第63話 不死王と英雄
あらすじに記載の「魔物と戯れる」のもう1つの形です。
自由行動4日目。
本日の予定は釣りではない。ヌシ(メープル)を釣って満足したので、ひとまず釣りを終了することにしたのだ。一応、川釣りをする余地はあるのだが、あれ以上の大物がいるとは思えないから保留である。
本日も昨日に引き続き、メープルに古い強力な魔物の居場所を教えてもらうつもりだ。
しかし、昨日とは違って今日の目的はテイムではなくて討伐だ。メープルの知っている魔物の中には、人間を殺すことが趣味の危ない奴も結構いるみたいだから、そういった相手を選んで討伐していこうと思っている。さすがの俺も、人間を殺すのが趣味の魔物をテイムしたいとは思わないからな。
同行するのはドーラ、マリア、セラと魔物娘3人の計6人だ。しかし、毎回毎回俺1人で戦うというのも悪いので、本日は希望者に討伐をさせるつもりだ。
最初の希望者はセラだ。
「やっとですわね。私が1人で戦う見せ場を見ていただくというのも……」
「それに関しては、スマンとしか言えないな」
セラは購入した時から見せ場を要求していた。しかし、今の今までセラ1人で強敵と戦う場面を一切目撃していない。俺の見てないところで色々とやっているのは知っているが、少なくとも俺は見たことがない。
セラが魔物の討伐を希望したのは、1対1による見せ場がほしいという理由である。正直スマンかった。
今俺たちが空を飛んで向かっているのは、山に囲まれた場所にある廃村だ。何百年も昔にその魔物によって滅ぼされたが、場所が場所だけに誰に気付かれることもなくそのままになっている。
「不気味だからよっぽどのことがない限りは近づかないっす」
「不死の王か……。妾も聞いたことはあるが、近づこうとは思わなかったな。王を名乗っているし、相容れぬだろう」
ショコラの言うように、これから戦うのは不死の王と言う魔物だ。
不死の王。アンデッド系の魔物の中でもかなり強力な存在として知られる。<死霊術>を操り、死者をゾンビにして支配する魔物だ。他にも色々と魔法を使ってくるみたいだし、セラならば相性がよさそうだな。
もし、不死の王が<亡者>のスキルを持っていた場合、それを奪うことで瞬殺できてしまう。さすがに今回はそんなことをするつもりはないが……。
余談だが、セラが参戦を表明したとき、最初はミオも見学に行きたいと手を上げていた。セラがいなければ食巡りもあまり進まないだろうし、暇つぶしに見に行きたいと言っていた。しかし、最初に討伐に行くのが廃村+不死の王と聞いた瞬間、ミオは上げていた手をそっと下した。うん、ミオはホラー苦手だもんね。
仕方ないからニノを含めた料理メイド達と料理作りに精を出すようだ。ハーピィの卵を使った料理を模索するつもりだと言っていた。鶏の卵とは味が違うから、その特性を見極めたり、丁度いい味付けを探したりするつもりらしい。
明日からは卵かけごはん以外の卵料理も期待できそうである。
閑話休題。
「話を聞いた限りだと、元村人たちは全員アンデッドになっているのですわよね?」
「そうっす。前に自分が行った時は、廃村の中をゾンビたちが徘徊していたっす。すごく不気味だったっす」
「迷宮とは違い、本物の人間のゾンビですか……。斬るのはあまり気が進まないですわね」
エステア王国の迷宮にもゾンビはいたが、あれは迷宮が生み出した魔物で、生まれた時からゾンビである。それに対し、こちらは殺した人間を<死霊術>によってゾンビにしたものになる。人格などは一切残っていないが、元は普通に生きていた人間である。
「じゃあ、ゾンビたちを避けて不死の王だけを倒すか?セラなら、頑張ればできないことはないだろう」
盗賊を斬れても、元村人のゾンビは斬れないというのなら、それはそれで構わない。斬りたくないモノを斬れと言うつもりはないからな。
