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第67話 空の旅と傭兵

タグに「ときどきブラック」を入れようか検討中です。

仁の発想って時々ヤバいですからね。ここまで読んで、仁を普通の善性の人間だと思っている人もあまりいないでしょうが……。

 マンイーターはカスタール女王国のトルテの森でも戦った魔物だ。

 あの時のマンイーターは異常種で、森の生態系を狂わせていた。今回、メープルは頭に『ギガント』を付けていた。名前から考えても、マンイーターの上位種であることは間違いがないだろう。


A:はい。特殊な能力はなく、単純に巨大化して能力の上がったマンイーターです。


 異常種は元となる魔物よりもレベルが高かったり、特殊なスキルを覚えていたりする。

 そして、異常種と上位種を比較した場合、基本的には上位種の方が強い。異常種はあくまでも、『元の魔物と比較した場合に強い』と言う範疇に収まるようだ。

 つまり、ギガント・マンイーターはマンイーターの異常種よりも強いということになる。


「ご主人、どうかしたんっすか?」


 考え込んでいる俺を見て、メープルが不思議そうに聞いてきた。


「いや、マンイーターにはちょっとした思い出があってな……。少し考え事をしていたんだ」

「じゃあ、ギガント・マンイーターと戦うのは止めた方がいいっすか?となると、自分たちが戦う相手は金狐になるっすか?自分としてはマンイーターの方が良いっすけど……」

「いや、別にいい思い出があるとか、そう言う訳じゃない。普通に敵だったしな。それと、金狐は俺に譲ってくれ。出来ればテイムしたいからな」


 狐好きの俺としては、出来れば金狐は殺したくない。

 もちろん、り過ぎていたら話は別だが、現時点で魔物娘達と戦わせるのは尚早だ。


「勿論良いっすよ。搦め手中心の金狐相手じゃあ、自分達の力試しにならないっすから。皆はどうっすか?」

「うむ、妾も賛成だ。どうせならば力比べがしたいからな」

「ティラちゃんも♪ と言うか、ティラちゃん力比べしかできないし♪」


 満場一致でギガント・マンイーターが次の標的となった。よしよし……。

 これで金狐のテイムが現実的になって来たぞ。出来れば、狐はモフモフしたいからな。


「さくらはどうだ?付いてこれそうか?」

「はい、それくらいなら何とかなると思います……。捕食シーンさえ見なければ……」

「それは俺も見たくないな」


 直接的なシーンさえ見なければ、グロいのが苦手なさくらでも大丈夫だろう。

 マンイーターと同じならば、獲物は酸で溶かすはずだ。最もグロいシーンはそれだろう。

 まあ、酸だろうが何だろうが、俺の前で人を喰うような真似は絶対にさせるつもりがないんだけど。


「1つ疑問があるのですが……」

「何だ?」


 横で話を聞いていたマリアが手を上げて質問する。


「メープルさんが知っている魔物と言うことは、相当長く生きていると思うんですが、そんな危険な魔物が何故今まで討伐されなかったのでしょうか?」

「ああ、その事っすか。ギガント・マンイーターも縄張りから出ないタイプの魔物っすからね。人の目にはあまり触れていないっす。偶然見つけてしまった冒険者以外は……」


 討伐されていないということは、ギガント・マンイーターに出会ってしまった冒険者は死んでいる可能性が高いだろうな。

 生き延びて報告していたら、きっと討伐隊とかが組まれているだろうし……。


「後、周囲の物を食い尽くしたら、縄張りの中に獲物がいなくなるのではありませんか?」

「一通り食い尽くしたら、隠れて休眠状態になるみたいっす。で、周囲が回復するまではお休みっす。周期的に起きて、また被害を出すっす」

「なるほど……。わかりました」


 そう言う意味では、それほど人的被害は出ていないように聞こえる。

 起きる周期と言うのも相当に長いのだろうし、周囲の獣とか魔物とかを喰い尽すだけなんじゃないのか?


「メープルの話を聞いた限りだと、それほど『邪悪な魔物』って印象は受けないな」

「そうっすね。そう聞こえるっすよね。ただ、縄張りの中にある荒野が、ずっと昔はかなり大きな街だった、と言えばもう少しわかりやすいっすかね」

「それは間違いなく害悪だな……」


 要するに町1つまるごと喰らい尽したと言う訳だ。悪意の有無はともかく、人間にとっての害になっていることだけは間違いがない。

 しかも、討伐隊が組まれていないということは、1人も逃がさなかったってことだしな。


「と言う訳で、容赦なく倒すっす」

「うむ」

「頑張るよー♪」


 魔物娘達3人のやる気も十分である。

 そんなにタモさんに負けたのが悔しかったのだろうか?

