第59話 公国観光と解析結果
祝100話(露骨なお祝い米稼ぎ、コイツ本当に隠さねえな)。
4章開始ですが、最初はのんびりです。
アト諸国連合について説明をしよう。
アト諸国連合は12の小国からなる連合国で、連合の領土を全て合わせてやっとカスタール女王国やエルディア王国ほどの面積となる。
連合に所属する国々は小さく、王国と呼ばれるものもあれば公国と呼ばれるものもある。そして、1つの国は10個程度の村や町がある。
文化については説明がしにくい。それぞれの国が独自の文化を持っており、共通する部分があまりないというのが特徴と言えるだろうか。この辺りは歴史的な背景があるが、深く話す内容ではないので少しだけ話す。
元々このあたりの小国は小競り合いが多く、統一されないまま長い年月が経った。そして気が付いたら周辺の国々が大きくなっていて、これはいかんと言うことで停戦して連合となったという、どーしょーもない話である。文化がバラバラなのはその辺りが理由だ。
ちなみにアト、と言うのはこの地方の古い呼び名である。元々仲の悪かった国が連合になるのである。連合名決定の際にはもめた。それはもう、また小競り合いが始まるんじゃないかと言うくらいには……。そして、最終的に今は使っていない地方名なんてモノを引っ張り出してきたというわけだ。
前置きが長くなったが、俺たちは今アト諸国連合の南端にある小国、リガント公国に来ている。
どうやって来たかって?それはもちろん、馬車……ではなく『ポータル』である。しかし、俺はこの国に1度も来たことがない。『ポータル』は魔法を設置しなければいけないので、1度も行ったことのない場所に行くことは出来ない。じゃあ、どうしたのか?
それは簡単、俺の奴隷が設置した『ポータル』を使用してここまで来たのである。
「各地に派遣っていうのが、こういう意味だとは思わなかったな……」
思わずつぶやいた俺がいるのは、リガント公国公都、リガーで最も大きな商会、アドバンス商会の本拠地、その応接室だ。
「紅茶が入りました」
そう言って俺の前に紅茶を差し出したのは、メイド服を着こんだアドバンス商会リガント公国公都支店の女支店長である。
……若干言っていることがおかしいと思う人もいるかもしれないので、少し補足をしよう。
支店長の名前はコレット。背が高くプロポーションもそれなりに良い。髪は茶髪を後ろで一本にまとめており、真面目そうな顔も相まって『デキる女』と言った印象だ。メイド服姿なので少し緩くなっているが、スーツでも着せたらキャリアウーマンにしか見えないだろう。
で、これがステータス。
名前:コレット
LV29
性別:女
年齢:20
種族:人間
スキル:<剣術LV2><格闘術LV2><水魔法LV1><回復魔法LV1><算術LV3><交渉LV2><話術LV2>
称号:仁の奴隷
お分かりいただけただろうか?称号に『仁の奴隷』がある。つまり俺の奴隷なのである。
簡単に言えば、彼女はアルタやルセアの指示で各地に派遣した奴隷メイドの1人だ。その目的は俺の旅をサポートすることである。具体的にどうサポートするのかと言う話は一切聞いていなかったが、先ほどアルタに聞いたら……。
A:商会を立ち上げて各地に拠点を作り、知識的、経済的、権力的な支援をします。
と、答えられた。
詳しく話を聞いたところ、俺の異能である<無限収納>とさくらの創った魔法の『ポータル』を使ってアドバンス商会と言う商会を作り、商売をしていたらしい。
