表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/355

第61話 大海蛇娘と暴君竜娘

列伝とか、番外編の話を一部本編に盛り込むのが楽しいです。

何の話かは見ればわかると思います。こっちではあの扱いです。

「言われたとおりに名前をつけてやったぞ。改めて聞くが、お前は何者だ?」

「ティラミス、もしくはティラちゃんって呼んでね☆ 折角名前つけてくれたんだからさ♪」


 またしても可愛いポーズを決めながらティラミスが言う。


「わかったよ、ティラミス。これでいいか?」

「オッケー☆」


 ずいぶんとハイテンションな幼女だな。まあ、転生者だから見た目は当てにならないんだけどな。


「ティラちゃんはティラノサウルスの人化した幼女で転生者だよ☆ <千里眼システムウィンドウ>で見たから知ってるよね♪」

「アルタか……」

「イエース☆ 睡眠学習?卵の中でいろいろ話を聞いたの♪」


 <無限収納インベントリ>の中に置いてあった状態でアルタから話を聞いたということだろう。どこまで話したかは知らないが……。


A:大体全部です。ステータスが確定した段階で試しに語り掛けてみたら反応があったので、孵化するまでに色々と情報を与えておきました。


「ティラノサウルス?<千里眼システムウィンドウ>?何の事っすか?」

「アルタ頼む」


A:わかりました。説明しておきます。


「え?また頭に声が?今度は誰っすか!?」


 混乱している大海蛇娘メープルはアルタに任せて放置である。あっちはあっちでいろいろと面白そうなんだが、さすがに2つは同時に捌けない。


「で、転生者ってことは生前があると思うんだが、いったい何者だ?」

「ごめんね☆ わからないの☆」

「は?」

「記憶喪失なんだよね☆ 前世だから記憶喪失って言い方が正しいかわからないけどね☆ 知識はあるけど記憶がないの☆ 街の風景とか、見ていたアニメとか、見ていた漫画とか、見ていたラノベとかは覚えてるんだけど……☆」

「そこまで覚えていて、自分が何者なのかは出てこないのか……」


 一般的な記憶喪失も、得た知識自体は失わないという話だ。人の名前や町の名前は忘れても、箸の使い方や電車の乗り方は忘れないというような話を聞いたことがある。記憶される脳の位置が違うんだとかなんだとか……。まあ、なったことがないから本当のところは知らん。

 しかし、転生の際に自分についての記憶を失うというのはどういうことだろうか?転生の際には脳の機能なんて関係ないだろうからな。どちらかというと、死者蘇生の際に記憶を失う話の方が近い気がするな。


「でもこっちで生きていくのには大した意味もないし、気にしない方針だよ♪」


 意外と図太い。記憶を失っていたとしても、そもそも別の生なんだから関係ないと……。


 それにしても、カスタール冒険者組のユリアに続いて、記憶喪失の配下が2人目か。


A:各地で集められた配下の中に、記憶喪失は6人います。


 …………知らんよ。


 それはともかく、記憶喪失は隠された過去とか衝撃の真実とかに使いやすいよな。

 少なくともユリアに何かあるのはほぼ確定だし。……称号的な意味で。「エルフの姫巫女」と「エルフ王族」の称号を持った、392歳のハイエルフである。これで何もないということはないだろうよ。


「そういえば、称号に『記憶喪失』がないな」

「生まれてからの記憶は失っていないからね☆」

「それもそうだな」


 前世の記憶喪失転生者とか意味が分からないが、とりあえず嘘ではなさそうだしな。


A:間違いありません。


「と言う訳でよくわからない素性だけど、今後ともよろしくね、パパ♪」

「パパは止めろ」


 こんな不思議生物の親は嫌だ。


「それとも、本当に刷り込みでもあるのか?」


A:ありません。


「えー……☆ じゃあ、ダーリン♪」

「ダーリンも止めろ」

「じゃあ、ハニー♪」

「ダーリンと大差ないが……、もう面倒だ。それにしておけ」

「はーい☆ ハニー♪」


 そもそも、何でこんな不思議生物が生まれてきたのか問いたい。


A:マスターが孵した卵が、普通である可能性はかなり低いと考えておりました。


 ……まあ、そういう意見もあるかもしれんな。



「で、<変化へんげ>スキルで人間の姿をとっているのはなんでだ?」

「ハニー、恐竜ティラノよりも幼女の方が好きでしょ☆」


 俺の質問に迷わず答えるティラミス。

 その2つは比較対象として正しいのか?