「いえ、斬りますわ。そのまま放っておいても、何も良い事はありませんから……」
<死霊術>には基本的に2つの効果がある。1つは死者をゾンビにすること。もう1つはゾンビにした死者を操ることだ。この2つの効果はそれぞれ独立している。
そして、<死霊術>の使い手を倒してもゾンビはそのまま残ったままとなる。
ゾンビは活動するのに栄養とかを必要としないから(エネルギー保存則?何それ美味しいの?)、放っておけば延々と廃村を徘徊するだけの存在となる。さすがにそれは憐れだ。もしセラがゾンビを倒さないまま不死の王を倒した場合、俺が後始末をしようと思っていた。
「この国には邪悪な魔物が多いのですわね……」
セラが不快そうに顔を歪ませる。
今回、俺が魔物の討伐を決定したのもそれが理由だ。アト諸国連合には不死の王のような強大で、人間の害となるような魔物が結構多い。メープルとショコラの話を聞いていく内に、この連合国の未来に不安を覚えるほどにだ。
もちろん、この国に邪悪な魔物が多いのには理由がある。それは、アト諸国連合がかつて争いをしていた小国の集合体だからに他ならない。簡単に言えば紛争のせいで、魔物の被害が出てもそれに対応する国力がなかったのだ。
この世界に召喚された勇者も、態々紛争を繰り返している地域にはあまり足を運ばなかったみたいで、古くて強い魔物が相当な数生き残っていると言う訳だ。
そして、古くて強い魔物には邪悪な魔物も多い。メープルやショコラも古い魔物だが、それ以上に古い魔物も数多く存在するようだ。普通に1000歳越えの魔物もいるみたいだしな。
邪悪な魔物については聞いているだけで不快なヤツが多かったので、腕試しも兼ねてある程度数を減らしてやろうという話になったのだ。
べ、べつにアト諸国連合のためなんかじゃないんだからね。……需要もないだろうから止めておこう。
「それを言われると辛いっす」
「あ、すいませんですわ。メープルさんたちのことを悪く言ったつもりはないのですわ」
「気にしてないっすけど、他人事と言う訳でもないっすので……」
「うむ。あまり偉そうなことは言えんからな」
メープルとショコラに話を聞いたところ、メープルは人を殺したことはないが、ショコラは冒険者を殺したことがあるそうだ。
しかし、殺したのはハーピィの巣を見つけて(卵的な意味で)欲に目がくらんだ冒険者であり、縄張りに入ってきて、仲間を殺された後だということなので、それなら仕方ないと思うことにした。
無差別に人を殺して回ったとかいうのならともかく、降りかかる火の粉を払っただけと言うのなら、俺が文句を言うようなことではない。そもそも、2匹とも普通の人間ならば会うことも困難な場所にいるので、人間と出会った回数は圧倒的に少ないらしい。
メープルに至っては、人間に遭遇したのは俺で3回目だと言っていた。基本、空を飛んでいるか、湖の底でのんびりしているかだったらしい。そりゃあ人に出会う訳がない。
しばらく飛んだ後、不死の王がいる廃村の近くの森の前に着地する。相変わらず、直接ボス前には乗り込まないスタイルである。
「着いたっす」
「うわー、空気が滅茶苦茶淀んでいるな……」
《くさそーう……》
瘴気、とでも言えばいいのだろうか。森の中は空気自体が重みをもったかのように淀み、腐臭をまき散らしていたため、森に入るのを躊躇しているのだ。
アルタによると、長い間<呪術>スキルで汚染された結果らしい。
生態系にも影響しているようで、普通の獣や魔物は存在していないようだな。
「仁様、<毒耐性>を上げておきましょう」
「ああ、そうだな」
念のため、全員の<毒耐性>スキルを一時的に10にする。他に瘴気を防ぐスキルってないのかな?
