第72話 後始末と名前
第4章終了です。
常夜も起きたことだし(正確には寝たふりを止めただけ)、ちょっとした用事を済ませるために玉座の間を後にした。
同行しているのは月夜とマリアだけだ。
常夜はテーブルの上に置いてあったお菓子に夢中になっている。
ミオとセラは常夜の子守である。……セラはお菓子が食べたいだけのようだ。
今向かっているのは、国王以外の王族が捕らえられている牢屋だ。
……まあ、その捕らえた張本人が俺の横にいるんだけどな。
「で、何で王族を地下に閉じ込めたんだ?」
「洗脳して指示を出すよりも、洗脳して放置の方が楽だったからです。『殺す』を選択肢から除くと『幽閉』くらいしか残らなかったのです」
洗脳状態では思考能力がほとんど0になり、言われたことしかしなくなる。
王族全員を洗脳した後、個別に指示を出すくらいなら、国王だけを残して他は幽閉した方が良いと判断したようだ。
「やっぱり、殺すのは嫌いなのか?街も貧困層は多いけど、餓死者はいなかったからな」
「いえ、そんなことはありません。スカーレット・クリムゾンに関しては、普通に殺すつもりでしたよ」
そう言えば、敵討ちと言っていたし、どう考えても殺そうとしていたよな。
「あまり大きな事件を起こして、世間的な注目を集めるのを回避したかったのです。隣国で急激に動きすぎると、真紅帝国、いえスカーレット・クリムゾンに警戒心を抱かせてしまうかもしれませんので……」
その結果が『王族の幽閉』、『貧困層は増大するも餓死者は出ない』と言う訳か。
「結果的にその判断は正解だったな。もし、人間の犠牲を全く顧みずに行動していたら、俺が敵に回っていたかもしれないからな」
「それは……、冗談では済みませんね……。人死にが出ないように注意して正解でした」
その言葉の意味を正しく理解したのだろう。月夜は青ざめて冷や汗を流している。
見知らぬ他人がどうなろうと知ったことではないが、人間の犠牲を顧みない者を配下に加えたいとも思わないからな。
不死の王や銀狼王のように、邪悪な魔物扱いで戦った可能性もある。
そんな話をしていたら、件の牢屋が近づいてきた。
「そろそろ到着だな。って臭!」
「ああ、やっぱりこうなっていましたか。これはきついですね」
まだ牢屋の扉の前に立っただけなのだが、それでも中から溢れてくる糞尿の臭い。
国王以外の王族は思考能力がない状態で幽閉されていた。
一応、食事などの世話をする者はいたようだが(もちろん洗脳済み)、その者達も『狂化』によって倒れて約半日。
その間も出るものは出るのだから、ある意味当然の結果と言えるだろう。
「<風魔法>で臭いを遠ざけるか……」
「仁様、<結界術>なら臭いだけを通さないように出来ます」
「やっぱり便利だな……」
相変わらず<勇者>のスキルは便利である。
「常夜の<空間操作>でも似たようなことが出来ますね。常夜がいませんけど……」
「あれはあれで十分なチートだよな」
<空間操作>はとんでもない可能性を秘めたスキルだと思う。
使い方によっては最強に近い能力と言えるかもしれない。
「お菓子を食べている常夜をこんなところに呼ぶのも酷だよな。マリア、頼む」
「はい。お任せください」
そう言うとマリアは<結界術>を発動し、俺たちの周囲に結界を張る。
空気は通すけど、臭いは通さないようで、さっきまでの臭いが消えた。
「じゃあ、行くか」
「はい」
「ええ」
そもそも、何で俺たちが王族の元に向かっているかと言うと、月夜に王族たちにかけた<洗脳術>を解かせるためだ。
どうやら、<洗脳術>と<奴隷術>は干渉し合うらしく、洗脳された者は<奴隷術>により奴隷には出来なくなっている。
色々と無理をすればどうにか出来なくもないが、それよりも月夜に洗脳を解かせてから<奴隷術>を使用する方が確実だ。
それで、洗脳を解くシーンに興味があったから、俺もついてきたと言う訳だ。
常夜が起きてから月夜と話し合った結果、俺はこの国を実効支配することに決めた。
月夜が支配していたものを引き継ぐと言ってもいいだろう。
月夜の主になったのだから、ある意味当然の話である。
もちろん、表向きの支配ではなく、裏からアルタが管理するって意味だけどな。
俺としては放置でも良かったのだが、アルタが色々やってみたいそうなので、任せてみることにした。一体どうなることやら……。
