第64話 銀狼王と勇者
前回のあらすじ
・不死の王を殺す。
今回の予定
・銀狼王を殺す。
しばらく空を飛んで迷いの森の入り口に到着した。
迷いの森は白い霧に包まれており、神聖な雰囲気を放っていた。不死の王のいた廃村には黒っぽい瘴気が漂っていたので、丁度真逆であると言えるだろう。
しかし、その中にいるのはどちらも邪悪な魔物だ。その証拠に森の外側には壊れた馬車の残骸があちこちに散らばっている。白骨死体を含めた死体もあるが、そのどれもが男性のモノである。間違いなく銀狼王の仕業だろう。
これだけでメープルの話が誇張でないことの証明になったと言える。
死んでからそれほど経っていないような男性の死体と馬車もあった。馬車に乗っていた女性がどうなったのかは気になるが、まずは銀狼王を討伐することを優先しようと思う。
今は迷いの森の外側にいるが、隣接エリアのため問題なくマップによる検索ができる。迷う理由が何であれ、マップにはほとんど関係ないだろう。
と言う訳で本気のマップ検索を実行する。
「さてと……。うん、森の情報がすべて確認できるな。ふむ、この森に生息する小さな精霊たちが<幻影魔法>を重ね掛けしているせいで、方向感覚が狂うんだな。なるほど、この森で生まれ育った魔物には耐性があるから、銀狼王は迷わずに進めるということか。よし、銀狼王の位置も確認できたぞ。女性たちは住処に捕らえられているみたいだな」
迷いの森のマップ情報を解析し、『迷う理由』、『銀狼王の情報』、『捕らわれた女性の位置』などを解き明かす。
銀狼王
LV95
<爪術LV8><身体強化LV8><HP自動回復LV7><咆哮LV6><噛みつきLV7>
備考:銀色に輝く毛をもつ大きな狼。銀ではない。
銀狼王は近接戦闘特化型のようだな。レベルもステータスも高いから、普通に強敵だろう。……マリアのステータスは100分の1くらいにしておこう。
そんなことを考えていると、魔物娘3人組が俺の方を呆れたような顔をして俺のことを見つめていた。
「……ハニーの異能って、あまりにも理不尽だと思うな☆」
「うむ」
「こんなん勝てるわけねーっす」
今更そんなことを言われても困るな。これが平常運転だから諦めてもらうしかない。
それに迷いの森って聞いている分には楽しいけど、実際に攻略するのってすごく面倒だろう?間違っても半日日帰りコースですることではないと思う。
「仁様ですから」
《ですからー》
マリアとドーラはフォローのつもりなのだろうか?
「味方と考えれば心強いっすね……」
「妾はなぜ勝ち目の全くない戦いに挑んでしまったのだろう……」
「ティラちゃんは最初から服従済みだよ♪」
しばらく考え込んでいたが、魔物娘たちも無事に諦めてくれたようだ。
さて、無駄話はこのくらいにして、さっさと迷いの森に入るとするか。
森の中は霧がさらに濃くなっており、数m先もろくに見通せない状況で、少しでも離れたら迷子になってしまいそうだ。……マップがなければ。
天然の罠があちこちに仕掛けられており、踏むと足を吊られる蔓や、底なし沼などにより、移動するだけでも非常に危険だ。……マップがなければ。
森の魔物は霧の影響を受けない様で、こちらの位置を正確に把握して攻撃してくるため、相当に不利な戦いを強いられる。……マップがなければ。
マップ様様である。
迷いの森の要素をガン無視して進み、大した時間もかけずに銀狼王の住処まで近づくことが出来た。
正直なことを言えば、迷宮探索をしていた時に常にマップを確認して進む癖をつけていたので、全く苦労する場面が存在しなかった。
銀狼王の住処は洞窟だ。マップを確認したところ、銀狼王は洞窟の入り口に座っている。鼻がいいのだろう。匂いで俺たちに気が付いているようだ。
さらに進んでようやく銀狼王の姿が見えた。銀狼王の住処周辺は霧がほとんどないようだ。ある程度の余裕をもって周囲が見渡せる(マップがあるのであまり関係ない)。
