゅ、きゅいー……《ミオー、りょーり作ってー……》」

「もっちろんよ!こうなったら、『竜人種ドラゴニュートの秘境』に食文化ハザードを起こしてやるんだから!私無しでは生きていけないようにしてやるわ!」

「ミオなら、本当に出来そうなのが恐ろしいところだよな……」


 今までまともな料理を食べてこなかった者が、いきなり世界最高クラス(暫定)のミオの料理を食べて、果たして正気を保っていられるのだろうか?実に楽しみである。


「ま、料理だけが観光ではないし、色々と見て回れれば俺は満足なんだけどな」

「仁様、私もお供いたします」

「当然、マリアちゃんはそう来るわよね。でも、今回は場所が場所だけにみんな集まっていた方がいいかも……」


 ミオが全員一緒に行動することを提案してきた。

 虫野郎アカツキのように俺達を快く思わない連中もいそうだしな。


「そうですわね。散らばればその分余計なトラブルも増えそうですわ」

「一緒について行ってもいいですか……?仁君……?」

「もちろんだ。じゃあ、今回はみんな仲良く観光だな。どうせ観光なんてするの俺達だけだし……」


 観光地ではないので、人混みやマナーの悪い余所者を気にしないで観光できるというのは、ある意味メリットでもある。大切なのは、俺達自身がマナーの悪い観光者にならないよう注意することである。


「きゅきゅいー《ドーラがあんないするねー》」

「お、よろしく頼むぞ。ドーラ」

「きゅう!《うん!》」


 さて、世間知らずのドーラに案内を頼んだら、どんな面白いことになるのだろうか?実に楽しみである。



 『竜の門』から飛ぶこと5分、ついに俺達は『竜人種ドラゴニュートの秘境』、その集落へと足を踏み入れるのであった。


「うん、想像していた通り、文明度低いな」

「長い間引きこもっていたみたいですし、ある意味当然ですよね……」


 俺とさくらが思わず呟いてしまったように、『竜人種ドラゴニュートの秘境』はかなり原始的な生活をしていた。

 集落にある家は、そのほとんどが藁で組んだ簡易的なモノだった。

 その代わりと言っては何だが、それぞれの家は竜形態でも何人も入れるくらいには巨大である。


「あそこの家だけは造りがしっかりしているわね」

「きゅー《あれがドーラの前のお家ー》」

「さすが皇女様ですわ」


 例外は奥の方にある巨大な石造りの屋敷で、そこだけは他の家とは文明レベルが数段階違っていた。

 どことなく『竜の門』の面影があるので、作製者が同じなのかもしれないな。


「人がほとんどいません。避難しているのでしょうか?」

「そうじゃよ。あの屋敷の中に避難しておるのじゃ。1番、頑丈じゃからな」


 マリアが呟いた疑問に答えたのは族長だ。

 マップを見ると、ほとんどの竜人種ドラゴニュート達は屋敷の中に避難している。スペースの都合上、全員人間形態だった。


 ちなみに、平時の竜人種ドラゴニュート達は竜形態で過ごす者の方が圧倒的に多く、人間形態で過ごす者は1割程度と言う話だ。

 基本的に細かい作業をする必要がある者が、人間形態でいるらしい。


 村に入った俺達を出迎えたのは、地上にいる竜人種ドラゴニュートで、ほぼ全員筋骨隆々マッチョの(パッと見)若い男女達だった。

 その中の1人、あまり筋骨隆々マッチョではない女性が前に出てきた。

 短い赤髪の結構な美人だ。……全裸だ。

 どうやら名前はミカヅキと言うようだな。


「族長、お帰りなさいませ」

「うむ。お主達も無事で何よりじゃ」


 ああ、人間形態だから判断がつかなかったが、ここにいるのは奈落竜アビスドラゴンに戦いを挑んだ竜人種ドラゴニュート達だったのか。意識を取り戻した後、自力で集落まで戻ったということだな。

