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第77話 奈落竜と竜殺者

話の中で明確な矛盾点がありますが、仕様です。

ヒント:本編出禁魔法

 さて、どうでもいい話(虫野郎とか)は置いておこう。

 攻撃されてしまった以上、このまますんなり帰ると言う訳にもいかなくなった。

 聞くべきことは聞いておかなければならない。


「族長、1つ聞きたいんだが、あのイケ……、アカツキとやらにはどういう処分が下るんだ?」


 危うくイケメン野郎と口に出しそうになったが、何とか軌道修正に成功した。

 ……ミオがニヤニヤ俺の方を見つめている。これは、多分バレているな……。


「うむ、お主達には悪いが、どんなに重くても数年の禁固刑がせいぜいじゃろうな……」

「つまり、殺すつもりはないと言う訳だな?」

「うむ……、さすがにそれは出来ん」


 族長はやや申し訳なさそうな顔をしている。


 本来だったら、殺す気で攻撃された以上は相手を殺すべきだとも思うが、それをすると円満に『竜人種ドラゴニュートの秘境』から出て行く、というのがご破算になりかねない。

 なにより、ドーラの故郷で同胞を殺すというのは、ドーラの教育上あまり見せたい光景ではないから、少し我慢をしようと思う(限界はあります)。

 だからこそ、マリアにも『攻撃された場合、死なない程度に反撃しろ』と指示をしていたのだ。


「いや、それを咎めるつもりはない。ただ、少し嫌な予感がするだけだ。あの男を生かしておいて、後悔しないと良いんだが……」


 正直な話、イケメン野郎と出会った瞬間から、なんとなく嫌な感じがしていたのだ。

 そして、俺の悪い予感は大抵の場合的中するから注意が必要である。


「ご主人様の悪い予感とか、恐怖でしかないんだけど……」

「そうですわね。……怖いですわね」

「ぐえっ」


 ミオとセラが恐怖によりお互いに抱き合う。

 セラが力加減を間違えたらしく、ミオが潰れる。


「さすがに、お主の嫌な予感だけで秘境の者を殺すわけにもいかんよ」


 当然と言えば当然だが、族長は首を横に振った。


「まあ、そりゃそうだな。別に殺せと言っているわけじゃない。一応伝えておこうと思っただけだよ。とりあえず、聞きたい事と伝えたい事はこれだけだから、今度こそ俺達は帰……」


A:マスター。敵襲です。


 族長に念のため忠告し、今度こそ帰ろうとしたところで、アルタからそんな報告が入った。

 敵襲?どこから?何が?


A:『竜人種ドラゴニュートの秘境』の外側、『竜の森』から結界内にドラゴンが入り込みました。


 結界の存在価値は!?

 おいおい、それを防ぐのが結界の役目だろう。何ドラゴン通しちゃってんの?

 サボり?サボりなのか?