銀狼王は5m以上もある巨大な狼だった。毛並みは美しい銀色に輝き、精悍な顔立ちは見るものに畏怖を与えるだろう。普通なら。
「グルルルル。ワオーン!!!」
俺たちの方に向けて雄叫びを上げる銀狼王。
しかし、実際に何と言っているか翻訳すると、こうなる。
「グルルルル。ワオーン!!!(女が自分からやってきた。やったー!!!)」
クズである。事前情報の通りにクズである。
あ、さくらさんにお願いして、翻訳の魔法『コネクト』を創り出してもらったから、メープル翻訳に頼らなくてもよくなりました。
正直言うと、聞きたくない気持ちもかなり強かったんだけどね……。
「グルル?グルルル?グルルルル?(あれ?お前大海蛇か?もしかして俺の女になりに来たのか?)」
メープルの存在に気が付いた銀狼王が、かなり自分に都合のいい妄想を口にした。
メープルは現在人間形態から面識はないはずだが、恐らくは匂いで判断したのだろう。
「残念っすね。まったく違うっす。自分の主人がお前の討伐を望んでいるから来たんっす」
「グルル!?ワオーン!ワオーン!(マジかよ!?クソ!こんなことなら無理やりにでも犯しておくんだった!)」
クズここに極まるのである。事前情報以上にクズである。
「グルルル、グルル。グルルル、グルル。(仕方ねえ、それでも女は女だ。男は殺して、女を楽しむとするか)」
「仁様、もう殺してもいいですか?」
「いいだろう。完膚なきまでに叩きのめしてやれ」
「はい」
マリアが物騒なことを聞いてきたが、俺としても拒否する理由がない。
見た目だけならテイムしたいくらいに格好いいのだが、中身がこれでは絶対にお断りである。……後でタモさんに擬態させるくらいはいいかな。
「グルル?ワオーン!グルルル!グル、グル。ワオーン!!(俺を殺すって?面白い冗談言うじゃねーか!俺の10分の1も生きてねえ小僧と小娘が俺を殺せるわけねーだろ!大海蛇がいたところで、ここは俺のホームだ。負けるわけがねえよ!!)」
そう言うと銀狼王は脚に力を入れた。
「グルル!ワオーン!(話は終わりだ!まずは男から死ね!)」
俺の方に飛びかかってくる銀狼王。鋭く巨大な爪を俺に向けて振り抜いてきた。
「その前に私が相手です」
その爪は俺の前に出てきたマリアの剣によって止められる。マリアが受け止めたことにより、銀狼王の巨体が一瞬空中で制止する。その瞬間にマリアは剣を振るい、逆に銀狼王を弾き飛ばした。
「グルルル!?(マジかよ!?)」
そう吠えながら銀狼王は空中で回転して着地をする。
「仁様には近づけさせません」
「グル、グルルル、グルル。ワオ!(ちっ、女は犯してから殺すのが趣味だが、邪魔をするのなら仕方がない。腕の1本か2本切り落とせば大人しくなるだろ!)」
その一言を聞いた瞬間、マリアの顔に明確な不快感が見えた。
俺が購入したとき、マリアは片腕を欠損していた。後で聞いた話なのだが、その原因となったのはファングウルフらしい。で、今そのファングウルフの最上位種みたいな奴から、『腕を落とす』と言われた訳だ。……そりゃあ、不快にもなるよな。
俺の奴隷になってから今まで、1度もマリアはファングウルフのことを怖いとも憎いとも言ったことはない。ファングウルフが襲い掛かってきても委縮することはないし、ファングウルフに執拗に攻撃をすることもない。だからと言って、全く確執がないかと聞かれたら、そんなことはないのだろう。
「仁様、私怨、いいえ、八つ当たりで剣を振るうことをお許しいただけますでしょうか?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
マリアもそれが八つ当たりだということはわかっているようだ。この銀狼王は害悪だが、少なくともマリアの件とは関係ないからな。