無限にモノが入る倉庫があり、それを各地で共有。人員・物資の行き来がノーコスト、移動時間0で行えるのである。ちなみに商会員はほぼ100%俺の奴隷だから、<契約の絆>による能力の共有で、ほぼ全員が<無限収納>と『ポータル』を使える。
<無限収納>と『ポータル』が商売にどの程度影響するのか、と言うのは詳しく説明する必要はないだろう。少なくとも、1月かそこらで小国内とは言え、最大の商会に上り詰める程度の力はあるということだ。
そしてこの度、リガント公国に俺が向かうことになったので、女支店長は普段の仕事着から正装に着替えたというだけの話である。
余談ではあるが、このアドバンス商会、本店はカスタール王都に軒を構えているようだ。表向きのトップはルセアになっており、世界各国へと店舗を拡大していっているらしい(エルディア除く)。言ってしまえば、奴隷メイド派遣の隠れ蓑と言ったところだろう。
「それでご主人様、今後のご予定をお聞きしてもよろしいでしょうか?それと何かご要望があるのでしたら、何でもお申し付けください」
立ったまま支店長が言う。ちなみに俺は今なんか無駄に豪華な椅子に座らされている。さくら、マリア、ミオ、セラは近くにあるソファに腰かけている。ドーラは俺の膝の上である。
何で拠点の主人が立っているかと言えば、『ご主人様の目の前で椅子に座るなんて恐れ多い』と自ら立ち上がったからである。
ここまで話した中で予想が出来ているかもしれないが、女支店長は完全な信者である。マップに表示されたマークが黄色に染まっているからな。
「そうだな。一応、目的地は真紅帝国だがそれほど焦る旅でもない。少しの間この街、この国を見て回っていくつもりだ」
真紅帝国に行くには、このリガント国ともう1つ、ナルンカ王国を超えなければならない。どちらもそれほど大きい国ではないから、越えるだけなら1週間あれば余裕である。しかし、元々の目的が旅だし、時間に追われているわけでもないので、せっかくだから途中の国も楽しんでいくつもりだ。
「と言う訳で、この国の観光スポットを教えてくれ」
「観光スポットですね。少々お待ちください」
そういうと支店長は棚からバインダーのようなものを数冊取り出し、俺の前にあるテーブルの上に置く。それを5度ほど繰り返した。
「何だこれ?」
「観光スポットの候補地と、その詳細をまとめた資料になります」
「多いな」
「はい、ご主人様の目的の1つが観光だということは我々も聞き及んでおります。そのため、各地に派遣されたメイドの使命には、その土地での地盤固めの他に観光地の調査も含まれているのです」
アルタの言う支援の内、知識的な支援と言うことだろう。
「ご要望がおありでしたら、言ってくださればそれに沿ったものを提案いたします」
「そうだな。エステアではほぼ毎日動き回っていたから、少しのんびりできる場所が良いな……」
別に迷宮攻略で疲れたという訳でもないが、たまにはのんびりしたくなる。
俺は時々、のんびりを求める病にかかっているようだ。前にそれが発症したのは、カスタールで偽女王の招集を待っているときだったかな。
「のんびり、ですね。川、湖、森、静かな村、などが候補に挙げられます。変わり種では古い遺跡などがございます」
ふむ、どれがいいかな。個人的には遺跡に興味があるのだが、なんか『のんびり』は出来ないオーラがあるんだよな。
「ご主人様!この機会にこの国の食べ物を研究しに行きたいんだけどいい?」
ミオが手を上げて発言した。
我らが料理人は向上心と好奇心が強く、旅先でその地域の料理を覚えようとする。もちろん、俺としてもミオのレパートリーが増えるのは大歓迎だ。