A:マリアの<結界術>が有効です。
マリアが<勇者>スキルをレベル6にすることで入手した<結界術>には、2つの能力がある。1つは対象に支援効果を与えること、もう1つは3次元空間上に不可視の結界を作り出すことだ。
1つ目の支援効果の中に、瘴気を無効化する力があるようだ。
「マリア、<結界術>を使ってくれ」
「はい、すぐに使います」
マリアはすぐさま<結界術>を使い、俺たちに支援効果を与えた。
そのまま森に入ってみる。
しっかりと効果が表れているようで、臭気を感じることはなかった。
《よくなったー》
「あー、勇者って便利っすねー」
「仁様に<封印>を取り除いてもらうまでは、凄く不便だったんですけどね……」
「勇者が凄いのか、勇者を使える状態にした主人が凄いのか……」
「大体はハニーだと思うな☆」
「異議なしっす」
「うむ」
「仁様ですから」
「ですわ」
普通じゃないことは大体俺のせいにする風潮、やめませんか?
準備も出来たので進み、廃村が見える位置にまで来た。
ちらほらとゾンビたちの姿が見える。
「本当にゾンビがうろうろしていますわね」
「ボロボロだけど、人間の服を着ているあたりがなんとも言えないね……☆」
恐らくは生前着ていたであろう服を着たまま、村の中を徘徊するゾンビたちを見て、セラとティラミスが呟く。
さらに救いがないことに、生前の面影がはっきりわかる程度には原型が残っているのだ。見た限りだが、老若男女問わずゾンビにされている。赤ん坊のゾンビが這い這いをしながら移動しているのを見たら、不愉快度が限界を突破した。
蘇生するなら、しっかりと蘇生させろよ!中途半端な蘇生なんかするなよ!
なんか、普通の人と怒るところが違う気がする。……気のせいだよね?
「さっさと終わらせよう。ある程度予想はしていたが、正直言ってかなり不快だ」
「わかりましたわ。最初から全力で行きますわね」
《がんばれー》
セラもやる気満々のようだな。
こんな不愉快な光景を作り出す魔物、テイムの余地など一切ない。
俺たちはそのまま廃村に入った。ゾンビたちは襲い掛かってくることもなく、徘徊を続けている。てっきり、テリトリーに入ったら襲い掛かってくると思っていたんだが……。
「襲ってきませんね」
「そうですわね。迷宮ではすぐに襲い掛かってきたのですけど……」
「前に自分が来た時もそうだったっす」
話をしていると、少し離れた所に黒い霧のような靄が集まり、人の形を作っていった。
正確には人の形ではあるが、人ではなく、黒いローブをまとった骸骨だった。これが不死の王に間違いないだろう。
不死の王(レア)
LV99
<闇魔法LV6><呪術LV6><死霊術LV8><幻影魔法LV6><無詠唱LV8><浮遊LV8><亡者LV8>
備考:死を超越した不死者の王。死者を操り、生者を殺す。
うん、ステータスを見たらかなり強力な魔物ってことが一目でわかるね。
迷宮にいた死神よりも強いんじゃないかな?死神とまともに戦ったことないけど。
後、普通に<亡者>スキルがあるね。これを奪えば即死できるね。不愉快だからやっちゃおうかな……。いや、セラもやる気だし、任せることにしよう。
「キキキキキ……」
黒板を爪で引っかいたような不快な音があたりに響く。どうやら、これが不死の王の言葉のようだ。
「『ふむ、愚かな人間がやってきたようだな……』って言ってるっす」
またしてもメープルに翻訳をお願いしている。
「キ、キキキ?」
「『むっ、そこにいるのはかつてこの村に来た大海蛇か?』っす。そうっすよ。悪いけどあんたを討伐に来たっす」
「キ。キ、キ」
「『よかろう。我が王国を脅かすというのなら、相手になってやろう』と言ってるっす」
どうやら、不死の王にとって、この廃村と言うのは王国らしい。
裸の王様と言うか、何というか……。とにかく不毛だな。
メープルに翻訳させるのも、そろそろ面倒になってきたな。さくらに頼んで翻訳用の魔法を創ってもらうか……。