当然、残りの王族達も奴隷にするつもりである。
<契約の絆>によって配下にしてもいいんだけど、素直に配下になるわけないし、説明する時間が勿体ないし。
今回の件で、王族の配下が一気に増えることになったな。
今まではドーラ、ユリア、サクヤ、カトレア、ルージュの5人しかいなかったのに。
……ん?5人いる方がおかしいんじゃないか?はっはっは。
扉を開けると、そこには想像通りの光景が広がっていた、
中には10名以上の王族が座り込んでおり、知性の感じられない虚ろな目で虚空を見上げている。
老いも若きも、男も女も関係なく全員が全裸で、汚物にまみれていた。
「うん。これは酷い」
人間の尊厳というモノが微塵も感じられない。
正直ドン引きである。
「とりあえず、一通り『清浄』をかけておくか」
「はい。それと、メイドも数名呼んでおきます」
そう言うと、マリアは『サモン』を使用して10名のメイドを呼び出した。
『サモン』は配下、部下、従魔と言った、立場が下の者しか呼べないんだけどな。どういう関係なのかね……。
俺とマリア、メイド達で手分けをして『清浄』をかけまくる。
とりあえず、マリアの<結界術>が不要になるくらいまでかけ続けた。
「それでは、<洗脳術>を解きますね。術を解いたら最低でも1時間は意識が戻らないと思います。奴隷にするのでしたら、その間にするのがいいと思いますよ」
「仁様、<奴隷術>の使用はメイド部隊にお任せください」
そう言うと、後ろに控えていたメイド部隊が前に出てきた。
先ほど『清浄』をかけるときに呼んだメイドたちのステータスを確認すると、全員<奴隷術>を所持していた。
10人くらいなら、俺1人で<奴隷術>をかけても良かったのだがな……。
マリアが横にいる状況で、俺に労働が回ってくることは基本的にない。
「わかった。任せるよ」
「お任せください。ご主人様」×10
10人同時にお辞儀をしてきた。
こういう時、みんな同じセリフを言うけど、練習でもしているのかね。
A:しています。
あ、そう……。
「では早速……」
月夜はそう言うと、<洗脳術>を解くための陣を出した。
<奴隷術>の陣に似ているな。干渉するというのも納得だ。
それを王族(全裸)の1人、俺と同じくらいの年齢の少女(全裸)に当てる。
「あう!あ、あが、あがががががががががががががががががががががががががががが」
少女(全裸)はビクンビクン痙攣をしながら、グネグネと身体をよじって叫び続ける。
「これ、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。後遺症もあまり残りませんし……」
「多少は残るのか……」
「それは、まあ……」
「……」
……やっぱり、月夜も結構邪悪な魔物なんじゃないかな。
少なくとも、人間を気遣うという感覚はない様だ。
魔物なんだから、当然と言えば当然か。
「それと、洗脳には時間がかかるのですけど、解くのは時間がかかりません。はい、もう終わりますよ」
「ががが……がが……が……」
痙攣が収まり、少女(全裸)はそのまま意識を失った。
すぐにメイドが駆け寄り、<奴隷術>を施す。
やけに簡単に<奴隷術>が成功したな。強制的に奴隷にする場合、それなりに時間がかかるらしいんだけど……。
A:<洗脳術>の影響で、抵抗力がほとんど存在しません。
「それでは、続けます」
月夜が他の王族(全裸)にも<洗脳術>を解くための陣を当てていく。
ほどなくして、その場にいた王族(全裸)全員の<洗脳術>が解かれ、代わりに<奴隷術>によって俺の奴隷となった。
その後、アルタの言う『調整』とやらのために王族(全裸)たちは屋敷に連れていかれた。
余談だが、『ポータル』は本人の意識がないと使えないので、奴隷術師たちが屋敷で『サモン』を使って呼び出している。
王族(全裸)を屋敷に送り終わったので、俺たちも玉座の間に戻ることにした。
マップを見たら、奴隷メイド以外の者が屋敷から転移してきているのが確認できた。
元々王宮にいた者たちが、アルタの言う『調整』を終えて戻ってきたのだろう。
……不思議なのは、全員黄色になっているということだ。
偉そうな貴族のおっさん(肥満気味)までも信者になっているのは、むしろ恐ろしさすら感じてしまう。
A:ルージュの二の舞にはさせません。
