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第74話 盗賊勇者と迎撃

短編との2話同時投稿です。

 盗賊と言うのは、洞窟をアジトにするというルールでもあるのだろうか?

 佐野がリーダーをやっている盗賊団も、例に漏れず洞窟に拠点を構えていた。

 洞窟はそれなりに入り組んでおり、その中で特に広い空洞に盗賊団達は集まっていた。


「フヒヒ、楽しみだな。もうしばらくすれば、沢山の餓死死体が見られるんだ」


 佐野は気持ちの悪い笑みを浮かべながら悦に浸っている。

 盗賊団と言いながら、佐野の周りにいるのはそれなりに立派な装備をした冒険者風の男達だった。

 当の佐野本人も冒険者のような、ただしそこらの冒険者よりもはるかに良い装備を付けている。


「お頭、やっぱり村娘達は犯しましょう?折角の女を使いもしないで餓死させるなんてもったいないですよ」

「そうッスよ。こっちに数人攫って来るべきッスよ」

「ヤダよ!1つの村で全員同じ死因っていうのが面白いんじゃないか!キレイに全員餓死させるために色々と手を打っているのに、僕の計画を台無しにする気か!」


 下っ端達が、佐野に進言するが、それを佐野は一蹴する。

 村人の被害がやけに少ないのは、佐野の意味の分からない美意識のおかげらしい。


「折角異世界に来て自由に振る舞えるようになったんだ!出来るだけ色んな殺し方を楽しまなきゃ損じゃないか!」

「す、すいません……」

「も、申し訳ないッス……」


 佐野の剣幕に怯えた下っ端達は前言を取り下げる。

 しかし、佐野の話はまだ続いていた。


「勇者っていいよな!自由に振る舞えるし、勇者支援国からは様々な支援を受けられる!人を殺しても適当な理由を付ければ正当な対応に出来る!盗賊団のお頭なんてやってもバレやしない!」

「へ、へえ、お頭には助けられました。お頭がいなけりゃ俺達は捕まって処刑されるところでしたから」

「そッスね。オイラ達にも勇者の従者として、こんないい装備が貰えるんッスから、勇者様様ッスよ」

「フヒヒ、そうだろう!もっと僕を褒めろ!」


 どうやら、佐野の奴は『盗賊団のお頭』と『勇者』の二足の草鞋を履いているらしい。

 良くバレないな……。


A:基本的に皆殺しなのでしょう。最悪、勇者を嵌めようとした事にして、逆に断罪するという手を使うようです。


 ……。


「さあて、この村の『餓死』を楽しんだら、次は隣の村に行こう。今度はどんな死に方、殺し方を楽しもうかな。まずは見かけることが滅多にない『圧殺』がいいかな。『毒殺』、『刺殺』、『撲殺』はもう十分楽しんだからしばらくはいいや。あ、『溺死』も面白いかも、桶に一人ずつ顔を突っ込ませて、もがき苦しむところを見てみたい!村人全員が謎の溺死をした村!フヒヒ、なんて面白そうなんだ!」

「……」


 さすがの下っ端達もドン引きである。

 うーむ、佐野の奴、完全にぶっ壊れているな。元からあんな奴だったのかな?

 ……まあ、どうでもいいか、佐野の本質なんて興味もないし。


「でも、良いんッスか?この国は勇者支援国じゃないから、もし万が一バレた時……」

「ああ、大丈夫だ。この国は王都さえ無事なら他の街や村はどうでもいいって国だからな。王都近くの村ですら滅んだところで何とも思わないさ!」

「さすがお頭、物知りッス!」

「そうだろう、そうだろう」


 佐野は下っ端にヨイショされて、機嫌を良くして頷いている。


「……それにお頭の力があれば、勇者以外の相手に負けることなんかないさ」

「そうッスね。この間、国境を越えた時の警備兵の顔、笑ったッスねー。動きが鈍い鈍い!」


 ここで、佐野の祝福ギフトについて説明しよう。


疎外領域クローズドサークル+3>

半径13(10+3)m以内の空間にいる味方以外の能力を低下させる。


 佐野の祝福ギフトである<疎外領域クローズドサークル>は、簡単に言えば、阻害デバフ系のスキルだ。

 その効果は範囲内の『敵のみ』を弱体化するというものだ。

 スキルレベルは下がらず、単純にステータスのみが低下する。


 効果範囲が13mと、やけに中途半端なのには当然理由がある。

 それは佐野の祝福ギフトが<疎外領域クローズドサークル+3>だからである。

 大切なのは『+3』の部分だ。この値の分だけ射程距離が伸びているのだろう。


 祝福ギフトにはスキルレベルはない。

 では、どうやって祝福ギフトに『+3』を与えたのか?

