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第68話 事前準備と暴食植物

感想欄が狐でいっぱいになり、ほぼ誰もギガント・マンイーターを気にしていないと言う……。

狐良いよね。狐。

 ノルクトの街中に入った俺たちは、ハゲ門番(名前は無視)の案内で領主の館に向かう。


 街の中は聞いていた通りに荒れている。

 馬車の周囲には人が集まり、『自分を乗せろ』『私が先だ』などという者ばかりだ。


 何が問題かと言えば、この街は他の街と多少離れた位置にあることだ。

 1番近くにある村に行くのにも徒歩だと最低2日かかるので、急に移動しろと言われたら少々厳しいだろう。

 それに加えて、全員が移動するにはどう考えても馬車の数が足りないと来たものだ。


 憲兵たちも必死に整理をしようとしているのだが、如何せん人数が足りない。

 強制依頼を受けた冒険者も手伝っているのだが、はっきり言って焼け石に水である。

 約半数の冒険者はギルドの強制依頼を無視して、徒歩で別の街を目指したようだ。冒険者ならば身軽だし、数日移動するくらいは訳ないから、そういった選択肢も取れるわけだ。Bランク以上がほぼおらず、罰則も1年間の冒険者資格の凍結だけで、それほど重くないしな。


「門番や憲兵はしっかり職務を果たしているのにな……」

「冒険者の質が低いのですね」

「市民もだね☆」

「獣人の嬢ちゃんとそっちのお嬢ちゃんは厳しいな……。まあ、冒険者たちはもう少し骨があるかと思っていたから残念だよ。市民に関しては……言い方は悪いがこんなもんだと思うぞ。命の危機に冷静に行動できる奴の方が少ねえよ」


 俺の呟きにマリアとティラミスが容赦のないセリフを続け、ハゲ門番が苦笑する。


「俺の知っている村は、魔物の暴走スタンピードに襲われそうになりながらも、馬車を女、子供、老人に譲っていたぞ。冒険者達も強制依頼があったが、ほとんど全員参加していたはずだ」


 ご存じカスタールのお米の村(正式名称未検索)である。

 まあ、そのスタンピードは俺が全滅させましたけど……。


「すげえな、その村……。確かにそんな村を知っていると、この街は醜く見えちまうかもしれないな……」

「ま、その村の方が良い意味で特別なだけで、この街の反応が普通だと思うぞ。とは言え、お隣カスタールの村なんだから、そこまで違いはないはずなんだが……」


 少なくとも、人種にそれほどの違いはないだろうな。


「お隣さんかよ!ん?お前ら、カスタールから来たのか?それにしては入ってきた門の方向がカスタールとは逆だが……」

「そう言う訳じゃないさ。あくまでも、以前カスタールに滞在していた時の話ってだけだよ。ちなみにアンタの言い方だと、俺たちが通った門以外もあるんだな。そっちの門番も残っているのか?」

「門は東西南北で4つあるぞ。門番はまだ残っているはずだ」


 マップを見たところ、ハゲ門番の言う通り4つ門があり、その全てに門番が残っていた。

 門番は職業倫理が高いようだ。うん、感心感心。


「俺たちも最初は中で暴動を止めようとしたんだが、まるっきり効果がなくてな……。仕方ないから諦めて、門番の職務だけは果たそうってことになったんだよ」

「今、門は空だけど、それは構わないのか?」

「さすがにこっちの方が優先順位高いだろ?」

「そりゃそうだ」


 門番も大事だが、それ以上に問題を解決できる戦力の方を優先するのは正しいだろう。

 高い職業倫理に加え、柔軟性も併せ持っているようだ。冒険者どもはハゲ門番を見習え。



 そんな話をしていたら、大きめの屋敷の前に到着した。


「っと、着いたぜ。多分領主様はまだ中にいるだろう」

「この状況でか?」

「まあな。無駄に責任感だけは強いからな。市民が残っているのに、自分だけ逃げだす人じゃあねえよ」


 責任感が強いのは無駄じゃあないと思うんだが……。

 偉い人の仕事は、大まかな方針を決めることと、いざと言うとき責任を取ることの2つだって誰かが言っていた気がする。


「領主様、入るぜ!」


 大声で宣言してから屋敷の扉を開くハゲ門番。仮にも領主の屋敷を遠慮なく開けるのはどうなのだろうか?