「キ、キキ!」
「『行け、我がしもべたちよ!』っす」
不死の王がそう宣言すると、今までこちらを見向きもしなかったゾンビたちが一斉に向かってきた。
「セラ、任せたぞ。撃ち漏らしはこちらで勝手に倒すからな」
「わかりましたわ。出来るだけそちらに行かないようにしますわね」
セラが前に出て、声を上げながら伝説級の武器である守護者の大剣を振るう。
「はあ!」
ゾンビたちは元々思考能力などないため、斬撃を避けるという発想にも至らない。
セラの大剣による斬撃をモロに受け、10人(元人間のため、一応『人』でカウントする)ほどのゾンビが木っ端微塵になった。ゾンビは腐って脆くなっているとはいえ、さすがの威力である。
ゾンビは真っ二つになったくらいでは行動不能にはならないが、さすがに木っ端微塵になったらどうしようもない。
「はっ!せいっ!」
斬撃を繰り返す度に複数人のゾンビを巻き込んで倒していく。そのまま不死の王の方に向かって進んでいくセラ。
「キキ、キ。キキ」
「『むむ、意外とやりおるな。我も戦わぬわけにはいかないか』っす」
不死の王は今まで動かずに浮かんでいたが、その言葉とともにローブを広げ、空中を移動し始めた。……セラを避けて俺たちの方に向かって。
「キキキ、キキキ?キキ、キ、キキキ」
「『後ろにいるということは、貴様らの方が弱いのだろう?人質になるならよし、そうでなくても戦力を減らすために、弱い方から狙うのは当然だ』と言っているっす。……いっそ憐れに思えてきたっす」
「愚かな……」
「最悪の選択だね☆」
《ごしゅーしょーさまー》
魔物娘(ドーラ含む)が可愛そうなモノを見る目で不死の王を見る。普通に考えたら、間違った選択ではないんだけどね。まさか、腕試しで来ているとは思わないだろう。そして、後ろにいる奴の方が化け物だとは思わないだろう。……自分で言っていて悲しいけど。
「すいませんですわ!不死の王が行ってしまいましたわ!」
「気にするな。すぐにそっちに戻すから」
ゾンビを蹂躙しているセラが申し訳なさそうに言う。
空中から魔法を放とうとする不死の王。
あれはレベル6<闇魔法>の『デモンズブレード』だな。<無詠唱>はスキルレベル以下の魔法を無詠唱で撃てるようになる。<無詠唱>のレベルが8だから、レベル6<闇魔法>は無詠唱になる。
闇が巨大な剣を形作り、俺たちに襲い掛かる……前に不死者の翼を使って空を飛び、霊刀・未完で魔法を真っ二つにする。
霊刀・未完には魔法を斬る効果があるので、あっさりと霧散する「デモンズブレード」。
「キ?」
「『は?』っす」
「そこでセラの相手をしていろ!」
呆けたような声を出した不死の王を蹴っ飛ばし、元いた位置まで吹き飛ばす。
地面に墜落した不死の王は、数人のゾンビを巻き込みながら、地面を何度かバウンドする。
動かなくなった不死の王だが、HPを見る限り死んでいないので大丈夫だ。半分くらいHPが減っているのはご愛嬌である。
「私の出番……」
セラが少し悲しそうな声を出すが、不死の王を抑えきれなかったセラが悪い。最初に言ったはずだ。「撃ち漏らしはこちらで勝手に倒す」と……。それがボスであろうとも例外ではない。
「まだ倒してはいないぞ」
「あ、はいですわ」
倒れていた不死の王が、ふらふらと宙に浮かび上がる。
<浮遊>スキルとは関係なくふらついているようだ。想像以上にダメージが大きかったな。
「キ、キキ……」
「『まさか、後ろにいる者の方が強いとは……』っす。今更気づいたみたいっすね」
「愚かな」
「だね♪」
魔物娘たちの辛辣な評価。
「キキ、キ!」
「『お望み通り、こいつから倒してやる!』って言っているっす」
セラに向き合って宣言する不死の王。一瞬の攻防で、俺を倒すのは無理だと判断したようだ。
「日和ったな」
「日和ったね♪」
魔物娘たちの辛辣な評価。
そして始まる不死の王の<闇魔法>の連射。<無詠唱>により絶え間なく放たれる魔法の嵐。