ルージュは俺の配下になった後に、俺に暴言を吐いたからな。アルタ的にあれは失態だったのだろう。
俺がそんなことを考えていると、おっさんが急に震え出し、その場で土下座をした。
A:念のためもう1度、身の程を教えておきました。
<洗脳術>も中々にエグかったが、アルタの方が上位互換で恐ろしい気がする。
戻ってきたのは全員ではなく、王宮外とのやり取りに関わるものが中心のようだ。
朝から跳ね橋を上げたままで、色々と業務が滞っているからだろう。
そのせいか、帰ってきたのは全体的に下働きの者が多いな。
事情はアルタが説明しているのだろう。俺たちの横を通るとき、全員が会釈をするくらいで、大きな反応はない。
玉座の間に到着したが、国王はまだ戻ってきていないようだな。
<洗脳術>と<奴隷術>が干渉するという話をしたが、実はここに『狂化』も加わる。
国王は<洗脳術>を受けた状態で『狂化』したため、<洗脳術>の解除が上手くいかなくなっているようだ。
そのため、多少の無理をして強制的に奴隷にし、<洗脳術>と『狂化』を無効にする必要があった。その負担が大きかったようで、現在屋敷で治療中だ。
そう言えば、<暴食>の影響で『狂化』したアーシャはまだ起きていないんだよな。
<色欲>の影響で『狂化』した方が早く起きたのはなんでだろう(国王除く)?
A:月夜が『狂化』に抵抗していたため、感染の度合いが少なかったのでしょう。それと、月夜の<吸精>により昏倒していたのも、『狂化』の負担を減らす要因となっていたようです。事に及んでいた者は未だに昏倒状態から回復していません。
『狂化』した場合、その欲に溺れている時間が長いほど負担が大きくなり、回復に時間がかかるということか。
『狂化』した者がいた場合、出来るだけ早く奴隷にしてあげた方がいいということだな(暴論)。
玉座の間に戻った俺たちは、月夜と常夜の今後について話し合うことにした。
「で、2人はこれからどうしたい?」
「私が望むのは常夜と一緒にいることだけです。後は貴方様のお好きなように……」
「常夜も同じ」
2人とも望むのは一緒にいることだけか。
「仲良し母娘ね」
「そうですわね」
「母娘仲が良いのは良いことだが……。全く希望とかないのか?」
俺がもう1度聞くと2人とも考えこむ。
「すいません。今すぐ思いつかないので、しばらく考えさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「常夜も」
「ああ、構わないぞ。やりたいことが思いつくまで、俺の屋敷でモフモフ係だな」
「モフモフ係、ですか?」
月夜が首を傾げる。
「ああ、モフモフ係だ。屋敷で俺にモフられるだけの簡単なお仕事だ。言っただろ?モフるって」
「ええ。聞きましたけど……」
「屋敷に戻ったら、早速1回目だな」
「ま、まあ……、貴方様がお望みでしたら、私に否はありませんが……」
「常夜も」
月夜が何となく引いている気がするが、約束は約束だ。しっかりとモフらせてもらおう。
「仁様、私の耳にはもう飽きてしまわれたのでしょうか……」
マリアが耳をぺたんとさせながら呟いた。
「嫌でなければ、マリアも来い。一緒にモフるからな」
「嫌なんてことはありません!ぜひお願いします!」
凄まじい勢いでマリアが食いついてきた。
俺としては、最初からマリア込みでモフるつもりだったからな。
もちろん、ドーラも一緒だ。
俺がモフモフ祭りに思いをはせていると、ミオが呟いた。
「ご主人様いいなー。私も動物的なモノをモフりたい……」
「ミオさんには、従魔のポテチがいるはずですわ」
フェアリーウルフのポテチはミオの従魔だ。いくらでもモフれるはずである。
「あの子、結構毛が固いのよ。モフったらチクチクするのよね……」
「ポテチは不憫ですわね……」
ポテチってミオから結構雑に扱われているんだよな。犬小屋に入れられたり、無理矢理お手させられたり……。
「そんなはずはないわ!餌をあげると、ものすごく尻尾を振ってくるし、1日1回は『散歩に連れてってー』ってお願いされるし」
「思っていたよりも仲良くやっているんだな」
ただし、ポテチの扱いは完全にペットの犬である。
犬小屋に入れられ、お手をさせられ、餌に尻尾を振って、散歩をせがむ生き物、それは犬である。狼……。