マリアは伝説級(レジェンダリ-)の双剣である太陽剣・ソルと月光剣・ルナに魔力を通した。2本の剣はマリアの魔力に反応して透明になっていく。
「グルル!?(武器が消えた!?)」
「行きます」
驚いている銀狼王を無視してマリアが地を蹴る。<縮地法>を使わなくても、マリアは俺たちの中で1番素早い。あっという間に距離を詰めて見えない剣による斬撃を繰り出す。
「はあ!」
「グル!?(速!?)」
銀狼王は何とか後ろに跳び、マリアの斬撃を回避しようとする。しかし、完全には避けきれずに右前脚を切り裂いた。
「グルア!ワオーン!(痛え!このやろ!)」
「そんな苦し紛れの攻撃が通用するとでも思ったのですか!」
痛みに叫びつつも、マリアに向けて爪を振るう。迎え撃つマリアの剣は、銀狼王の爪に直撃し、難なく切り飛ばす。
「ガルル!?グルオ!ワオーン!(俺の爪が!?こんな化け物まともに相手してられるか!戦略的撤退だ!)」
「逃がしません!」
俺たちに背を向けて住処に逃げていく銀狼王と、それを追いかけるマリア。
そういえば、不利になったら迷わず逃げるって言っていたよな。……本当に禄でもない魔物である。
俺たちもマリアを追って銀狼王の住処である洞窟に入る。
そこでは、先ほどよりも傷だらけになった銀狼王が、捕らわれていた女性たちに爪を向けて、マリアと対峙しているところだった。
見た所、身なりの良い格好をした女性が1名、同じく少女が2名と幼女が1名が捕らわれている。端の方には服や体がボロボロになった女性の死体があるから、銀狼王は弄んだ後は殺すのだろう。
「グルル!ワオーン!(来るな!来たらこいつらを殺すぞ!)」
「ひい!助けて!助けてください!」
「怖いよー!ママー!」
まるで三文芝居の悪党のような銀狼王と、怯えている女性たちの構図である。
さて、マリアはどうするのだろうか……。
「好きにすればいいじゃないですか。その人たちが死んだところで、私は痛くも痒くもありません」
「そんな!?」
「ママー!」
女性が驚愕をあらわにし、幼女が泣き叫ぶ。少女の1人はその言葉を聞いて気絶し、もう1人は神に祈っている。
そもそも、俺と何の関係もない人間が、マリアに対して人質になるわけがないのだが……。
「グルルグ……、ガル!グルゥ!ワオ、ワオーン!(嘘じゃねえぞ……、本当に殺すからな!クソ!勿体ねえが、1人くらい見せしめに殺してやる!)」
追い詰められた銀狼王はマリアの言葉を強がりだと誤解したようだ。そのまま神に祈っている少女に向けて爪を振り下ろした。
-ガキン!-
しかし、その爪は少女に当たる直前で、何か固いものにぶつかった様な音を立てて弾かれる。
「ガル!?(何だ!?)」
「その人たちが死んだところで私は痛くも痒くもありません。ですが、仁様からは『完膚なきまでに叩きのめせ』と言われています。何1つ貴方の思うようにはさせません。何も成せずに死になさい」
ちなみに今マリアが使ったのは<結界術>だ。
マリアの<結界術>がレベル3になった時に、目視できる任意の場所に結界を張るという能力を得たのだ。これにより、離れた場所にいる相手を遠隔で守ることが出来るようになったと言う訳だ。
人質に結界を張ればそれだけで相手の思惑を崩すことが出来る。なんとも勇者向きの便利なスキルである。
「グルル……、グウ……。ガルッ!(やべえ……、殺される……。クソッ!)」
「また逃げるのですか……」
またしても逃げ出す銀狼王を呆れながらもマリアが追う。マップを確認すると、入ったのとは別の通路から外に出て、森の中を移動しているようだ。
森の中の移動は銀狼王の方が慣れているようで、マリアも距離を詰め切れないでいた。と思ったらマリアが急に距離を詰め始めた。よく見るとマリアは跳躍した状態から空中で方向転換をして進んでいるようだった。何事?