「ハニーが恐竜の方に欲情するっていうのなら、恐竜の姿になるよ☆」

「欲情って……」


 さすがにそんなぶっ飛んだ性癖は持っていない。


「幼女の姿でも、そっちの方はいつでも受付中だからね☆ チラッ♡チラッ♡」


 スカートの裾をめくるティラミス。ノーパンで躊躇なく見せてくる。前世の知識がある以上、間違いなく痴女である。


「何故そこまでオープンなんだ?」

「(……死にたくないからね。うう、腹パン怖いよぉ)」

「ん?」

「何でもないよ☆ ハニーが大好きだからだね♪」


 一瞬、凄く小さい声で何か言っていたような気がするが、聞き逃してしまった。


「まあ、いいか。他の仲間のことも知っているんだよな?」

「うん☆ アルタから聞いているから大丈夫だよ☆マリアさん、ドーラ先輩、よろしくね♪」

「よろしくお願いします」

《よろしくー》


 マリアはさん付けだけど、ドーラは先輩なのか……。従魔枠だからだろうな。


「で、ティラミスは戦えるのか?<暴君>スキルとか持っているみたいだけど?」

「戦ったことはないけど、多分大丈夫だよ♪ <暴君>スキルは呪印カースじゃない普通のスキルになっているみたいだね♪ 効果はほぼ同じだけど、自分の意志でON/OFF出来るみたい☆」

呪印カースが普通のスキルになっているのか……」


 祝福ギフトを普通のスキルに変えられる以上、呪印カースでも同様のことが出来ておかしくはないだろう。しかし、呪印カース祝福の残骸ガベージに該当するモノもないから、どうやったら再現できるのかわからないな。


「じゃあ、基本的にはOFFにしておけ、魔物が逃げるっていうのも、今やろうとしていることを考えるとマイナスだからな」

「はーい♪」


 ちなみにこれが現在の<暴君>スキルの効果である。


<暴君>

テイミングが不可能になる(無効)。逃走が困難になる(任意)。他の弱い魔物が遠ざかる(任意)。


 テイミング回避は既にテイムされているから、効果が無効になっているようだ。

 後、気になるのはティラノサウルスについていた、もう1つの呪印カースの<凶星>である。<暴君>はあるのにこちらはなくなっているからな。どうなったんだろう?


A:不明です。


 不穏だなー。アルタが答えられないのって……。

 呪印カースの通常スキル化とも関係がありそうだけど、今は何とも言えないな。まあ、とりあえず心に留めておくか。


「じゃあ、そのうちティラミスにも戦闘させるとして、その他の説明は不要だな?」

「オッケー♪」



 説明不要というのならば、次は大海蛇娘メープルとお話である。思えばテイムしてからここまでほとんど話を聞いていない。それなりに大物なんだけど、恐竜娘ティラミスに大体持っていかれた気がするな。


「待たせたな。次はメープルの話だ」

「やっとっすか。主人については大体アルタさんに聞いたっす。思った通り、とんでもない方の従魔になったみたいっすね」


 アルタからこちらの話は一通り聞いたようだな。

 アルタがこっそり説明してくれるおかげで、最近では俺や仲間について紹介する必要がなくなっている。とても楽である。


「じゃあ、自己紹介をよろしく」

「自己紹介っすか?そうっすね……。名前はメープル、この湖のヌシをやっている大海蛇シーサーペントっす。得意なのは泳ぎと水魔法。苦手なのは熱いところと釣り針っす」

「やっぱりヌシだったのか……」


 大海蛇シーサーペントは魚じゃないから、ヌシと言うと若干の違和感がある。しかし、この湖で1番の大物であることは間違いないので、釣り人としては普通に嬉しい。


「仁様、おめでとうございます」


 マリアが称賛してくれた。嬉しいけど、なぜそこまでタイミングよく称賛できたのだろう?