 マップを見ると、『竜人種ドラゴニュートの秘境』内のかなり離れた場所に、1匹のドラゴンが入り込んできていた。


「どうかしたかのう?」


 急に話と動きを止めた俺に族長が質問してきた。

 ちなみにアルタとのやり取りは、思考の加速により1秒未満で終わっている。


「ああ、いや、何でもな……くはないか。言わないわけにもいかないよな」

「何のことじゃ?」

「今、この『竜人種ドラゴニュートの秘境』の結界をドラゴンが越えてきたみたいだ」

「な、なんじゃとおお!!!???」


 絶叫を上げる族長。うるさい。

 他の竜人種ドラゴニュートも恐慌状態になっている。


「ど、どこじゃ!?どこから入ってきおった!?」

「あっちだな」


 俺はマップに従って、北の方向を指さした。

 族長達は大急ぎで『竜の門』の遺跡を飛び出して空を確認した。

 まだかなりの距離があるのでかなり小さいが、確かにドラゴンが空を飛んでいる。


「ほ、本当じゃ……。いや、こうしてはおられん!急ぎ迎撃態勢をとれ!」

「「「おう!」」」


 族長の宣言に従い、竜人種ドラゴニュート達が散開する。

 数名の竜人種ドラゴニュートは竜化し、直接ドラゴンを討伐しに行ったようだ。

 そして、残りは避難指示や援軍の要請のため、竜人種ドラゴニュートが大勢いる区画へと向かって行った。



 この場には俺達6人(+こっそりタモさん)と族長だけが残ることになった。

 門番2人も今すぐ戦える戦力として、ドラゴン討伐に向かっている。


「全く、今日は酷く慌ただしいのう……」


 族長がため息をつきながら言う。

 はい。俺の行くところは、大体いつも慌ただしくなります。


「ドラゴンの侵入って、そんな頻繁にあることなのか?」

「そんな訳あるまい。年に数度じゃよ。そもそも、結界内へのドラゴン侵入はここ1000年くらいの話じゃ。それ以前は侵入などなかったのじゃからな。……結界が綻んでいるのかもしれんな」


 『竜人種ドラゴニュートの秘境』の直径は数100km以上ある(『竜の森』はもっと広いらしい)。

 これだけの広範囲を守護する大規模な結界だが、そんな代物でも経年劣化と言う奴は免れないようだ。

 まあ、規模は1000年レベルだけどな……。


《おっ!これは結界修復イベント来るかな?》

《いや、出てけと言われている状況でそれはないだろう》

《残念!》


 ミオが態々念話で冗談を言ってきた。

 まあ、壊れかけの結界と言えば、ゲームだったらイベントで修復されるか壊されるかの二択だけどな(修復:2割、破壊:8割くらい)。

 うわー、壊れそう……。


「……それより、お主はなんでそんなに詳しいんじゃ?『竜人種ドラゴニュートの秘境』に結界があるという話もしておらんはずじゃし、ドラゴンが侵入したことを誰よりも早く発見したこともそうじゃ。あまりにも、何もかもを知りすぎておる……」


 族長は俺のことを探るように見てくる。


「残念だが、さっきも言った通り『秘密』で『言えないこと』だな。おっと、戦闘が始まったみたいだな」

「むう……」


 族長のセリフを軽く流して、空中で始まったドラゴンVS竜人種ドラゴニュート10数人を観戦する。


奈落竜アビスドラゴン

LV100

<竜術LV6><闇属性耐性LV6><魔法耐性LV5><飛行LV6>

備考:闇属性のドラゴン。


 侵入してきた奈落竜アビスドラゴンのレベルは100で、虫野郎アカツキ以上、族長リョウマ以下と言ったところだ。

 奈落竜アビスドラゴンの全身はつや無しの黒い鱗に覆われており、全体的な形状は鋭角が多い。強そう。


 対する竜人種ドラゴニュート軍団の平均レベルは60~70であり、ステータスやスキルレベルも明らかに負けている。

 あの虫野郎アカツキ、『竜人種ドラゴニュートの秘境』の中ではレベル高めだったんだな。


 現在、空中ではある程度距離をとった状態で、ブレスの打ち合いが繰り広げられている。

 とは言え、竜人種ドラゴニュートのブレスは奈落竜アビスドラゴンにほとんどダメージを与えていないのに対し、奈落竜アビスドラゴンのブレスに当たった竜人種ドラゴニュートはそのまま地面へと落ちて行く。


竜人種ドラゴニュート側が随分と劣勢だな」

「そうですね……。あ、また1人落とされました……」

「人数の利を活かせていませんね。あれでは1対1を繰り返しているのと変わりません」

「ですわね。折角人数がいるのに勿体ないですわ」

「きゅー!きゅいー!きゅう!きゅい!《あー!よけてー!そこだー!いけー!》」

「何か軽くつまめるもの用意するわね。後は飲み物かしら……」


 完全に観戦モードに入りました。

 テーブルを取り出して、ミオの用意した飲み物とおつまみでのんびりとする。


「お、お主ら……、随分と余裕じゃな……」

「まあ、言っちゃ悪いが他人事だしな。さっさと帰れというのなら帰るが?」


 『竜人種ドラゴニュートの秘境』ですることは終わったので、帰れと言われても困ることはない。

 一応、侵入したドラゴンについて報告したのが俺だから、観戦させてもらっているだけだ。

 義理も恩も良い思い出もない土地に対する反応などこんなものである。


「……恥を承知で頼みたいことがある」

「何だ?」

「お主達の中に<回復魔法>を覚えている者や、ポーションなどのアイテムを持っておる者はおらんか?戦いの中で傷ついた者の回復をしたいんじゃ……」


 確かにそれは恥を承知しないと言えないよな。

 だって、ついさっきまで追い出そうとしていたんだから。


「隠れ住んでおる弊害で、秘境の中にあるポーションに余裕がないのじゃ。魔法による回復が出来る者もおらん。ブレスを受けて落ちた者の中には生きている者もおるじゃろう。出来れば彼らを助けてやりたい。そして、今その可能性が1番高いのが……」

