表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/355

第66話 孤児院と餌付け

久々にあのキャラのステータスを書きました。

「困りましたね。力ずくで引きはがしましょうか?」

「ひぅ!?」


 俺に抱き着いたまま、ビビって声を上げる幼女。

 子供相手でも容赦がないエリンシアである。俺の方が国益になるから、俺の迷惑になるような子供相手には容赦がないのかもしれない。


「そこまではしなくてもいいが……。どのみち、俺は旅をしているからお前を連れていくことは出来ないぞ?」

「あぅ……」


 旅と聞いて落ち込む幼女。さすがに旅についてくるのは無理だとわかっているようだ。


「うぅ……。でも、いっしょにいたい……。会えなくなるのはいや……」


 しょんぼりとする幼女。

 横で考え込むようなしぐさをしていたエリンシアが口を挟む。


「では、この子を奴隷にするというのはどうでしょうか?」

「孤児院に返すんじゃなかったのか?」

「そんなものは私の権限でどのようにでもなります。むしろ解体される孤児院の受け入れ先を探す手間を考えれば、全員奴隷にするのもいいかもしれませんね」


 やっぱり、エリンシアは色々と極端である。

 今回の件でエリンシアが問題にしたのは、迷宮を悪用することだけで、孤児の死亡自体はそれほど気にしていなかった。エリンシアの中で、孤児の国益貢献率は相当低く見積もられているようだ。


「それに、その子にとっても仁さんにとっても悪い話ではないと思いますよ。まず、仁さんは首都の屋敷を奴隷メイドで維持、管理していますよね」

「誰から聞いたんだ?それ」


 少なくとも、奴隷メイド云々は公開していないはずである。

 マリアが少し警戒した様子でエリンシアを見る。


「前に仁さんの屋敷の前を通った時に、仁さんと最初に会った村で奴隷として購入した少女が、メイド服で玄関の前を掃除していたのを見かけました。他にも数名メイド服を着た女性がいたのですが、奴隷の少女と対等に話をしていたので、基本的にメイドは全員奴隷だと判断しました。もしかして、知られたくない内容でしたか?」


 やだ……。エリンシアさんの記憶力と洞察力パネぇ。


「いや、絶対秘密と言う訳ではないが……」

「そうですか。でも念のため口外しないようにいたします」


 そして相変わらずの気遣いである(有益な人間限定)。そしてマリアも警戒を解いた。


「それぞれのメリットについて話を再開します。仁さんにとっては、その奴隷メイドに見習いが1人増えます。幸い、その子の見た目はそれなりに良いので、一応は得になるのではないでしょうか?」

「ふむ……」


 確かにこの幼女の容姿は整っている。

 現時点ではボロボロの格好で傷だらけだが、きちんと整えれば相当見栄えが良くなるだろう。可愛い子を奴隷に出来るというのは、それだけで得と言えるのは間違いない。

 俺のメリットは理解した。しかし、問題はこの幼女の気持ちである。望んでもいない、理由もない相手を奴隷にするのはあまり好きじゃないからな(絶対にしないとは言わない)。


 シンシアたちの場合は、奴隷になることが半ば決まっていたから奴隷にした。

 フィーユの場合は、ガーフェルト公爵への嫌がらせと言う理由があったし、放っておいても奴隷になったのは変わらなかっただろう。

 銀狼王シルバーロードウルフのところで奴隷にした女性たちは、言ってしまえば口封じのために奴隷にするのが手っ取り早かった。


 理由の大小は別として、それぞれに一応の理由はあった。今回は俺の中にある『奴隷にするための条件』には引っかかっていないのである。

 この子も珍しいスキルを持っているが、『可愛い』とか『レアスキルを持っている』は、半強制的に奴隷にする理由には足りないのである。


 よってこの場合、俺に対するメリットは考慮から外す。肝心なのはその幼女の意思のみである。レアスキルは助けたお礼にコピーさせてもらうけど……。


「その子のメリットとしては仁さんとの縁が残ることです。屋敷でメイドをしていれば、時々は仁さんに会えるでしょう。それに、成長したら旅に連れて行ってもらえるかもしれません」

「わたし、どれいになる!やしきにいく!」


 エリンシアの話を聞いた幼女が力いっぱい宣言した。こんなにもはっきりとした奴隷化宣言は初めてである。よっぽどエリンシアの言葉が魅力的に感じたのだろうか?