A:(マスターのことを常に見ているからなんとなくわかるのではないでしょうか。)


「なんの話っすか?」

「いや、大した話じゃない。それよりもメープルはこの湖に住み着いてから長いのか?」

「そうっす。ずいぶんと長く住んでいるっす。50年くらいはいるっすね」

「長いな。しかし、その割には随分と簡単に釣れたな」


 具体的に言うと釣り針を垂らしてから1秒以内に食いついた。


「それを言われると辛いっすね。なんか、2日くらい前から体がムズムズしてたんっすよ。で、今日になって我慢できずに水面近くまで行ったら見事に釣りあげられてしまったって訳っす」

「2日前っていうと俺が釣りを始めたころだな」

「ムズムズしていたのは、きっと主人が近くにいたせいっすね」

「ハニーが釣りをして、そこにヌシがいるんなら、出会わないわけないよね☆」

「仁様はレアな魔物との遭遇率が非常に高いですからね」

《ドーラが最初だよー!》


 ごめん、ゴブリン・ヒーラーが最初に遭遇したレア魔物です。

 それと、ドーラには(レア)って付いてなかったです。


「そもそも、なんで大海蛇シーサーペントが湖にいるんだ?」

「波はうるさいし、嵐は来る。つまり、海って住みにくいんっすよね。湖の方が落ち着けるっす」

「それでいいのか大海蛇シーサーペント?」

「可能なら大湖蛇レイクサーペントになりたいっす」


 海にいることはアイデンティティには含まれないらしい。それよりも住みやすさ重視ということか。


「後は生活する上での制限とかはあるか?陸に長い時間いられないとか?」

「ないっすね。陸海空、どこでも自由に行けるっすよ。騎乗用の魔物としては一級品の自負があるっす」


 豊満な胸を誇らしげに張るメープル。水中はもとより、<飛行>もあるから空中も行ける。そういう意味ではかなり役に立つのだろうな。……本来なら。


「陸は馬車で移動するし、空は自前で飛べるから不要だ。まあ、水に入るときは頼むよ。今のところ予定はないけど……」

「主人が凄すぎて自分の存在価値がピンチっす!何か!?何かお役に立てることはないっすか!?」

「別に役に立ってほしくて従魔にしたわけじゃないしなー……」


 レアな魔物を見ると、思わずテイムしたくなる病にかかっているだけである。

 奴隷は面白そうなスキルや称号を持っていた場合、魔物はレアと付いていた場合に欲しくなる。奴隷の場合は目的があって買うこともあるが、従魔の場合は今のところ100%行き当たりばったりである。

 そのため、基本的に従魔には自由にさせるという方針をとっている(ドーラ以外)。ドリア―ドのミドリは屋敷でボーっとしているし、メタモルスライムのタモさんはしたいことがないようだから、各屋敷に配備しつつ、馬車の番となっている。吸血鬼のミラを従魔枠にするのもどうかと思うが、従魔としては結構な自由を許している。


「それも困るっす。自分これでも結構な大物っすよ?仕えるべき主人を見つけたというのに、その扱いはあんまりっすよ!」

「そうだなー、して欲しいことか……。今の目的は配下の拡充、真紅帝国の説得、帰還方法の捜索の3つが大きいかな」

「配下っすね!それなら協力できるっす。まずはこの湖の魚全てを……」

「いや、魚を配下にしても使い道がないだろう。……食べる以外」


 配下にしてから食うくらいなら、普通に買ったり釣ったりすることを選ぶよ。


「そもそも、魔物以外はテイムできないんだから、普通の魚を配下にするのは難しいんだよ。魚の言葉がわかれば別だけどさ……」


 <魔物調教>は効かないし、<獣調教>は芸を仕込むためのスキルだから意味が違う。魚を配下にするためのスキルなど存在しない。

 言葉が通じれば、説得きょうはくも出来るのだが……。


「魚と意思の疎通は出来ないっす。そもそも自分魚じゃないんで……」

「じゃあ配下には出来ないな。いや、元々するつもりはないがな」

「残念っす……。あ、じゃあ他の強い魔物の居場所を教えるっていうのはどうっすか?」

「詳しく聞こう」


 少し興味がそそられた。


「はいっす。自分これでも長く生きている魔物っす。長く生きていると自然と同じくらい生きている魔物との交流も出来てくるっす。そんな魔物達を紹介?生贄?とにかく主人に教えるっす」

「生贄とか人聞きが悪いことを言うな……」


 アルタは俺のために世界各国にメイドたちを派遣している。しかし、商会として派遣しているため、基本的に対象は町や村となる。そのため、町や村から離れた魔物の住処は管理の対象外となっているのだ。

 クロードたち冒険者の配下もいるのだが、数は多いとは言えないし、秘境の探索だけに力を入れるわけにもいかない。レア魔物の情報を知っている者がいるのなら、その情報を使うのは悪い手ではない。


「でも、それは中々面白そうだな。しかし、いいのか?それって仲間を売るような行為じゃないのか?」


 いくら従魔にしたからと言って、仲間を売るような真似をさせるのは気分が良くない。


「気にすることはないっす。仲間と言うほど親しいわけじゃないっすから……。少なくともほとんどの魔物とは1度は戦っているし、隙あらば倒してやろうくらいのことは思っている相手っすから」