そして全てを無効化するセラの<敵性魔法無効>。セラに当たった瞬間、全ての魔法が元々存在しなかったかのように消滅するのだ。
うん、知ってた。
基本的には攻撃を喰らわないことが大切だというのはセラもわかっているだろう。しかし、俺の蹴りで不死の王が大ダメージを受けたことにより、普通に倒したら見せ場にならないと判断したセラは、自分の持つもう1つのユニークスキルにより無理矢理見せ場を作ることにしたらしい。
「私にはいかなる魔法も通じませんわ!」
堂々と宣言するセラ。ここだけ切り取ると少し格好いいから不思議だ。
「キ、キキキキー!?」
「『な、何だってー!?』っす」
驚いている不死の王を見て、満足そうな笑みを浮かべるセラ。
「キキ!」
「『ならばこれならどうだ!』っす」
そういうと不死の王の下から新たなゾンビが現れた。
「キキキ。キキ、キキキ!」
「『こいつらはこの村に来た冒険者だ。村人以外を徘徊させるのは趣味じゃないから普段は地面に埋めているが、戦闘能力は村人とは比較にならんぞ!』っすね」
言われてみれば、新たに出現した17人のゾンビたちは村人ゾンビと異なり、それなりの武装をしていた。しっかりと鎧を着こんでいるし、多少ボロくはなっているが、そこそこ立派な武器も持っている。
「そりゃ、全く人が来ないとも思わなかったが、やっぱりゾンビにされていたのか……」
「胸糞悪いですわ!」
「キキ!」
「『行け』っす」
冒険者ゾンビ(仮)がセラに襲い掛かる。
確かに村人ゾンビとは比較にならないほどいい動きをしているが、それでもゾンビはゾンビである。知性無き存在に脅かされる英雄ではないだろう。セラは1人、また1人と冒険者ゾンビ(仮)を屠っていく。
そういう意味ではエステア王国の迷宮は正しいゾンビの使い方をしていたのだろう。個々の強さをほとんど考慮せずに、物量で押し流すという戦術を使ってきたからな。
それから大した時間もかからずに冒険者ゾンビ(仮)は全滅した。
「これでお終いですの?」
「キキ。キキ……」
「『馬鹿な。我が軍勢がここまであっさりとやられるなど……』」
どうやらもう不死の王に打つ手はなさそうだ。
セラは地を蹴り、凄まじい勢いで不死の王に向かっていく。
「今度はこちらから行きますわ!はああああ!」
「キ!」
「『くっ!』っす」
<幻影魔法>を使ったのだろう。その姿が薄っすらと消えていく。
当然逃がすわけはない。転移ではない以上、マップの表示から逃げることは不可能だ。セラはパッと見ただけでは何もない虚空めがけて大剣を振るう。
「はあっ!!!」
「キ、キキー!?」
「『何故、ウギャー!?』っす。死んだっす」
斬撃が直撃した不死の王のHPは0になる。俺の蹴りで半分くらい削れていたところに、セラの破壊力抜群の斬撃が加わったので、完全にオーバーキルである。
「私の勝利ですわ!」
剣を掲げて宣言するセラ。俺の方に不死の王が向かってきた下りがなければ、相当に格好のいいシーンである。
俺の存在が色々なものを台無しにしているというのは、言ってはいけないことである。
その後、俺たちは残ったゾンビたちを1人残らず倒した。
ほとんど、抵抗はなかった。
全ての遺体を焼き、灰にして一か所に埋めた。村に充満していた瘴気は、不死の王の死とともに霧散していったが、長い間瘴気にまみれていた生態系が元に戻るのは時間がかかるだろう。
石碑でも建てるか考えたが、自己満足にすぎないのがわかっているので止めておいた。せめてもの供養として、冒険者の武器を地面に突き立てて墓標代わりにすることにした。年代を考えても、ギルドに持っていったところで持ち主が明らかになることはないだろうからな。
まあ、あれだ。ゆっくりと眠れ。
「では、私はここで失礼しますわ」
「ああ、ご苦労様」
「ちょっと誤算はありましたけど、活躍できてよかったですわ。それに、あんな魔物をこれ以上好きにさせなくて済んでよかったですわ」
そう言ってセラは『ポータル』を使い屋敷に戻っていった。