 それで地下には入らず、地上を守っていたのだろう。


「……我々は侵入してきたドラゴンに歯が立たず、醜態を晒しました。そのようなお言葉をかけていただく資格はございません」

「そう卑下するでない。あれほどの相手じゃ、仕方ないとしか言えんよ。しかし、見たところアカツキ以外全員帰ってきておる様じゃな。本当によくぞ無事じゃったな……」

「我々が起きた時、傷と呼べるものは全くありませんでした。もしかして、彼らが……?」


 女性ミカヅキを含めたほとんどの竜人種ドラゴニュートが俺達の方を見てくる。


「うむ。お主らには申し訳ないと思ったが、この者達に助力を頼んだ。まずはお主達の回復を……。そして、侵入したドラゴンの討伐もじゃ」

「ま、まさか彼らがドラゴンを倒したのですか!?」

「そんな馬鹿な!?人間がドラゴンを倒すだと!?」

「<回復魔法>はともかく、ドラゴン討伐は無理だろう!?」


 集まっていた竜人種ドラゴニュート達が声を上げる。


「静かにせい。……信じられぬのも無理はない。じゃが、この目で確かに見たのじゃ」

「それが理由で、集落まで連れてきたのですか?」

「そうじゃ。秘境の恩人じゃからな。もてなすのは当然じゃろう?」

「はい、その通りです。では、ドラゴンが討伐された件も含め、各方面へその旨を伝えておいた方がいいでしょう」

「頼む」


 族長がそう言うと、連絡係とでも言うべき数名の竜人種ドラゴニュートが、走り去ったり、飛び去ったりして行った。

 このミカヅキと言う女性竜人種ドラゴニュートは、細やかな気遣いが出来るクールビューティのようだ。


 ドラゴンが討伐された以上、いつまでも地下に避難している必要はないからな。

 ついでに、それを成したのが俺達だということも伝えておけば、余計な混乱をある程度は防げるだろう。

 まあ、『秘境の危機を人間が救った』と言うだけで、混乱は不可避だろうがな……。



 その後、俺達は族長(+ミカヅキ)に連れられて、ドーラの元自宅でもある石造りの屋敷へと向かった。

 屋敷には避難した竜人種ドラゴニュート達もいるし、報酬として約束していた宝物も置いてあるので、行かないという選択肢がそもそもないだろう。


 俺達が屋敷に到着するころには、地下から戻って来た竜人種ドラゴニュート達がチラホラと見え始めた。人間形態で、……全裸だ。

 既に俺達についての話は終わっているようで、俺達に対して様々な感情のこもった視線が向けられている。

 困惑、猜疑、感謝、敬意、嫉妬、苛立ちとそれはもう様々である。


 困惑、猜疑の目を向けてくる者が1番多かった。

 パッと見、ドラゴンを倒せるようなメンツには見えないので、ある意味当然かもしれない。

 ホントですよー。この年齢下から2番目の女の子が、奈落竜アビスドラゴンを倒しましたよー。


 次に多かったのが、感謝や敬意の感情だった。

 もちろん、信じられない気持ちもあるのだろう。しかし、それよりも、『助かった』、『良かった』という気持ちの方が大きく、俺達に向けて純粋に感謝をしているように感じる。

 そもそも、族長と一緒にいることが、話が嘘ではないと証明しているようなものだしな。

 ちなみに高齢な(500歳以上)竜人種ドラゴニュート程、感謝している割合は多くなっている。多分、ドラゴンの侵入を3回経験している者達だな。


 そして残りが、嫉妬や苛立ちなど、負の感情のこもった視線を向けてくる連中だ。

 人間が侵入してきたこと、竜人種ドラゴニュートを差し置いて活躍したこと、集落にまでやって来たこと、その他諸々の不満を視線に含めているのが見て取れる。

 割合を見ると、比較的若い竜人種ドラゴニュートに多い様だ。

 一応、この連中には注意していた方がいいだろうな。


A:お任せください。常時監視しておきます。


 そんな竜人種ドラゴニュート達を横目に、俺達は屋敷に入っていく。

 竜形態で生活するためだろう、人間の家と比べてかなり縮尺が大きいが、基本的な造りは人間の家とそれほど大差がないようだな。

 当然と言えば当然だが、扉は1つも存在しない。ドラゴンのサイズはまちまちだし、人間形態もいないわけではないので、統一の規格には出来ないからだろう。


「着いたぞ。ここが宝物庫じゃ。この中からいくつか選ぶとよい」

「うはー!お宝っぽい物がたくさんあるー!」

「宝物庫ですから当然ですわよね?」


 族長に示された部屋を見てみると、ミオの言う通りいくつもの宝物が並んでいる部屋だった。

 宝石から武器まで様々である。そして、その内のいくつかは魔法の道具マジックアイテムだった。これは期待が持てるな。

 ……でも。


「宝物庫なのに鍵もかけないとか、不用心極まりないな……」

「全員が知り合いの秘境で不用心も何もあるまい?宝物のこともほとんどの住人は知っておる。そして基本的に外部からの侵入者はドラゴンだけじゃ。お主らみたいなのを除けばな……」