 その場の勢いだけでそんなことを決められても困るので、もう1度しっかりと話を聞こう。


「いいのか?俺が奴隷を酷く扱わない保証なんてどこにもないんだぞ?」

「いんちょうせんせいよりはきっとマシ!」


 孤児院の院長が具体的にどんなことをしていたかは知らないが、少なくともそれよりマシなのは間違いないだろうな。

 殴って痛めつけるのは趣味じゃないし……(殺るなら1撃で殺るという意味で)。


「屋敷の奴隷メイド少女の表情を見れば、その心配がないのは明確ですけどね」


 エリンシアが呟く。確かに奴隷メイド少女たちは3食しっかり食べており、全員健康的な美少女になっている(胸のサイズには個人差があります)。


「屋敷にいつもいるわけでもないんだぞ?」

「こじいんにいって、にどとあえないよりはマシ!」


 孤児院に戻ったら、もう二度と会うこともないだろう。


 幼女の目は真剣そのものだ。……ずいぶんと懐かれたものだな。

 ふう、そこまで言われては仕方がない。お望みどおりに奴隷にしてやるぜ。……セリフだけ切り取ると、凄い悪人である。


「わかった。お前を俺の奴隷にしてやる」

「うん!」


 喜んで服をめくり上げる幼女。ささっと奴隷契約をして、幼女が俺の奴隷になった。


「これで今からお前は俺の奴隷だ」

「うん!」


 何が嬉しいのか、ニコニコと笑い続ける幼女。


「では、今日はこれで失礼しますね。まだ、することがいくつもありますので……」

「またな」

「失礼します」

「はい、仁さん、マリアさん、またいつかお会いしましょう」


 そう言ってエリンシアとは別れた。エリンシアっていつも動き回っている印象があるよな。


「それじゃあ、俺の屋敷に向かうか。シオン」

「あれ?なまえ?」


 首を傾げる幼女ことシオン。名乗っていないのに名前を知っているのは不思議だろう(ヒント:ステータス)。


「間違っていたか?」

「うぅん、あってる。でもなんで?」

「凄いだろ?」

「ぅん!」


 質問に答えずに、質問で返す。上手く誤魔化せたようだ。……奴隷にしたのなら誤魔化す理由もないけど。


「じゃあ、今から俺の屋敷に連れていくぞ」

「ぅん!」


 とりあえず、物陰に『ポータル』を設置し、シオンを連れてカスタールの屋敷に向かう。


「え?あれ?」


 きょろきょろと辺りを見渡すシオン。いきなり景色が変わったので驚いているのだろう。


「俺がやったんだ。凄いだろ?」

「ぅん!」


 もう、シオン相手なら説明するのが面倒なことは、「凄いだろ?」だけで全てを済ませていい気がしてきた。


「おかえりなさいませ。主様、マリアさん。そちらは?」

「ああ、新しいメイド候補だ」


 屋敷に戻ると、ルセアが出迎えてくれたので、今までのあらましを軽く説明する。


「わかりました。私が見事立派なメイドに仕上げましょう。シオン、メイドの道は厳しいですよ」

「がんばる!」

「主様についていきたいメイドは多いのです。ライバルは多いですよ」

「もっとがんばる!!」

「頑張れよ」

「すっごくがんばる!!!」


 やる気を漲らせているシオンをルセアに預けた。



 シオンを預けた後は、もう1度迷宮の隠しエリアに戻った。キャロ達に孤児院(のようなモノ)を作らせているので、その進捗を確認するためだ。


「ジン様、お疲れ様です」

「ああ、孤児院の方はどうなった?」

「順調です、ピョン。丁度いいサイズの家を孤児院として使うことに決め、子供たちの移動も完了しています、ピョン」


 マップを見ると51層の家の1つに22人の子供と、何人かの信者メイドがいることが確認できた。……何かまた増えているんだけど?