A:<結界術>で空中に足場を作り、空中移動を行っています。
どうやらマリアは<結界術>による結界を足場にして、空中を移動をしているらしい。足元を気にする必要がなくなり、跳躍だけで進むことが出来るから、今までと比べて圧倒的に速い移動が可能になった。
相変わらずマリアのセンスは飛びぬけているな。これでマリアは<飛行>スキルに匹敵する空中戦闘能力まで身に付けたと言う訳だ。マリアはどこまで強くなるのだろう……。
俺?俺は不死者の翼で空を飛ぶから……。
しばらく見ていたら、マリアが銀狼王の右前足を斬り飛ばしたようだ。最初に腕を切り落とすとか言われたから、その意趣返しみたいなものだろう。
動けなくなった銀狼王の左後足も同様に斬り飛ばす。いよいよ行動のほとんどを封じられた銀狼王が倒れこむ。
「勝負がついたみたいだな。さて、俺たちもマリアの元に向かうか」
《おー!》
「はーい♪」
「うむ」
「わかったっす」
皆の反応を一通り聞いたところで、捕らわれていた女性たちに目を向ける。
全員腰が抜けているようで、誰も立ち上がる様子がない。爪が当たりそうになった少女は漏らしてしまったようで足元が濡れている。
「あんたらはどうする?」
「わ、私たちも連れて行ってください!何でもしますから!」
漏らした少女が即答する。
「じゃあ、俺の奴隷になれ。そうでなければここに置いていく」
迷わずに鬼畜なことを言う俺。
いや、だってどう考えても誤魔化すの大変じゃん?すでに色々やっているし、誤魔化す手間を考えたら、奴隷にしておいて後で説明させる方が楽だと思うんだよ。
「ど、奴隷ですか……」
「なります!奴隷になりますから助けてください!」
躊躇する女性とは対照的に、漏らしていた少女は迷わずに奴隷になることを了承した。
「私もなりますから、助けてください」
「わ、わたしも……」
「お願いします……」
最終的には全員奴隷になることを了承したので、全員ひん剥いて(合意の上です)背中に奴隷紋を刻み込んだ。抵抗は無意味だ。
「さて、じゃあメープル、彼女たちを乗っけてくれ」
「了解っす」
メープルを大海蛇形態にしてその背中に女性たちを乗せる。
当然驚く女性たちのリアクションは省略する。後、漏らした少女が乗りにくそうにしていたので、いつものように『清浄』をかけた。
「4人乗っけても平気なのにー☆ 私は1人で定員オーバー☆」
ティラミスが体重の件でちょっと落ち込んでいるのは無視だ。
マリアが用意した『ポータル』に転移し、『サモン』で他のメンバーを呼び寄せる。
「仁様、お待ちしていました」
「おう、お疲れさま。まだ倒してないのか?」
そこでは、銀狼王が右前足と左後足を斬り落とされ、残った右後足の付け根が剣で串刺しにされ、全く動けない状態にされていた。うん、容赦がないね。
「はい。仁様のいないところで止めを刺すのもどうかと思いましたので……」
「別に殺しても良かったんだが……」
『美味しいところはとっておきました』みたいな顔で言われても困るんだけど……。
「グルゥ!グルルゥ!(助けろ!助けてくれ!)」
倒れ伏した状態で銀狼王が命乞いをする。
「グルオウ!グル?グルルル!(アンタ魔物をテイムしてるんだろ?俺もテイムされるから助けてくれ!)」
メープルが主人と言っていたことを思い出したのだろう。俺に対して命乞い、もしくは交渉に出てきた。
今までの行動を見ているから、銀狼王をテイムしたい気持ちははっきり言って0である。
