第73話 寒村と盗賊
・第5章開始にあたって
今まで、話の展開をある程度スピーディに進めることを意識していました。
ですが、本章では地の文を多めに加えて、状況説明や心理描写を増やすという試みをした部分があります。そのため、今までのようなテンポの良さが若干失われている可能性があります。
もし、趣味に合わない方がいらっしゃいましたらごめんなさい。
その場合、ある程度スキップしてからまとめ読みをすることをお勧めします。あ、ブクマ切らないで!
アト諸国連合における7日間の自由行動を満喫した次の日、俺達は次の目的地である真紅帝国へ向けて馬車を進めていた。
この7日間、アト諸国連合内を(比喩ではなく)飛び回っていたが、エステア王国から真紅帝国に行くだけならば、リガント公国とナルンカ王国の2国を越えるだけでよい。
自由行動中に最後に行ったのがナルンカ王国王都なので、東に3つの村を越えれば真紅帝国にたどり着く。
真紅帝国を案内するルージュとミネルバは、最後の村に寄った時にでも呼び出すつもりだ。
そのため、現在は俺、さくら、ドーラ、ミオ、マリア、セラ、隠れタモさんと言ういつものメンバー+αとなっている。
時間が限られている場合、移動時間が勿体ないので飛行用の魔法の道具である不死者の翼を使うこともある。
しかし、今回の真紅帝国行きは時間制限もないので、馬車でゆっくりと向かえる。
俺としては馬車でゆっくりの旅も好きだからな。
よく考えてみれば、エステア王国からしばらく馬車に乗っていなかったな。
迷宮に潜っている間に馬車は必要ないし、自由行動の時は速度優先で空を飛んでいたから……。悪かったな、馬。
ちなみに御者はマリア……ではなく、最近配下に加わったアーシャである。
アーシャのスキル構成を一言でいうと、『魔物と獣の専門家』であり、<乗馬術>スキルに関していえば、マリアよりも高い。
メイド長のルセアに馬車で移動することを伝えたら、アーシャを御者にするように勧めてきたのだ。
出来れば、マリアには俺の護衛に専念してほしいそうだ。過保護……。
「Aランク冒険者の僕を御者としてこき使うなんて、なんてご主人様なんだ……」
「不服ですか?」
御者をしながら呟いたアーシャに対し、マリアが殺気を飛ばしつつ質問する。
「そ、そう言う訳じゃないけどさ。ほら、僕はAランク冒険者なんだよ?御者をさせるよりも戦わせた方が役に立つと思うんだよ」
マリアの殺気に怯え、脚をガクガク震わせながら答える。
「でも、そう言ってやった模擬戦で、メイド達にコテンパンにされたじゃない?」
「うぐっ!あそこのメイド、強すぎだよー……」
ミオの容赦ない一言に、アーシャが崩れ落ちる。
なんか模擬戦とかやっていたらしい。もちろん、負けたのはアーシャだ。
崩れ落ちても、しっかり馬車を進めているのは流石だが……。
「そもそも、僕は魔物使いであって、直接戦闘はそれほど得意じゃないんだよ?」
アーシャの従魔はギガント・マンイーターとの戦いで敗れた時に全滅しており、現在は直接戦闘以外出来ることがない。
「だからこそ、御者として活躍させているんだろ?」
「そう言われるとどうしようもないねー……」
「御者をやっていないときは自由にしていいから、その間に魔物使いを名乗れるように従魔を増やすんだな」
「そうだよねー……」
さすがに従魔0匹で『魔物使い』を名乗るのは無理があるからな。
「でも、ご主人様の従魔、なんかすごいのが揃いすぎてない?僕、あんなにレアなのが並んでいるの初めて見たんだけど……」
「それはご主人様だからね」
「ですわね」
「そうですね……」
「仁様なら当然です」
《です!》
……これは信頼されていると考えてもいいのだろうか?
……何をやっていてもおかしくないと思われているだけじゃないだろうか?