 マップの中を確認すると、ほとんどの人員は出払っているようで、領主以外には数名しか残っていなかった。

 ステータスとかから判断して、残っているのは年配のメイドとか年配の執事だけだな。戦闘要員は残っていないみたいだ。……ウチのメイドは戦闘要員でもあるんだけどな。


 ハゲ門番が扉を開いたことにより、年配のメイドの1人が駆けてきた。


「ヨシュアさん、どうかなさいましたか?また何か問題が?」

「いや、吉報だ。こいつらを領主様に会わせたい」

「……わかりました。こちらへどうぞ」


 メイドに案内されて屋敷の中を進む。

 さっきの扉の件もあるし、ハゲ門番は領主に近い位置にいるのだろう。


「ヨシュア……☆ あの顔でヨシュア……☆」

「ティラミスちゃん、ふふ……。笑ったらいけないですよ……」


 ティラミスとさくらが笑いをこらえている。気持ちはわかる。

 俺が無視したハゲ門番の名前だが、「ヨシュア」なのである。山賊顔のハゲ門番の名前が「ヨシュア」なのである。どう見ても「ゴンザレス」とかそんな名前にしか見えないのに、「ヨシュア」なのである。

 マリアや他の魔物娘は、なぜ2人が笑いをこらえているのかわかっていない様だな。


「何か、失礼なことを考えられている気がするな……」

「気のせいだろ」


 ハゲ門番(呼び方は変えない)を適当にあしらう。

 マップでわかっているのだが、領主がいる部屋に到着した。


「領主様、ヨシュアさんがお越しになられました」

「入ってくれ……」


 メイドのノックに対して、中から帰ってきたのは若干か細いような気がする声だった。


「失礼します」


 部屋にいたのはか細い声に相応しい不健康そうな見た目のおっさんだった。

 身長は2mに届きそうなくらいに高いのに、腕も足も細いからすごくガリガリな印象を受ける。目も細くて覇気が感じられない。外に出ているのか問いたくなるくらいに肌が白い。

 何と言うか……領主が務まるのか?


「言いたいことはわかる。領主様は見た目通りの人間だ。そのくせ責任感は強いから、胃薬が手放せない……」


 俺がハゲ門番の方を見ると、頷きながら補足してくれた。


「ヨシュア……、随分酷い言い草じゃないか……」

「すまねえな。でも、事実だろう?」

「まあね……。でも事実の方が人を傷つけることもあるんだよ……」


 それなりに気安いやり取りをする2人を見て、友人なのだろうと勝手な当たりを付けた。


「っと、そんなことは今はいいんだ」

「後ろの人たちを紹介してくれるのかい……?」


 未だに紹介を受けていな俺たちの方を見て領主が呟く。


「ああ、何でもこいつらが災害級の魔物を退治してくれるっつー話だ」

「それは本当かい……?」

「ああ、さっき外で大きな爆発音がしたのを聞いたか?」

「聞いたよ……。まさか……!?」

「おう!こいつらの魔法だ。とんでもねえ威力の<水魔法>と<風魔法>だったぜ。傭兵だっつー話だから、結構な報酬はかかると思うが……」


 冒険者の場合、依頼内容によって推奨される報酬額がある程度決まっているが、個人で依頼を受ける傭兵となると、その報酬は言ってしまえば「時価」となる。……時価って怖いよね。