「ああ、持っていれば盗んだと言っているようなものなのか。売ることも出来ないし……」

「そう言うことじゃ」


 外部からの侵入者もなく、周囲に身内しかいない状況で、貴重品を厳重に守る理由もないということだろう。


「ちなみに宝物は何個まで貰っていい?」

「細かい個数まで話はしておらんかったな。そうじゃのう……。シラユキを含めて1人1個、計6つまで持って行くがよい」

「わかった。6つまでだな。じゃあ、皆も欲しい物を探してくれ」

「「はーい」」

「きゅーい《はーい》」


 ドーラ、ミオ、セラが元気よく返事をした。さくらとマリアは?


「仁様、私は結構ですので、私の分は仁様がお選びください」

「仁君……、もしよければ、私の権利もどうぞ……」

「……わかった。2人の分はありがたく貰っておこう」


 物欲がほとんどない2人の権利は、俺が貰うことになった。

 ありがたいけど、もう少し自己主張してもいいのよ?


「では、すまんがワシは他の者に説明に行かねばならん。先ほどの説明は最低限じゃったし、何よりもシラユキについて説明しておらんかったからな……。宝物については、そこのミカヅキに聞くとよい」


 そう言って族長は宝物庫を出て行こうとする。


 最初に『竜の門』に到着したとき、門番の1人が集落に向かって族長を連れてきた。

 なので、シラユキことドーラが『竜人種ドラゴニュートの秘境』に戻ってきた(厳密には里帰り)ことは、多くの者が知っているのだろう。


 しかし、最終的にドーラは俺達についてくることを選んだ(当然である)。

 この件に関しては、族長を含めて数名しか知らないはずだ。

 何故なら、直後に奈落竜アビスドラゴンの襲撃があって、それどころではなかったからだ。

 よって、ほとんどの住人はドーラが秘境に帰って来たのだと勘違いをしているだろう。


「そう言えばそうだな。集落の入り口で言及しなかったのは何か理由があるのか?」

「うむ、あの場でシラユキについて言及すれば、余計な混乱を招くと思ったのじゃ。お主達が秘境を救ったという話が浸透してからの方がまだマシじゃろう。それに、お主達を連れて行くわけにもいかん。本人がいると、つい感情的になってしまうかもしれんからな」

「……ああ、それで俺達が宝物を見ている間に終わらせようということか」

「そう言うことじゃ」


 なるほど、族長も色々と考えていたわけか(結構失礼)。

 だったら時間を潰すためにも、ゆっくりと選んで問題ないだろう。



 族長が宝物庫を出て行った後、じっくり色々と見て回った結果、貰うことにした宝物がこれだ!