「ああ、構わないぞ。他のメンバーも行きたいところ、したいことがあればそれを優先してくれ。……そうだな、7日はここを拠点に自由行動にしよう」
のんびりに皆をつき合わせる必要もないからな。カスタールの時も俺がのんびりしている時、皆は自由行動だったし……。
「では、私はミオさんに付き添って食べ歩きをしますわ」
「私はそんなに食べられないから、色々食べて美味しいのがあったら教えてね?」
「任せてくださいですわ!」
ミオとセラは食べ歩き兼料理の研究と言ったところか。
「それでしたら公都の南側に料理店が集中していますね。あと、少し離れますが北側の村にも有名なお店があります。近隣に『ポータル』設置済みのため、日帰りで食べに行くことができます」
支店長が資料をめくりながら説明する。恐らくそのバインダーに書いてある場所には『ポータル』は設置済みなんだろうな……。
「7日あるから出来るだけ食べに行きましょ」
「任せてくださいですわ!」
実を言えば、ミオもセラも少なくない金額のお金を持っている。
本来、奴隷の稼いだ金と言うのは主人の物になるので、個人で資産を持つことはできない。
しかし、俺があまりお金に執着しない性格と言うこともあり(無一文の時を除く)、個人で稼いだ金は個人で使ってもいいことにしている。ミオもセラもなんだかんだ個人で活動している時に稼いでおり、結構な額を持っているのだ。
もちろん、セラが本気で食べたらすぐに消え失せることになるだろうがな。
「私は……、図書館とかありますか?」
「はい、こちらも公都に国内、いえアト諸国連合最大規模の図書館があります」
さくらは図書館に本を見に行くつもりのようだ。のんびり本を読むというのもありかもしれないな。
「貴重な本もあるので入館には手続きが必要なのですが、私の紹介状があれば手続き不要で入れるはずです」
「お願いしてもいいですか?」
「もちろんです。そのためにここにいるのですから」
なるほど、これが『権力的な支援』と言う奴だな。
支店長はバインダーの中から封筒を取り出すと、その中にあった書類に何やら書き込んでからさくらに渡した。
「これを受付けに見せればすぐに入館できるはずです」
「ありがとうございます……」
「さくら、一応タモさんを連れていくといい。服の裏にでもくっつけとけ」
「あ、はい……。わかりました……」
アルタもついているし、さくらが弱いわけではないが、それでも一応念のため、と言う奴である。護衛として考えたら、タモさんは一流だからな。
ミオとセラは食巡り。さくらは図書館で読書。残ったドーラとマリアはどうするのかと思って目を向けると……。
「仁様とご一緒します」
《ドーラもー!》
「まあ、そうなるわな」
一応、ドーラの単独行動は禁止しているので、他の誰かについていくと言わなかった時点で、俺についてくるという予想は出来ていた。マリアについての説明は不要だろう。
「となると問題は俺が何をするかだな……。川と湖があるみたいだから、久しぶりに釣りでもするか……」
「仁君、釣りをしたことがあるんですか?」
「ああ、まあな」
一時期、家の近くの川で釣りをするのが趣味だったことがあるからな。
「釣った魚の料理は任せてよ!」
「のんびりするのが目的だから、あんまり期待するなよ」
「はーい。ま、運良く釣れたらでいいからね」
ミオがやる気を出しているが、釣るのが目的ではなく、のんびりするのが目的だから保険を掛けておく。
A:奴隷たちの収集したスキルに<釣り>と<漁業>があります。使用いたしますか?