「俺達に頼むということか」

「そうじゃ……」


 マップを検索してもポーション類はほとんどないし、<回復魔法>や類似するスキルを持つ者もいない。

 ブレスを受けた者の多くはまだ生きているが、このまま放置したら遠からず死ぬだろう。


「ポーションは大量に持っているし、俺達全員<回復魔法>が使える。奈落竜アビスドラゴン相手でも身を守るくらい余裕だ」

「本当か!?じゃったら」

「でも俺達には竜人種ドラゴニュートを助ける義理も借りもない。ドーラの件も話は終わっているし、何より追放される直前だったんだからな」

「……わかっておる。無償で、などとは言わん。何が望みじゃ……?」


 義理も借りもない相手にお願いを聞いてもらうというのなら、当然必要なものは対価だ。

 幸運にも対価になる物は今までの話の中で出ている。


「最初の方で族長の話に出ていた宝物が欲しいな。いくつか種類があるのなら、選ばせてほしい」

「……わかった。用意しておこう」


 しぶしぶと言った様子で頷く族長。

 ここで言った宝物というのは、ドーラを連れ帰ってきた褒美に渡そうとしていた宝物のことだ。

 褒美で渡せるレベルの品物らしいから、試しに狙ってみたら上手くいったようだ。

 ちなみに、俺は嘘つきに対しては全く容赦するつもりがないので、もし約束を反故にされた場合、『竜人種ドラゴニュートの秘境』を守る結界を壊す予定である。大惨事である。


「契約成立だな。じゃあ、早速行ってくるよ。とりあえず、回復が必要な奴を全員全回復させればいいか?」

「そうじゃな。そうしてくれると助かる……って、待つのじゃ!まさか歩いていくつもりか!?竜人種ドラゴニュートに送らせても良いのじゃぞ?」

「時間の無駄だよ。俺が飛んだ方が速い」

「きゅー、きゅい!《んー、えい!》」


 俺はすかさず不死者の翼ノスフェラトゥを広げ、さくら、マリア、ミオ、セラを掴む。

 ちなみにドーラは自前の羽で飛ぶために天使はねつき形態になった。かわいい。


「は!?」

「じゃあ、今度こそ行ってくる」

「はああああああ!?」


 驚愕する族長を無視して、傷ついた竜人種ドラゴニュート達の元へと飛んでいく。

 奈落竜アビスドラゴンに気付かれないように、かなりの低空飛行をしないとな……。



 気配を消して低空飛行することで、奈落竜アビスドラゴンに全く気付かれることなく、無事に目標地点にまで到着した。


「この辺りだな。すでに結構な数の竜人種ドラゴニュートがやられているみたいだな……」

「そうですね。増援も来ていますが、あまり役には立っていない様です」


 上空を見上げると、奈落竜アビスドラゴンVS竜人種ドラゴニュートは、まだまだ継続中のようだ。

 竜人種ドラゴニュートの方は、さっきよりも数が多くなっているので、恐らく増援が到着したのだろう。

 とは言え、マリアの言う通り戦況はそれほど変わってはいない。多少、奈落竜アビスドラゴンの身体にも傷が見えてきたくらいか……。

 当然、ブレスにやられて落ちてくる竜人種ドラゴニュートも増え続けている。


「まだまだ追加で落ちてくるっぽいし、さっさと回復しちゃいましょ」

「そうですわね」


 いつまでも観戦しているわけにもいかないよな。


「よし、じゃあ各自手分けをして<回復魔法>をかけるぞ!」

「「「「はい」」」」

《はーい!》


 俺の号令と共に散開して、竜人種ドラゴニュート達を回復していく。

 <回復魔法>の中には、広範囲の『エリアヒール』、そこに高回復力を加えた『エリアハイヒール』という魔法があるが、エフェクトが派手で目立つので、『ヒール』、『ハイヒール』などを個別にかけていくことにした。