「はい、また2人ほど捨てられていました、ピョン」

「まあ、受け入れると決めた以上、何人であろうと変わらないんだけどな」


 幸いにして人員の確保は容易だし(増え続けるメイドを見ながら)、51~60層と言う広大な土地も存在する。子供の100人200人を養うのに苦労するなんてことはないだろう。


 ついでに言えば食料的な問題も存在していない。なぜならば、迷宮の土地(52層)を利用して農業を始めたメイドたちが存在するからだ。

 以前、米とか味噌を作り始めたメイドがいると言ったが、実はそれらの計画は迷宮を用いて行われているのだ。


 俺がダンジョンマスターになって間もなく、51層以降の話を聞いたメイド達から打診があったのだ。

 自家製の米に興味のあった俺は迷わずに許可を出した。その結果、ダンジョンマスターよりも迷宮に入り浸るメイドが誕生したのは笑い話である。

 ちなみに、以前迷宮産の食べ物に抵抗があると言ったが、ダンジョンマスターになってから問題ないことを念入りに確認したので、今では抵抗はほとんどない。……マッシューは食べないけどな。


「それと、子供たちは全員奴隷になることを了解していますので、後はジン様が契約をするだけです、ピョン」

「全員が受け入れたのか?」


 保険的な意味合いも含めて、孤児たちには奴隷にする方針だ。奴隷になりたくないという者は、強制的に奴隷にするつもりだった。あまりにも反抗的だったら、リリースすることも視野に入れていた。別に慈善事業で孤児院経営をするわけじゃない。あくまでも将来的な人材の確保を含んだ救済措置だ。将来に期待の持てない相手を育てるつもりはない。


「はい。今までの環境が酷すぎたようです、ピョン。あの生活に戻るくらいなら奴隷の方がマシだ、と全員が即決でした、ピョン」

「なるほど……」


 国営の孤児院はともかく、そうでない孤児院では満足な食事にありつけないことも多々あるそうだ。ここにいるのは孤児だけでなく、親に捨てられた子もいるが、どちらにしてもまともな環境ではなかっただろう。

 孤児の奴隷も溢れているため、一部の例外を除いて子供は奴隷になることすら難しい。悪い環境の孤児院と比べたら、奴隷の方がマシな場合すらあるようだ。


 なお、子供を拾った場合、最初にすることは食事を与えることである。基本的に飢餓状態だからな。

 配下のメイドたちが差し入れを渡していたそうだ。……それこそが奴隷になることを受け入れる1番の理由のような気がしないでもない。



 俺は孤児院の子供たちに<奴隷術>をかけるため、キャロとコーラルと共に孤児院に向かった。


「あ、キャロ様だー!」

「コーラル様もいるー!」


 家に到着すると、庭で遊んでいた10人の子供たちがキャロとコーラルに群がってきた。

 捨てられた子供と言うから、傷心中だと思っていたのだが、随分と元気のいい子たちだな。外にいた子供の声を聞いて、さらに4人ほどの子供が外に出てきた。コーラル、キャロもそれなりに親しげで、特にコーラルが子供たちからは懐かれている。