竜角の笛

備考:ドラゴンの角を加工して作成された笛。


煉獄竜インフェルノドラゴンの牙

備考:火属性の上位竜種、煉獄竜インフェルノドラゴンの残した牙。


煉獄竜インフェルノドラゴンの宝玉

備考:赤く綺麗な宝玉。希少価値が高い。


 『竜角の笛』、『煉獄竜インフェルノドラゴンの牙』、『煉獄竜インフェルノドラゴンの宝玉』は俺が選んだ。


 『竜角の笛』は奴隷の1人、フィーユへのお土産である。

 音楽家であるフィーユは、珍しい楽器とかが好きと言っていたからな。


 『煉獄竜インフェルノドラゴンの牙』と『煉獄竜インフェルノドラゴンの宝玉』を選んだのにはちょっとした理由がある。

 『煉獄竜インフェルノドラゴンの牙』とは、言ってしまえば煉獄竜インフェルノドラゴンの遺体の一部だ。

 そして、『煉獄竜インフェルノドラゴンの宝玉』は実際には宝石ではなく、煉獄竜インフェルノドラゴンの魔石を丹念に磨き上げた物なのだ。

 つまり、これで煉獄竜インフェルノドラゴンの『魔石』と『死体の一部』を入手したことになる。イコール、タモさん煉獄竜インフェルノドラゴンフォームの完成である。

 ちなみにこの煉獄竜インフェルノドラゴン、500年前に秘境を襲った上位のドラゴンのことである。奈落竜アビスドラゴンと同格なんだとか……。


竜玉

備考:虹色に輝く綺麗な宝玉。希少価値が高い。


 『竜玉』を選んだのはドーラだ。

 『煉獄竜インフェルノドラゴンの宝玉』とは異なり、ただの綺麗な宝石である。

 俺にはよくわからないが、何かが琴線に触れたらしい。この状況で普通の宝石を選ぶドーラにビックリである。


竜の宝短刀

分類:短刀

レア度:伝説級

備考:鮮度回復、解毒


 ミオが選んだのは伝説級レジェンダリーの武器、『竜の宝短刀』である。

 ……ぶっちゃけ包丁である。しっかりと包丁らしい効果付きだ。

 これを見つけた時、ミオが『8つ集めようかしら……』とか言っていた。多分、俺の知らない漫画か何かだと思われる。


竜角槍

分類:大槍

レア度:伝説級

備考:ドラゴン特効、投擲時命中補正


 『竜角槍』を選んだのはセラである。

 セラの大剣と大楯は伝説級レジェンダリーだが、槍はミスリルの大槍だからな。

 どうせなら全て伝説級レジェンダリーで揃えたかったのだろうな。


 合計6つの宝物を選んだのだが、全てドラゴン由来の物である(ドーラのは微妙)。

 もちろん、それ以外の物もあったのだが、折角『竜人種ドラゴニュートの秘境』に来ているのに、ドラゴン関連以外を選ぶ理由もないだろうからな。



 族長が宝物庫に戻ってきたのは、俺達が報酬として貰う宝物を選び終えた後、10分後のことだった。


「ふむ、その6つの宝物で良いのじゃな?」

「ああ、貰っても問題ないか?どうしても渡せない物とかはないか?」

「ここから選べと言っておいて、後から駄目とは言わんよ。持って行って問題ないのじゃ」

「わかった。じゃあありがたく貰うことにするよ。これで契約は完了だな。……そう言えば、住民に対する説明はどうなった?」


 族長の顔色を見る限り、それほど悪い事にはなってなさそうだけどな。


「うむ、そっちは何とか大過なく治められた」

「『治めた』と言っている時点で、問題があったと言っているようなもんだけどな」

「まあ、想像の通りじゃよ」

「だよなー……」


 最初から荒れていなければ『治める』必要はないからな。

 要するにシラユキことドーラ関係で1度は荒れたということだ。

 それでも『治めた』というのだから、族長の人望は厚いのだろう。


「ああ、それとこれからドラゴン討伐の宴をすることになったのじゃ。まあ、宴とは言っても、焼いた魔物の肉と酒が出るくらいじゃがな」

「あー、酒はあるのか……」

「うむ、酒はあるぞ。大量にあるぞ」


 料理の習慣がないのに酒はあるのか。

 そう言えば、ドラゴンってお酒好きなイメージはあるよな。

 竜人種ドラゴニュートもその辺は変わらないということか……。


「特に今回はお主達のおかげで、人的被害は0じゃった。あのクラスのドラゴンが侵入してきたにしては、奇跡的と言ってもいい。そりゃあ、宴の1つも開かねばなるまい。例えドラゴンを討伐したのが、たまたま秘境におった人間じゃったとしても……」

「そう言うものか?」

「そう言うものじゃ。なので、悪いがお主達も宴に参加してもらえると助かる。余所者扱いとは言え、立役者を無視して宴などできんからな」


 少し宴に参加するメリット・デメリットを考えてみた。


「1つ聞きたいんだが、今俺達の立場ってどうなっている?」

「秘境に来て、秘境を救った恩人、客人と言う立場じゃな」

「客人……ね。じゃあ、その客人に無礼を働いた竜人種ドラゴニュートがいたらどうする?」

「ワシの指示を無視して、お主達に悪さする者がいるかもしれんと言うことか……」


 族長は俺の言いたいことを理解したようで、少々渋い顔をしている。

 虫野郎アカツキの件もあるので、絶対にないとは言い切れないのだろう。


「何かされたのなら、その度合いに応じてやり返しても構わん」

「殺されそうになったら、殺してもいいということか?」

「そこまでの馬鹿はいないと信じたいんじゃが……。出来れば殺さんでくれ……。馬鹿者とは言え、秘境の仲間、身内であることには変わりないからのう」

「考えておく」

「何事もないと良いのう……」


 無理じゃないかな?相手は俺だよ?