だから大量に釣るのが目的じゃないって……。
自由行動となり、俺は湖へと『ポータル』で移動した。
観光地と言うこともあり、釣り道具の貸し出しは現地でも行っているようだ。しかし、俺の持っているのはレンタルの釣り道具ではない。俺が『釣りでもするか』と言った瞬間に、メイドたちが大慌てで釣りの道具を用意していたらしく、『ポータル』を使う前に手渡してきたのだった。
どうやら、観光地ごとに必要な道具の準備もしているようだ。
湖の一角には木製の足場があり、その辺りが釣りスポットになっているようだった。思っていたよりも釣りをしている人間が多かったので、別のポイントを探す。
「あの辺りがよさそうだな……」
俺が目を付けたのは湖と林が隣接しているあたりだ。林には魔物がいるので、普通の人間はあまり近づかない。俺の場合は多少の<覇気>を森に向けて発動しておけば、弱い魔物は近寄ってこなくなるので、むしろ丁度いいと言う訳だ。
ポイントまで歩き、椅子を置いて釣り竿を構える。俺の趣味に合わせて、派手ではないが質の良い釣り竿である。
ドーラは迷わずに俺の膝に乗る。定位置である。
マリアは周囲の警戒をすると言っていたが、俺が無言で釣り竿を渡すと、諦めて俺の横で釣り竿を構えた。
ただただ時間がゆっくりと流れるのを楽しむ。
横でひっきりなしにマリアが魚を釣り上げていても気にしない。いつの間にかマリアが<釣り>スキルを自力習得しているが気にしない。
当然のようにドーラが眠っているが気にしない。ドーラを起こさないように釣り竿から手を放してドーラを支える。釣り竿は魔法の道具の不死者の翼を操作して持たせることにした。
不死者の翼はエステアの迷宮で入手した伝説級のローブである。変形機能があり、今はコートの形をとっている。伝説級のアイテムで釣り竿を支えるとか贅沢すぎる。
その日は2匹ほど魚を釣って終了した。
「ところで仁様、どうして釣り針に餌をつけないのですか?」
「俺が餌をつけて釣りをしたら、ゆっくりする暇がなくなるからな」
俺の運のなせる業か、昔から釣りをすると何故か魚が寄ってくるのだ。餌をつけなくても2匹は釣れてしまう程には……。
だからこそ、人のいない場所で釣りをしていたのだ。
だからこそ、横でマリアが30匹以上釣っていたのだ。
だからこそ、あまり長い間の趣味には出来なかったのだ。
「おー!結構釣ってきたのね!」
屋敷に戻ると早速ミオが釣果を確認してきた。
「まあ、ほとんどはマリアが釣ったんだけどな……。とりあえず食えない魚、小魚はリリースしてきたから、好きに調理してくれ」
それでも10匹近くにはなったので、十分に夕食の一品にはなるだろう。
この世界の魚は俺たちの世界の魚とほぼ同じ(名前含む)なので、ミオも調理できるだろう。
夕食を食べながら今日の出来事について話し合う。
「私は本を読んでいただけなので、あまり話すことはありません……。でも、紹介状を見せた時の職員さんの反応が凄かったです……。普通にVIP待遇でした……」
「何が書いてあったんです?」
「さあ……?私は中を見ていないので何とも……」
さくらとミオが給仕をしている支店長の方を見る。
「大したことは書いておりませんよ。『粗相があったら、アドバンス商会が敵に回る』くらいしか……」
「それですね……」
「それね」
元々の目的が『俺の旅をサポートする』なので、その害になるというのならば容赦はしないということだろう。
「私はミオさんとニノさんの3人で色々と食べ歩いていましたわ」
次は食べ歩き組である。
「ニノも連れて行ったのか?」
ニノは奴隷メイド少女の料理長でミオの弟子だ。
「そりゃあ、あの子も他国の料理には興味あるみたいだし、機会があったら連れていくわよ」
「その内、屋敷の料理にこの国の料理が並ぶと思いますわ。いっぱい食べましたから」
「まあ、食べていたのはほぼセラちゃんだけなんだけどね。で、セラちゃんが美味しかったと言った料理を、こっそり<無限収納>に入れてきたわけよ」
美味いまずいの判断をたくさん食えるセラが行い、美味かったものを持ち帰って研究すると言う訳か。確かに効率はいいのかもしれないな。
「それは楽しみだな。釣りだから昼は持って行ったサンドイッチしか食べてないし……。この国の料理も食べないとな」
