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第60話 釣りと魔物娘

前話記載の「4章は○物○編」のヒントがどこかに隠されています。


 夕食後、昨日と同じように今日の出来事を話し合った。


「1日で30食以上は食べましたわ。大分お金も使いましたわ」

「当初予定していたお店はほとんど見て回ったから、明日からは穴場探しかな」

「そうですわね。ある程度の知名度があるお店を中心に回りましたから、明日からは直感に従って巡りましょう」


 セラとミオはかなりの数の店を食べ歩いたみたいだな。

 しかし、本当にセラの胃袋は底なしである。そして、一切体型が崩れない。実際のところ、余剰カロリーが出ていないんだから、太るわけがないんだけどな。


「9割以上は再現できそうだから、またレパートリーが増えるわね」

「川と湖があるから、魚料理が多かったですわね。肉はエステアからの輸入が多いみたいでしたわ。味が同じでしたから」

「わかるのか?」

「大食いだから勘違いされやすいのですけど、これでも結構舌には自信がありますわ」

「へー、確かにそれは意外だな」


 大食いっていうとあまり味わって食べないような印象があるからな。

 そういえばセラは食べるのは早いけど、あまり詰め込んで食べているわけじゃないよな。咀嚼の速度が速く、常に手と口が動いているというだけで……。一応、上品な食べ方と言えなくもないのかな?


「実際、セラちゃんの舌にはかなり助けられているからね。今のところセラちゃんの評価と私とニノちゃんの評価は一致しているから。セラちゃんが食べる必要はないって言った料理なら私たちは食べないからね」

「調味料で誤魔化しているような料理なら、ミオさんたちに食べていただく必要はありませんわ。また食べたいと思った料理だけを研究してもらいたいですわ」

「任せてよ!最終的にはお屋敷で世界中の料理を食べられるようにするから!」


 アドバンス商会が世界各地に『ポータル』を設置し、その国々の食材や料理法を習得することで、本当に世界中の料理を屋敷で食することができるようになりそうだ。ただし、エルディア王国、てめーはいらねえ。



 ミオたちの話が終わり、次はさくらの番である。俺たちの話は最初に祝福の残骸ガベージの話をしただけで終わりである。『のんびり』目的なんだから、話せる内容があるわけがない。


「次は私ですね……。この度、私もついにスキルを習得しました!その名も<速読>です!」

「凄いじゃないか!」


 以前、さくらも自力でスキルを習得したいと言っていた。さくらは俺と違いスキルを習得できる可能性が0ではないからな。

 あれから話を聞かないから気にはなっていたのだが、どうやら無事にスキルを習得できたらしい。


木ノ下さくら

スキル:

技能系

<速読LV1 new>


「それも技能系か」

「はい……。他のスキルは狙うにはハードルが高いので……」


 武術、魔法、身体系のスキルと言うのは新規で習得するには相当の才能が必要になる。体を動かすのが苦手なさくらには武術系、身体系のスキルは荷が重いだろう。魔法系は大体持っているから、新規と言うのも難しい。

 まあ、この辺りは当然のように新規スキルを習得していくマリアや、<水魔法>を与えただけで他の魔法スキルを習得したケイトの異常性がより明確になるだけなのだが……。


「それに生産スキルは……」

「ああ、異能者は生産スキルにマイナス補正がかかるしな」


 技能系のスキルには生産スキルも含まれる。この生産スキルに関して、異能者は恩恵をあまり受けられない。ポーション作りとかな……。

 恩恵を受けられないスキルを自力で入手できるのかと言われると、正直無理だと思う。よって、狙うとしたら生産ではない技能系スキル一択となるのだろう。


「はい……。なので元の世界で習得した技術をいろいろと試してみました……。今回時間があったので本に関する技能をいくつか実施してみて、見事<速読>スキル習得となりました……」

「ってことはさくら様、元の世界でも速読できたんだ?」

「ええ……。普段は使わないんですけどね……。あまり時間がない時、どうしても読みたい本があった時に使っていました……」


 ミオの質問に頷いて答えるさくら。

 元の世界で使えた技能なのに、この世界に来た時に覚えていないというのはこれいかに?