 奈落竜アビスドラゴンのブレスには毒の効果があるようで(見た目も黒いブレス)、倒れている竜人種ドラゴニュートのHPはガリガリ減っているところだった。

 ブレスの毒性はかなり強いらしく、意識を保っている竜人種ドラゴニュートが全くいなかったので、欠損回復のために『リバイブ』なども惜しみなく使った。

 その甲斐もあり、瞬く間に墜落した全ての竜人種ドラゴニュートが完全回復したのだった。まあ、まだ全員気絶しているが……。


「でも、まだ落ちてくるんだよなー……」

「まだ戦闘中ですから仕方ないと思います。仁様がお望みでしたら、私があのドラゴンを討伐いたしましょうか?」


 回復するペースの方が墜落するペースを越えたので、余裕が出来た俺達は話をしながら墜落先へ移動している。

 ちなみに2人1組で俺とマリア、さくらとドーラ、ミオとセラの組み合わせだ。


「その必要はない。俺達の仕事はあくまでも回復だ。侵入者と戦うのは竜人種ドラゴニュートの仕事だからな。俺達が奪う訳にもいかないだろう」

「はい。わかりました」


 もちろん、竜人種ドラゴニュート側が全滅でもしたら話は別だろうけどな。

 追い出されたとはいえ、ドーラの故郷がボロボロになるところは見せたくないし(約束を反故にされた場合、俺がボロボロにするけど)、下手をすると対価も貰えなくなるから……。


 まあ、まだまだ戦力はあるみたいだし、最大戦力であるだろう族長も残っているのだから、竜人種ドラゴニュート側が負けることはないだろう。

 その証拠と言う訳ではないが、マップ上には新たな竜人種ドラゴニュートの援軍が現れている。


「お、新しい援軍が来たみたい……って、あれ虫野郎か!」


 新しい援軍の名前はアカツキ。ご存知イケメン野郎だ。

 貴重な戦力だから、禁固刑どころではないということだろう。


 空の方を見ると、日の光を受けて黄金に輝く目に悪いドラゴンが、奈落竜アビスドラゴンとの戦いに参加していた。

 いや、しかし本当に目に悪いな。日差しの強い屋外で見るものじゃねえよ。金色の鱗剥いでやろうか……。


 ……などと考えていたら、黄金竜アカツキ奈落竜アビスドラゴンのブレスを受けて墜落していった。


「墜落したな」

「墜落しましたね」


 まさかの瞬殺である。

 一応、竜人種ドラゴニュート軍団の中では結構な高レベルだったはずなのだが……。


「気は乗らんが、族長との約束だ。回復しに行くぞ」

「はい」


 3組に分かれた時、それぞれの担当個所を決めた。

 虫野郎が落ちたのは、残念なことに俺達の担当個所だったのだ。



 と言う訳で、虫野郎の墜落現場に到着しました。


「ぐはっ!ぐぐぐ……、クソッ!」


 あっさりブレスを食らって墜落したくせに、身体だけは頑丈なようだ。

 他の竜人種ドラゴニュートと違って、完全に意識を保った状態で悪態をついている。


 ん?そう言えば、虫野郎って竜形態なのに人間の言葉を喋っているな?

 人間形態じゃなくても、人間の言葉って喋れるのか?


A:はい。以前竜人種ドラゴニュートは人間の言葉を喋れるか、という質問をされたとき、『10歳くらいから喋れる』と答えました。


 ああ、ドーラをテイムしたときの話だな。


A:正確には『10歳くらいからは人間形態でも竜形態でも、人間の言語と竜の言語を両方使えるようになる』となります。それまではどちらの形態でも竜の言語しか使えません。