 その後、竜人種ドラゴニュート達の準備の下、ドラゴン討伐を祝う宴が開かれた。


 『竜人種ドラゴニュートの秘境』には、総勢2000名(匹?)程の竜人種ドラゴニュートが住んでいる。

 宴に参加したのは約75%の1500名ほどで、残りの500名は不参加と言うことになった。

 不参加を決めた理由は様々あるだろうが、俺達への悪感情が理由だと言う者も少なからずいるだろう。


 ちなみに宴に参加している者は全員が人間形態である。そしてほとんどが全裸である。

 族長に聞いたところ、人間形態のときに全裸でいることには一切の羞恥心がない様だ。


 『竜の門』に来たとき、族長達は貫頭衣を着ていた。

 羞恥心がないというのなら、今度はこの行動が不自然に映る。

 理由を尋ねたら、何でも昔『竜人種ドラゴニュートの秘境』に迷い込んできた旅人にんげんから、『人間は服を着るのが普通』という常識を教わったらしい。

 滅多にあることではないが、人間が来た時のため、貫頭衣を用意していたという話だ。

 でも、当然のことながら、全員分はなかったのである。それで裸族が多いと言う訳だ。


 大量に並べられたテーブルには、火属性のブレスを吐ける竜人種ドラゴニュートによって焼かれた串焼肉と、尋常じゃない量の酒類が置かれていた。

 宴は族長の挨拶とともに始まり、俺達も一応顔見世することになったが、特に面白い話もないので割愛する。


 当然と言えば当然だが、俺達はやたらと注目されている。

 とは言え、気にはなるけど話しかけるほどの勇気はないようで、数多くの竜人種ドラゴニュートは(全裸で)遠巻きにこちらを見ているだけだ。


「マリア、そんなにピリピリするな」

「はい。ですが、落ち着きません……」


 俺の護衛を自称しているマリアとしては、そんな状況で落ち着けという方が難しい様だ。


「注目されるのは仕方がないだろう。とりあえず、食事にしようか」

「仁様、さくら様、ここの食事を口にするのは避けた方がよろしいかと思います」

「ん?別に毒とかが入っているわけではないんだろ?」

「マップを見ても問題ないですよね……?」


 料理に毒が入っている場合、アラートが上がるようにしているし、アルタだって教えてくれるだろう。

 しかし、念には念を入れて、屋敷の外で食事をする場合には、俺が食う前にマリアが毒見をすることになっている。……過保護。


「毒はありません。ですが、その……、仁様とさくら様の口には合わないと思います」

「不味いのか……?」

「不味いんですか……?」

「私としては食べられる範囲ですが、お世辞でも美味しいとは言えませんでした」


 マリアは奴隷として最下層の食事をしていたことがある。

 それから比べればマシなのだろうが、俺達に食わせたいものではないようだ。

 と言う訳で、テーブルの上にある肉を取って一口食ってみる。


「「あっ……」」


 さくらとマリアが声を上げた時には、既に肉は口の中である。もぐもぐごっくん。


 ……うん、不味い。

 味付けなどは一切なされていないし、焼き加減も適当のようで、生の部分と焦げた部分が両方含まれている。……食感が最悪だ。


「うん。止めておこう……」

「仁様、遅いです……」

「仁君、わかっていて何故……」


 正直な話、マリアにああ言われて気にならないわけがない。

 最終的に好奇心が勝ってしまったのだから、食べるしかないだろう。


「あー!もう駄目!我慢ならない!セラちゃん、それ食べないで貸して!」

「どうするんですの?この不味いお肉?」

「再調理するわ!せめて真っ当な料理にしてみせる!」


 マリアとそんな話をしていると、近くにいたミオが急に大きな声を上げた。

 どうやらミオはこの不味い肉の存在自体が許せないようだ。


 ミオは先ほど入手した『竜の宝短刀』を使って、身の大きい串焼肉から焦げた部分を斬り落とした。一応は皿の上に落としているが、もう食べるつもりはないのだろう。