 ……もちろん、祝福の残骸ガベージを回収したに決まっている。


 勇者が死ぬと、祝福の残骸ガベージが現れる。

 『異界の勇者』が祝福の残骸ガベージを回収すれば、ステータスと祝福ギフトが強化されるという仕組みだ。

 つまり、佐野は故意か偶然かは知らないが、『異界の勇者』の死に立ち会ったことになる。

 それを証明するかのように、佐野のステータスは明らかに日下部よりも高い。


「おい、何勝手なこと言ってんだよ」

「ぐっ!?」

「お、お頭?どうしたんッスか?いきなり何を……?」


 そこで佐野は話をしていた内の1人の首を掴む。

 今までと打って変わって随分と不機嫌そうな顔をしている。


「『勇者以外の相手には負けない』だって?ふざけるな!僕は既に他の勇者よりも強い!勇者が相手だって負けやしないさ!」

「す、すみま……」

「既に僕は3人もの勇者を殺しているんだぞ。僕の素行を煩く注意してきた田辺も、いつかモノにしてやろうと思っていたのに勝手に男と付き合い始めたビッチの森本も、教師のくせに僕が困っているのを無視をした川崎も、みんな僕が殺してやったんだ!」


 うわぁ……。

 あっさりと『+3』の理由が明らかになっちゃったよ。


 佐野と俺は同じクラスなので、殺された3人のことは俺も知っている。


 田辺は俺のクラスの風紀委員だ。

 眼鏡をかけており、真面目が人の形をしたような男だった。

 態度の悪い佐野に対しては、結構な頻度で注意をしていた。

 もちろん、それで佐野が反省することもなく、話が終わったら田辺に見えない位置で舌打ちをしていたのを見たことがある。


 森本はクラス1の美少女と言われていた女子だ。

 密かに思いを寄せていた男子は数知れず。……佐野もその1人だったということだろう。

 実はあまり性格良くないんだけど、全力で猫被っているから気付いている奴は少ない。

 元の世界では誰かと付き合っているという噂など聞いていないので、もしかしたらこちらに来てからの話だろうか?