 現在、俺が保有する戦力の中でも、タモさんは上位に君臨するのだから、普通に考えて最近仲間になったメンバーが勝てる相手ではないのだが……。


A:どちらかと言うと、マスターに情けないところを見られたことの方が問題みたいです。


 それ、今更気にすることなのか?

 メープルにしろ、ショコラにしろ、最初に会った時に情けないところは一通り見ているんだけど……。名誉挽回出来ないレベルでカッコ悪かったぞ。2匹とも漏らしていたし。



「ミオ、セラ、ドーラは明日付いてくるのか?」


 疑問に思ったことを他のメンバー聞いてみる。

 自由行動期間だから無理にと言うつもりはない。

 さくら同様、ミオとセラも最近はあまり一緒に行動していないから誘ってみたのだ。


《ドラゴンいないならドーラもついていくー!》


 ドーラは本格的にドラゴンが嫌いみたいだな。

 ドーラに少し詳しく話を聞いたところ、どうやら竜人種ドラゴニュートとドラゴンの仲は種族レベルで悪いようだ。


「明日はドラゴンは出てこない予定だぞ」

《ついてくー!ごしゅじんさまといっしょー!》


 ドーラが同行することに決まった。

 そもそも、今日は火竜を相手にするから別行動をしただけで、ドーラとしても出来れば俺について行きたいと思っていたようだ。


 続いて、ミオとセラの方に顔を向ける。


「私とセラちゃんは一緒に行けないわ」

「申し訳ありませんですわ」

「何かあるのか?」


 無理強いをするつもりはないが、何をするのかくらいは聞いておきたい。


「明日、カスタールで料理関係のイベントがあるの。各地の料理人が集まって、いろんな料理が並ぶのよ。セラちゃんは食べる側、私は作る側として参加するのよ。サクヤちゃんに直にお願いされちゃったからね。私も自由行動期間中だからってOKしちゃったし……」

「ですわ……」


 なんともらしい理由である。いや、美味い食事は大事だけどさ……。


「態々セラが食べに行かなくても、メイドに買いに行かせて、<無限収納インベントリ>に入れとけば良いんじゃないか?」

「ご主人様!料理には食べるに相応しい状況っていうのもあるのよ!いくら劣化しないからと言って、後で食べるよりその場で食べた方がおいしく感じるはずよ!」

「ですわ!」


 食べ物に関しては全力の2人が、力強く宣言してくる。


「ふむ、祭りの中で食べる焼きそばみたいなものか?」


 夏祭りとかで焼きそばが美味く感じることがあるが、多分あの焼きそばって品質で言えば結構下の方のはずだ。

 祭りと言う空間シチュエーションが一種の調味料になっているのだろう。


「若干ネガティブな例えだけど、概ね合っているわ」

「何の話ですの?」


 セラが不思議そうに聞く。もちろん、元の世界の話だから俺とさくらとミオ以外にはわからないだろう。


「前の世界の話だよ☆ 海の家の焼きそばも同じよね♪」


 そうだった。ティラミスも一応わかるんだった。

 そしてティラミスの発言に食いついたのはマリアだった。


「ティラミスさん。後で詳しく教えてください」

「え、そんなに気になること♪?」

「はい、仁様の世界についてのお話は可能な限り知っておきたいのです」

「ま、まあいいけどね☆」

「結構、長くなるわよ……」


 経験者ミオは語る。以前、ゲームだなんだの話について、マリアから質問攻めにあっていたからな。新しい犠牲者が出ることになるわけだ。

 つーか、ティラミス。前世の記憶あまりないのにそういうどうでもいい話は覚えているんだな。覚えておく話の優先順位間違えてない?