 その後は<火魔法>で焼き加減が均等になるようにしつつ、<無限収納インベントリ>から取り出した調味料で味を調整している。

 最後に同じく取り出した特製のタレを小皿に垂らして終了だ。


「はい、出来たわよ。こっちのタレはお好みで付けてね」

「ありがとうございますわ。美味しいですわ」


 渡された直後に食べ始めたセラが感嘆の声を上げる。


「あ、俺も頼んでいいか?」

「きゅいー《こっちもおねがいー》」

「私もお願いします……」

「はいはーい、ちょーっと待ってねー。順番だからねー」


 そう言うとミオは残りのメンバーの分の串焼肉も再調理を始めた。

 そうして渡された串焼肉は、本当に同じ料理だったのかと問いたくなるほどに美味しくなっていた。

 何の魔物の肉かは知らないが、肉質自体は悪くなかったようで、味付けと焼き加減に気を付けるだけで全くの別物だった。


「美味しいです……」

「きゅううー!《美味しいよー!》」

「美味い。ミオ、ありがとうな」

「えへへー、どういたしまして。パーティの料理担当として、あんなお肉をご主人様達に食べさせるわけにはいかないからね!」


 えっへんと(ほぼない)胸を張ってミオが宣言する。

 しかし、すぐさまバツの悪そうな顔に変わった。


「でも、ちょっとやり過ぎちゃったかなー……」

「そうだな。これはちょっと……引くな」



 先ほどから俺たちの周囲には、関心はあるが話しかける勇気のない竜人種ドラゴニュートが集まっていた。

 竜人種ドラゴニュート達には料理の習慣がなく、美味しい物を食べた経験がない。

 不味い串焼肉を食べている時、自分たちの注目している方向から、凄まじく美味しそうな匂いがしたらどうなるだろうか?


 現在、俺達はミオの焼き直した串焼肉をガン見しながら、大量のヨダレを垂れ流しにしている100名程の竜人種ドラゴニュート達(全裸)に周囲を囲まれている。

 ……うん、全く落ち着かないね。


「ご主人様、この状況、どうしようか?串焼肉を配った方がいいのかな?」

「いや、この状況で配ってもキリがないだろう。ミオ1人じゃどう考えても無理だから、本気で配ろうと思ったらメイド部隊を呼び出さないといけなくなる。ミオがどうしても食文化ハザードを起こしたいというのなら、止めはしないけど……」


 希望者全員に料理を配るのは大変だろうが、メイド部隊と協力して事を運べば不可能ではない。

 そして、ここで上手い料理を食わせれば、食文化ハザードを起こすことは容易だろう。


「いやー、この状況で必死こいて料理配ってまで、食文化ハザードを起こしたいとは考えていないから……。ミオちゃんが考えていたのは、屋台で料理を出して徐々に拡散していくようなタイプだから……」

「意外と計画的です……」

「そうですわね。食文化ハザード自体は冗談ではなかったのですわね……」


 さくらとセラが若干呆れている。

 そうか、食文化ハザードは冗談ではなかったのか……。


「ミオがどうしてもと言わないのなら、この場は俺が預からせてもらうが構わないか?」

「もっちろんよ。で、ご主人様はどうしたいの?」

「まず、このまま無視して俺達だけ串焼肉を食べるのも有りだと考えている。何故ならば、彼らは1人として『串焼肉を下さい』とは言っていないからな」

「そう言えば……、見ているだけですね……」

「口には出していませんが、全身から物欲しそうな雰囲気を全開にしていますわ」


 『目は口程に物を言う』と言う諺があるが、全身で物を言うというのも中々に凄まじい。

 だが、欲しいとも言わず、物欲しそうな目をするだけで何かを得られるほど、世の中は甘くない。……少なくとも、俺は甘くない。


「いくら雰囲気を出されても、口で何かを言わない相手に施すような真似はしないぞ。……とは言え、完全な無視をしたのでは、現地の竜人種ドラゴニュートとの良好な関係に差し障り、明日の観光に悪影響を及ぼす可能性がある」