「報酬か……。今用意できるのは1億ゴールドが限界だね……。それで手を打ってくれないかい……?」

「「な……!?」」


 交渉も何もなく、提示可能金額ギリギリを提示した領主に、メイドとハゲ門番が驚きの声を上げる。


A:事実です。生活費等を除いた、余剰の貯蓄が約1億ゴールドです。


 アルタがこう言ったということは、本当に駆け引きではなく単純に全財産を提示したということか。


「お前馬鹿か!何でいきなり全財産を提示してるんだよ!交渉しろよ交渉!」

「いや……、交渉に時間をかけるくらいなら、その時間で魔物を討伐してほしいからね……。その分市民の不安や負担も減るし……」

「それでも、もうちょっとこう……。ああ、もう!今更言っても始まんねえな!」


 あまり有能には見えない領主だが、市民のために迷わずに全財産をかけられるのだから、善良ではあるのだろうな。……それが本当に良い事かは置いておくとする。


「で、領主様の提示額は1億ゴールドだ。この依頼、受けてくれるか?」

「話が早いのはいいんだが、まだどんな魔物なのかという話すら聞いていないのだが?」

「オウ!」

「説明、してなかったんだね……」


 ペチンと禿げた頭を叩くハゲ門番。いい音がする。

 その後、領主とハゲ門番からギガント・マンイーターについて話を聞いたのだが、俺たちが知っている以上の情報は出なかったので割愛する。


「改めて聞くが、この依頼を受けてくれるか?」

「ああ、この依頼を受けよう」


 ハゲ門番のテイク2に対し、俺は了承の意を示す。

 それから、細かい傭兵契約の書類を作り、ちょっとした提案をしつつ細かい契約内容を詰めていく。

 傭兵契約の書類?マリアがルセアに話を通した後、超特急で作られたものをさっき<無限収納インベントリ>経由で渡されたよ。


「この後、冒険者ギルドに寄ったらすぐにでもギガント・マンイーターの討伐に向かう」

「冒険者ギルド?何しに行くんだ?」


 俺が今後の予定を伝えると、ハゲ門番が疑問の声を上げた。


「念のため、ギルドにも報告に行くんだ。万が一、向こうでも討伐依頼とかあったら面倒だしな。それに俺たちは今、名前を広めようと思っているんだ。事前に話を付けていた方が、それも早まるだろ?」


 「謎の新人冒険者大作戦!!!」の名残である。話がスムーズに進んじゃったから、冒険者ギルドが蚊帳の外に置かれそうだったので屁理屈を言う。

 テンプレやりたいねん。


「まあ、そういう話なら俺もついていくぜ。出来れば無理してでもギガント・マンイーターの討伐についていきたいんだが……」

「それは止めてくれ。来るとしても門まで、だ」


 その点はしっかりと断る。これも先ほど決めた契約内容の1つである。

 最初、ハゲ門番もギガント・マンイーター討伐に同行したいと言っていた。もちろん、気持ちはわかる。それでも、手の内は見せられないと断固として断ったのだ。

 魔物娘たちは人間の姿だとできることが随分と限られてしまうからな。相手も相手だし、全力で戦える状況を作ってやりたい。


「わかってる。言ってみただけだ」


 それでも残念そうに言うハゲ門番である。


「じゃあ、僕の方で一応お触れを出しておくね。『魔物退治の専門家がギガント・マンイーター討伐に向かったから、まずは落ち着いて避難してほしい』って……。どれだけ効果があるのかわからないけど……」

「ああ、頼んだぜ」


 仮にも領主が宣言しておけば、俺たちの功績がある程度公になるだろう。冒険者ギルドと合わせて広めれば、それなりの知名度は得られそうだ。

 領主に連絡を頼んで、俺たちは冒険者ギルドに向かう。



 街中の喧騒は相変わらずだが、俺たちに絡んでくる者はいなかった。馬車を持っていないからね。


 現在はまだ昼前だ。討伐の期限は今日の夕方までと言うことにしている。ギガント・マンイーターは危険だが動き自体はそれほど速くない。今日の夕方にでも街を発てば逃げきること自体は出来るだろう。