 川崎はクラスの担任だ。

 典型的な我関せずの教師で、生徒同士のトラブルには一切口を出さない。

 生徒から相談を受けても、テンプレ的な回答で適当に聞き流しているような男だったから、生徒からの信頼はなかった。


「最初聞いたときは耳を疑ったけど、本当に勇者を殺せば殺すほど強くなれるみたいだし、あの学校のクソどもを殺しながら強くなれるんなら、こんな楽しいことはないね!」

「ご、ごめ……」


 喋りながらも下っ端の喉を絞め続ける。

 下っ端の男が謝罪を口にしようとしているが、一切取り合わない。


「お、お頭、もうその辺で……」

「忠実な部下だからお前達を使っているというのに、僕を不快にさせる言動をするような奴はいらない!死ね!」


-ゴキッ-


 首の骨が折れる音とともに、下っ端の1人は崩れ落ちた。

 <疎外領域クローズドサークル>の味方判定から外され、能力の落ちていた下っ端はあっさりと死んだ。


「お、お頭……」


 話をしていた以外の下っ端達も、突然の凶行に言葉を失っている。


「クソッ、折角いい気分だったのに、台無しにされたよ!……なんだその目は?文句があるのか!」

「い、いえ。ないッス……」

「ああ、お前、そこの死体を片付けておけ。目障りだからな」

「は、はいッス!」

「あーあ、初めての『絞殺』がこんな奴だなんて……。損した……」


 そこで一旦映像がブラックアウトする。



 所変わってここは佐野に襲われた村のはずれだ。

 馬車の近くにテントを張り、そこで発動した『ルーム』の中にいる。


「これが『盗賊勇者』佐野の人物像キャラクターだ。友人と思われたいか?」

「無理ですわ。こんなのと知り合いと思われることですら嫌ですわ」

「そうよねー。いくら何でもコレはないわよねー」


 俺の質問に、セラとミオが否定の声を上げる。


「ほ、本当にこんな人間が同じ学校に通っていたんですか……?そのことの方が驚きなんですけど……」

「残念ながら事実だ。向こうでは、さすがにここまで酷くはなかったと思うが、概ね方向性は変わっていない」


 さくらが信じられないものを見たような顔をしている。……当然か。

 しかし、今の佐野を見て、状況が状況ならこうなっていてもおかしくないと思える程度には佐野のままだった。


「マリアはどう思った?」

「はい。いくら盗賊とは言え、部下を自ら殺すなんて信じられないです」

「そうですわね。ご主人様は時々無体なことをされますが、本格的に傷つけるような真似はなさいませんから……」

「ご主人様の奴隷で良かったわ、本当に」


 マリア、セラ、ミオの奴隷組がしみじみ呟く。

 配下を弄るのは好きだが、甚振るのは好きじゃない。

 まあ、弄るのも度を超すとイジメになったりするから、その辺りは熟練の技だな。


 奴隷組には御者としてついて来ているアーシャも含まれるが、彼女は現在魔物をテイムしに行っているので別行動中だ。

 もう1つ言うと、ドーラは既に寝ている。9時を回っているので、良い子は寝る時間だ。


《zzz……》


 ちなみに幼女形態で俺の膝の上だ。


「仁君は配下には優しいですからね……。私も早いうちに配下になって良かったです……」

《むにゃむにゃ、ドーラがはじめのはいかー……》

「そうですね……。初めにドーラちゃんで、その次が私ですね……」


 ドーラがあまりにもタイミングよく寝言を言って、さくらが苦笑しながらドーラの頭を撫でる。



「それにしても、意外とバレないのですわね……」

「ああ、タモさんのことだよな。さすが、魔物軍団最強の男だ」

「タモさんの性別、不定ですわよね……」


 セラがすかさず訂正してくる。


「さすが、魔物軍団最強の性別不定だ」