「意外と殺伐としているんだな」

「魔物の交流関係なんてそんなもんっす。気にせず倒すなり、従魔にするなりしてほしいっす」


 交流はあるけど、絶対的な友好関係と言う訳ではないようだな。まあ、それなら問題ないだろう。


「わかった。じゃあ、この近くに知っている奴はいるか?」

「そうっすね……。この湖からしばらく北に行ったエンデ山って所に、ハーピィ・クイーンの大物がいるっすよ」


 ハーピィ、ハルピュイアとも呼ばれる鳥の魔物である。鳥の魔物と言いつつも、身体の胴体部分や顔は人間の女性のそれである。腕と下半身が鳥になった女性と言った方が伝わりやすいかもしれないな。

 基本的に群れで生活する魔物で、1匹のハーピィが群れのリーダーとなっている。尤も、群れのリーダーがハーピィ・クイーン(レア)である必要はなく、その可能性はかなり低いんだとか。

 ハーピィは普通の魔物と同じようにポップで発生するほか、ハーピィ・クイーンによって生み出されることもあるそうだ。不思議なのは、女性しかいないハーピィの中でどうやって繁殖しているのかということだ。他の種族のオスでも襲うのかな?


A:クイーン単独で卵を産むことが出来ます。有精卵、無精卵を自由に産み分けられます。


 ……何その謎生態?

 まあいいか。この世界の魔物の生態なんて、考えるだけ時間の無駄だからな。


「よし、じゃあ今からちょっと行って、ハーピィを配下に加えよう」

「今からっすか!?」

「ああ、今からだ。今日は自由行動だし、他のメンバーを呼ぶのも悪いから俺たちだけで行くぞ」

「はい、仁様の御心のままに」

《おー!》

「おー♪」


 こうして俺、マリア、ドーラ、ティラミス、メープルの5人はハーピィ・クイーンのいるエンデ山に行くことになった。

 空を飛んでいこうと思ったのだが、ここで1つ問題が発生した。


「重いっすー!?」

「……☆」


 ティラミスが予想以上に重かった。

 俺とドーラ、メープルは空を飛ぶことが出来る。空を飛べないマリアとティラミスを誰が連れていくかという話になったとき、メープルが「2人くらい乗せてみせるっす」と言ったので任せてみた結果がこれである。


 どうやら、<変化へんげ>では体重は変わらないようで、ティラノサウルスの体重をメープルは支えきれなかったみたいだな。

 ティラミスは変化へんげするのが嫌なようで、実際の姿を見たわけではないが、ティラノサウルスである以上、幼体だとしても体重が数100kgはあるだろう。そら重いわ。


 ティラミス本人も全く気が付かなかったようで、自分の体重を知って軽く絶望していた。その様子から察するに、生前は女性だったのだろう。


「俺の不死者の翼ノスフェラトゥの方で連れて行ってみるか……」

「お願いします……☆」


 ティラミスのテンションもダダ下がりである。


 不死者の翼ノスフェラトゥの端の方でティラミスをつかむ。そのまま<飛行>スキルを発動させて宙に浮く。


「いつもよりもMPの消費が激しいな。やっぱり、重さ基準でMP消費量が変わるみたいだな」


 もちろん、MP消費が激しいとはいえ、全体から見れば微々たるものである。MPの自動回復もあるから、よほど連続で飛びつつけなければ問題にはならないだろうな。


「……☆」


 何も言わずにティラミスは脱力している。


「じゃあ、行くか」

「はい」

《はーい》

「はいっす」

「……☆」


 ティラミスが全くの無言で怖い。



 飛び続けること10分。


《何でっ、そんなにっ、速いっすか!?》


 息も絶え絶えのメープル(大海蛇シーサーペント形態)が、俺とドーラを追いかけながら質問してくる。

 何故かと言われたら、俺とドーラの<飛行>スキルがレベル10で、メープルがレベル2だからだろうな。さすがにその差は大きいよ。


経験スキルポイントの差だな」

《ありえないっすよ!?自分が何年生きていると思っているっすか!?》

「694年だな」

《うう……、主人といると自分の常識が音を立てて崩れていくっす》

《よくあることだよー?》

「仁様ですから、当然ですね」


 ドーラとマリアがフォローにならないフォローをしている。


「重いー☆ 重いー☆ 私は重いー☆」


 そしてティラミスはダメっぽい。不死者の翼ノスフェラトゥにつかまれた状態で完全に気力を失っている。余談だがティラミスは下着を履いていないので、後ろから見たらとんでもないことになっているのだろう。