「わかった。じゃあ、ミオたちは同行しないんだな」

「ごめんね」

「申し訳ありませんですわ」

「いや、あくまでも自由行動期間なんだから気にするな。料理、美味かったら屋敷でも再現してくれよ?シチュエーションと言う調味料はないかもしれないけど……」

「任せておいて頂戴!」

「……メイドに頼めば、シチュエーションも再現してくれるとは思いますわ」


 セラ、それは思っていても口に出すな。

 ほら、メイドたちが目配せしているじゃないか。あ、数名のメイドが退出して準備に向かっているぞ……。


 明日、ギガント・マンイーターの討伐に参加するのは、メープル、ティラミス、ショコラの魔物娘3人。同行するのは俺、さくら、マリア、ドーラの4人(+タモさんの1匹)に決まった。



 次の日、いつものように不死者の翼ノスフェラトゥで空を飛び、ギガント・マンイーターの縄張りへと向かう。

 メープルによるとギガント・マンイーターの縄張りは荒野になったり、森になったり、草原になったりと安定していないらしい。もちろん、荒野はギガント・マンイーターが全てを食い尽くした結果だ。


 本当は馬車でゆっくり旅をするのも好きなのだが、今回の『邪悪な魔物討伐祭り』は自由時間での余興と言う側面が強いため、空を飛んでさっさと移動することにした。


 ギガント・マンイーター討伐の同行者の内、俺、ドーラ、メープル、ショコラ、タモさんは<飛行>スキルにより空が飛べる(俺とタモさんは半分インチキ)。

 ちなみに、マリアは<結界術>により空中移動ができるので、『ワープ』、と合わせれば事実上の<飛行>となる。さくらは<風魔法>により、自身の身体を浮かすくらいのことは出来る。ティラミスだけは落ちたら死ぬ。


「3人で行動するとき、私だけ空飛べないのが足引っ張るかも☆」


 メープル、ティラミス、ショコラの3人にはいずれ魔物討伐の旅に出てもらう予定だが、空を飛べないティラミスがいることで、移動速度が低下する懸念がある。


「メープルのステータスが上がれば平気になるとは思うがな」


 メープルの魔物形態ならば、ティラミスの人間形態を乗せることは出来る。しかし、ティラミスの体重があまりにも重いため、その状態では浮き上がることが出来ないのだ。

 現に今ティラミスを運んでいるのは俺だ。メープルにはさくらとマリアを運ばせている。

 まあ、魔物を倒し続けてメープルのステータスが上がれば、ティラミスを乗せることが出来るようになるだろうけどな。


「何だったら、旅に出る前に魔物退治をしてステータスを上げればいい」

「それ採用だね☆ メーちゃん、一緒に魔物退治しよ♪」

《いいっすよ。自分もティラミスを持ち上げられなかったの地味にショックだったっすから……》

《妾も当然付き合うぞ》


 旅に出るにしても、多少は強化してからの方が安全だろうな。

 素のステータスも十分に高いんだが、常識の範囲を大きくは越えていないし……。え?常識知らずが言うなって?はっはっは。



「普通に空を飛ぶのは久しぶりですね……。迷宮ではあくまでも低空を移動するために使っただけですし……」


 大海蛇シーサーペント形態のメープルの背中に乗った状態でさくらが呟く。


「ああ、さくらが空を飛んだのは不死者の翼ノスフェラトゥの練習した時以来か……。また使いたければ貸すぞ?」


 不死者の翼ノスフェラトゥを入手したときに、メインメンバー全員で<飛行>スキルの練習をした。<飛行>スキルなんて不死者の翼ノスフェラトゥでもなければ付与できないのだから、飛行の経験が増えるわけがない。


「いえ、私はもういいです……。仁君も見ていましたよね?私の飛行……」

「ああ、そういえばそうだったな……」

《おちたー!》

「ドーラちゃんの言う通りです……」


 さくらの運動神経のなさは<飛行>スキルレベル10も超越しているようで、不死者の翼ノスフェラトゥを貸した時も、見ていて危なっかしい飛行だったのだ。

 そして終いには落ちかけた。配下を召喚する『サモン』の魔法を使わなければ大ダメージは必至だっただろう。

 そう言えば、さくらが接近戦をしたのって、エルディアから出る途中でスライムとかゴブリン相手にしたくらいだよな。それ以降は頑なに近接戦をしていない気がする。本当に運動神経ないんですね……。