「そりゃそうよ。私の初めてのペット、もとい従魔だもの。駄目な子可愛いわ!」
「駄目な子なのか……」
「駄目な子よ!」
「駄目な子ですの?」
「とても駄目な子よ!」
可愛がってはいるけど、やっぱり扱いは酷いな。
モフモフの話が終わったので、いよいよ屋敷に戻ることにした。
ん?月夜と常夜の今後の話だった気もするな。
……まあ、いいや。
カスタールの屋敷に戻った俺たちは、メイドたちの用意した昼食を食べ始めた。
もちろん、月夜と常夜も一緒だ。
ちなみに、さくらとドーラは2人で図書館に向かったらしい。
ドーラに文字を覚えさせるのと、児童書コーナーで絵本を読み聞かせているそうだ。
完全にお母さんである。
「お菓子だけでなく、料理もとてつもなく美味しいのですね」
「お菓子食べ過ぎた……」
月夜が昼食のピザを一口食べて絶賛し、常夜が先ほどお菓子を食べすぎてピザがあまり入らないことを悔やんでいた。
リガント公国でピザを食べて以来、ミオがアレコレ試行錯誤し、ついに地球のピザを完全再現したのだ。ミオ、マジグッジョブ。
「ご主人様の意向で、食事に関しては妥協がないからね。ハッキリ言って、そこらの王族よりもよっぽど美味しいものを食べてると思うわよ」
「一応、王族として食事していましたけど、比べ物にもなりませんね……」
月夜も常夜もナルンカ王国を支配して、王族と同じ物を食べていたはずなのにこの評価だ。
「でしょー!すでに数名の王族を虜にしているくらいだからね!」
「そうですわ!アドバンス商会も食料品の売り上げが1番と聞きましたわ!」
我が家の料理はどこまで行くのだろうか。
A:<料理>スキルレベル10まではいくと思います。
それはもちろん行くだろうな。
俺も最高レベルの料理とか、食べてみたいし……。
そんなことを考えていると、さくらとドーラが図書館から帰ってきたようだ。
「ただいま帰りました……」
《ただいまー》
「2人ともおかえり」
「おかえりなさいませ」
「おかえりー」
「おかえりですわ」
屋敷に戻ってきたさくらはドーラと手を繋いで、とても仲よさそうにしている。
「仁君もお帰りなさい……。テイムの方、どうでした?」
「見ての通り、そこにいる2人が金狐の母娘の月夜と常夜だ。新しい従魔だな」
「よろしくお願いします。月夜と申します」
「常夜。よろしく」
「はい、よろしくお願いします……。さくらです……。あれ?」
さくらは首を傾げて俺の方を見てきた。
「お二人の名前は、仁君が付けたのですか……?またお菓子の名前だと思っていたのですが……」
「あ……、すっかり忘れてた」
テイムした魔物には、元々名前が付いていても新しく名付けることが出来る。
しかし、今のところずっと『月夜』、『常夜』と呼んでいたから、新しい名前については完全に頭から抜けていた。
今のところこの国でテイムした魔物は、甘いお菓子などから名前をとっているから、さくらも疑問に思ったのだろう。
「あ、やっぱり……。仁君っぽくない名前だと思いました……」
「……」
それは遠回しに俺のネーミングセンスがないと言っているのだろうか?
ドーラ、タモさん、ミドリ、ティラミス、メープル、ショコラ……。否定!出来ない!
「……月夜、常夜。俺には2人の名前を変える権利があるんだが、どうしてほしい?」
「私はどちらでも構いませんが、常夜の名前を変えるのはお許し願えないでしょうか?」
「名付けたのが実の両親だからか?」
「……はい。その通りです」
元々名前が付いていた、ということは大抵の場合は両親が付けた名前だろう。
常夜に新しい名前を付けるということは、亡き両親が付けた名前を捨てさせるということである。
さすがにそれは酷だろう。
「他の従魔から、従魔になると主人に名前を付けて欲しくなるって話を聞いたから聞いてみたのだが……」
「……正直に言えば、少しうずうずしています。こう、なんというのでしょうか……。貴方様から欲しい!と言う思いが離れてくれないのです」
月夜は内腿をこすり合わせながら言う。目元も少し潤んでいる。
「言い方が卑猥ですわ」
「やっぱりエロ狐なのね」
セラが突っ込みを入れ、ミオが変なところで納得する。
エロ狐って……。いや、俺的にはアリだけど。
「常夜もうずうず……」
常夜も月夜と同じようにうずうずしているようだ。
名前が欲しいというのは、魔物の本能みたいなものなのか?