ただ、少しだけ気になったことがあったので、銀狼王に近づく。銀狼王まで後2mくらいと言うところまで近づいたら、銀狼王が俺に向け、残された左前足を振るう。
「グルオ……(こいつを人質に……)」
-ドス-
最後まで言い終わる前に、頭部を串刺しにされた銀狼王は息絶えた。何のことはない、俺が攻撃される前に『ワープ』で銀狼王の頭部に転移したマリアが、太陽剣・ソルを突き刺しただけだ。
「仁様!態々危険に身を晒すようなことをなさらないでください!」
マリアが涙目で訴えかけてきた。マリアは心配性だな。あの程度簡単に避けられるし、万一当たってもダメージなんてほぼ0だというのに。
「悪かったな。ちょっと気になったことがあって……」
「GYAU?《何が気になったんっす?》」
「ああ、あんなわかりやすい悪人(獣?)が、あの状況で大人しくするのか気になったんだ」
「最後まで悪役だったね☆」
あの状況で俺が不用意に近づいたら、絶対に襲い掛かってくると思っていた。
そして、予想通り最後までクズだったと言う訳だ。
銀狼王も倒したことだし、色々と後処理をしないといけないな。銀狼王の死体を<無限収納>に入れて、銀狼王の住処に戻る。
「本っ当にクズだな。銀狼王は……」
住処のある一画に、かなりの量の女性の白骨死体が置かれていた。丁寧に並べられたソレは、まるで自慢のコレクションのようでもあった。
外にあった男性の死体も含めると、相当の数の人間が銀狼王の犠牲になっているのだろう。間違いなく3桁は超えているはずだ。
コレクション扱いで並べられたままと言うのはあまりにも不憫なので、女性たちの白骨死体は住処の外に穴を掘って埋めることにした。
何で態々外なのかと言えば、銀狼王の住処に埋められるのも嫌だろうからである。
後で森の外の男性たちの遺体も同じ場所に埋めるつもりだ。ほとんどは関係者だろうから、同じ場所が良いだろう。
不死の王も銀狼王も、その被害者は馬鹿にならない人数である。そのせいで、悪い魔物退治=被害者の遺体処理みたいになっているのはどうにかしたいところだな。
まあ、これ以上の被害が食い止められたと思えば、少しはマシなのだろうけど。
住処には女性の死体の他にも、結構な量の貴重品があった。まず間違いなく馬車から奪ったものだろう。
「銀狼王の奴、お宝集めも趣味なのかよ……」
「全部略奪品でしょう」
銀狼王の行動原理は第1位が女で、第2位が金銀財宝のようだ。本当に、徹頭徹尾クズである。
「盗賊から取り戻した品の所有権は冒険者にあるけど、魔物から取り戻した場合の所有権ってどうなるのかね?」
A:倒した者に所有権が移ります。貴金属を集める魔物もいることにはいますので。
そういうことなら俺が貰っても問題ないだろう。盗賊から取り戻した品の買戻しは拒否する方針だが、これも買い戻しは拒否だな。
基本的に買い戻し拒否は、不快なトラブル(貴族関係)を避けるための処置だが、今回はその他に2つ理由がある。
1つ目は、取り戻した経緯を説明するのに、俺たちの能力を話さないわけにはいかないということだ。あまりにも色々と自由にやったからな。誤魔化しながら話すのは困難を極めるだろう。
2つ目は、そもそも関係者がどこにいるのかと言う話だ。長く生きている魔物だし、直接的な関係者が死んでいる場合も多いだろう。報告したところで本来の持ち主がやってくる可能性など0と言っていいだろう。当事者はほぼ100%銀狼王に殺されているだろうし……。