 なるほど、少し勘違いしていたな。人間の言語は人間形態だけで使えると思っていたよ。

 そう言えば、人間形態で竜の言語を使えるみたいだから(ドーラもきゅいきゅい言っているし)、逆があってもおかしくはないよな。


 竜人種ドラゴニュートも、中々に謎生態な種族だよな。


 閑話休題。


 さて、全く気は乗らないが(2回目)、目の前の虫野郎の回復をしてやるとするか(上から目線)。


「よお、元気か?」


 俺は虫野郎に対し、出来る限りフランクに話しかけてみた。


「き、貴様!侵入者の人間!何故ここに!?」


 しかし、虫野郎は俺のことを、親の仇でも見るような目で睨み付けてきた。

 当然のようにマリアが剣に手をかけたのでそれを制す。


「族長との契約で、墜落した竜人種ドラゴニュートに<回復魔法>をかけて回っているんだよ。文句があるなら族長に言いな。で、<回復魔法>をかけて欲しいか?」


 あえて挑発的に言ってみる。


「ふ、ふざけるな!誰が人間風情にそんなことを頼むか!」

「あっそ、じゃあ、俺達は次の竜人種ドラゴニュートを回復に行くから」

「な!?おい、ちょっと待て……」


 意識がしっかりあって、本人が望まないというのなら、<回復魔法>をかけないのも仕方がないよね?

 喚く虫野郎を無視し、また増え始めた墜落者の回復へと向かう。


 それから15分程で、空中で戦っていた竜人種ドラゴニュートは全滅した。



 竜人種ドラゴニュートの全滅より遡ること5分。


「……と言う訳で、怪我をした竜人種ドラゴニュートは、アカツキ以外全員回復させている。ただ、アカツキ以外は気絶したままだから、戦闘への復帰はしばらくは無理だな」

「……アカツキの阿呆め。下らぬこだわりを捨てればよいものを……」


 俺とマリアは族長の元に、経過の報告にやってきていた。


「さすがに、意識があって回復を拒否した奴に<回復魔法>はかけないぞ。約束は『回復が必要な奴に<回復魔法>をかける』だからな」

「むう……。仕方あるまい……」


 本人が<回復魔法>を不要と言ったのなら、『回復が必要な奴』には含まれなくなる。

 回復させる条件が『怪我をした奴』とかだったら話は違ったんだけどね。


「しかし、狙いすましたかのような条件じゃな」

「まあ、狙ったからな」

「……」


 族長が苦虫を噛み潰したような表情をする。

 態々言い回しに気を使い、<回復魔法>を使わなくていい条件ワナが残るようにしたのだ。不快な思いをしてまで回復なんてしたくないからな。

 別に虫野郎アカツキを狙い撃ちにするつもりはなかったが、丁度良く虫野郎アカツキが引っ掛かったので、内心ガッツポーズである。


「そんなことより、族長に1つ聞きたいんだが、年に数回はドラゴンが結界内に侵入してくるんだよな?その度にこんなに苦戦して、被害を出しているのか?」

「そんな訳ないじゃろう。あのクラスのドラゴンが侵入してくるのは500年に1度くらいじゃよ。数年前に来たから、もうしばらくは来んと思っておったのにな……」

「その時はどうやって撃退したんだ?」


 普通に考えれば、その時と同じことをすればいいのだろう。


「秘境の中でも特に力のある者が、命がけで討伐したんじゃよ。シラユキの両親もその時の戦いで命を落としたのじゃ……」

「あー、やっぱりドーラの両親はいないのか……」


 秘境の中をマップで検索したのだが、族長とドーラ以外に皇帝、皇女に類する称号を持った竜人種ドラゴニュートがいなかったので、薄々そうじゃないかと思っていたのだ。

 ドーラが『竜人種ドラゴニュートの秘境』に関心を持っていないのも、その辺りに理由があるのではないだろうか?


「2人は優秀な戦士じゃったのだがな……。シラユキの両親に限らず、過去2度の襲撃で秘境の戦力はほとんど残っておらん」

「つまり、今回は過去の再現ができないのか……。そう言えば、族長は戦わないのか?もうじき竜人種ドラゴニュート側が全滅しそうだけど?」


 いつの間にか竜人種ドラゴニュート側の増援も尽き、全滅のカウントダウンが近づいて来ていた。

 そろそろ最大戦力きりふだを切るときではないだろうか?