でも、ハーピィたちはショコラ以外名前を欲しがってはいなかったよな……。
A:レアな魔物にはその傾向が強いようです。
そう言えば、レアなタモさんも名前を真っ先に要求していたな。
逆にレアではないドーラは名前の要求はなかったな。ん?違う、要求される前に名前を付けただけか……。
「でも、母様と同じ文字がなくなるのも嫌……」
「常夜……」
常夜が困ったような顔をして言う。
2人とも名前に『夜』が付くからな。
名付けたのは月夜の親友って話だし、月夜の名前にあやかったのかな……。
出来れば、名前を変えるのは止めたい。でも、2人とも凄くうずうずしている。
この状況を打開するには……。
「よし、決めた。お前達2人の名前は『月夜』と『常夜』だ」
元と同じ名前を新しく2人に付け直すことにした。
これならば、2人の本能を解消しつつ、関係性なども今までと変わらなく出来るのではないだろうか。
「同じ名前を付け直すということですか?それなら……、うずうずが収まってきました」
「常夜も……」
「少し裏技っぽいけど、上手くいって何よりだ」
正直に言うと、既に名前の付いた相手に名前を付け直すのって凄くやりにくい。
本当、上手くいって良かったよ……。
「ちなみに、仁君だったらどんな名前を付けていましたか?」
「そうだな……。月……、常夜……、黒……、『クロワッサン』と『レーズン』かな」
「仁君が元の名前を選んで良かったです……」
「これは酷いわね」
「ないですわ」
正直、俺もないと思う。
《ドーラは『ドーラ』ってなまえすきだよー》
ドーラはマジ天使。
A:竜人種です。
知ってるよ。
その後はさくらとドーラも交えて昼食の続きをとった。
そろそろ食べ終わるというところで、今度は魔物娘3人組がやってきた。
これで、アト諸国連合でテイムした魔物達が全員集合だ。……ティラミスも一応その枠に入れるよ。
「おっ、さすが主人っすね。もう金狐をテイムしたんっすね」
「ああ、予定通り午前中でテイムしてきた」
「あら?そちらの方は……、どこかで……」
月夜がメープルと会った時、メープルは大海蛇形態だったのだろう。
なんとなく気配を察知しているが、はっきりとはわからない様だ。
「自分、大海蛇っす。久しぶりっす」
「ああ!大海蛇ですか!通りで聞き覚えのある喋り方だと思いました。……もしかして、貴女も?」
「そうっす。自分も主人にテイムされてここにいるっす」
「やはりそうでしたか。と言うことは、貴女も進堂様と戦ったのですね?」
月夜は俺のことを『貴方様』と呼び、対外的に俺を示す場合は『進堂様』と呼んでいる。
名字で呼ばれるのも、随分と久しぶりな気がするな。
余計な面倒を避けるため、さくらと名前で呼び合うことを決めて以来だろう。
日下部の野郎が俺のことを進堂って呼んでいたっけ。ちっ……。
「当然っす。でも、あれを戦いと呼ぶのは自分には無理っす」
「そうですよね。あまりに一方的でしたので、『戦った』と言うよりは、『相手をしてもらった』程度ですよね」
「ああ、妾も同じだった」
話に入ってきたショコラを見て月夜が訪ねる。
「あら、そちらのお二人は?」
「ハーピィ・クイーンのショコラだ」
「ティラミスこと、ティラちゃんだよ☆ よろしくね♪」
「ええ、よろしくお願いします」
「自分も今はメープルって名前があるっす。呼ぶならそちらで頼むっす」
思い出したかのように自己紹介をするメープル。
前からの知り合いみたいだが、その時はお互いに名乗ったりしていないのだろう。
メープルから金狐が固有名を持っているなんて話を聞かなかったからな。
「ええ、改めまして私の名前は月夜、こちらは娘の常夜です」
「常夜。よろしく」
「よろしくっす」
「ああ、よろしく」
挨拶が終わったところでミオが呟いた。
「あれ?ご主人様、ショコラちゃんはモフモフしないの?」
「……それもそうだな」
ショコラはハーピィ・クイーン、つまり羽毛じゃないか。
これはモフモフに加えるべきだろう。
「モフモフ?何のことだ?」
「ご主人様が金狐母娘とマリアちゃん、ドーラちゃんをモフモフ愛でるのよ。ショコラちゃんも混ざる?」
「なっ!?なんて卑猥なことを!」
顔を真っ赤にするショコラ。モフるだけなのに大げさだな。
「卑猥って何だよ……。じゃあ、ショコラは来ないんだな」
「待て、待ってくれ。そうは言っていない。私も……、入れてくれ……」
顔を赤くして俯きながらショコラが参加を表明した。