「空が飛びたいときには、誰かにお願いすることにします……」

《自分に頼んでっ欲しいっすね》

《ドーラにもまかせてー》


 メープルとドーラが立候補した。

 古くから生きている強大な魔物のくせに、メープルはどうやら人を乗せることに抵抗がない様だ。随分と下っ端的である。語尾からもわかるが……。


「メープルさん、お願いしてもいいですか?」

《いいっすよ》

《なんでー!?》

「ドーラちゃんに乗ると考えると、凄い罪悪感が……」

《むー、ドーラもやれるのにー》


 選んでもらえなかったドーラがむくれる。

 ドーラに乗って空を飛ぶのって、罪悪感が半端ないんだよ。ステータスも<飛行>スキルも高いから、可能と言えば可能なんだけどさ……。


「ドーラは俺と一緒に空を飛ぼうな?」

《わーい!ごしゅじんさますきー!》


 機嫌を治したドーラが、空中で俺に抱き着いてきた。割かし危ない。



 ドーラに抱き着かれた状態でしばらく空の旅を続ける。

 ここに来るまで、残念ながらブライト・ファルコンのような空の魔物との戦闘はなかった。


A:ギガント・マンイーターを発見しました。


 アルタがギガント・マンイーターを発見したようだな。相変わらず優秀な秘書である。

 一応、俺も「マップ内にギガント・マンイーターがいる場合にアラートを表示」とか設定すれば似たようなことは出来るけど、俺がやるよりもアルタに任せた方が楽だから、ついついサボってしまっているのが現状だ。


《え?それはおかしいっす。まだ、しばらく移動しないとギガント・マンイーターの縄張りにはならないはずっすよ?》

「異常事態、でしょうか……?」


 アルタは俺以外のメンバーにも念話をしているようで、メープルとさくらが疑問の声を上げた。


A:異常事態です。想定されていた縄張りを明らかに超えて行動しています。それに伴い、ここから北にある、ギガント・マンイーターの進路上にある街の冒険者ギルドで強制依頼が発生しています。


「街を上げてギガント・マンイーターを討伐するつもりなのか?もしそうなら、俺たちが横槍を入れると言うのもどうなのだろう?」


 カスタールのアタリメ付近で起こった魔物の暴走スタンピードみたいに、街が危機的状況と言うのならともかく、倒せる獲物なら横取りは良くないよね?


《横取りは良くないっす》

《残念だが仕方があるまい。その場合、妾たちの相手は金狐と言うことになるのか?》


 縄張りに厳しい魔物娘たち(ティラミス除く)も同じ意見のようだ。あ、金狐は駄目。俺にちょうだい。


A:そもそも、強制依頼の内容は『ギガント・マンイーターからの避難の手伝い』です。


 戦わないのかよ!

 アタリメの魔物の暴走スタンピードの時、冒険者たちは魔物の群れに立ち向かったぞ。……結局俺が全部持って行ったけど。


A:Aランクの冒険者が敗走しており、現存の戦力で撃退は不可能だと判断したようです。


 ……もしかして、アト諸国連合の冒険者って弱いのか?


A:平均するとカスタール、エステアよりも随分と落ちます。マスターの行動した国で比較すると、カスタール女王国>エステア王国>=エルディア王国>>アト諸国連合となります。ここではAランク冒険者が事実上の最高位です。


 魔物が強くて冒険者が弱いって、随分とバランスの悪い国々だな……。


A:強大な魔物相手には基本的に数で押し切ります。数が揃わないときは滅びます。


 ……。


「仁様、これから如何なさるおつもりですか?」


 メープルに掴まって空を飛んでいるマリアが、手を上げて質問してきた。

 ……空中を高速移動している時に手を上げるのは、危ないので止めてもらいたい。


「そうだな。このまま北にある街に向かおうと思う」

「仁君には何か考えがあるのですか……?今から避難中の街に向かうメリットがないように思うのですが……」

「ああ、さくらの言う通り、とっておきの考えがあるぞ」

《おおー!》


 ドーラが合いの手を入れてくれた。嬉しい。


「名付けて、『謎の新人冒険者大作戦!!!』だ!」


 『謎の新人冒険者大作戦!!!』とは、今から北にある街に向かい、そこでティラミス、メープル、ショコラの冒険者登録を行う。

 そして、現在猛威を振るっているギガント・マンイーターを倒すと宣言する。

 当然、そこにいる冒険者に笑われるだろう。ここまででテンプレが発生すると嬉しい。


 絡んできた冒険者を返り討ちにし、そのままギガント・マンイーターを討伐する。

 戻ってきてその証拠を見せれば、間違いなく有名になる。

 そして、Aランク冒険者でも倒せなかったギガント・マンイーターを討伐したティラミスたちは謎の新人凄腕冒険者として扱われるようになるだろう。


 と言う説明を全員にした。


「ティラミスたちにはアト諸国連合の強大な魔物を討伐して回ってもらう予定だし、冒険者として魔物退治のスペシャリストのような立場になれば、色々と楽になると思ったんだよ」