よって、どう考えても買い戻しに出すだけ時間の無駄だと判断した。
「マリア、銀狼王が貯め込んでいた宝を回収するぞ」
「はい」
「あ、手伝うよー☆」
《ドーラもー》
みんなで手分けをして、<無限収納>にお宝を格納する。
その後、森の外にあった遺体を集め、銀狼王の住処にあった女性たちの遺体と合わせて、銀狼王の住処から少し離れた場所に埋めた。
捕らわれていたところを助けた女性たちについて少し話そう。
1番年上の女性は20代前半で、1番年下の幼女の母親だ。少女2人は姉妹で、銀狼王に殺されていた女性の娘だそうだ。1番年長の自分を犠牲にして、時間を稼いだらしい。偶然ではあるが、その時間で俺たちが来たと言う訳だ。
彼女たちは親戚で、大規模な引っ越しをしていたところを銀狼王に襲われた。その場で護衛と男親は殺され、女性たちは銀狼王に攫われたらしい。
元々、彼女たちは俺たちの次の目的地、いや通過地点であるナルンカ王国で親族経営の商店を開いていたのだが、ここ数年ナルンカ王国の情勢がキナ臭くなってきており、思い切って国を移ることを決めたらしい。
A:ナルンカ王国は数年前より急に税金が上昇し、貧困層は生活がかなり厳しくなっています。『アドバンス商会』として入り込むのは困難だったので、一部の冒険者を潜り込ませているのですが、まだ王都の方までは行けていません。状況によってはナルンカ王国を通らないで真紅帝国に行くルートを提案しようと考えていました。
税金ってことは国家運営だろ?つまりは貴族関係のトラブルって訳だ。
楽しめるトラブルにはなりそうにないな……。迂回するか上空を飛んでいくかして国を丸ごと無視する方針で行こう。
あ、逃げるんじゃないからな。楽しめないトラブルは相手にしないだけだからな。逃げるのは嫌いなのに、迂回はいいのかと言われそうなので念のため。
女性たちの話に戻そう。
つまり彼女たちには帰る場所がないわけだ。
引っ越しの途中で馬車ごと、家族ごと襲われたのだから当然だ。彼女たちの荷物はあるのだが、それでも彼女たちだけでは何もできないだろう。頼りの男性は全滅しているし……。
と言う訳で彼女たちはアドバンス商会に預けることにした。元々商店をやっていたということもあって、幼女以外の3人には心得があるようだったからな。
それと、彼女たちの家族は自分たちで弔いたいということなので、家族の死体だけは別途<無限収納>に入れておいた。落ち着いたころに弔いをするつもりらしい。
2匹の邪悪な魔物を討伐し終えた俺たちは、カスタールの屋敷に戻ることにした。色々やっていたせいで、もうすっかり日も暮れてきたからな。
ちなみにメープル、ショコラの知っている邪悪な魔物ストックはまだまだあるらしい。アト諸国連合はよく今まで無事だったよな。
「滅んだ国も意外とあるんっすけどね……。空から見てもわかるくらいに……」
「うむ、妾でも3つくらい知っているぞ」
全然無事じゃなかった。
とは言え、ほとんどの邪悪な魔物は不死の王や銀狼王と同様に、あまり目立つような悪事はしていないらしい。ただ、人目に触れないだけで、相当数の被害者がいるのは共通のようだが……。
「ハニーが望むなら、ティラちゃんが魔物を倒してこようか☆」
「それもありだな……」
カスタール女王国でクロードたちを冒険者にしたり、エステア王国でシンシアたちを探索者にしたように、アト諸国連合ではティラミスたちに魔物退治をしてもらうというのはどうだろうか?