 呆れつつも荒れた街中を歩き、冒険者ギルドに到着する。


「邪魔するぜ」


 そう言って扉を開くハゲ門番。

 冒険者ギルドの中には、ガラの悪い冒険者たちが昼間から酒を飲んでいる……なんてことはなかった。当然である。現在、この街は非常事態なのだから。

 と言うか、冒険者ギルドの中には人がほとんどいなかった。訂正、ギルド内には受付嬢1人しか存在していなかった。


「あ、ヨシュアさん!」


 受付嬢の少女は、俺よりも少し年下くらいだろう。茶髪のツインテールを揺らしながらカウンターからこちらに向かってくる。若干涙目である。何があったし。


「おう、ケニーの嬢ちゃん。ギルマスを呼んでくれるか?」

「それが……、ギルド長は隣の街に救援を呼びに行くとか言って、馬車で数名のCランク冒険者を連れて出て行っちゃいました……」

「はあ!?嘘だろ!?」


 驚くハゲ門番だが、それも当然だろう。

 『隣の街に救援を呼びに行く』と言うのは、本来であればそれほど間違った対応ではない。しかし、それはギルド長が行うことではないし、今回のように街の放棄を決めている時に行うことでもない。

 つまり、ギルド長は我先にと逃げたのだ。しっかりと言い訳を残した上で……。


 あれ?この状況じゃあ『魔物退治専門の傭兵』と言って注目を集めることも出来ないんじゃね?


「じゃあ逆にケニーの嬢ちゃんはなんで残っているんだ?」

「ギルド長がいないのも問題だからって、半ば無理矢理に臨時のギルド長代理にされましたー」

「何じゃそりゃ!?」


 ハゲ門番が叫ぶが、俺も同じ気持ちである。

 職業「ギルド長」ってそんなに簡単に渡していいモノだっけ?


A:いいえ。


 だよね。


「それで、ヨシュアさんは何をしに来たんですか?私で対応できることでしょうか?」

「ああ……、こいつ等が災害級の魔物を倒すっていうんでな。その報告に来たんだが……、意味はなさそうだな」


 それでも健気に務めを果たそうとするケニーにハゲ門番が説明をした。


「災害級の魔物を……、倒す?」

「冗談に聞こえるかもしれないが、本気みたいだ。俺も実力の一部を見せてもらったが、もしかしたらと思わせてくれるような力だった」

「もしかして……さっきの『雨』ですか?」

「ああ、そうだ」


 意外と勘が鋭い様だ。

 こちらの方を見るケニーに対して、俺が質問をする。


「ケニー、だったか?災害級の魔物を倒すっていう依頼は出ているか?すでに依頼が出ているのだったら、こちらも手を出しにくいからな」

「出ていません。と言うか、出せる人がいません。報酬額が一体どれだけ高くなるのか想像も出来ませんから。個人で出せる依頼ではないです」


 ちなみに領主から提示された報酬の1億は、冒険者に支払われた報酬としては過去に20件ほどしか例のない額だそうだ(アルタ情報)。多いのか少ないのか微妙な回数支払われていた。