 最初はこっそりと各地を巡って討伐を繰り返してもらうつもりだった。しかし、隠れてこそこそ行動するのって、精神的に負担になることもあるんだよな。

 それならば、いっそのこと最初から相応しい立場を持っていた方がいいだろう。

 ギガント・マンイーターを討伐した状態で、「自分たちは魔物退治のスペシャリストだ」と宣言したら、それなりの確率で信じてもらえると思うからな。


A:基本的に魔物は冒険者登録できません。竜人種ドラゴニュート等の例外はありますが、<変化へんげ>スキルで人型になっているティラミス、メープル、ショコラの3名は冒険者登録できないタイプの魔物です。


「マ・ジ・か!?」


 驚愕の真実が明らかになった。ドーラが冒険者登録できたから、人型の魔物なら全員冒険者登録できると思っていた。


《へー、そうだったんっすか》

《妾もそんなことは考えたこともない。知らなかったな》

「生まれたてのティラちゃんが知ってるわけないよね☆」

《へー》


 魔物娘たちも知らなかったようだ。いや、知っているわけがないと言えばそれはそうなんだが……。


「私は前にアルタに聞きましたよ……。仁君、知らなかったんですか……?」

「私もです。仁様も知っていると思っていました」

「馬鹿な……」


 さくらとマリアは知っている、だと……。


A:それほど重要な内容でもないので、マスターにはご説明していませんでした。


 確かにそれほど重要じゃないけどさ……。知らなくてもほとんどの場合困らないけどさ……。何だろうね、この置いて行かれた感。


「はあ、じゃあ『謎の新人冒険者大作戦!!!』は開始前から失敗か……。仕方ない、『謎の傭兵大作戦!!!』に変更だ」

「ふふっ、諦めるつもりはないんですね……。仁君らしいです……」

「もちろんだ」


 さくらも苦笑いである。

 1度失敗したくらいで諦めるなんて俺の性に合わないからな。


《傭兵って、冒険者とどう違うんっすか?》

《それは妾も知らん。主人、教えてくれないか?》


 メープルとショコラは人間社会の職業には、それほど詳しくないだろうな。


「傭兵はほぼ戦闘の依頼を専門で受ける。冒険者は討伐とか採取とか、色々な依頼を受けるんだ。冒険者はある種の資格を含めた職業で、傭兵は資格とかがない職業だ」

《それほど差はないんっすね?》

「公な資格だから、冒険者の方がいいと思ったんだが……」

「人間の常識を知らない2人に、冒険者業が出来るか不安だよ☆ 傭兵の方が自然だと思うよ♪」

「言われてみれば、それもそうだな……」


 一応、ティラミスに交渉の部分を担ってもらおうと思っていたんだが、態々危ない橋を渡る必要もないだろう。


「じゃあ、アドバンス商会が契約している傭兵で、魔物退治のスペシャリストと言う立場はどうだろう?」


 各地を移動する以上、何らかのわかりやすい後ろ盾があった方がいいからな。

 「冒険者」が使えないとなると、手持ちのカードは「アドバンス商会」くらいしかない。


《自分は構わないっすよ。あどばんすなんたらって主人の配下っすよね》

《うむ、いいだろう。そう言えば、ハーピィ達の卵を卸すというのもその名前だったな》

「ティラちゃんも問題なし☆」

「わかりました。ルセアさんには私の方から連絡しておきます」


 魔物娘たちが了承したので、マリアがルセアに連絡をする。

 ルセアが表向きのアドバンス商会のトップだからな(裏のトップは俺だと言って譲らない)。

 マリアの連絡後、まもなく各地のアドバンス商会支店では、傭兵を雇っているという体で話が進むようになる。念話のおかげで口裏合わせが非常に楽なのである。



「そろそろ街に行くか。少し離れた場所に降りて、そこから馬車で移動すればいいかな。ティラミスは重くて馬が可哀想だから『ルーム』で待機な」

「はーい……☆」


 体重ネタによりティラミスのテンションが下がった!