このままミオたちの料理研究に参加するつもりらしい。卵料理に惹かれて戻っていったのだろう。ドーラも行きたそうにしていたが、最終的には俺を選んだようだ。
《ごしゅじんさまといっしょー!》
次に戦うのはマリアだ。セラとは異なり、見せ場がほしいと思っているわけではなく、単純に今の実力を計りたいと言っていた。
「仁様をお守りするには、仁様に匹敵するほどの力が必要です。銀狼王ごときに負けるわけにはいきません」
「やる気が凄いっす」
「だねー☆」
今度の相手は、銀狼王と言う狼の魔物である。
ファングウルフ、シルバーウルフなど、ウルフ系の魔物の頂点に位置する。ビッグブラックウルフもウルフ系の群れのボスとして存在しているが、正直に言って桁が違う。そもそも、銀狼王は群れを作らない。レベルが違いすぎて、足手まといにしかならないのだ。
この魔物が討伐されなかったのは、その速さと一か所に長期間留まらないという性質のためである。人的被害が出て、討伐に向かったとしても、その場にいる可能性は非常に低い。もし出会えたとしても、元々強いので討伐は困難だし、負けそうになると迷わずに逃げるのでさらに倒しにくい。
とは言え、滅多に出てくることもないので、銀狼王の出没地域では、『会ったら運が悪い』と災害のように恐れられているのだ。……俺も昔似た様な評価を受けた記憶があるがな。
人々は知らないことだが、正確には一か所に留まらないのではなく、『寝床以外では寝ない』、『狩りをするのは寝床から離れた場所』と言うルールがあるだけらしい。
今回、メープルがその寝床を知っているというので、案内してもらうことになったのだ。
その寝床とはアト諸国連合北部の国にある森の中だ。
「その森は迷いの森と言われており、奥までたどり着くのは困難っす。自分も中までは入らず、そこに入っていく銀狼王を見かけただけっす」
迷いの森か。ファンタジー好きにはたまらない単語だよな。
迷いの森の銀狼王。正直言ってかなり格好良い響きである。しかし、こいつも不死の王と同じく討伐対象であり、テイムの余地は一切ない。
以下は今朝の俺とメープルのやり取りである。
「銀狼王は人を殺すのが趣味って言ってたっす。あまりやりすぎると大規模な討伐部隊を組まれるから、定期的に、小規模に殺していくのがコツだって楽しげに話していたっす」
「銀狼王なんて格好いい名前なのに、やってることがゲスい……」
俺の中の銀狼王株が大暴落した瞬間である。
「それに、自分のことをエロい目で見ていたっす」
「え?大海蛇を?」
「そうっす。『メスの穴ならば何でもいい』が持論みたいっす」
「何そのクズみたいな奴……」
銀狼王の株の暴落は未だに止まらない。
「人間を襲った時も、相手が女性の場合……」
メープルも嫌そうな顔をして言う。
話を聞いたとき、最初に『知り合いではあるが、友人ではない』と強く宣言をしていたのも当然である。
「OK、そいつは人類の敵だ。テイムする必要はない」
「仁君、すいません……。私、その2匹の魔物に会いたくありません……」
「私も無理ね」
「俺もそれがいいと思う」
今回さくらやミオが付いて来ていないのは、その辺が理由である。不死の王も銀狼王も現代日本の感性を持った女性が相手にするには厳しい相手だからな。ドーラ、マリア、セラは平気みたいだけど……。
そんなやり取りを通じて、俺は銀狼王の討伐を決定したのである。情状酌量の余地なく、人類にとっての害悪だからな。
素早く器用なマリアならば、素早い銀狼王の相手にはもってこいである。
セラの戦いの見どころがゾンビ相手の無双なら、マリアの戦いの見どころはオオカミ相手の高速戦だろう。
銀狼王の望み通り、女性に(風)穴を開けてもらおう。
興味なさそうにしながらも、態々危険な魔物を倒してあげるなんて、まさにツンデレですね。
だから本人に言わせてみました。
仁としては行った観光地に害獣がいたから駆除するようなイメージです。