「とは言え、俺はテイムはするけど魔物使いをやっているわけじゃないからな」
「そうみたいだね。ご主人様は魔物を直接使役して何かをするってタイプじゃないみたいだから、僕の『魔物使い』とは若干意味が違うと思うよ」
「まあ、アーシャの言う直接的な使役に興味がないわけじゃないんだけどな」
「そうなの?うーん、直接的な使役でわかりやすいのはやっぱり騎獣かな。僕も移動の時には騎獣に乗っていたよ」
騎獣と言うのはその名の通り、乗り物として扱われる魔物のことだ。
騎馬とほぼ同じ意味だし、魔物に限った話でもない。
しかし、魔物の方が馬や他の獣より頑丈なので、魔物をテイムできるものは基本的には魔物を選ぶ。
そう言えば、大海蛇のメープルが、陸海空すべてに対応している騎獣になれると言ったのを、バッサリ切り捨てた気もする。
「お、今度は騎獣の話?ミオちゃんには騎獣にもなる狼の従魔がいるから興味ある!」
「ミオさんを乗せたポテチは、まるで動き回れませんでしたわよね?」
「まあ、そうなんだけどね……。あの子貧弱だから」
ミオは従魔である狼に乗って動き回り、その状態で弓を撃つというスタイルを試そうとしていた。
言ってしまえば流鏑馬の亜種だな。もしくは狩猟民族とか。
しかし、ミオを乗せた状態ではポテチは素早く動くことが出来ないので、残念ながらお蔵入りとなったのだ。
「僕も狼系の魔物をテイムしたことがあるし、一時期騎獣にしていたことがあるよ」
「そうなの?どうだった?」
アーシャは今までに色々な魔物をテイムしてきたらしく、色々とアドバイスができるようだ。
「やっぱり、人を乗せて走ることに向いた種族じゃないのがネックかな。戦闘能力が高いのは魅力なんだけどね」
「……もうちょっとポテチにステータスをあげれば何とかなるのかな?」
「でも、戦闘に出ようとすると全力で抵抗してきますわよね?」
「まあ、そうなんだけどね……。あの子ヘタレだから」
魔物を倒すことで<生殺与奪>によるステータスの分配が行われる。
その中には当然筋力に該当するモノもあるので、戦いを続ければ当然ミオを乗せることも出来るだろう。
しかし、ヘタレのポテチは戦闘に出ようとしない。
街中の散歩(犬と言い張る)はするのに、街から外には絶対に出ない。
これで元は野生の魔物と言うのだから驚きだ。
「今度無理矢理にでも冒険に連れて行こうかしら……」
「ほどほどにしておけよ……」
「向き不向きがあるから、あまり無理はさせないであげてね」
「うん」
ミオの従魔だから、俺やアーシャが口出しすることじゃあないんだけどな。
まあ、可愛がっていること自体は事実みたいだから、それほど酷い事にはならないだろう。
《きじゅうって、ドーラじゃだめなのー?》
そんな話をしていたらドーラが質問してきた。
ドーラを騎獣にすると言っても、ドラゴンの姿ですら小型のフェザードラゴンだ。
とてもではないが乗れるサイズではない。
「仁君、ドーラちゃんに乗って戦えますか……?」
「物理的にも精神的にも無理だな」
「そうですよね……。私も絶対に無理です……」
前にフェザードラゴンについて調べたのだが、最大サイズまで成長したところで、とてもではないが人を乗せるのは無理だ。
腕力と<飛行>スキルのおかげで、無理矢理乗って飛ぶことは出来るかもしれないが、どう見ても騎獣と呼べる外見ではなくなるし、そもそも動物虐待にしか見えなくなる。
「この子、ドラゴンなんだよね。しかもフェザードラゴン……」
「ああ、竜にも人にもなれる種族だ」
「そんなの、聞いたこともないよ……」
「不勉強だな」
「無茶言わないでよ……」
アーシャも竜人種については知らなかったようだ。
魔物の専門家が聞いて呆れる。
おっと、そんなことよりもドーラの騎獣志望の方が大事だ。
「ドーラは俺を乗せたいのか?」
《うん!そうすればごしゅじんさまともっといっしょにいられるからー》
何この子、超可愛いんだけど。
出来ないことを出来るとは言わず、とりあえず膝の上にいるドーラを撫でる。
癒される。
《えへへー》
「仁君、ドーラちゃんのことを好き過ぎると思います……」
だって可愛いじゃん。うちの子。
「でもでも、ご主人様。ドラゴンの騎獣ってカッコイイとは思わない?」
「確かにそれはそうだな。そう言うってことは、ミオはドラゴンを騎獣にしてみたいのか?」