A:馬車で向かうのはお勧めできません。


 おっと、ここでアルタからストップが入るのか。で、何故?


A:後1日程でギガント・マンイーターが街に接触すると予想されており、街の中は大混乱に陥り、かなり荒れています。馬車の周りに人が集まり、馬車は移動できる状態にありません。馬車で向かった場合、マスターの移動が阻害される恐れがあります。


 強力な魔物が街に向かっているとわかったら、混乱に陥るのも当然と言えば当然だよな。

 ……でも、あまり言いたくはないが、カスタールの米の村(仮称)は魔物の暴走スタンピードの時、馬車は女性や子供、年寄りに譲っていた。それと比べるのは酷だろうか?

 確かに馬車で行くのは面倒の元だな。


「みんなも聞いていたと思うが、馬車だとトラブルの元になるみたいだ。申し訳ないが、歩いて向かうことにするぞ」


 上空から街が見えてきたところで地面に降り立ち、街へと歩を進める。

 ある程度街から離れているので、10分ほど歩く。


「一応言っておくけど、度を越えて不愉快な出来事があったら普通に撤収だ。『謎の傭兵大作戦!!!』も、どうしてもここでやらなければいけないことじゃないからな」


 チンピラに絡まれるテンプレくらいなら構わないんだが(むしろ歓迎)、度を越えて不愉快な目に遭うのだったら(高慢な貴族等)、そんな場所で有名になることには何のメリットもなくなる。

 その場合は撤収して、街が滅んだらしばらくしたらこっそりギガント・マンイーターを討伐しようと思う。『謎の傭兵大作戦!!!』も、別の国や町で機会を見つけて行えばいいだろう。


「仁様が一言お命じになってくだされば、仁様の敵は私が切り捨てます」

「さすがにその機会はないと思うな」


 相変わらず物騒なマリアである。

 しかし、もしも殺したいほど憎い相手がいるのなら、俺は必ず自分で殺すだろう。

 少なくとも、他人に頼んで殺させるつもりはない。自分の因縁を他人任せにするのは好きじゃないからな。



 その他ちょっとした打ち合わせをしていたら街の入り口に到着した。

 街の名前はノルクト。ガシャス王国にある街で、人口は1万人程度だ(マップ情報)。

 ちなみにガシャス王国っていうのはカスタールの隣にある小国で、食料自給率がやたらと低いらしい。ギガント・マンイーターが生息していることと何か関係があるのだろうか?考えすぎか……。


 ノルクトの街には門も壁もあるのだが、ギガント・マンイーターからしてみれば、ウエハースチョコレート菓子くらいにしかならないだろう。

 何故、俺の『固さ』の基準はいつも食べ物なのだろうか?でも、今回は正しい気もする。


「街に入りたいんだけど、通行料はいくらだ?」


 禿げたおっさんの門番に通行料を尋ねる。このおっさん、門番なのか。まるで山賊のように厳つい顔をしているな。


「お前……、こんな時に街に入るなんて何のつもりだ?火事場泥棒じゃねえだろうな?」


 通行料を尋ねたら、火事場泥棒扱いされました。いや、確かにタイミングを考えたらそう取られてもおかしくはないのか……。

 はい、そこのマリア、殺気を出さない。


「何かあったのか?」


 とりあえず、知らない体で話す。


「知らないで来たのか?今、この街に災害級の魔物が迫っている。この街最高戦力のAランク冒険者が挑んでも勝てず、かろうじて逃げ出してきたんだ。そのせいで今、街の中はかなり荒れている。街に入るのも危ないし、ここに留まるのも危ない。だから、2重の意味で入らない方がいい」


 あれ?このおっさん、顔の割には親切(失礼)?