 そんなことを考えていると、マップ上で赤い点てきが接近してきていることが分かった。俺たちと同じ高度だから、鳥の魔物だろうな。


ブライト・ファルコン

LV40

<飛行LV4><光属性付与LV3><光属性耐性LV3><光線LV4>

備考:光り輝く鷹。素手で触れるとダメージを受ける。


 詳細を確認したところ、やっぱり鳥の魔物だった。

 見たところ俺は初めて会う魔物だけど、前に配下のクロードたちが倒したことがあるみたいだな。


「キギャー!」


 ブライト・ファルコンが目視できたと思ったら凄く威嚇してきた。どうやら、ブライト・ファルコンの縄張りに入ってしまったみたいだな。まあ、態々避ける理由もないし、このまま飛び続けるとしよう。


《あいつはブライト・ファルコンっすね。自分でも勝てる相手っすけど、空中ではそれなりには手ごわい魔物っす》


 そうかな?結構簡単に倒せると思うんだけど。


「ハニー、あの魔物の相手、ティラちゃんにさせてちょーだい♪」

「え?どうやって?」


 謎のやる気を見せたティラミスだが、不死者の翼ノスフェラトゥにつかまれている状態で何ができるというのだろうか?


「この状態のまま、前に掲げてくれれば、こっちで勝手に殴るから☆」

「いいのか?その戦闘スタイルで?」

「うん、武器の心得もないし、そのまま殴る方が性に合っているみたい☆」


 見た目は可愛さ重視なのに、戦い方は荒っぽいみたいだな。まあ、ティラノサウルスとしては正しいのかもしれないけど……。

 ちなみにティラミスのステータスはかなり高い。生まれて間もないレベル1とは思えないほどに……。具体的に言うと大海蛇メープルと同じくらいである。腕力に関しては(メープル)よりもはるかに高いのである。


 言われたとおりにティラミスを前に出す。ブライト・ファルコンも引く気は無いようで、そのまま突っ込んできた。


「ストレス発散ぱーんち♪」

「ギギャー!?」


 いい感じの一撃がブライト・ファルコンの顔面に直撃し、まもなくHPが0になった。落下していくブライト・ファルコンを<無限収納インベントリ>に回収した。


「ふー、すっきりした☆」

《い、一撃っすか!?》


 少しだけ晴れやかになったティラミスと、大海蛇シーサーペント状態で驚愕の顔?をするメープルの対比が面白い。

 後、普通にストレス発散だったらしい。


「どうだった?初めての戦闘は?」

「え?今のは戦闘じゃないよ☆ ただの狩りだよ♪」


 俺の質問に対し、キョトンとした顔をするティラミス。こいつの中では、今のは戦闘に含まれないらしい。確かに戦闘と呼ぶには随分と圧倒的だったからな。

 まさしく、王者たるティラノサウルスの感覚なのだろう。自分よりもはるかに弱いものを相手にする場合、それは戦いではなく狩りであると……。


「じゃあ、俺と模擬戦でもしてみるか?」

「それも戦いにならないかな☆ 私に出来ることなんて、命乞いくらいだから……☆」

「なぜそこで卑屈になる……?」

「ハハハ☆」


 目をそらして誤魔化すティラミス。コイツの行動指針がわからん。



 トラブルとも言えないようなイベントがあったが、その後もしばらく飛び続けて、無事にエンデ山に到着した。

 エンデ山は木々が生い茂った、1000m級のそれなりに大きな山である。周辺には村や町がないので、あまり人の出入りがない様だ。

 基本的には魔物だが、山には多種多様な生物が生息しており、ハーピィはその頂点に君臨しているようだな。ちなみに魔物以外の生物は熊とか猪とかのパワフルな奴らばかりである。普通に魔物に勝つからな、こいつ等は……。