「ワシは戦えんよ……。戦う訳にはいかんのじゃ……」

「へえ……」


 俺の質問に対し、族長は首を横に振った。

 戦闘能力があるのに戦えないということは、当然何か理由があるんだろうな。


「じゃあ、もう手はないのか?」

「一応、なくはないがの……。じゃが、それには竜人種ドラゴニュートを生贄に捧げねばならぬ……」


 竜人種ドラゴニュートの生贄?何のことだ?


A:『竜人種ドラゴニュートの秘境』内にある兵器です。竜人種ドラゴニュートを犠牲にすることで、高レベルの<竜魔法>に相当する攻撃が出来ます。


 うわぁ……。そんなモノがあるのかよ。まさしく最後の手段って感じだな。

 と言うか、この世界にも兵器ってあるんだな。


A:正確には魔法の道具マジックアイテムに属しますが、機能的に兵器と呼んで差し支えないでしょう。


 族長は唸りながら考え込んでいる。

 このまま族長を放っておいたら、最後の手段である兵器の使用に踏み出しそうだな。


「結局、族長は竜人種ドラゴニュートを犠牲にする魔法の道具マジックアイテムを使うのか?」

「お主、本当に色々と知りすぎておるの……。同胞を犠牲にする魔法の道具マジックアイテムなぞ、出来れば使いたくはない。じゃが、このままでは全滅なので、使わんわけにもいかんじゃろう。もとより、こうなった時のために生贄になる竜人種ドラゴニュートが決まっておるのだからな……。初代の頃から悪習と知りつつも続けられておった『人柱』、まさか本当に使う日が来るとはな……」


 いざというとき、犠牲になる者があらかじめ決まっているということだろう。

 確かに必要かもしれないが、あまり気分の良い話ではないな。……台無しにしてやりたくなる。


「なあ、族長さん。報酬の宝物、大幅に増やすつもりはないか?」

「……は?」


 言っていることの意味が分からなかったようで、族長が呆けた顔をしている。

 ボケるのはまだ早いぞ。……って、ボケててもおかしくない年齢だったわ。


「報酬さえ貰えるのなら、俺達があの奈落竜アビスドラゴンを討伐してもいいって言っているんだ」

「な、なんじゃと!?お主達、あのドラゴンを倒せるというのか!?」


 『竜人種の秘境』に来ているメンバーなら全員(タモさん含む)、単独で奈落竜アビスドラゴンを討伐出来ると思う。


「ああ、問題ない。本当は竜人種ドラゴニュートだけで倒すべきだと思っていたんだが、そんな兵器を使わなきゃ倒せないっていうのなら、代わりに俺達が倒しても問題ないだろ?もちろん、危険が伴うのだから、報酬は多めに貰うけどな」