A:この世界に来てから使用していなければ、スキル習得の条件を満たせません。


 なるほどね。それでこの世界に来たとき、向こうで培った技能がスキルとしては一切出てこなかったのか。そしてスキルの自力習得ができない俺は、それをスキルとして得ることができないと……。コンチクショウ!

 今度、向こうの世界で俺が使えた技術をマリアにでも教えてみるかな。


《ところでマリア、スキル統合を始めた時から入手したスキルって何個あるんだっけ?》


 俺が何もしなくても、マリアは勝手に新スキルを習得している。

 すぐに(アルタ経由で)俺にポイントを明け渡しているので、マリアのスキル欄には残っていないが、それでも結構な量のスキルを手に入れている。


《はい。<柔術><爪術><籠手術><分銅術><農業><分解><修復><捕縛術><壁登り><潜水>。昨日入手した<釣り>と<漁業>も既出ではありますが、数に含めると11個になりますね》

《そうか、多いな。今後も頑張ってくれ》

《はい。お任せください》


 何故、態々念話でマリアに聞いたかと言うと、このタイミングでスキル習得量No.1のマリアにこの話題を振るのって、さくらを虐めているようにしか見えないからである。『何あんた、やっと1個スキル習得できたの?』みたいな感じで。いや、それを言ったら俺なんて0個なんだけど……。


 そして改めて見たけど、マリアの新規習得した武術系スキル渋いな。武術系が少ないから習得してみてくれと言ったらこうなったと……。全体的に和風、そして忍者っぽい。<忍術>スキルってあるのかな?


A:あります。


 決めた。今度マリアに覚えさせるのは<忍術>に決定。それなら大分アドバイスできるし。


「仁君、どうしたんですか?何か決意したような顔をして?」

「いや、何でもないよ」


 忍者マリア育成計画はまた後で考えるとして、今はさくらのスキルの話だな。


「それはそうと、さっきの言い方だと他にもいくつか候補があるみたいだけど?」

「他のはあまり上手くいかなかったので、聞かないでもらえると助かります……」

「まだ、明日もあるし、すぐに習得できないものかもしれないから、気を落とすことも諦めることもないさ」

「そうですね……。もう少し試してみます……」


 さくらの話が終わったところで、その日は就寝することにした。もちろん、ドーラはとっくに寝ている。今日は俺の抱き枕だ。



 次の日、自由行動の3日目である。


 ゆっくり釣りをするのもいいが、たまには大物を釣ってみたい。そこで、午後一から餌をつけて釣りをすることに決めた。

 俺たちが用意したのはミミズや虫ではなく練り餌である。餌袋から軽くつまめるくらいの餌をとり、指でこねて丸くする。形が整ったらそれを釣り針につけて投げる。湖に「ポチャン」という音を立てて釣り針が沈んでいく。


―ドバアアアン!―


 大きな音を立てて湖から飛び上がったのは、全長10m程の巨大な蛇だった。


大海蛇シーサーペント(レア)

LV85

<水魔法LV7><水棲LV6><潜水LV6><飛行LV2><変化へんげLV7>

備考:海中に生息する魔物。


 魔物が釣れてしまった。それもかなりの大物ですね。

 それよりも備考欄。海中に生息って書いてある気がするんだけど、ここ湖だよ?後、普通にレベル高いよ。そこらの湖に生息していていいレベルの魔物じゃないよ?