「基本的にご主人様の目線って観光者よね。もしくは旅人」


 はい、進堂仁。職業、高校生兼旅人兼ダンジョンマスターです。よろしく。


「ミオちゃんと私が買われたのも、仁様の旅をサポートするためですからね」

「そういえば、そうだったわね……」

「あれ?わたくしはどうでしたっけ……?」

「セラを買ったのに大した理由はないな」

「酷いですわ!?」


 ミオとマリアを買った時は、ミオの<料理>スキルが1番の目的だった。

 セラの時は<英雄の証>が目的であり、何かをさせる目的で買ったわけではない。

 強いて言うのなら戦闘要員だろうか?その時点でSランク冒険者を下す程度の力はあったが……。


「話を戻すが、普通の旅人は現地人相手に何かを施さなきゃいけない義理もないだろ?そう言った場合、大抵は『対価』が必要になる」

「ご主人様が『対価』っていう場合、大抵はレアスキルか魔法の道具マジックアイテムよね?でも魔法の道具マジックアイテムはさっき貰ったし……。スキル目的……?」

「ミオ、残念ながらハズレだ。正解は『肉を食いたければ、調教テイムされろ』だ」

「良好な関係はどこに行ったの!?」


 ミオからの熱いツッコミを頂戴した。


「『主人かいぬし』と『従魔ペット』って、概ね良好な関係だろ?」

「確かにそれはそうだけど……」

「言ってしまえば諦めさせる方便だよ。さすがにこれでテイムできるとは端から考えていないさ。無理な要求を突き付けて、自分から諦める方向に持って行くつもりなんだ。尤も、無視するのと無茶な条件を叩き付けるの、どちらがマシかと言われると微妙だけどな……」


 さすがにテイムされてまで肉を食いたいという竜人種ドラゴニュートはいないだろう。


「どちらにせよ、良好な関係は崩れそうね」

「そうだな。でも、どうせ崩れるならテイムのワンチャンがある方がマシだろ?」

「わかるような、わからないような理屈ね。だったら、最初から良好な関係が崩れない様な選択肢を選べばいいのに。……お肉、配る?」

「それだと、こちら側の譲歩が大きくなりすぎるから却下だな」


 こちらが下手に出なければ築けない『良好な関係』ならば不要だ。

 その場合、そんな場所を観光する価値はないので、気兼ねなく出て行くことが出来る。


「既に貰うものを貰った以上、最悪でも明日の観光を切り上げて出て行くだけだし、失うものは何もない。とりあえず、やるだけやってみるつもりだ」

「まあ、ご主人様がしたいって言うのなら、私は止めないけどね。どうせこの秘境には名物料理もないし、残りたい強い理由はないから……」

「私もですわ。名物料理のない土地に興味はありませんわ」


 ミオとセラも相変わらずだな。

 まあ、そのおかげで屋敷の料理レパートリーが充実しているので、文句はないのだが……。


「ドーラちゃんは、ここに一泊したいですか……?」

「きゅ、きゅきゅー《うーうん、ごしゅじんさまについていくー》」

「私も仁様について行きます。どこまでも、いつまでも……」


 満場一致で『最悪、出て行くことになっても構わない』となりました。

 『竜人種ドラゴニュートの秘境』、評価低いな……。


「そう言えばドーラ、俺が他の竜人種ドラゴニュートをテイムしても構わないのか?」


 気になったことをドーラに尋ねてみる。

 可能性は低いが、1人くらいテイムされたいと言う奴が出てくるかもしれない。

 もちろん、本気でテイムされるつもりがあるのならば歓迎する予定だ。


 しかし、もしもドーラが「他の竜人種ドラゴニュートをテイムしないで!」と言ったら、『串焼肉作戦』は中止で、周囲の竜人種ドラゴニュートに対しては無視を決め込むことになる。


「きゅー、きゅ?《べつにいいよー、だきまくらはドーラのままだよね?》」

「もちろんだ。ドーラが俺の抱き枕で1番のペットだ」

「きゅいー!《ならおっけー!》」


 ポジション争いがなければOKらしい。



 と言う訳で俺は、ミオが焼き直した串焼肉を数本持って竜人種ドラゴニュート達の方に近づいていった。もちろん、マリアは護衛としてついて来ている。

 俺が近づいていくと、竜人種ドラゴニュート達のヨダレは勢いを増した。

 目はこれでもかと言うくらいに見開かれており、俺の手の中にある串焼肉を見つめ続けている。


 俺が串焼肉を右に動かすと、竜人種ドラゴニュート達の顔が一斉に右に動く。

 ついでに左に動かすと、同じく一斉に左を向く。……なにこれ面白い。


 おっと、いつまでも遊んでいる場合じゃないな。

 俺は手に持った串焼肉を掲げて宣言する。


「焼き直した串焼肉が欲しければ、俺に忠誠を誓い、テイムされることを選べ!」


 当然のようにざわつく竜人種ドラゴニュート達。

 お互いに顔を見合わせて、「どうする?」とか、「うむむむ……」とか悩んでいる。

 ……って悩むのかよ!?即決で諦めろよ!