「意味わかりませんわ」

「俺もだ」


 そもそも、先ほどの映像と言うのは、佐野の盗賊団のアジトに潜入したタモさんと感覚を共有することで見ることが出来たのだ。

 ……まあ、スライムと感覚を共有と言うのも、不思議な話なのだが(目と耳がない)。


 ミオ達が村人に料理を振る舞っている間、業務用タモさんに対し佐野のアジトに潜入するように指示をしたのだ。

 具体的には、俺がタモさんを全力で投擲し、空中で鳥に<擬態>しつつアジトまで移動。

 到着後はこっそり背景に色を合わせた状態で進み、天井に張り付いて様子を覗っている。

 ……タモさんマジ便利。


「ねえ、ご主人様……」

「なんだ、ミオ?」

「このままタモさんに暗殺させれば、話はすごく簡単に終わるわよね?」

「まあな……」


 何と言っても、今現在タモさんは気付かれることなく佐野達の頭上にいるのだ。

 もちろん、佐野の<疎外領域クローズドサークル>の効果範囲内にいる以上、ステータスの減少は存在する。

 しかし、そんなものが気にならない程度には、タモさんと佐野達のステータスには大きな差が存在する。

 その気になれば瞬殺だろう。


「確かに、それも考えたんだが……」

「考えたことは考えたんですね……」

「やっぱり、仁様とミオちゃんの思考が似ていて、羨ましいです」

「マリアさん、なんか怖いですわよ……」


 とりあえず、裏技的な攻略法を考えるのは嫌いじゃないからな。

 もちろん、実行するしないは別として。


「考えはしたんだが、今回は村で迎撃する方を選びたいんだ」

「態々、盗賊勇者が来るのを待つんですの?ミオさんではありませんが、こちらから攻めた方が早いのではありません?」


 セラが至極真っ当な意見を出す。


「ああ、その方が早いのは確かだ。でも、この村で待ちたい理由が3つあるんだよ」

「それは何ですの?」

「まず1つ目。実は少し佐野に聞きたいことがあるんだよ。だから俺が直接相手をしなきゃならん……」

「何を聞きたいの?」

「それは秘密だ。知らない方が良い事もこの世にはある」

「……何それ、すっごい怖い」

「ご主人様があえて秘密にするとか、何事ですの!?」


 ミオとセラが本気で青ざめている。

 マリアは俺が言いたくないことは聞いてこない。

 さくらも好奇心が強くないせいか聞いてこない。


「聞きたいのか?」

「「聞きたくありません(ですわ)!!!」」

「即答かよ……」


 残念。

 まあ、至極個人的な話だし、多分無駄に終わるんだろうけど……。


「次に2つ目。もし俺達が盗賊を倒しに行った場合、それを他人に説明できないという問題が出てくる。マップの説明抜きに、アジトを突き止めた理由をでっちあげるのは面倒だ」

「ああ、他人に言えないことが多すぎるせいで、行動に制限がかかるのね。いつものことと言えばいつものことだけど……」


 ミオがうんうん頷いている。

 とは言え、制限がかかっている方が本来この世界のあるべき姿なのだが……。

 ミオも完全に俺クオリティに毒されているな。


「盗賊達を倒したら、この村の人間にそれを教えてあげるべきだと思う。なんといっても被害者だからな。でも、俺達が攻めたら説明できないことが出てくる。その点で考えると、この村で迎え撃つというのが、1番自然な流れになるわけだ」

「村の人が危険ではないでしょうか……?」


 さくらの懸念点は俺も考えた。

 もちろん、その対応策も……。


「ああ、当然村人が襲われる可能性もある。だから、その点に関しては全力で守るつもりだ。まず、村の各地に『ポータル』を設置し、いつでも移動できるようにする。それに加えてタモさんを東西南北の四方に配備する。さらに防衛向きの配下を少し呼んでおくつもりだ」