 大海蛇シーサーペントはしっかりと釣り針を咥えており、こちらを睨み付けてきた。どうやら、明確にこちらを敵と判断しているようだ。釣り針、痛いもんね。


 大海蛇シーサーペントは逃げるのではなく、俺たちを排除することに決めたようで、こちらに突っ込んできた。<飛行>スキルを持っていることから分かるように、完全な水中限定の魔物ではないようだ。

 俺たちに近づいた辺りで水面から飛び上がり、体当たりを仕掛けてきた。全長が10mで、太さも電信柱くらいはあるのだから、かなり重いはずだ。普通の人間が体当たりを食らえばただでは済まないだろう。


 と言う訳で、とりあえず避けてみた。俺の横を素通りしていく大海蛇シーサーペント


 体当たりをスカした大海蛇シーサーペントだが、そのまま空中を進み方向転換をしようとする。まあ、態々待っている必要もないよな。

 少し強めに釣り竿を引っ張る。


「GYOOOOON!」


 大型魔物特有の鳴き声を上げ、空中で体勢を崩す大海蛇シーサーペント。何とか墜落するのは免れたようで、空中で俺と引き合いになっている。

 しかし、女支店長コレットの用意した釣り竿、丈夫だな。10m級の魔物を相手にしても壊れないし、糸も切れないんだからな。


「この程度の魔物、仁様がお相手するまでもありません。私が討伐いたします」


 そう言ってマリアが前に出てくる。右手に太陽剣・ソル、左手に月光剣・ルナの完全装備だ。


「待て、マリア。こいつに攻撃をするんじゃない」

「何故ですか?仁様に攻撃を仕掛けた魔物ですよ?」

「こいつは俺の獲物だ。俺が釣る・・んだよ」


 こいつは湖にいて、俺の垂らした釣り針を咥えた。つまりは俺とコイツの1対1の戦いが始まったわけだ。そして、大海蛇こいつはまだ俺に屈していない。<飛行>スキルもあるみたいだし、空中にいるうちは釣りあげたとも言いにくい。そもそも自分から突っ込んできたのを釣ったとは言いたくない。

 よって、明確な勝敗が付くまではマリアに横槍を入れられては困ると言う訳だ。剣だけど。


「……わかりました。ご武運をお祈りしています」


 マリアがすぐに引いた。命の危険があるわけでもないし、マリアが近くにいるから寛容なのだろう。


 真っ向から戦ったら負けるわけはない。しかし、釣りという戦いである以上、釣り糸が切れたり、釣り竿が壊れたりしたら俺の負けに等しい。そして、俺はこれでも結構負けず嫌いである。


「GYUOOOOOO!」


 大海蛇シーサーペントの周囲に魔法陣が現れた。青い魔法陣だから、間違いなく水魔法だろう。スキル欄にもそう書いてあるし……。


 それから10秒ほどして<水魔法>レベル3の『アクアスプレッド』が発動した。

 『アクアスプレッド』は魔法陣の位置から10個ほどの水弾が飛び出してくるという魔法だ。それぞれが『アクアボール』よりも大きいので、狭い場所では結構避けにくい。

 しかし、そもそもあたっても問題がない程度には差があるのだから……。


「マリア、俺に当たるモノ以外・・を切れ」


 流れ弾がどこかに飛んで行っても嫌だからな。


「はい」


 言った瞬間にマリアが動き出し、俺に当たる『アクアスプレッド』以外を切り裂いた。そして……。


―ドン!ドン!ドン!―


 三発の『アクアスプレッド』が俺に直撃する。


「GYAGYAGYA!?」

「いや、効いてないな」


 全くのノーダメージである。さすがにステータスに差がありすぎるからな。

 後、勝手な推測ではあるんだが、今この大海蛇シーサーペント、「やったか!?」って言ったよな?


「GYO!?」


 驚愕の表情を浮かべる大海蛇シーサーペント。その隙を見逃す理由もないので、今まで以上に強く引っ張る。


「GYOE!?」


 そのまま完全に態勢が崩れ、大海蛇シーサーペントが地面に墜落する。


「ここまですれば『釣った』と言ってもいいだろう。さてと……」


 釣ったら、新鮮なうちに捌かないとな。


 倒れている大海蛇シーサーペントに近づいていく。大海蛇シーサーペントもそのままやられるつもりはないようで、起き上がって俺の方に噛みついてきた。

 俺の側からすれば『釣り』だが、大海蛇シーサーペントの側からすればそんなのは関係なく、当然釣り上げられた後も攻撃を仕掛けてくるだろう。


 しかし、考えても見てほしい、俺は何て言ってマリアの攻撃を止めた?『釣りだ』と言って止めたんだ。そして、『釣り』は今しがた俺の勝ちで終了した。つまり、もう直接的な戦闘を躊躇する理由なんてどこにもないわけだ。