「……お主がそういうのなら是非もあるまい。宝物とは言え、同胞の命には代えられん。お主達が見事ドラゴンを討伐した暁には、追加で宝物を渡すことを約束しよう」

「契約成立だな。戦っている竜人種ドラゴニュートも全滅したから、丁度いいだろう」

「……頼む」


 見れば最後の竜人種ドラゴニュートが、奈落竜アビスドラゴンのブレスを受けて墜落をしているところだった。

 竜人種ドラゴニュートの軍団を全滅させた奈落竜アビスドラゴンは、多少傷ついてはいるが、まだまだ余裕があるようだった。


 さあ、いよいよ強敵、奈落竜アビスドラゴンとの戦いが始まる。



奈落竜アビスドラゴンを倒したい人挙手ー!》


 この扱いである。


《《《はーい》》》


 念話で確認をしたら、ドーラ、ミオ、セラの3人が奈落竜アビスドラゴン討伐に意欲を示した。

 さくらは戦闘に対しては意欲がないし、マリアは俺の護衛を優先するからな。


《じゃあ、じゃんけんで勝った人が戦ってくれ》

《《《じゃーんけーん……》》》


 じゃんけんの結果、奈落竜アビスドラゴンと戦闘する権利はミオのモノになりました。


《勝ったー!うんうん、ファンタジーの王道と言ったら、ドラゴン退治よね!これでミオちゃんも竜殺しドラゴンスレイヤーよ!》

《無念ですわ》

《ドラゴンたおしたかったー……》

《そう言えばミオ、火竜フレイムドラゴンを倒したのは竜殺しドラゴンスレイヤーに含まないのか?》


 単純にドラゴンを殺したという意味なら、火竜フレイムドラゴンを迷宮内で倒している。

 ついでに言えば、シンシア達迷宮組も、ティラミス達傭兵組も火竜フレイムドラゴンを倒しているから、竜殺しドラゴンスレイヤーである。

 ……火竜フレイムドラゴンが倒され過ぎである。


《アレは迷宮のボスだから別の扱いね。倒したら消えちゃうし……。それに竜殺しドラゴンスレイヤーが倒すべきドラゴンと言えば、人里離れた山奥にいる奴か、街や村を襲っているドラゴンのどちらかだからね》


 ミオの言いたいこともわかる気がするな。

 人に仇なすドラゴンや、山奥に昔からいるような伝説のドラゴンを倒してこその竜殺しドラゴンスレイヤーということか。

 今回は前者の人に仇なすドラゴンと言うことだな。竜人種ドラゴニュート、魔物扱いだけど……。


《じゃあ、さっさと殺っちゃうね。えいっ!》


 次の瞬間、飛行中の奈落竜アビスドラゴンに物干し竿ほどの大きさの矢が10本突き刺さった。

 ミオの星弓・ミーティアによる射撃だな。

 そう言えば、ミオとドーラはともかく、セラはどうやって奈落竜アビスドラゴンを倒すつもりだったのだろう?セラ、空飛べないし、遠距離攻撃もないし……。槍投げ?


 あっさりと奈落竜アビスドラゴンは絶命し、そのまま墜落していく。

 手ごわい相手だったぜ(棒)。


《ご主人様、終わったよー》

《おう、お疲れさま。回復も終わったみたいだし、皆もこっちに戻ってきてくれ》

《はーい》×4


 落ちて行った奈落竜アビスドラゴンは、誰かが<無限収納インベントリ>に入れてくれたようだ。

 奈落竜アビスドラゴンの死骸って何か使い道があるのか?


A:あります。武器防具、薬品の素材になります。食用には適しません。


 あー、うん。さすがの俺も真っ黒なドラゴンを食べようとは思わないな。むしろ、食用に適したドラゴンがいるのなら聞きたいよ。


A:フェザードラゴンです。肉量は少ないですが、柔らかく最高級の美味とされています。


 ……………………聞かなかったことにしよう。


 族長の方を見ると、口をあんぐりと開けて絶句していた。


「見てのとおり、俺の仲間が奈落竜アビスドラゴンを討伐した。ちゃんと約束は守ってくれよ?」


 俺を敵に回したいというのなら、約束を破ってもいいけどな。


「……わかっておる。約束は守る。……しかし、お主らは本当にとんでもないのう。あのクラスのドラゴンをいとも簡単に倒してしまうとは……」

「ドーラでもあのドラゴンは倒せたと思うぞ。今回倒したのはミオだな。ドーラを除いたら最年少の子だ」

「本当に……何も言えんわい……」


 族長は驚きながら苦笑してそう言った。



「ただいま戻りました……」

「きゅーい《かえったよー》」

「ただいまー」

「ですわ」


 それからしばらくして、竜人種ドラゴニュートの回復を終わらせたさくら、ドーラ、ミオ、セラが戻って来た。


「おう、お疲れさま。特にミオは奈落竜アビスドラゴン討伐ご苦労様」

「えへへー。これでミオちゃんも竜殺しドラゴンスレイヤーね。異世界に来たらやってみたいことベスト30がまた1つ埋まったわー」


 やってみたいこと、結構多いな……。もしかして、あれもそうだったのかな?