 もちろん、個人の依頼ではなく、領主なり国家なりの依頼だ。


「それだけ確認が出来ればいい。じゃあ、俺たちはすぐにでもギガント・マンイーターの討伐に向かう」

「もういいのか?宣伝するとか言っていなかったか?」

ここでか・・・・?」

「おう、俺が悪かった……」


 少女ケニーしかいない冒険者ギルドで、一体何の宣伝ができるというのだろうか。


 俺たちはそのまま冒険者ギルドを後にし、ハゲ門番と共にギガント・マンイーターが向かってきている方角の門まで向かった。


「じゃあ、俺はここまでだな。おめえらも無理はするんじゃねえぞ。勝てないとわかったらさっさと逃げて来いよな」

「大した相手じゃない。そんな心配は不要だ。まあ、気持ちだけ受け取っておく」

「おう、またな!」


 そうして、ハゲ門番と別れた俺たちはギガント・マンイーターの討伐に向かった。

 一応確認したところ、ハゲ門番を含め、誰も後を付けてきたりはしていない様だった。



 少し歩き、街が見えなくなったところで『ポータル』で転移、その後飛行することでギガント・マンイーターに接近した。


「あれは……、凄いですね……」


 さくらがその光景を見て思わず呟いた。

 空から見下ろすとその光景の異常さがより鮮明にわかる。ギガント・マンイーターと思われる魔物の前後で、全く別の風景が広がっているのだ。

 ギガント・マンイーターの前には草原、後ろには荒野が広がっているのだ。本当に根こそぎ喰い尽くす魔物のようだな。

 ギガント・マンイーターは全長10m程で、ただのマンイーターの6mよりも相当に巨大だ。


《聞いていた通り、動き自体はそれほど速くはないのだな》

《あれで動きまで速かったら地獄っすよ》

「空を飛ばない相手なら、ティラちゃんでもなんとかなるかな☆」

《みんながんばれー》


 そろそろ、後のお楽しみにととっておいた、ギガント・マンイーターのステータスをチェックしよう。


ギガント・マンイーター(狂化・暴食)

LV98

スキル:

<HP自動回復LV7><触手LV8><毒攻撃LV8><酸攻撃LV8>

呪印カース

<暴食LV->

備考:あらゆる生物・無生物を捕食する狂植物。


<暴食>

テイミングが不可能になる。逃走が困難になる。あらゆるものを喰い尽せる。


 ……随分と愉快なことになっているな。

 とりあえず、気になるのは2点、『狂化』と<暴食>だな。


A:『狂化』は魔王の影響により暴走した魔物の状態を指します。魔王が世に現れた時には、必ずと言っていいほど一部の魔物が『狂化』します。


 魔王の影響ってなんだ?後、『狂化』した魔物は魔王の支配下に置かれるのか?


A:魔王の影響についての詳細は不明です。『狂化』しても魔王の支配下に置かれるわけではありません。仮定の話ですが、目の前に魔王がいても気にせずに襲い掛かります。そもそも、魔王は『魔族の王』であって、『魔物の王』ではありません。