A:保護されて数日で随分と回復しました。保護されたばかりの子供は家の中で蹲っています。


 さすがに保護されたばかりで、ここまで明るく振る舞うのは無理だろう。まあ、数日でここまで回復したというのも随分と凄い気がするのだが……。


「この人だれー?」

「初めて見るねー」


 俺の方を不思議そうに見る子供たち。そこへ子供たちと一緒に遊んでいた3人のメイドたちが近づいてきた。


「「「ご主人様、ようこそいらっしゃいました」」」


 深々とお辞儀をするメイドを見て、子供たちがハッとした顔をする。俺が自分たちを保護した人間の上位者であることを理解したのだろう。


「い、いらっしゃ……」

「あ、あの、あの……」


 子供たちが慌てふためく。

 挨拶をしようとしている子もいるが、正しい挨拶の仕方を知らない様で、アタフタしているだけに留まっている。


「『仁様、いらっしゃいませ』ですよ」

「じんさま、いらっしゃいませ!」×14


 メイドが横から口を出し、子供たちはそれに従った。聞き分けはいい様だな。


 その後は家の中に入り、1人1人<奴隷術>をかけていった。キャロの言っていた通り、全員納得済みのようでスムーズに作業は進んだ。

 残念ながら珍しいスキルを持っている子はいなかったが……。


 全員を奴隷にしたので、次に行うことは餌付けである。

 ミオを召喚して料理を作らせる。思い切りが大切なのでハーピィの卵を使った料理も一品含めている。


「クロードたちの時もそうだったけど、子供には餌付けが1番よね」

「ああ、子供って美味いものを食わせてくれる人間のことを嫌いになることはあまりないからな」

「そうですね。私も子供の信……、何でもありません」


 少し腹黒いことを言い合う俺とミオ。マリアが最後何か言いかけたが、それっきり口を閉じている。


 少し離れた所では、子供たちが涙を流しながらご飯を食べている。ふさぎ込んでいるはずの子供も含めて全員が、である。

 もちろん、毎回こんな食事を与えるわけはない。今回は孤児院設立の記念と言うことで、特別に最高級の料理を与えたのだ。


 正直に言えば餌付けの餌の方が随分と高い状態だ。釣りで例えると、海老でシラスを釣っている感じだろうか。将来への投資にしても過剰すぎる気はする。

 一応の思惑としては、俺の役に立つ人間になったら、このレベルの料理が食べられるようになるということを教えることにある。どう見ても十分なモチベーションになるからな。


 食事が終わり、俺たちも屋敷に戻ることにした。食事の力は偉大なようで、帰るときには孤児院の子供たち全員から見送られることになった。好感度も上々の様である。


 ちなみに孤児院担当メイドたちも<料理>スキルを持っているので、ミオほどではないが子供たちの心は鷲掴みだろう。さらには必殺のミオ直伝、『子供受けする料理100選』を伝授されているらしいから安心である。

 ミオが後でこっそり、100の内の半分くらいは似た料理で数を水増ししたと教えてくれたが……。



「仁様、ティラミスさんたちを迎えに行かなくていいのですか?」

「あ、忘れてた……」


 マリアに言われて思い出したが、ティラミスたち魔物娘3人組には51層よりも下の階層を見学させていたのだ。もう結構遅い時間だし、そろそろ回収して行こう。

 そう思ってマップを確認すると、3人は52層にある広場にいることが分かった。


「で、お前ら何やってんの?」


 俺が52層の広場に転移して最初に見たのは、ボロボロになって倒れこんでいる魔物娘3人と、その場で動かない(粘液なので自然に揺れているのは除く)無傷のタモさんだった。


「悔しいっす!全く歯が立たなかったっす!」

「攻撃が、一切、通じない……☆」

「空すら飛ぶのか……、妾よりも速く……」


 どうやら、何らかの理由でタモさんと魔物娘3人が戦うことになったのだろう。後は見ての通り、3人はタモさん相手になす術もなく敗れ去ったということだな。


 タモさんは俺の従魔になって結構経つ。その間ずっと<生殺与奪ギブアンドテイク>の恩恵を受け続けている。そして、魔物用のスキルは多くを<擬態>で使用できるタモさんに与えている。正直言ってタモさんの戦闘能力はかなり高くなっているはずだ。


 それと、タモさんは他の配下と違ってステータスを落とすように指示をしていない。その理由は大きく2つ存在する。

 1つ目はタモさんには技術を要求することがないからだ。他の配下にはレベルやステータスに現れない強さを得るためにステータスを落とした状態での戦闘をさせることがある。しかし、タモさんは人間的な感覚がなく、言い方は悪いがレベルやステータス以外の成長と言う概念がないのだ。よって、ステータスを落とした状態で戦闘しても、手加減以外の意味はなくなる。

 2つ目はタモさんが便利屋にして非常用と言うべき存在だからだ。<擬態>により出来ることが圧倒的に多いタモさんは、ちょっとしたことを頼むのにすごく便利だし、こっそり隠して非常用として扱うこともある。今も1匹さくらの護衛を頼んでいるしな。そんな存在のステータスを態々落とすメリットが全くないのだ。いざと言うときに力を使えない非常用戦力に価値はないからな。