 しばらくすると、竜人種ドラゴニュートの集団の中から、ミカヅキが前に出てきた。


 奈落竜アビスドラゴンと戦闘をした竜人種ドラゴニュートの中で、皆の代表として族長と話をしていたミカヅキは、秘境の中でも結構上の立場だと推測できる。

 やっぱり、テイムなんて話を出したことを注意しに来たのかな?それとも問答無用で追い出されるのかな?

 残念ながら1人もテイムできなかったということか……。まあ、仕方がないね。


 と思ったらミカヅキは俺の前で跪いた。


「私ミカヅキは、貴方に忠誠を誓います。……串焼肉下さい」

「えー……」


 クールビューティかと思ったら、ただの腹ペコキャラでした。

 よく見たらミカヅキのヨダレ凄いわ。結構ボリュームのある胸がヨダレまみれだよ。


「わかった。じゃあテイムを受け入れろ」

「はい」


 俺はミカヅキに向けて調教テイム用の陣を放る。


>クレセントドラゴンをテイムしました。

>クレセントドラゴンに名前を付けてください。


 うん、何の抵抗もなくテイムされたな。

 本気で串焼肉が欲しいだけでテイムされる奴がいるとは驚きだ。


 一応、ステータスを見ておこう。


名前:ミカヅキ

LV73

性別:女

年齢:195

種族:竜人種ドラゴニュート三日月竜クレセントドラゴン

スキル:<竜魔法LV3><身体強化LV4><飛行LV4>


 やっぱり微妙だな……。


「じゃあ、約束通り串焼肉だ。食え」

「はい!」


 そう言ってミカヅキに串焼肉を手渡すと、ミカヅキはそれを凄まじい勢いで食い始めた。


「がつがつ!むしゃむしゃ!ゴクン!ぷはぁ……」

「どうだ、美味かったか?」

「はい。美味しかったです。……今まで生きてきた中で、1番の幸福です」


 1本の串焼肉を食い終わったミカヅキに尋ねると、幸福のあまり蕩けるような顔をしてそう返してきた。

 そして、ミカヅキの様子を見ていた竜人種ドラゴニュート達の我慢が限界を迎えた。


「お、俺もテイムを受け入れます!」

「わ、私もです!だから串焼肉を下さい!」

「わたしもくださーい」

「早く!早く串焼肉をくれ!」


 我慢の限界を迎えてしまった竜人種ドラゴニュート達は、次から次へと俺のテイムを受け入れようとする。

 ざっと見た限りだが、50人くらいはテイムを希望しているみたいだな。

 当然、俺の手の中には50本もの串焼肉は存在しない。


「ミオー、串焼肉追加ー!」

「はーい!もうやってまーす!」


 足りない分の串焼肉をミオに頼んで追加してもらう。

 先ほどよりも素早い手つきで数本分まとめて再調理している。


 俺は俺でテイム希望者にテイム用の陣をぶつける作業に追われていた。

 うーむ、ハーピィをテイムしたときも思ったのだが、対象が多いとテイムするのも面倒だよな。何とかならないものか……。


A:範囲指定調教テイムをお勧めいたします。


 何それ?


A:<魔物調教>のスキルレベル7になると使用できる能力で、テイム用の陣を地面に設置することが出来ます。その陣に入った状態でテイムを受け入れた場合、そのままテイムされます。陣は最大で10分程度効果を維持します。


 へー、そんなのがあるんだ……。うん、それ採用。

 すぐさま<魔物調教>の効果を発動して、地面にテイムの陣を展開する。


「テイム希望者はこの陣の中に入ってテイムされることを承諾しろ」


 テイム希望者たちはその言葉に従い、次々とテイムされていく。

 先ほどから、俺の頭の中には「>~をテイムしました。」「>~に名前を付けてください。」と言うアナウンスが流れ続けている。


 こうして、地面に設置した陣が消えるころには、串焼肉を食って幸せそうな顔をした53人の竜人種ドラゴニュートのテイムが完了していた。


ただ焼いただけのお肉は料理とは言いません。

植木鉢になったトマトはサラダとは言いません。

(ネタがわからない人は『至高のサラダ』で検索)

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
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