「わかりました。手配しておきます」


 俺が言い終わると同時に、マリアがルセアに対して念話を始めた。

 相変わらず、対応が早い。


「3つ目の理由は、この村に恩を売っておきたいというのがある」


 この村にはユニークスキル持ちが生まれやすい様だからな。

 もう、この村のことはユニ村と呼ぼう。


「この村から将来、とんでもないユニークスキル持ちが生まれるかもしれないからな。縁と貸しを作っておいて、損はないと思ったんだ」

「ああ、そっか。だから盗賊を目の前で倒すのね。その方が『恩』が心に残るから」

「ミオ、それは思っても言わないように」

「はーい」


 自作自演をするつもりはないが、盗賊退治に多少の演出を入れたい気持ちはある。

 自然な流れで印象を良くできるのなら、やっておいて損はないだろう。


「貸しがあれば、ユニークスキルを失敬しても自分で決めたルールに違反しないからな」


 能力を奪うのは『敵』か『貸しのある相手』だけ、と言う自分ルールを守るための手間は惜しまないつもりだ。


「なんだかんだ言って、3つ目の理由がご主人様の本命ってことね!」

「ご主人様、ユニークスキルが好きですものね」

「でも、持っている割にはあまり使わないですよね……」

「仁様は使うことよりも集めることに重きを置いているのだと思います」

「……」


 反論は、出来ない。

 全く持ってその通りだよ。



 次の日、朝も同様に炊き出しを行った。

 今度はおにぎりを大量に作って配った。

 食べている者達の中には、涙を流している者までいる。

 ……恐るべし<料理>スキル。


 昨日と同様に村娘達のアピールを受け流しながら馬車に戻ったところで、アルタからの報告があった。


A:盗賊団がこの村への移動を始めました。


 何?随分早いな。まだ9時過ぎだぞ。

 移動時間を考えても、10時くらいにはこの村に到着するだろう。


A:あえて時間をずらして早く来ることで、村人の絶望する顔が見たいと言っていました。


 ……佐野がゲスすぎて言葉も出ねえよ。


 まあ、そのおかげで盗賊を撃退するのにちょうどいい理由が出来たわけなんだが……。

 『予定よりも盗賊が早く来たので、村を出発し損ねた』、これで行こう。


「と言う訳で、佐野が早く来るみたいなので、防衛体制をとります」

《おー!》

「はい。お任せください」


 ドーラとマリアが元気よく返事をする。

 ドーラにはあまり詳しい話をしていないんだけどね……。


「言ったことも守らないのね。本当、ご主人様と接触する勇者ってゲスが多いわよね……」


 ミオが苦笑しながら呟く。


「そうだな。日下部も佐野も出来れば会いたくなかった相手ばかりだ。まあ、多分……」

「どうかしたの?」

「いや、何でもない」


 予想は出来るけど、口にするのは嫌だな。

 真実味を帯びてくるあたりが特に。気付かない振りって大事だ。


 さて、誰も幸せにならない予想は終わりにして、今後のことを考えよう。


「今回は俺が佐野の相手をする。一緒に前線行きたい人は挙手ー」

「私はパスでお願いします……」

「私も遠慮したいなー。あんなのと関わりたくないし……」


 元の世界の知識がある分、さくらとミオの嫌悪感は強い様だ。

 日下部も酷かったけど、佐野はそれをはるかに超えているからな。


「仁様が前線で戦うのでしたら、当然私も参加いたします」

わたくしもですわ」


 マリアとセラが挙手により参加を表明した。

 日下部の時も2人とも参戦していたので、今のところ勇者戦は皆勤賞だ。


《ドーラは?》

「ドーラはここでさくら、ミオと一緒に村の防衛だ。いいね?」

《はーい!》


 ドーラに人殺しを経験させるつもりはないからな。

 盗賊団と直接戦わない者には、村の防衛と警護に参加してもらう。

 ないとは思うが、奇襲があった時に対応してもらうつもりだ。


「アーシャは念のため馬車の見張り番を頼む。馬車用タモさんがいるから心配はないが、ポーズは必要だろう」

「Aランク冒険者の僕を馬車の見張りにするのもとんでもないけど、それが実は形だけっていうのがさらにとんでもないよね……」

「不服ですか?」

「ふ、不服じゃないよ!言ってみただけだよ!だ、だからそれ止めてよー!」


 マリアの殺気を受けたアーシャが、腰を抜かしてへたり込む。


「アーシャ、『清浄クリーン』は自分で使えよな」

「僕、も、漏らしてないよ!」


 アルタ、どうだ?