「自分はスベスベ?っすから、その集まりには参加できないっすね」
「ティラちゃんもだね☆ ティラちゃんは<変化>解いたらザラザラ、ごつごつだからもっと無理だね☆ 人間は愛でないのよね、ハニー♪?」
「そうだな。人間はモフれないから、趣旨から外れるな」
毛のないタイプの魔物、もしくは人間をモフることは出来ないので、モフモフ祭りには相応しくない。
「では、配下の中から希望する獣人を集めますか?」
「いや、そこまでは望んでいないからな」
「わかりました」
こういう時、話を大きくするのは大体マリアかルセアである。
しかし、今回はそこまでの規模にするつもりはない。
モフモフは癒しであって、そこに全員を撫でるなどの義務が発生してしまったら本気で楽しむことは出来ない。
だから、今回は俺の手の届く範囲でモフれる人数に限定させてもらう。
食後、2時間たったところで、モフモフ対象たちを俺の部屋に呼んだ。
参加者はドーラ、マリア、月夜、常夜、ショコラ、それとミオから話を聞いて飛んできた冒険者組の犬獣人、ココである。
何故、2時間後かと言うと食休み+入浴の時間だ。
ドーラと常夜以外のメンバーがモフられる前に風呂に入りたいと言ったので、色々含めて2時間後に集合と言うことにしたのだ。
メンバーは全員薄手の寝間着を付けて部屋にやってきた。
パッと見、<色欲>が必要な場面にしか見えないが、ただただモフるだけである。
「ドーラは竜形態、ショコラはハーピィ形態、マリアとココは耳と尻尾を撫でやすいようにしておいてくれ」
《はーい》
「わかった」
「わかりました」
「わかったわ」
それぞれが<変化>したり、寝間着をはだけたりしてモフる準備を整える。
さて、問題は金狐の母娘だ。
「私たちはどのようにすればいいのでしょうか?」
「そもそも、2人はどんな<変化>先があるんだ?」
どのような姿になれるのかわからないと、モフり方が決められないからな。
「人型、2mほどの狐型、耳と尻尾の生えた狐獣人型が基本となります。常夜の場合は狐型のサイズが50cmほどになります」
「そう」
「わかった。じゃあ、月夜は狐獣人型、常夜は狐型で頼む」
「わかりました」
「うん」
折角だから狐型も狐獣人型も両方味わってみたい。2人いるからそれぞれ別の形態になってもらおう。途中で交代させるのもありだな。
月夜たちが変身をすると、そこにはフカフカの尻尾と耳を持った月夜と、全身がふわふわの毛で覆われた狐となった常夜がいた。
狐形態になった常夜からは服が脱げているのだが、不思議なことに寝間着1枚しか落ちていない。……不思議だ。
これで全員の準備が完了した。
「じゃあ、そろそろモフるぞ……」
結局、その日の午後は日が落ちるまで延々とモフモフしていた。
アト諸国連合での自由行動最後の1日に相応しい、とても充実した1日だったと思う。
*************************************************************
ステータス
進堂仁
LV81
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><格闘術LV10><飛剣術LV10>
魔法系
<魔法LV5><呪術LV4><憑依術LV4><奴隷術LV7><無属性魔法LV1><固有魔法>
技能系
<技能LV3><魔物調教LV10 up><獣調教LV5><鍵開けLV3><泥棒LV5><恐喝LV4><統率LV10><鼓舞LV10><拷問LV3>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><縮地法LV5><気配察知LV6><索敵LV6><飛行LV10>
その他
<幸運LV1><迷宮支配LV10><加速LV->
異能:<生殺与奪LV7><千里眼LV-><無限収納LV-><契約の絆LV-><多重存在LV3><???><???>
装備:霊刀・未完、不死者の翼
木ノ下さくら
LV60
スキル:
武術系
<武術LV5><棒術LV10>
魔法系
<魔法LV5><火魔法LV9><水魔法LV9><風魔法LV9><土魔法LV9><雷魔法LV9><氷魔法LV9><闇魔法LV9><回復魔法LV9><魔道LV1><発動待機LV1><固有魔法>
技能系
<技能LV3><速読LV1>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10>