いつまでも俺たちが魔物退治をして回るわけにもいかない。しかし、この国の邪悪な魔物には不愉快な連中が多いから、出来れば数を減らしておきたい。
知識のあるメープルとショコラ、それに加えてティラミスがいればそんな魔物達に後れを取る可能性は低いだろう。レアなスキルとかも奪えるかもしれないし……。
「よし、ティラミスの案を採用させてもらおう。ティラミス、メープル、ショコラの3人は俺たちがこの国を出て行った後、アト諸国連合を中心とした『邪悪な魔物退治』をやってくれ。まずはメープルとショコラの知っている奴らからだな」
「オッケー♪」
「わかったっす」
「うむ、任せろ」
こうして、アト諸国王国で配下になった魔物娘たちの仕事が確定した。
「おかえりなさーい。卵料理できてるわよー」
「お帰りなさい……」
「おかえりなさいですわ」
屋敷の扉を開けるとミオ、さくら、セラが迎えてくれた。
本日1日かけて練習したミオ製の卵料理は実に楽しみである。
「あ、お兄ちゃんおかえりー」
「仁様、お帰りなさいませ」
横から出てきたのはカスタール女王国女王のサクヤと、エステア王国王女のカトレアである。和風、洋風2人の美少女王族が揃って出迎えとは俺も偉くなったものだ。
「何で2人がここにいるんだ?」
「ハーピィの!」
「卵料理が食べられると聞きました!」
俺の質問に2人が元気よく答える。この2人はウチの料理の虜になっていることで有名だ(配下の中で)。どこからかハーピィの卵の話を聞きつけて、夕食時を狙ってやってきたのだろう。
「食ってもいいけど、金は払えよ?」
「「え!?」」
ぴたりと固まる2人。
高額なハーピィの卵を、一流の料理人であるミオが調理したのだ。世間一般の価値で見たら相当な価格が付くことだろう。
「冗談だよ」
「お兄ちゃん、さすがにそれは笑えないかな。お金払ってでも食べるけど」
「そうですよ、それはあんまりです。ポケットマネーで何食分払えるか検討しましたけど」
ホッとした顔をする2人だが、食べないという選択肢はないらしい。
「後、ハーピィ・クイーンの卵もあるとも聞きました」
「そうそう、絶対に食べさせて!何でもするから!」
どうやら本命はそっちだったようだ。
「あ、クイーンの卵は朝よ。ご主人様が食べた後に一口だけもらえるの」
「「明日の朝も絶対に来ます!」」
ミオの補足に対して声をそろえる王族美少女。君たち仲いいね。
「はい、ご主人様。会心の出来の親子丼よ」
「親……、子……?」
テーブルに着いた俺の前に出されたのは美味そうな匂いをさせている親子丼である。ハーピィの卵を使った親子丼である。
親子丼とは、一般に親である鶏の肉を、子である卵で閉じる料理である。
おもむろにマップを確認し、ハーピィの数を数える。
……よかった。全員生きている。
「びっくりさせるなよ。ハーピィの肉を使ったのかと思ったじゃないか」
「いや、いくら私が料理好きでも、そこまではしないって……。普通の鶏肉よ。安物だとハーピィの卵に釣り合わないから、少し高級品だけどね」
心外そうに言うミオ。しかし、そこにマリアのキラーパスがやってきた。
「でも、回復魔法と『リバイブ』を使えば、ハーピィを生かしたまま鳥肉を回収することも出来るのではないでしょうか?」
屋敷にいたハーピィたちは逃げ出した。
『サモン』で全員呼び戻す。震えて抱き合いながらマリアを見つめるハーピィたち。
「マリア、そう言う問題じゃないからな。それに治るとは言っても、痛いものは痛いだろ。あまり脅かすな」
「それもそうですね。申し訳ありません」
マリアは『リバイブ』がある以上、肉体の欠損は大したことのない状態であると考えるようになってしまったようだ。……回復できても、一大事であることに変わりはないからね?
それに、卵はともかく、ほぼ人型の魔物を食べるなんて猟奇的な真似は絶対にしないからな。
あ、親子丼は美味しかったです。ミオの言った通り、卵の味に鶏肉の味が負けていたけどな。
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裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・迷いの森
迷いの森には<幻影魔法>を司る小さな精霊達が生息しており、外界からの侵入者を迷わせるために<幻影魔法>を常にかけ続けている。
一方的な身内びいきのため、銀狼王がどんな悪さをしていても関係ないと考えている。
仁はマップなどで得られた情報から、何となくその事実を察していたため、遠慮なく『迷いの森』の要素をガン無視することに決めた。
文章中では語られていないが、仁達が<幻影魔法>をものともせずに進むので、こっそり<幻影魔法>を強めていた。
その際、仁達に近づきすぎた精霊は、仁の『霊刀・未完』によって両断されている。
次回までに(本当に短い)短編を一本上げます。
最近短編が思いつかないので、その後はしばらくなくなると思います。
考案があるのは、東のダンマス奮闘記ですかね。元の世界の他愛のない会話と、ダンマスになってからの話を半々くらいでMIXさせた形にする……かもしれません。