A:漏らしています。


「大丈夫、大丈夫」

「何でミオちゃんが慰めてくるのさ!?」


 へたり込んだアーシャの肩をミオがポンポン叩きながら慰めていた。

 ああ、アーシャのポジション、ミオと共通する部分があるからな(お漏らし弄られキャラ)。



 それから、佐野達を迎え撃つ準備を終わらせた頃には10時近くになっていた。


 マップを確認したところ、佐野達は馬と馬車で移動をしているようで、既に村まで大分近づいて来ていた。

 馬車は、恐らく他人から奪ったものだろう。

 ちなみに佐野は馬車に乗っている。馬なんか素人がいきなり乗れるわけないよな……(マリア除く)。


 さらに10分くらいすると、村の方が騒がしくなってきた。

 恐らく、村人が視認できる範囲に盗賊達がやってきたのだろう。


「どうした?」


 騒がしい方に近づき、村人に声をかける。


「と、盗賊がやってきたべ!」

「まだ正午じゃないはずなのになんでだべ!?」

「旅人さん!早く逃げるだ!出来れば子供も連れてってけろー!」


 村人達が俺らの周囲に集まり、口々に状況を説明してくれる。

 村人達の予定では、盗賊が来る前に俺達がこの村を出発する際に、子供達だけでも連れて行ってもらうつもりだったのだろう。

 しかし、盗賊が予定よりも早く来てしまったために大混乱しているようだ。


「もう盗賊が来たのか。よし、マリア、セラ、戦闘準備だ」

「はい。お任せください」

「いつでもいいですわ!」


 戦闘に参加する2人に声をかけると、村人達が呆けた顔をしているのが目に入った。


「な、なんだべ?戦闘準備って言ったべか?」

「本気だべか!?相手は10人以上の盗賊だべよ!?」

「たった7人、それも女子おなごばっかで勝てるわけねぇべだ!」

「子供達と一緒に逃げてけろー!」


 村人がそれぞれ俺の言葉に反応するが、1つ聞き逃せないのがあったな。


「悪いな。俺、逃げるのは嫌いなんだよ。まあ、最初から盗賊は潰すつもりでいたしな」

「盗賊団はわたくし達が相手をしますわ。これでも盗賊退治は得意なんですの」

「ええ、私達に任せて、村で大人しくしていてください」


 セラ、マリアが武器を取り出しながら俺に追従する。

 村人達は信じられないものを見るような顔になっている。


 2人とも、明らかに高品質の武器を持っているからな。素人が見ても凄いってわかるのが、伝説級レジェンダリー伝説級レジェンダリーたる所以だ。


「ほ、本当だべか!?この村を守ってくれるんだべか!?」

「ああ、そのつもりだ」

「な、何で態々この村のために食べ物をくれたり、盗賊と戦ってくれるだか?」

「まあ、個人的な理由だ。安心しろ。俺が勝手にやることだから、報酬とかは不要だ」


 そもそも、盗賊と魔族は見つけ次第に潰すって決めているからな。

 勇者だろうが何だろうが、盗賊であるならばそれは討伐対象だ。

 佐野を放置しても良い事なんて1つもないだろうから、ここでしっかりとどめを刺そうと思う。


 何より、折角のユニークスキルの村を潰されてはたまらない。……若干、動機がよこしまである。



 村人達をさくら、ドーラ、ミオに任せて、俺達は村を出る。


 村人の中には、盗賊の相手なんてしないで、少しでも子供が生き残るように逃げて欲しいと言う者もいた。

 仕方がないので、子供達には馬車に乗ってもらい、俺達が負けた場合にすぐに逃げ出せるようにしておいた。

 丁度よく、御者としてアーシャが残っているからな。

 アーシャは、「馬車の番かと思ったら、今度は子守なの?僕、Aランク冒険者なのに……」とか言っていたが無視した。


 盗賊が来る方から村を出ると、広大な平原が広がっている。

 よく見ると、遠くの方に盗賊の馬車と思われるものが確認できる。……よく見つけたな。あんな小さいの。


 そのまま盗賊達の方に進んでいく。

 佐野と知り合いだと思われるのも嫌なので、ある程度村から離れた場所で戦う予定だ。


 少し歩き、盗賊団との距離が100mくらいになった。

 盗賊団も俺達に気付いており、俺達の方を指さしたりしている。

 ちなみに俺は不死者の翼ノスフェラトゥをローブに変形させて顔を隠している。

 佐野は俺の顔を知っているはずだからな。


「ご主人様、この後はどうするんですの?」

「まずは話をしやすくしようと思う」

「え、どうやってですの?」

「こうするんだ」


 話をしやすくするために、盗賊団の馬だけを対象にして複合スキル<恐怖>を発動する。

 その瞬間、盗賊団の乗っていた馬は全て気絶した。

 ある程度速度を出していた馬は、崩れ落ちた衝撃で乗っていた者を放り出す。


 盗賊団は全部で20人存在しており、その内13人が馬を走らせていた。

 馬が気絶したことによって放り出されたのは7名。

 落馬の衝撃で死亡した者が2名いた。

 残る5名も大きなダメージを受けており、まともに戦える状態ではない。

 先制パンチとしては、まずまずの成果を上げたと言えるだろう。


 ……<恐怖>のスキルだけで、盗賊団の戦力を全体の約30%削ったことになる。

 盗賊団、脆過ぎじゃないか?


「話をしやすくするどころか、死んで2度と喋ることのできない者もいますわよ?」

「はは、上手いこと言うな。……俺もここまで弱いとは思わなかった」


 ステータスがそれほど高くないのは知っていたが、まさか落馬で死ぬほど脆いとは思わなかった。

 しっかりと受け身をとれば、死ぬことまではなかっただろう。


「恐らく、祝福ギフトによる敵の弱体化に頼りきりで、鍛錬などをしていないのでしょう。だから、咄嗟の事態に身体が動かないのだと思います。やはり、仁様のステータスに現れない強さも重視する方針が正しいのです」

「そ、そうですわね……」


 マリアが盗賊団を分析しつつ、俺をヨイショしてくる。

 分析をするのか、ヨイショするのか、どちらか1つにしてほしい。


A:迷わずにヨイショすると思われます。


 だよね!

疎外領域クローズドサークル>という祝福ですが、言葉遊びが上手くできたと自負しています。

言わなくてもわかると思いますが、佐野はボッチでした。学校にいても、一人孤立していました。それこそ、「陸の孤島クローズドサークル」にいるかの如く。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
なろう初期だから読めてたけど改めて読んだら気持ち悪い作品だわこれ
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