その他
<幸運LV1>
異能:<魔法創造LV->
装備:星杖・スターダスト
ドーラ
LV60
スキル:
武術系
<武術LV5><棒術LV10><盾術LV10>
魔法系
<魔法LV5><竜魔法LV5><固有魔法>
技能系
<技能LV3><調剤LV6>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><突進LV10><咆哮LV10><飛行LV10><噛みつきLV10>
その他
<幸運LV1>
装備:支配者の杖・レプリカ、正義の盾
ミオ
LV57
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV6><弓術LV10>
魔法系
<魔法LV5><固有魔法>
技能系
<技能LV3><魔物調教LV3><料理LV7><家事LV4>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10>
その他
<幸運LV1>
装備:星弓・ミーティア
マリア
LV71
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><暗殺術LV5><魔法剣LV4 up><神聖剣LV4 up>
魔法系
<魔法LV5><光魔法LV6><結界術LV3 up><固有魔法>
技能系
<技能LV3><執事LV6><忠誠LV6 up>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><縮地法LV5><HP自動回復LV6>
その他
<勇者LV6><幸運LV1>
統合された元のスキルポイントを全て所持。
装備:太陽剣・ソル、月光剣・ルナ
セラ
LV56
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><槍術LV9><盾術LV10>
魔法系
<魔法LV5><固有魔法>
技能系
<技能LV3><作法LV5>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><HP自動回復LV6><跳躍LV10>
その他
<幸運LV1><英雄の証LV5><敵性魔法無効LV->
装備:守護者の大剣、守護者の大楯
統合スキル:<武術>=
<剣術>+<槍術>+<棒術>+<盾術>+<弓術>+<暗器術>+<投擲術>+<格闘術>+<斧術>+<騎乗戦闘>+<槌術>+<鞭術>+<柔術>+<爪術>+<籠手術>+<分銅術>
統合スキル:<魔法>=
<火魔法>+<水魔法>+<風魔法>+<土魔法>+<雷魔法>+<氷魔法>+<光魔法>+<闇魔法>+<回復魔法>+<生活魔法>+<空間魔法>+<無詠唱>+<詠唱省略>+<精霊魔法>+<精霊術>+<幻影魔法>
統合スキル:<技能>=
<調剤>+<料理>+<統率>+<鼓舞>+<家事>+<伐採>+<狩猟>+<裁縫>+<採掘>+<鑑定>+<鍛冶>+<庭師>+<乗馬術>+<作法>+<手加減>+<言語解読>+<算術>+<忍び足>+<魔道具作成>+<栽培>+<歌唱>+<舞踊>+<演算>+<建築>+<交渉>+<話術>+<釣り>+<彫刻>+<絵描き>+<美術>+<漁業>+<農業>+<分解>+<修復>+<捕縛術>+<壁登り>
統合スキル:<身体>=
<身体強化>+<HP自動回復>+<MP自動回復>+<跳躍>+<気配察知>+<夜目>+<覇気>+<闘気>+<気品>+<索敵>+<心眼>+<覚醒>+<強靭>+<不動>+<逃走>+<混乱耐性>+<麻痺耐性>+<毒耐性>+<状態異常耐性>+<物理攻撃耐性>+<火属性耐性>+<水属性耐性>+<風属性耐性>+<土属性耐性>+<雷属性耐性>+<氷属性耐性>+<光属性耐性>+<闇属性耐性>+<根性>+<魔法耐性>+<潜水>
<固有魔法>一覧
「リバイブ」「ルーム」「ワープ」「ポータル」「エナジーボール」「アンク」「サモン」「バキューム」「アントラップ」「コネクト」「ブースト」「リフレッシュ」
大変申し訳ありませんが、次回から月3回の更新になります。
具体的には0の付く日(10,20,30)の更新になります(2月は?)。
第5章執筆の進捗が芳しくなく、ストックがガリガリ削れて、精神がゴリゴリ削れているからです。
短編が書けないのも同じ理由です。
ストックができ、安定してきたら週1に戻します、多分。