 そんなわけで、最近仲間になったばかりの3人とタモさんでは、積み重ねたステータスの差が大きすぎる。3人まとめてかかっても勝てる相手ではないだろう。


 そういえば、最近タモさんのステータスを確認していなかったな。どれどれ……。


タモ

LV50

スキル:

武術系

<武術LV1>

魔法系

<魔法LV1><固有魔法オリジナルスペルLV->

技能系

<技能LV1><統率LV10><鼓舞LV10>

身体系

<身体LV5><身体強化LV10><吸収LV10><分裂LV10><突進LV10><咆哮LV10><飛行LV10><混乱攻撃LV10><麻痺攻撃LV10><毒攻撃LV10><酸攻撃LV10><噛みつきLV10><擬態LV10><胞子LV10><寄生LV10><自爆LV10><根性LV10><触手LV6><硬化LV10><浮遊LV10><催淫LV10><腐敗攻撃LV10><光線LV4>

その他

<幸運LV1><光輪LV10>

擬態できる魔物:

マンイーター、銀狼王シルバーロードウルフ、ブライト・ファルコン、その他100件を超えたので省略。


 基本的に武術系、魔法系のスキルを使う魔物には<擬態>しない様で、ほとんどのスキルが身体系に集中している。

 魔物の魔石を吸収し、余ったスキルを与えているため、いつの間にやらとんでもなく強くなっていた。<擬態>出来る魔物の数は尋常ではなく、中には俺の見たことのない魔物の名前もある。恐らくは配下が倒した魔物だろう。


 さらにはちょくちょく分裂もしており、現時点でこのタモさんと同等のタモさんが後7匹いる。その気になれば、タモさん軍団だけで国を落とせるかもしれない。少なくとも、カスタール女王国とエステア王国は落とせる自信がある。


「ちょ、止めてよね!?(サクヤ)」

「勘弁してください……(カトレア)」


 これは後でこの話をした時(食事中)の2人の反応である。嫌だなー、そんなこと本気でするわけないじゃないか。……スライムの王国か。悪くないな。


「何でタモさんと戦うことになったんだ?」

「今の自分たちの実力が知りたかったんっす。主人は規格外だからしょうがないとして、主人の配下の中でどのくらいの位置にいるのかが知りたかったんっす」


 メープルが俺の質問に答える。

 魔物の感性によるものだろうか、上下関係や領分なわばりに関しては厳しい様だ。

 自分たちの立場を確かめずにはいられなかったのだろう。


「それで、よりにもよってタモさんに挑んだと言う訳か」

「人に挑むのも問題があると思って、最初は従魔最強と言われるこのお方に挑んだのだが、結果はこの通りだ……」


 ショコラが悔しそうに言う。

 悔しそうなセリフの中にどことなく敬意がうかがえるのは、上位者と認めたからだろう。

 一応、ステータス的には従魔最強はドーラなんだが、ドーラとタモさんが戦ったらタモさんが勝つ可能性が高いと思う。良くも悪くもドーラは子供だからな。ムラが大きいんだよ。


「さすがに3対1なら少しは戦いになると思ったんだけどね☆ まさかの完敗だよ♪」

「相手が悪かったとしか言えないな。単純な戦力で言えば、ほぼメインパーティと同じくらいだからな。それも全力の……」

「そうと知ってたら、挑まなかったかな☆ 2人に誘われただけだし……☆」


 力なくうなだれるティラミス。

 人間からの魔物転生者であるティラミスは、他の2人と違って魔物の感性の影響を受けていない。この戦いに参加したのも誘われてのことだったらしい。


「でも、他に従魔っていうとミドリとミラ、後はミオのポテチか……。見事に戦闘タイプじゃないな」


 ミドリは生産、ミラはメイドをやっている。一応、2人(匹?)とも戦闘能力がないわけではないが、どちらも戦いが好きなタイプではない。ミラに関しては元村娘だしな。ポテチ?ヘタレは知らん。