ファンタジー好きなら多少は憧れるよな。竜騎士とか。
それと比べると大海蛇は絵面的にちょっと……。
「ううん、別に」
「じゃあ何で言ったし……」
「いや、私が使役したい訳じゃなくて、ご主人様が使役するドラゴンの後ろに乗せてもらえないかなーって思って。所謂お姫様ポジってヤツよ。知り合いに何名かお姫様とか女王様とかいるけど……」
「お姫様ですか……。でも、1番ファンタジー小説に近いエルディアの王女様は嫌いです……」
勇者を呼んだ国の王女だから、単純に考えれば1番ヒロインに近いだろう。
当然、俺もさくら同様にエルディアの王女は嫌いだ。
《ドーラがもっとおおきければー……》
「大きくなったら一緒に寝られなくなるけどいいのか?」
腕の中に納まるサイズだからこそお気に入りの抱き枕となっているのだ。
騎獣サイズとなった後で今まで通り抱き枕にするのは困難だろう。
《!? ドーラきじゅうにならなくていいー!》
「そうかそうか」
あっさりと宣言を翻すドーラ。
騎獣として一緒にいるよりも、俺の抱き枕になることを選んだようだ。
「ホント、ここにいると今までの常識が音を立てて壊れていくよ……」
アーシャがそんな俺達の様子を見てため息をついた。
雑談をしつつ馬車を進め、夕方にはナルンカ王国王都より東側最初の村に到着した。
本日はここに馬車を止めて休むつもりだ。
ナルンカ王国は、酷く中央集権の進んだ国だ。
東側最初の村、つまり王都から1番近くにある村ですら『寒村』と呼ばれる。
数年前からナルンカ王国は、金狐である月夜に実効支配され、少しずつ疲弊していくように仕向けられていた。
しかし、この中央集権に限っては月夜の行いと関係なく、最初からそうだったのだ。
もともと若干高かったナルンカ王都への通行料もそれが原因らしい。
さて、本題に入ろう。
元々寒村だったのに、月夜による疲弊政策を受けたらどうなるだろう?
「本当に、人死にが出ないギリギリなんだな……」
「逆に言えば、よくこれで餓死者が出ないですよね……」
村に入ってすぐ、俺とさくらの抱いた感想である。
簡単に言えば、餓死者が出ないギリギリのレベルで食料に困窮していたのだ。
村人達は見て分かるほどに痩せこけており、健康そうなものなど1人も見当たらない。
そんな中、1人の村人が俺達に気付いた。
「た、旅人がやってきただ!!」
「ほ、本当だべ!」
「食べものを!食料をくんろ!!!」
俺達に気付いた村人が叫ぶと同時に、それに呼応するように周囲の村人達も俺達の方に向かってくる。
空腹のせいか、足取りに力は感じられないが、気付いたら10人以上の人間か近づいてきていた。
「離れてください」
そう言ったのはマリアだ。
マリアは馬車から飛び降り、近づいてくる村人達に鞘に入れたままの剣を向ける。
おまけで軽く威圧しているな。
「貴方達の事情は察することが出来ますが、それでも不用意に近づくことは許しません」
マリアの威圧に気圧され、5mくらい離れた場所で立ち止まる村人達。
護衛であるマリアとしてみれば、知らない人間に護衛対象を囲まれた状況っていうのは問題があるよな。過保護……。
「わ、悪さなんかするつもりはねえべ……、ただ、食い物を持ってたら分けて欲しいだ……」
「そうだべ。もう数日まともに食ってねぇ。働こうにも力が出んから働けん。八方ふさがりだべ」
村人達が悲痛な顔をして訴える。
ああ、少し勘違いしていたな。
餓死者が出ないギリギリの困窮と言っても、次の食糧を得るだけの力がなくなってしまえば、それはいずれ餓死する餓死者予備軍に過ぎない。
この村は全員が全員餓死者予備軍なのだ。
はっきり言って未来がない。
おかしいな……。
月夜は死者が出ないように調整していたって話だけど、この村は放っておけば餓死者が出るぞ?
それも1人2人じゃなくてほとんど全滅だろう。
月夜が何か失敗したのか?
A:いいえ。月夜の政策では生活レベルは低いものの、餓死者は出ないようにされていました。本件は別の原因があります。
それは何だ?
A:マップの確認により分かったのですが、近くに盗賊がいます。この村から奪ったと思しき食料もそこにあります。
なるほど、盗賊の存在までは月夜も想定できなかったんだな。
もしかして、月夜の政策のせいで食うに困った奴らが盗賊になったのか?