「で、何で態々山を登っているんっすか?空を飛んで住処まで行けばいいじゃないっすか?」


 俺たちは現在、山を下から登っている最中である。


「様式美って奴だな。山の魔物と戦う以上、下から登ってしかるべきだと思うんだよ。時間があるときは……」

「それほど強い主張じゃなさそうっすね。時間次第ってことみたいっすから……」

「それもそうなんだけどな。ま、大した手間でもないし、構わないだろ?」

「そうっすねー。自分、なんもしてないっすけど……」


 そう言って、見つめる先には2人の少女がいる。


「よっと☆」


―ドスン!―


「ギャウ!」


 ティラミスがビッグブラックウルフを踏みつける。攻撃力が高く、体重の重いティラミスにそんなことをされたら、ビッグブラックウルフも潰れる、死ぬ。


「はあ……☆」


 体重が重いということを気にしつつも、それを活かした攻撃をする辺りがなんとも言えないな。倒した後に憂鬱そうな表情をしているし。


 そしてもう1人。


「ふっ」


 マリアが音もなく剣を振るい、数匹の獣系魔物が両断される。伝説級レジェンダリー装備である、太陽剣・ソルと月光剣・ルナをマリアに与えてから、まだそれほど経ってはいない。しかし、持ち前の器用さと訓練により、既に十分以上には使いこなしているようだ。

 特殊効果の『迷彩剣』により、一見するだけだと何も持っていないように見える。しかし、その手には切れ味抜群の伝説級レジェンダリー装備が握られているのである。魔物達もなぜ自分が死んだのか、わからなかっただろうな。

 これで<忍術>とか覚えさせたら、完全に暗殺者で食っていけるな。すでに<暗殺術>スキルも持っているけど……。


 マリアとティラミスが先導して魔物を退治しているおかげで、後続の俺たちは一切何もしていない。ちなみにドーラは俺が肩車をしている。魔物の蔓延る山の中で肩車とか、正気の沙汰ではないが、実を言えば迷宮でも同じことをしていたので今更である。


《ティラミスけっこうつよーい》

「そうだな。結構やるな」


 正直言うと、アニメキャラみたいな幼女が肉弾戦で魔物を屠っていく姿には、若干の違和感がないこともない。しかし、それを言ったら肩車をしているドーラとか、今ここにはいないミオとかも大概なので、俺の口からは何も言えなかったりする。


 前を2人に任せ、俺達はのんびりと山を歩き続け、ついにはハーピィの住処が近づいてきた。


「そろそろっすね」

「そうか。おい、マリア、ティラミス。ハーピィは殺すなよ」

「はい、わかりました」

「え?何で☆」


 こういう時、マリアは迷わずに命令に従う。しかし、それはどちらかというと普通ではないので、ティラミスは理由を尋ねてきた。


「これからハーピィ・クイーンをテイムするんだ。テイムする相手の配下を殺しまくるのもあまり気分は良くないだろ?」

「……そうかな☆ そうかも☆ うん、倒さないようにするね♪」


 ティラミスも納得してくれたみたいだな。

 実を言えば、タモさんを仲間にしたとき、横にいた普通のスライムは切り殺しているんだよな。タモさんが全く気にしていなかったからいいものの、後でヤバかったかなと気が付いたよ。



「きゅいー!」


 俺が2人に命令してから少し歩いたところで、ハーピィのモノであろう鳴き声が聞こえた。

 どうやら、ハーピィに発見されたみたいだな。いよいよ住処に到着と言ったところか。



*************************************************************


裏伝


*本編の裏話、こぼれ話。


転生者ティラミス

 転生者にはミオのように生前の記憶を全て持っている者と、ティラミスのように一部思い出せない記憶がある者がいる。

 どちらかと言うと、ミオのケースの方が稀で、ほとんどの場合は『変な記憶がある』程度で、自身が転生者であることを自覚しないで生涯を終える。

 ティラミスの場合少し特殊で、普通の人間の記憶に、ティラノサウルスの記憶が混線してしまっている(当然、普通はこんなことは起きない。仁のせいでおかしな現象が起きた)。

 そのため、仁に対して過剰なほどの恐怖を抱き、媚びを売ることを選択した。


 後、裏伝こんなところ背景バックストーリーを公開されるティラミスが憐れである。

次は定番?ハーピィです。しかもクイーンです。

魔物娘編(もうバラす)と言いつつ、娘と言うには年齢のヤバいメープルと、娘と言うには幼過ぎる(0歳)ティラミスです。

実は4章書き終わっているんですけど、仁と同年代の魔物娘は1匹も出てきません。


後、タモさんは人化しません。したとしても、スーツにグラサンです。不審者です。


20160723改稿:

ティラミスの体重を数トンから数100kgに変更。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
あー……つまりはこういう事か ヲタ女子→ティラノザウルス腹パン3回→ティラミス
主人公ってやっぱり性欲ないのかな?
タモさんの人形態、あの方がモデルなんですね(*´▽`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