「そうなんっすよね。他に挑める相手がいなかったんっすよ」

「うむ、主人よ。戦闘型の従魔をもう少し増やしておいても良かったのではないか?」

「むしろティラちゃんたちが今後そのポジションだと思うな☆」

「そうだな。そのポジションを頼むことになると思う」


 人間にしかできないこともあれば、魔物にしかできないこともあるだろう。

 『人間になれる魔物』とか、『元人間の魔物』とか、『元人間の魔物転生』とかバラエティに富んだ子が多いので、その辺の区別は曖昧な気もするが……。


「主人、頼みがあるのだが……」

「何だ?」

「うむ、次に邪悪な魔物の討伐をする場合、妾たちに戦わせてはくれないだろうか?」

「自分からもお願いするっす。こんな情けない姿をさらしたままでは終われないっす」

「ティラちゃんも役に立つってことを証明してあげるんだからね♪」

「わかった。そうだな、明日は魔物退治に行くか」


 7日間の自由行動も後2日だが、これと言った予定もないので魔物娘たちと共に『邪悪な魔物退治』に出かけることにした。



「そう言えば、<速読>以外のスキルって習得できたのか?」


 今度こそ屋敷に戻った後、夕食時にさくらに尋ねる。

 さくらは自由行動中、図書館で本を読むことを選択した。それと並行して、新しいスキルを自力習得するという試みの最中でもある。


「色々試したんですけど、<速読>以外は習得できませんでした……。聞きかじりの知識でスキルまで昇華するのは難しいですね……」

「そうか、それは残念だったな」


 そうだよな。そんなんでスキル習得できるのはマリアくらいのモノだろう。


「駄目で元々でしたから……。それに<速読>だけでも十分です……」


 どんなスキルを狙っているのかは教えてくれなかったが、元々出来たという<速読>が本命であり、他のスキルは「上手くいけば」程度のモノだったのだろう。それほど悔しそうではない。


「ご主人様は自力習得0だものね」

「ミオ、口は禍の元と言う諺を知っているか?そんなに迷宮墓地エリアで一晩過ごしたいのか?」


 余計なことを口走ったミオに対して軽い殺気を飛ばす。


「申し訳ございませんでした」


 速攻で土下座をするミオ。謝るくらいなら、余計なことを言わなければいいのに。


「罰として、おかず1品献上」

「うう、はい。『ミオちゃん特製コロッケ改二』をお1つどうぞ……」


 ミオからコロッケを1つ貰う。

 このコロッケはハーピィの卵を使った超高級品である。1人2個と言う限りがあるので、ミオとしても大打撃だ。


「話を戻しますね……。スキルじゃないんですけど、<魔法創造マジッククリエイト>についての実験もしました……。その過程で1つ魔法を創ってみました……」

「へえ、さくらが自主的に魔法を創るのって初めてじゃないか?どんな魔法だ?」


 今までさくらが創った魔法は全て、俺からの要請があって創ったものだ。さくらが自分自身で考えて創った魔法はなかった。

 ちなみに今まで創ってもらった魔法は全部で10個。


リバイブ:部位欠損を治す。HPは回復しない。

ルーム:亜空間に部屋を作る。

ワープ:目視できる範囲に瞬間移動。

ポータル:任意の場所に設置して自由に瞬間移動。

エナジーボール: MPを栄養素の塊である丸薬に変換する。

アンク:死者を蘇生させる。

サモン:配下を召喚する。

バキューム:周囲にある魔石や価値のあるアイテムを回収する。

アントラップ:周囲の罠を破壊する。

コネクト:魔物の言葉を翻訳する。魔物以外にも適用可能。


 転移系が多いのは重要だからである。後は回復系とか、その場その場で必要になった魔法だ。

 さて、さくらが創った魔法とはどんな魔法だろうか。


「私が創った魔法は『ブースト』と言います……」


固有魔法オリジナルスペル>『ブースト』

発動後、次に使用する魔法の効果を上げる。攻撃、回復、補助魔法に有効。


「私は攻撃魔法が創れません……。では、攻撃魔法を補助する魔法はどうかと考えた結果、思いついた魔法です……。どうやら、直接的な攻撃力がなければ攻撃に関する魔法も作れるみたいです……」

「どれくらい効果が上がるんだ?」

「一律で1.2倍に上昇します……。試しなので、あまり複雑なことはさせずに消費MPも少なめです……。私の創った魔法にしては、ですけど……」


 ターン制のゲームとかでは、次の1撃に限り攻撃力を上げたりするというのはよくある技である。魔力によるゴリ押しが出来るからあまり考えていなかったが、状況によっては結構有効だったりするのだろうな。