 人類からしてみればどちらも敵だが、手を組んでいるわけではないということか。

 じゃあ、次は<暴食>について説明してくれ。と言っても、なんとなく予想は付くんだがな。これ見よがしに「七つの大罪」だし……。


A:お察しの通り、「七つの大罪」を司る呪印カースで、『狂化』した魔物には7つの内のいずれかが与えられます。


 大体想像通りか。まあ、「七つの大罪」は安直で扱いやすいテーマだからな。そして、大体の場合は強力である。

 まあ、この場でギガント・マンイーターを倒すということには何の変りもないのだが……。


 そうだ、今の話を皆にも伝えておいてくれ。


A:了解しました。


「確かに強敵みたいですね。仁様、いざというときは私が助太刀に入ろうと思うのですが、構わないでしょうか?」

「ああ、頼む」


 アルタから話を聞いたであろうマリアが提案してきたので了承する。


《出来ればマリア殿の手を煩わせることなく、妾たちだけで勝利したいな》

《そうっすね。自分が思っていたよりは強敵みたいっすけど……、頑張るっす》

「頑張るよ♪」


 魔物娘たちも戦意は十分のようだ。



 ギガント・マンイーターの進路上に着地し、魔物娘たちがギガント・マンイーターと相対する。


《行くっす!》

《わかった!》

「おー♪」


 魔物形態のメープルとショコラ、そして人間形態のままのティラミスが声を上げる。

 ちなみに非戦闘メンバーはそこそこ離れた場所からこっそり様子を覗っている。


「$%#$%&&!」


 ギガント・マンイーターもこちらの存在に気が付き、聞きなれない奇声を発した。意味のある言語ではない様で、『コネクト』による翻訳も出来なかった。

 ギガント・マンイーターはメープルたちに向けて触手(蔓)を伸ばそうとするのだが、


《『アクアジャベリン』っす!》

《『ウィンドジャベリン』!》

「てやー♪」


 メープルが<水魔法>の『アクアジャベリン』、ショコラが<風魔法>の『ウィンドジャベリン』を<無詠唱>で放つ。どうやら、2人ともジャベリン系の魔法が気に入ったようで、優先的に使うことに決めたらしい。


 今まで配下になった者にはステータスなりスキルなりを最初に与えて、ある程度は戦えるようにしていた。

 しかし、魔物娘たちは元々かなりのレベルで戦えるので、欲しいスキルを選ばせたのだ。

 そして2人が選んだのが<無詠唱>のスキルだ。元々魔法主体で戦う2人にとって、これ以上に有効なスキルはなかったようだ。

 <無詠唱>のスキルレベルは5にしておいたから、ジャベリン系の魔法が<無詠唱>で放てる最高レベルの魔法と言うことになる。それもジャベリン系の魔法を気に入った理由の1つだろう。


 で、横にいるティラミスが何をしたかと言うと、一言でいえば「投石」である。

 魔法が一切使えないティラミスには、遠距離攻撃の手段として<投擲術LV5>をプレゼントしたのだ。

 単純な腕力で言えばトップクラスのティラミスが、正確無比な投擲をしてくるというのは相当な脅威だろう。


「#%$&%@:!?」


 3つの攻撃が直撃し、ギガント・マンイーターが叫び声(仮)を上げる。HPを見ると、これだけで5%ほど減少していた。


 少しひるんだが、そのまま触手を伸ばしてくるギガント・マンイーター。


《『アクアスプレッド』っす!》

《『ウィンドスラッシュ』だ!》


 迎え撃つのはレベルこそジャベリン系よりも低いが、広い攻撃範囲を誇る魔法だ。ほとんどの触手は魔物娘たちに届く前に撃ち落とされる。

 何気に、この隙にもティラミスは投擲を繰り返している。HPは1回当たるごとに2%ずつくらい削れている。ちなみに石は<無限収納インベントリ>の中に大量保存されている。