A:いいえ。他国から流れてきた者です。月夜の政策の被害者ではありません。
そうか。……それならば何の遠慮もいらないな。
もちろん、もし月夜の被害者だったとしても盗賊である以上は容赦しない。
いかなる理由があっても、自ら加害者になることを選択した者に容赦をするほど、俺は甘くも優しくもないからな。
まあ、命だけは助けた可能性はあるが……。
マリアは交渉をするつもりがないらしく、無言で村人達に剣を向けている。
まあ、本人は護衛のつもりみたいだし、護衛が主人の意向を無視して交渉を始めるのも問題なんだがな。
このままでは話が進まないので、俺も馬車の外に出る。
「構わないぞ。幸い、食料なら配れるくらいはあるからな」
もちろん、その食料は<無限収納>に入っている。
その多くはメイド部隊が各地で買いあさったものだ。
それとは別に、迷宮を利用した農業で収穫された米や野菜もある。
ついでに言えば、<無限収納>に入れておけば腐らないのだから、メイド達も気軽に利用している。
その結果、<無限収納>の中には、これでもかと言うくらいの食料が詰め込まれることになったのだ。
現在、<無限収納>に入っている物ランキング第1位は食料品である。
「ほ、ほんとだべか!?」
「ありがたいだ。これでなんとかなるべ」
「で、でも、おら達に払えるお金なんて……」
「んだ、全部盗賊が持って行ったべ……」
どうやら、食料の対価になるようなものがないらしい。
しばらく待っていると、その内の1人が妙案を思いついたような顔をして発言する。
「そ、そうだべ!うちの子、うちの子を貰ってくんろ!」
「おめ、子供さ売る気だべか!?」
「このまま村に残っても、どのみちこの人数じゃ長くはもたねえべ!盗賊もいるからなぁ!だったら、裕福そうな旅人さんに貰われた方が幸せだべ!」
「うっ……、一理あるべ。盗賊がいる以上、この村は終わりだべ……」
あ、これ迷宮組の村と同じパターンだ。
あの時は迷宮から出てきた魔物が原因だったけど、今回は盗賊が原因で村が滅びそうなのか。
この流れだと数人の子供が俺の奴隷になるのかな(気が早い)。
しかし、孤児ならばともかく、親から直接子供を買うのはさすがに抵抗があるな……。
「と、言う訳で旅人さん、うちの娘を嫁に貰ってくんろ!」
「は?」
……微妙に思っていたのとは違う方向性でした。
「ウチはめ、妾さんでもいいべ。と、とにかく、この村から連れ出してくれれば……」
「家も、娘がおるべ。ちっと小さいけど、嫁、いや小間使いにでもしてやってほしいべ」
「んだんだ」
「待て待て、話が飛躍しすぎているぞ」
収拾がつかなくなってきたので、一旦落ち着かせる。
小間使い(≒メイド)はともかく、嫁と妾は全く望んでいない。
「まず聞きたいんだけど、普通に食料の対価になるような物はないのか?」
「ないべ……。3日前に盗賊に全部奪われたべ。盗賊は食料と、なけなしの金目の物を奪って行ったべ。村に残ったのは、腹が減ってまともに動けない村人だけだべ」
「それで食料が必要だったのか……」
一応、盗賊については知らない体で話さないといけない。めんどい。
「そうだべ。でも、今日をしのいでも、どのみち明日にはまた奪われるべ」
「どう言うことだ?」
「盗賊団は、明日の正午にまた来ると言っていたべ……」
「また来るのか?」
盗賊が、1度襲った村にすぐに来る?
普通に考えたら旨みなんかなさそうなんだけど、何の意味があるんだ?
「そうだべ……。『うちらの様子を見に来る』そうだべ」
「意味が分からん」
「あの盗賊団は頭がおかしいべ!前の襲撃では食べ物と金品を奪ったのに、人は誰も殺していないし、攫ったりもしていないんだべ!そのくせ馬は殺すし、畑は荒らすんだべ!」
「んだんだ」
「俺の知っている盗賊と違うな」
普通の盗賊は『奪う、犯す、殺す』をモットーにしているからな。
その流れで、村人や女性が酷い目に遭っていないというのは、確かにおかしいよな。
いや、酷い目に遭ってればいいという意味じゃないけど……。
「盗賊団の目的を聞いたら、お頭と思しき少年はこう言ったべ。『餓死者がどんな風に死んでいくのかが見てみたい。出来れば共食いでもしてほしい』と……」
「うわあ……」
ドン引きである。
確かに、それが目的ならば盗賊団の行動に納得が出来るけど……。
食料を奪う、畑をダメにするのはもとより、金品を奪い、馬を殺したのは食料を買いに行けなくするため。
人を殺さないのは、その方が食料の消費が多くなるから。
それと、餓死者のサンプルを増やすためだろう。数が増えれば、禁忌に手を染める可能性も増すしな。
理解は全くできないが、納得はできてしまった。
確かに頭がおかしいな。
A:盗賊団のお頭が、隣接エリアにある盗賊のアジトに到着しました。
ん?なんで今そんな報告を?