 さくらの異能に関してはヘルプで確認できない以上、自分たちで色々試していくしかない。

 さくらが自分で考え、試すことに慣れていけば、さくらの考えた魔法がどんどん増えていくことだろう。


「今後も思いついたことや試したいことが出来たら、どんどん試してみよう」

「はい、色々とやってみます……」


 さくらも最初にこの世界に来た頃よりは随分と前向きになったようだ。


「それで、明日なんですが、仁君に同行してもいいでしょうか?1人で本を読むだけと言うのも少し寂しくなってきたので……。前は本を読んでいる時間が1番幸せだったから、こんなこと思いもしなかったんですけど……」


 こっそりと最後に悲しいことを言うさくらさん。

 本を読む以外の幸せが出来たのなら、それは良い事だろう。前向きになったのも良い事だろう。ただ、時々過去の悲しい話が出てくるのはあまり変わらない様だった。


「同行するのは構わないぞ。でも明日は『邪悪な魔物退治』だけど大丈夫か?」

「あまりハードな『邪悪な魔物』でなければ……」


 村を1つ滅ぼして住人をアンデッドにしていた不死の王ノーライフキングと、定期的に人を襲い、女性を攫っていた銀狼王シルバーロードウルフは、普通の感性を持つさくらにとってはハードだろうな。


「メープル、丁度いい魔物っているか?」

「うーん、難しい条件っすね……。パッと思いつくのは2匹っすね」

「へえ、どんな奴だ?」


 無茶振りにも対応できるメープルの知識は中々に役立つな。喋り方は下っ端っぽいが、本当は結構な大物と言うのは本当らしい。


「1匹は金狐っす。金狐は直接人を殺すことはあまりないっす。でも、人を騙すのが得意で間接的に人を苦しめるっす。つまり、直接悲惨な光景を見ることはないっす」


 卑怯とか姑息とか騙し討ちとかのネガティブな印象と言うのは、ある意味ではテンプレートな狐の印象だよな。

 好きな動物ランキングの上位に狐がいる俺としては、少々悲しい話ではあるが……。

 正直に言って、出来れば殺したくないな。俺が戦うならともかく、ティラミスたちに戦わせるのなら、殺しても問題のない魔物の方がいいだろう。……もう1匹の魔物に期待である。


「もう1匹は?」

「もう1匹はギガント・マンイーターっす。こいつは何でも食べるっす。あまりにも何でも食べるので、周囲には悲惨な光景は広がらないっす。その光景ごと喰らい尽くすっすからね……」

「そうきたか……」


 まさかのマンイーター再登場である。さすがにこれは予想できなかったな。



*************************************************************


裏伝


*本編の裏話、こぼれ話。


・孤児

 迷宮のせいで孤児が増えることを懸念した東は、自分の実力以上の階層に行かないことを、当時の国王経由で拡散していった。

 しかし、東の死後、20層が踏破されたことにより状況が変化した。20層台の鉱物資源に目がくらんだ当時の国王が、20層に進むことを推奨したのだ。

 当然、無茶をするものも増え、死者が倍増した。その結果として孤児も増え、東の望まない結果となってしまった。

 自分が信じて国王に立てた者の子孫が、そんな愚行をするとは思わなかったというのが大きいだろう。

 東の読みが浅かったのが原因とは言え、草葉の陰で泣くくらいは許されるだろう。


シオンは魔王、女神とは無関係ですし、誰かの放ったスパイでもありません。

情報・ステータスを伏せたのは趣味です。ちょっと珍しいスキルを持った普通の子です。

深読みしないように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
この話読んでから、タモさん'sの戦闘シーンが巨〇兵の「火の七日間」かよと、思ってしまいます(;^ω^)
スライムに変化スキル持たせてあげないの? 美味しいご飯食べさせてあげてもいいのに
[気になる点] 「ちなみに今まで創ってもらった魔法は全部で9つ。」 とありますが、普通に数えて10あります。   1:リバイブ   2:ルーム   3:ワープ   4:ポータル   5:エナジーボール…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