《これは、削り切るのは大変そうだな》

《そうっすね。<HP自動回復>が厄介っす》

「HP減らないよー☆」


 メープルたちも連続で攻撃をしているのだが、ギガント・マンイーターには<HP自動回復LV7>があり、HPが減ったそばから回復していくのだ。

 元々のHPがとても高いうえにダメージが通りにくい。かなり強力な魔物のようだ。<火魔法>の使い手がいないのも悪い方向に作用しているようだな。

 それでも、多少のダメージは蓄積し続けたのだが……。


《マジっすか!?辺りの物を食べてHPが回復してるっす!?》

《くっ、回復量の方が大きくなってしまった!》

「じり貧だよー☆」


 恐らくは<暴食>スキルの影響だろう。周囲の物を触手を使って喰らうと、ギガント・マンイーターのHPが今まで以上に回復し始めたのだ。

 これにより、与えるダメージよりも回復する量の方が上回ってしまい、事実上のノーダメージとなっている。


《だが、周囲の物とて無限ではあるまい!このまま攻撃を続ければ、いつかはこちらが勝つ!》

《その前にMPが切れるっす!》

《しまった!?》

「投石は万能だね♪」

《石の数も無限じゃないっす!》

「そうでした☆」


 決定打に欠ける遠距離戦を繰り返しているので、ここらでちょっとだけ念話によるアドバイスをする。


《ティラミス。お前の本領は遠くから石を投げることだけなのか?》

《!……そうだったね☆ 投石はあくまでも手札の1つだったよね☆ メ―ちゃん☆ ショコちゃん☆ 接近戦するから援護して♪》

《了解っす!》

《わかった!》


 ティラミスは投石の手を止め、ギガント・マンイーターに向けて走り出す。

 当然、ティラミスに向けて触手が繰り出されるので、同じく少し接近したメープルとショコラがそれを打ち落とす。


「あ☆ やばっ♪」


 しかし、全ての触手までは捌ききれず、1本の触手がティラミスの腕に絡みついた。

 そのまま、ギガント・マンイーターに引き寄せ……られなかった。

 ティラミスの足は両方地に付き、しっかりと踏ん張っている。


「それほど、力が強いわけじゃないのね☆」


 どうやら、触手1本程度ではティラミスとの力比べに勝つことは出来なかったようだ。

 それに気が付いたギガント・マンイーターはティラミスに向けて触手をさらに伸ばす。


《さすがにこれ以上は許さないっす!》

《当然だ!》


 迫りくる触手を今度こそすべて撃ち落とすメープルとショコラ。

 今度はギガント・マンイーターがティラミスを弱らせるために、<毒攻撃>と<酸攻撃>を仕掛けようと上方にある口?を開いた。


「させないよ♪」


 一本の触手を逆につかんだティラミスが思い切り引っ張る。


「$%%@:;#!?」


 口?を開こうとして隙の出来ていたギガント・マンイーターは上手く踏ん張れずにそのまま倒れ込む。


「やっちゃえー♪」

《うむ!》

《おうっす!》


 倒れ込み、周囲の物を食べられなくなったギガント・マンイーターに向け、ここぞとばかりに攻撃を叩き込む。

 面積が広いから、ティラミスが接近戦を仕掛けながら、別の場所にはメープルとショコラが魔法をぶつけるということが出来る。


 ティラミスはいちごパンツを全開にしながら蹴りを叩き込んでいる。1番体重や攻撃力が乗って強力なのは蹴りだから仕方がない、とは本人の談だ。


 ガリガリとHPの削られていくギガント・マンイーター。HPが3割を切ったところで急に動きが激しさを増した。

 カスタール女王国で戦ったマンイーターと同じように、HPが減ったことで激昂モードになったのだろう。あの時は周囲の魔物が寄ってきたんだが……。


「来るわけありませんよね……。周囲の魔物は、ギガント・マンイーター自身が食べちゃってますから……。呼ぶ相手がいなければ何の役にも立ちません……」


 そう、さくらの言う通り、周囲の魔物達はあらかたギガント・マンイーターの胃袋の中だ(比喩表現)。

 激昂モードがまるで機能していない。


「どうやら、勝負あったみたいですね。私が出るまでもなかったみたいです。見事でした」

《かったー!》


 そんな話をしていたら、ギガント・マンイーターのHPが0になった。


《勝ったっす!》

《妾たちの勝利だ!》

「よっしゃー♪」


 勝鬨を上げる3人娘に、俺たちも近づいていく。


「おめでとう。よくやったな」

「見事でした」

「おめでとうございます……。皆すごかったです……」

《うぃなー!》

「ハニーの助言がなかったら、厳しかったね☆」

「うむ、妾たちもまだまだ未熟だな」

「そうっすね。遠距離戦に固執したのは失敗だったっす」


 人間形態(全裸)に戻ったメープルとショコラが服を着ながら戦いを振り返る。


「まあ、チームを組んでまだ短いんだ。これから自分たちに会った戦い方を模索していけばいいさ」

「そうっすね」

「うむ」

「頑張るよ♪」


 ティラミスたちによるギガント・マンイーターの討伐はこうして終了した。

 さて、後は後始末だけだな……。


みんな大好き「七つの大罪」です。

余談ですが、この作品は一般的な強者の扱いが酷いです。ここまで言えば……わかるな?

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