A:盗賊団のお頭が勇者だからです。
……は?
A:マスター曰く、頭のおかしい盗賊のお頭は、『異界の勇者』です。
思わずマップを確認して、そこに表示された名前を見て納得する。
なるほど、頭のおかしい盗賊っていうのはコイツだったのか……。
名前:佐野祐樹
LV38
性別:男
年齢:17
種族:人間(異世界人)
スキル:<弓術LV2><暗殺術LV1><泥棒LV1><恐喝LV2><拷問LV3><夜目LV3><逃走LV2>
祝福:<疎外領域+3>
称号:転移者、異界の勇者、殺人鬼
とてもとても残念なことに、エステア王国で倒した日下部に続き、この男も知っている。
勘違いしないでほしいのは、『お互いに知っている』だけで、友人ではないということだ。
具体的にどんな人間か列挙しよう。
・勇者召喚の1カ月くらい前に引っ越してきた(理由は不明)。
・家は富裕層。
・過去の凄惨な事件や人体解剖学についてやたら詳しい。
・趣味はサバイバルナイフ集め。
・ボーガンを所持している。
・嫌なことがあるとメモ帳に何か書き込みながらぶつぶつ言っている。
・絶対にお礼は言わない。
・笑い声は「フヒヒ」。
もうこれだけで大体どんな人間か理解できるはずだ。
友人だと思われたくないだろ?
ちなみに、ここに列挙したのは裏が取れているものだけだ。
噂だけならこの5倍はある。
スキルの欄が相当に物騒だし(若干ブーメラン)、無駄にスキルレベルが高いことを考えると、元の世界でもそれに類することをやっていたのだろう。
元の世界でスキルに該当する行動をしていると、こちらの世界ではスキルが上がりやすくなるみたいだからな。
まあ、細かいことを置いておいても、称号欄を見れば一発ギルティなんだけど……。
閑話休題。
「何故、村から出て行かないんだ?この村は王都からそれほど離れていないだろ?」
「無駄だべ。金も何もないオラ達が王都に行っても、通行料を払えず野垂れ死ぬだけだべ」
「んだんだ」
王都ナルンへの通行料は現在1万ゴールドだ。
これは一部例外を除き、国民であろうとも変わらないそうだ。
盗賊に金目の物を奪われた後の村人に払える額ではない。
ちなみに、その内王都への通行料は1000ゴールドに改定されるはずだ。
メイド経由で王宮に指示をしたからな。
もちろん、ここの村人が知っているはずもないが……。
「どこの村もここ数年厳しいだ。別の村に行っても追い出されるだけだべ」
「もうどうしようもないべ。この村は滅びるしかないだ……」
「そうだべ。だからこそ子供だけでもどっか連れてってほしいだ」
「最悪、奴隷でもいいだべ。この村で死ぬよりはマシだべ……」
少し遠回りしたけど、やっぱり子供を奴隷として渡す方向に話が進みそうだ。
だから、親から無理矢理引き離すのは嫌だというのに……。
「話は分かった。だが、子供を連れて行くというのはしばらく考えさせてくれ。今日はこの村に泊まる気だからな」
「正気だべか!?明日盗賊がくんべよ!?」
「盗賊は正午って言っていたんだろ?盗賊が来る前には出ていくさ」
「そ、それなら何とかなる、べ……?」
盗賊達が本当に宣言通り正午に来るかはわからないが、マップにより盗賊の接近は検知できるので問題ない。
「それと、安心していいぞ。最初に言っていた食料はタダで配ってやるから」
「え?いいんだべか?お金払ってねえだべが……」
「ああ、構わない。……もう貰ったようなものだからな」
「?」
俺の最後の呟きはいまいち理解されていないようだな。
まあ、あれだ。いつものだ。
<豊穣>
所有者の管理する農場で、作物の収穫量が上昇し、品質も向上する。土壌への負担が軽減され、ほとんどの作物で連作できるようになる。
<武装修復>
装備している武器・防具が自動的に修復されていく(修復速度はレベル依存)。完全な破損は治せない。農工具も武装扱いで自動修復される。
<不運>
運が悪くなる。
人口100人以下の村に、3人もユニークスキル持ちがいた。
冷静に考えると、少々確率がおかしい。
……なんか『お前が言うな』と言われた気がする。