―ガシ―


 俺は襲いかかってくる大海蛇シーサーペントの頭を左手で鷲掴みにする。


「GYUON!?」


 またしても驚愕する大海蛇シーサーペント。頭を動かそうとしたり、身体を引いたり押したりしているが、ビクともしない。

 そこですかさず、複合スキル<恐怖>を大海蛇シーサーペントに向けて全力発動する。


―ぶしゃー―


 水棲魔物だけあって、体内に大量の水を保持していたようで、失禁?の勢いも今までに見たことのないレベルである。そして大海蛇シーサーペントは泡を吹いてビクンビクン痙攣している。そこまで行った段階で<恐怖>をオフにする。


 やっぱり、この<恐怖>は強力だな。特に俺のステータスが上がるほどに効果を増していくようだ。余談だが、他の人にも<恐怖>スキルを使わせてみたが、俺には全く影響がなかった。<多重存在アバター>の精神保護が効いているんだとは思うが、アルタ曰く。


A:<多重存在アバター>がなくても変わりません。


 だそうだ。どんだけ俺の肝は太いというのだろうか。


 痙攣している大海蛇シーサーペントを見る。

 どうするかな。普通に倒してもいいし、レアだからテイムしてもいい。……少し考える。


「仁様、この魔物はどうするのですか?」

「起きたときの行動で決めよう。攻撃してきたら討伐、服従したらテイムだな」

「わかりました」

《ごしゅじんさまー、なにしてるのー?》


 ドーラがこちらに近づいてきた。今まで寝ていたようだ。起きたら俺がいないから、探しに来たらしい。余談だが、寝ていたドーラは不死者の翼ノスフェラトゥに支えさせていた。伝説級レジェンダリーの扱いが酷い。


「ん?こいつが釣れたからな。配下になるか、蒲焼になるかがこれから決まるんだよ」

《かばやきにいっぴょー!》

「ごめんな。多数決じゃなくて、起きた時の行動で決めるんだ」

《ざんねーん……》


 少し悲しそうな顔をするドーラ。これを見ると無条件蒲焼でもいい気がしてくるが、1度決めたことを翻すのは好きではない。ごめんね、ドーラ。


 しばらくしたら、大海蛇シーサーペントが起きた。まあ、正確にはまだ寝たふりをしているのだが……。

 自分がまだ生きていることに驚いて、見逃してくれるかもと思って寝たふりを続けているみたいだな。


「服従には生を、敵対には死を与える」


 その一言を突き付ける。言葉がわかっているかどうかは問題ではない。起きていることに気付いていると伝えただけだからな。

 大海蛇シーサーペントはビクッと震えると起き上がり、頭を地面にこすりつけ始めた。どう見ても戦意なんて残っていないな。


《かばやきー……》


 蒲焼がなくなったことを悟ったドーラが悲しそうにつぶやく。


「GYAU!?」


 絶賛服従中の大海蛇シーサーペントが辺りを見渡す。ドーラのセリフは念話なので通じていないが、なにやら悪寒が走った模様。


 このままでは話が進まないので、とりあえず<魔物調教>スキルの陣をぶつける。


大海蛇シーサーペントをテイムしました。

大海蛇シーサーペントに名前を付けてください。


 当然、大海蛇シーサーペントは無抵抗でテイムを受け入れたようだ。


 さて、名前を決める前にこいつのステータスを見てみよう。釣りには関係ないから、今までは魔物用の表示で見ていたが、配下になったのだから他の表示も気になる。まあ、アルタが何も言って来ないので、不利益はないのだろう。


名前:―

性別:女

年齢:694才

種族:大海蛇シーサーペント(レア)

スキル:<水魔法LV7><水棲LV6><潜水LV6><飛行LV2><変化へんげLV7>

称号:仁の従魔


 へー、メスなのか。そして結構な年齢だったんだな。さすが湖のヌシ(暫定)。


 ところで、さっきから気になっていたんだけど、この<変化へんげ>ってスキルは何だ?