「マヨ……」

「止めて!?ご主人様、何で態々それを引き合いに出すの!?」

「ご主人様、ミオさんをイジるの大好きですわよね……」

「まあ、有体に言って大好きだな」


 ミオは弄り甲斐のある子だからな。


「仁様と気安いやり取りをする……。ミオちゃんが羨ましい気もしますけど、私にあの役割は無理ですね……」

「マリアちゃん……。そこは真剣に考えるところじゃないと思いますよ……?」

「マリアちゃんでもさくら様でもいいから、代われるのなら代わってほしいよー……」


 ミオがマリアとさくらに泣きついている。


「きゅきゅ、きゅー?《ミオー、ごしゅじんさまとお話しするのきらいー?》」

「嫌いじゃないけど!出来ればトラウママヨは止めてー……」

「考えておく」

「断言してー……」


 断言は、しません。


 話をしてミオをイジっていると、族長が近づいてきた。


「うーむ、本当にこの娘っ子があのドラゴンを倒したというのか……。嘘をつく理由もないじゃろうが、にわかには信じられんのう……」

「む、本当よ!この弓でぶすぶす矢を刺してやったわ!えい!」


 そう言うとミオは星弓・ミーティアを引き絞り、適当な岩に向けて放った。

 当然、岩には物干し竿サイズの矢が突き刺さる。突き抜ける。


「む、むう。本当の様じゃな……。疑って悪かったのう」

「別にいいわ。この見た目に説得力がないのは知っているから」


 この幼女が奈落竜アビスドラゴンを倒したと聞いて、いきなり信じられる奴は、相当にファンタスティックな脳ミソをしているのだろう。


「そう言えば族長。俺達はこの後どう動けばいいんだ?お宝貰ってバイバイすればいいのか?竜人種ドラゴニュート奈落竜アビスドラゴンを倒したことにしたいなら、こっそり出て行こうか?でも、アカツキの手柄にするのだけは許さないぞ」


 『竜人種ドラゴニュートの秘境』としては、竜人種ドラゴニュートが侵入者を倒したことにする方が、都合が良いのは間違いないだろう。

 言った通り、役立たずの虫野郎アカツキの手柄にすることだけは許さないが……。


「それは少々、ワシらのことを見くびり過ぎではないか?」


 族長は若干不機嫌そうな顔をして言った。


「お主らを侵入者として追い出そうとした以上、あまり偉そうなことは言えん……。それでも秘境の恩人に対して、『こっそり出て行け』やあまつさえ『手柄を寄越せ』などと言う程、恥知らずではないわい」

「俺らは別に構わないんだけどな……。話を持ち掛けた段階で覚悟の上だったし……」


 『竜人種ドラゴニュートの部隊が全滅して、余所者が侵入者を倒しました』と言うのは、中々に外聞が悪いと思う。

 最初から宝物さえ貰えれば、こっそり出て行くつもりだったのだ。


「そう言う訳にもいかん。掟の中にも『恩には報いよ』と言うモノがあるからのう。シラユキの件は別にしても、宝物を渡すだけではすまん……。歓待のため、特例として秘境に一泊することを許そうと思う」

「いいのか?掟的に?」

「構わん。それに今度は誰にも文句は言わせん」

「そうか、じゃあありがたく一泊させてもらうよ」


 思いがけず、『竜人種ドラゴニュートの秘境』に滞在する許可を貰えた。

 まあ、見てみたかったのは事実だし、丁度いいから1日だけでも観光させてもらうとするかな。



*************************************************************


裏伝


*本編の裏話、こぼれ話。


奈落竜アビスドラゴン

 奈落竜アビスドラゴンとは、闇属性、上位竜種のドラゴンであり、毒、腐敗などの状態異常を起こすブレスを放ってくる。

 上位竜種の中でもかなり強い部類で、大抵の街は簡単に滅ぶレベルである。

 具体的に言うと、カスタール女王国王都クインダムも半壊する。……訂正、女王サクヤが仁に泣きつくので、瞬殺されて半壊はしない。

 今回、ミオにあっさり殺されてしまったが、並大抵の冒険者では傷1つ付けることが出来ない程に硬い鱗に覆われている。武器に加工したら、相当な値が付くのは間違いない。

 しかし、仁は躊躇なくタモさんに食わせる(半分ヤケ)。


ルビが必要な個所にはすべてルビを付けています。見難かったら、1話に1回最初だけルビを付けるとかも考えます。

奈落竜のビジュアルイメージは真紅眼○黒竜です。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[気になる点] 基本的に凄く面白いですが 幼女が多すぎて萎える時がある(´・ω・)
[一言] タモさん強化期間
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