この村の立地に何かあるのか、この村の血統に理由があるのかはわからないが、やたらユニークスキル持ちが生まれる村なのかもしれない。
ともかく、食料と引き換えに、3つのユニークスキルをコピーさせてもらった。
使い道はともかく、とにかくレアっぽいので食料の対価として十分だろう。
余談だが、<不運>だけは全部奪ってあげた。レアだけど、持っていていい事なんてないからな。
その後、集まってきた村人達に食料を配布した。
様子を見ると、どうやら炊き出しをするようだ。
ついでなのでウチも料理メイドを呼んで(最初からいたと言い張った)、ミオとともに炊き出しを行わせた。
当然、ウチの炊き出しが1番人気となったのは言うまでもない。
雑炊を大鍋で作っただけなんだがな……。
さて、俺達も食事をしているのだが、少し困ったことになった。
「旦那さま。おら、一生懸命お世話するだ。だから、連れてってけろ」
「料理……は、勝てねえけんど、掃除や洗濯なら任せてくんろ」
「お、お妾さんにしてくんろ。経験はねえべが、が、頑張るだべ」
「あんな美人さんと一緒にいるお方に、嫁にしてけろとは言いにくいだべ……。お妾さんでお願いするべ」
『しばらく考える』と言ったせいだろう。
先ほどから村の娘達が10人ほど俺の方に寄ってきて、アピールをしてきているのだ。
恐らく、村から連れ出してもらえるように、アピールしてこいと親から言われているのだと思う。
A:正解です。
だそうだ。
美人局、と言う訳ではないのだろうが、下心ありきで言い寄られても、なにも嬉しくはないものだな。
ちなみに、寄ってくるそばからマリアに追い払われている。
「ご主人様、モテモテね。嬉しい?」
「いや、あんな余裕のない顔でアピールされても、なにも嬉しくはないな」
ミオが茶化すが、首を横に振ってそれを否定する。
「本当に好意を寄せているならまだしも、打算ありきの女性を仁様に近づかせるわけにはいきません」
マリアも頷く。
近寄ってきた娘達はもれなくぎこちない表情だった。
誰がどう見ても無理をしているのは明らかだったからな。
「ま、そんなアピールも、盗賊がいなくなった後にはなくなっているだろうけどな」
「その盗賊の勇者は、仁君の知り合いなんですよね?」
「頑なに知り合いって言っていたわよね。友達扱いしたら怒るって……」
「ご主人様がそこまで言うのですから、相当ですわね」
「ああ。でも佐野の奴、すこぶる評判悪かったんだけど、さくらは知らないのか?」
学校内では悪い意味で結構有名になっていたはずなんだけどな。
まあ、本当にヤバい奴はそんな簡単に有名になんてならないんだけど……。そういう意味では佐野は低ランクの悪人だ。
「他人の評判を聞けるような友達がいませんでした……。人の評判を聞いているような余裕がありませんでした……」
「……ごめん」
さくらさん相手だと、元の世界の話題が振りにくいです。
おかしいな。本来、元の世界の話が一番弾む相手のはずなんだが……。
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裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・ユニークスキル
この世界にスキル、ユニークスキルと言った概念は存在しない。
しかし、自身が特別な才能を持っていると気付く者は少なくはない。
実際、Sランク冒険者達はその多くが有用なユニークスキルを持っており、それを活用することでSランクまで上り詰めている。
仁達が訪れた村のように、比較的地味なユニークスキルを持った人間も少なくはないが、地味なユニークスキルの場合、そうと知らずに一生を終えることも多々ある。
ちなみに<不運>の持ち主だったのは村にいた少女だが、彼女は自身が人一倍<不運>であることに気付いていた。嬉しいか嬉しくないかは別の話とする。
第5章、帝国編です。真紅帝国は今までにないタイプの物語になると思います(ここ伏線)。
そもそも、真紅帝国に入っていないというのは仕様です。