A:他の姿へと変化できるスキルです。ドーラが人間形態と竜形態を切り替えるようなものです。


 2つ質問。1つ目、ドーラには<変化へんげ>スキルがないのはなんで?2つ目、タモさんの<擬態>スキルとどう違うの?


A:1つ目の質問の答えは不明です。今のところ、人間形態になれる魔物で<変化へんげ>スキルが不要なのは竜人種ドラゴニュートだけです。


 どちらかと言えば竜人種ドラゴニュートの方が特別だったのか。


A:2つ目の質問の答えは『元となる姿の有無』です。<擬態>は別の物体を真似ているだけ、<変化へんげ>は姿が変わっているけれど、変化後も本人固有の姿となります。


 <変化へんげ>した後の姿も本人には違いないということか。本当にドーラの変身がそのままスキル化したと思えばいいみたいだな。


《おい、お前は何に変化できる?》


 とりあえず、本人に念話で聞いてみることにした。


「GYAU?」


 辺りを見回す大海蛇シーサーペント


《心の中で俺を意識して話しかけてみろ》


 俺がそういうと大海蛇シーサーペントは動きを止め、目をつぶった。


《あ、あー、あー、届いてるっすか?》

《ああ、聞こえている。大海蛇シーサーペントだよな?》

《はいっす》


 何か変なしゃべり方であるが、透き通るような美しい声である。エステアで音楽活動をしている配下のフィーユに通じるものがあるな。


《俺の従魔になったことは理解しているよな?》

《う……、はいっす》


 その巨体を少し縮める大海蛇シーサーペント。愛嬌があって少し可愛い。


《俺はお前が変化へんげ出来ることを知っている》

《!?》

《もう1度だけ聞く。お前は何に変化できる?》


 3度目はないよ。


《は、はいっす。蛇と海蛇と人魚と人間になれるっす》


 意外とバリエーションが豊富だな。ドーラの話が出ていたから予想はしていたが、コイツも人間になれるみたいだな。


《人間の姿なら喋れるのか?》

《しゃ、喋れるっす》

《じゃあ、人間の姿になれ》

《りょ、了解っす》


 そう言うと大海蛇シーサーペントの身体がドーラと同じ仕様で光り輝いていく。


 そこに現れたのは、青い透き通った髪を地面まで伸ばした美女だった。見た目の年齢は20歳程で、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、全裸の美女だった。……そりゃあ、ドーラと同じ仕様なら変化直後は全裸だよな。


「ふう、この姿も久しぶりっすね。100年ぶりくらいっすか?」


 声は念話と変わらず、口調もそのままである。口調のせいで残念な美人臭がするのはとりあえず置いておこう。



 そんな呑気なことを考えていたら、アルタからの報告があった。


A:マスター。『恐竜の卵』が孵化します。


「え、マジか!?」


 アルタの言う『恐竜の卵』とは、カスタールでティラノサウルスを倒した後にポップした卵のことだ。卵なのにテイム可能だったから、その場でテイムして今に至る。

 そもそも、この街で7日間の自由時間をとったのも、アルタが7日以内に卵が孵りそうだと言ったのが切っ掛けである。だからこそ1日目、2日目は大人しくしていたのだ。今回、少しだけ羽目を外したこの瞬間に孵るとか、中々にタイミングが悪い。


 仕方がないので<無限収納インベントリ>から『恐竜の卵』を取り出す。最初見た時は30cmくらいだったのに、今は1mくらいのサイズになっている。俺の記憶が確かなら、卵は普通産み出された後に大きくならないと思うのだが……。