「そうなのか。それは大変だな。で、通行料いくらだ?」

「話を聞いていたのか!?街に入っている場合じゃないだろ!?お前らもさっさと逃げろ!」


 話を聞いても街に入るといった俺に対してハゲ門番が怒鳴る。


「いや、丁度いいからな。街の中に入らないと話が出来ないだろう?」

「丁度いい?やっぱり火事場泥棒でもする気か?」


 どうしても俺を火事場泥棒にしたいのだろうか?山賊顔に火事場泥棒扱いされる俺、……新しいな。

 マリアが剣に手を伸ばし始めたので頭を撫でる。マリアの手が止まる。尻尾が揺れる。


「違う違う、売り込みだよ、売り込み」

「売り込みだと?何を売り込むんだ?」

「戦力だ。この街に迫っている魔物を倒す傭兵の売り込みだよ」

「はあ?」


 何を言っているのかわからないといったように、呆けた顔をするハゲ門番。

 俺は魔物娘3人の方を指さしてハゲ門番に説明する。


「そこの3人は、そんな見た目だが戦闘能力は一級品だ。この街に迫っているのがどんな魔物かは知らないが、そこの3人に倒せない相手ではないと思う」

「はあ?こんなお嬢ちゃんたちが強い?冗談を言うにしても、場所が悪いだろ……」


 ハゲ門番は全く信じていない様だった。それも当然だよな。


「メープル、ショコラ、上空に向けて<水魔法>と<風魔法>を撃ってぶつけ合え」

「はいっす」

「うむ」


 だから、目に見える証拠を見せてあげよう。信じざるを得ないように。

 2人に指示をしてレベル5魔法である『アクアジャベリン』と『ウィンドジャベリン』の詠唱をさせる。


「『アクアジャベリン』っす」

「『ウィンドジャベリン』だ!」


 2人の宣言とともに上空に水と風の槍が放たれる。極太、巨大な槍だ。

 何10mか上に飛んだところで2つの槍はぶつかり、大きくはじけ飛ぶ。


-ドオオン!-


 『ウィンドジャベリン』は風なので見た目何も起こらないが、『アクアジャベリン』は水だから水しぶきが盛大にはじけ飛んだ。

 門の外側はまるで雨が降った後のように水浸しになった。風のせいで水しぶきが広範囲に広がったようだな。


 正直、見栄えはいいけどそれほど強力な魔法ではない。でも、実力を疑っている相手に見せるには丁度いい技だ。


「嘘……だろ……?」

「少しは信じてくれたか?」

「あ、ああ……。そうだ!アンタら、本当に魔物を討伐してくれるのか!?」


 期待するような目でこちらを見てくるハゲ門番。


「もちろん、報酬は貰うがな」

「傭兵って言っていたから、それは当然か……。冒険者じゃないのか?」

「俺は冒険者登録をしているが、その3人は違う。アドバンス商会って知っているか?」

「ああ、聞いたことがあるな。最近、カスタール、アトで勢力を伸ばしている商会だろ?カスタール王家がバックについているとかって噂も聞いたことがあるな……」


 そんな噂になっているのか。

 懇意にしていることをバックに付くというのなら、ある意味では正しいのだろう。


「そのアドバンス商会と専属契約をしている傭兵なんだよ。それだけで仕事として成り立っているから、態々冒険者登録をする必要がないんだ」


 嘘です。本当は冒険者登録をさせて、今度こそテンプレをしたかったです。

 カスタール、エステアではテンプレが見事に潰されてしまったからな……。


「アドバンス商会に問い合わせて貰っても構わないぞ。実力も含めて保証してくれるだろうな。そんな時間があれば、だが……」

「さっきの魔法の件もあるし、嘘をついているようにも見えねえ。……よし、領主様に話を付けるから、ついて来てくれねえか?もちろん、通行料はいらねえぞ」

「それはそれ、これはこれ。1人いくらだ?借りを作るのは嫌いなんだ」


 元々、借りを作るのが好きではない性格だ。特に1番嫌いなのが『嫌いな場所、相手に借りを作る』である。エルディア王国とかな。

 この街の場合、トラブルの種はあちこちにあって、最悪見捨てる可能性もあるから、借りを作らないでおきたいのだ。


「……1人1000ゴールドだ」

「はい、じゃあこれ料金ね」


 そう言ってハゲ門番に7000ゴールド支払い、街の中に入る。当然、タモさんの分は支払っていない。

 タモさんを傭兵として紹介するのが、本当は1番強力だと思います。

作者も狐が大好きです。

猫派、犬派を問われたら、『狐が好き』と言います。

さて、仁は金狐をテイムできるのでしょうか?

ここまで書いておいて、テイムしない未来があるのかは置いておきます。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
奴隷達、信者達の福利厚生は充実させてあげてください。(笑)
頑なにフライの魔法を作らないのは何故???
[気になる点] 「空が飛びたいときには、誰かにお願いすることにします……」 《自分に頼んでっ欲しいっすね》 《ドーラにもまかせてー》 ここの部分、「自分に頼んで欲しいっすね」 じゃないんですか?…
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