「え?何っすか?今の?」


 大海蛇シーサーペントが驚いているが、今は無視である。


 ピキピキと音を立てて卵が割れていく。後の楽しみのために、俺はステータスチェックを実行していない。ランダムと言われているのだから、カンニングは良くない。

 余談だがアルタは普通にステータスを見ているらしい。まあ、アルタの仕事はカンニングをすることだから仕方がないよな。


A:問題のある中身だったら事前に報告しております。


 アルタが報告してこない=俺に害がないって構図が確立しているからな。安心して孵化を見守れる。


 卵が割れ、中から飛び出してきたのは……。


本気狩るマジカル恐竜レックス少女ガール☆名前募集中ちゃん!君☆臨♪」


 ピンク色の髪をした全裸の幼女だった。

 左手を腰に当て、右手をピースサインにして目の前まで持ってくるというポーズを決めてきたのは、ミオと同じか少し年上くらい(推定9歳)の幼女である。


 恐竜じゃないじゃん!ポーズなんだよ!ピンク髪ってアニメかよ!生まれたばかりなのに喋れるのかよ!口上おかしいだろ!


 怒涛の突っ込みである。

 とりあえず、ステータスをチェックする。


名前:―

性別:女

年齢:0才

種族:ティラノサウルス(転生者)

スキル:<身体強化LV6><噛みつきLV4><暴君LV-><変化へんげLV5>

称号:仁の従魔


 突っ込みどころがさらに増えました。

 0歳児の姿じゃねえだろ!転生者なのかよ!<暴君>スキル持っているのかよ!<変化へんげ>した状態で生まれてくんのかよ!


「えっと、なんなんっすか?この子?」


 大海蛇シーサーペント娘が恐竜娘を指さす。奇遇だな、それは俺も知りたい。


「恐竜の卵から産まれた、魔物幼女だよ♪」


 それに答えたのは当の恐竜娘本人である。右手を人差し指と親指だけを伸ばした状態にしてこちらを指さしてきた。いちいちポーズを決めないと気が済まないのだろうか。

 そして、少女たちの全裸率がやたらと高い(50%)。しかし、魔物娘ゆえか、誰も恥ずかしがらない。


「とりあえず、服を着ろ」

「仁様、こちらを」

「ああ、助かる」


 マリアが俺に服を渡してきた。状況を考えてあらかじめ準備していたようだ。相変わらず気の利く配下である。

 マリアから受け取った服を全裸娘たちに投げる。


「わかったっす」

「はーい☆ あ、リボンあったら2つちょーだい♪」

「リボンだな。ほれ」


 <無限収納インベントリ>から、赤いリボンを2つ取り出して、恐竜娘に渡す。


「わーい☆ ありがとー♡」


 指示の通りに服を着ていく2人。大海蛇シーサーペント娘はともかく、恐竜娘が生まれたてなのに1人で服を着られるのは転生者だからだろうな。


「着たよ♪」

「着たっす」


 2人が着ているのはワンピースで頭から被るだけの簡単仕様である。ノーパンノーブラだけど、着ていないよりはマシだろう。

 ちなみに恐竜娘はリボンで髪を結んでツインテールにしていた。ピンク髪でツインテールとか、アニメキャラのようである(2回目)。見た目が幼いから、一応許せる範囲だが……。


「よし、問題ないな。とりあえず、大海蛇シーサーペントは後回しだ。恐竜娘、お前何者だ?」

「後回しっすか……」


 大海蛇シーサーペントが少し凹んでいるが無視である。


「その前にパパ☆ 私に名前つけてちょーだい♪」

「パパってなんだよ……」

「生まれて最初に見たからね☆」

「刷り込みかよ」


 恐竜娘の生態がわからない。

 恐竜娘の名前に関しては、卵状態で名前を付けるのも不毛だったので、ずっと後回しにしてきたのだ。確かに生まれた以上は名前を付けるべきだよな。


>「タマ子」と名付ける

>「ティラ子」と名付ける

>「ティラミス」と名付ける

>「ゆかり」と名付ける


 お、いつもより選択肢が多いな。そして不動のゆかり(初恋の子)。

 駄洒落っぽいけど、一番マシなのは「ティラミス」かな……。ティラノに女性ミスでティラミス……。


「じゃあ、お前の名前はティラミスだ」

「お菓子の名前ってのは高評価だけど、駄洒落なのはどうかと思うな☆」


 それは自分でも理解しているから、出来れば言わないでほしいな。


「あのー、ついでに自分にも名前つけてほしいっす……」


 おずおずと大海蛇シーサーペントが手を上げる。


「元々付いていた名前とかないのか?そのままでもいいんだが……」


 長生きだし、知性もあるみたいだから名前が付いていてもおかしくはない。

 ドーラの時はそれを聞く前に名前を付けてしまったが(後悔はしていない)、態々改名させる必要もないだろう。

 ……名前のセンスがないから、有り物を使いたいわけではない。


「長く生きているっすからね。一応、何個かあるっす。でも、折角従魔になったからには主人に名を付けてもらいたいっす」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんっす」


 そう言われては名前を付けないわけにもいかないよな。

 なんかマリアが横で変な顔をしているが、どうしたのだろう?


A:奴隷になったときに生まれ変わったと言っていましたからね。新しい名前を付けて貰えば良かったと後悔しているのでしょう。


 マリアの愛(もしくは信仰)が重い……。


 ……とりあえず、大海蛇シーサーペントの名前を考えよう。


>「ニョロ子」と名付ける

>「ペン子」と名付ける

>「マリン」と名付ける

>「ゆかり」と名付ける


 絶望的にセンスが感じられない!なぜ後ろに「子」をつけようとするのか……。

 一番マシなのは「マリン」かなー……。でも、マリアと名前が被るからなー。


 と言う訳でリセット!


>「メープル」と名付ける

>「サー子」と名付ける

>「アクア」と名付ける

>「ゆかり」と名付ける


 アクアは水系統だからだな。メープルは……あ、ティラミスに揃えてきたのか。サー子はない。


「わかった。お前の名前は「メープル」だ」

「ありがとうっす!メープルっすね。覚えたっす」

「羨ましい……」


 大海蛇娘メープルは名前を付けられたことを素直に喜んでいる。考えてみれば、魔物にネーミングセンスって概念はないのかもしれないな。

 後、マリアが少し怖い。従魔に嫉妬するなよ……。


「『ティラミス』に合わせてきたのね☆ コンビ扱いかな♪」


 まあ、正式に配下になったタイミングも近いし、コンビ扱いでちょうどいいと思う。


*************************************************************


ステータス


進堂仁

LV78

スキル:

その他

加速アクセラレーションLV- new>


木ノ下さくら

LV60

スキル:

技能系

<速読LV1 new>


スキル統合:

<武術>スキルに<柔術><爪術><籠手術><分銅術>を統合。

<技能>スキルに<釣り><漁業><農業><分解><修復><捕縛術><壁登り>を統合。

<身体>スキルに<潜水>を統合。


本章の章ヒロインの登場です。

恐竜の卵は29話で登場したので、約30話の間孵化しなかったことになります。

忘れていたわけじゃないんですけど、迷宮では孵化のタイミングがなくて……。


ティラミスは甘々のアニメ声だと思ってください。だから語尾に♪か☆か♡が付きます。

。=☆ !=♪ 甘え声=♡です。


ティラミス「出来れば100話ぴったり記念で生まれたかったな♪」

クロード「すいません。列伝が1話伸びて……」

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
なんでSランククラスの魔物が釣り堀に居るんだよ。 シーサーペントですら失禁するものをかつてなんの力もない奴隷の子供に向けたとかやっぱり主人公鬼畜だよなぁ。 他の客もいる釣り堀で全裸の美女と幼女を侍…
[一言] ステータスより財産の方が気になるよな(笑)
2019/11/09 03:35 退会済み
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