「じゃあ明日のお昼は私たちのおすすめのお店で食べる?」
「そうさせてもらおうかな」
セラとミオ、ニノのおすすめするお店ならば間違いはないだろう。
《ドーラも食べるー!》
「私もご一緒してよろしいですか?」
「もちろんですよ!さくら様も行くってことは明日のお昼は全員集合ね!」
明日は昼まで別行動、昼食だけは一緒にとり、また別行動ということになった。『ポータル』と念話によって、合流とか待ち合わせが楽になっているから出来る芸当である。
翌日、昨日と同じく昼までは釣りを楽しんだ。大して釣れなかったが、十分にのんびりできたので良しとしよう。マリアの方は相変わらずである。<漁業>スキルまでいつの間にか取得していたが、驚くほどのことではないな。
昼食は話していた通り、ミオたちのおすすめのお店に行くことになった。
「へえ、普通にピザがあるのか」
そこで出てきたのはまんま俺たちの知っているピザだった。ご丁寧にサラミまで乗っている。
「そーなのよ。さすがの私も家でピザを作ろうとは思わなかったからね。作り方は知っているから、作ろうと思えば作れるわよ」
作ったことはなくても作り方を知っているあたりは流石ミオだな。
「そーか、じゃあその内作ってくれ」
「りょーかい!」
《わーい!》
「やりましたわ!」
セラとドーラの腹ペコ組もピザを気に入ったようで、屋敷で出てくると聞いたらこの喜びようだ。
「これも過去の勇者が残した遺産なのかな?」
切り分けた一枚を口に運びながら呟く。まだ熱いが<火属性耐性>があるので大丈夫だ。スキルの使い方が大丈夫かどうかは置いておく。
この世界の時間の進み方は俺たちの世界とは異なっている。数100年前に来た勇者が、俺たちとほぼ同じ時代から転移していたとしてもおかしくはない。
話を聞いた限り、召喚される勇者は日本人が圧倒的に多い。異世界に召喚された現代日本人が、日本より遅れている食文化に果たして耐えられるだろうか?いや耐えられない。
当然のように食文化ハザードを起こしただろう。そのせいで文明的な手順を踏まずに、本来の文化を無視した料理が広まることもあるのだとか。
「さあ?ピザくらいなら普通に出てきてもおかしくないんじゃない?」
「それもそうだな。でも、具のチョイスが日本人感を出しているとは思わないか?」
「うん、具で考えると100%日本人ね……」
セラもいるので数種類のピザを注文しているのだが、チーズ、トマトを基本として、トッピングがサラミ、ブロッコリー、コーン、シーフードといった、日本人受けのよさそうなものばかりなのだ。笑えるのは前にピザのCMで見たまんまのピザとかもあったことだな。ほら、分割した部分にそれぞれ別の具が乗っているヤツ。
「懐かしい味です。向こうの世界ではよく食べました。宅配で……、1人で……」
「あー……」
久しぶりにさくらのトラウマスイッチが押されてしまったようだ。どこにスイッチあるのかわかんねえよ……。
「あれ?前に母さんの料理に感謝していなかったっけ?」
エルディアでホーンラビットを食べていたとき、さくらが『お母さん、いつもおいしい料理ありがとう』と言っていたのを思い出した。
「……ああ、それは前のお母さんのことです」
「あ、そう……」
なんか、聞かない方がよさそうな複雑な事情がありそうですね……。
聞くに聞けないので、そのまま全員黙々とピザを食べた。あ、ピザは美味しかったです。
午後も釣りを楽しむ。当然、ドーラとマリアも一緒だ。
さくらも引き続き図書館に行った。ミオとセラも食巡りだ。セラ、まだ食うのかよ……。ミオは手を振って『無理無理……』と言っていた。普通そうだよね。
しばらく釣りを楽しんでいると、アルタから連絡があった。
A:祝福の残骸の解析が終了しました。
「結構時間がかかったな」
祝福の残骸は勇者である日下部を殺した時に、日下部の体内から出てきた白い靄のようなものだ。
勇者に引き寄せられる性質があるようで、マリアとシンシアに近づいたところを<無限収納>で回収した。
すぐには詳細がわからなかったのでアルタに解析を頼んでおいたのだが、あれから20日近く経過している。アルタの並列思考は複数のタスクを同時に実行できる。その内の1つが20日間ずっと祝福の残骸の解析に費やしていたということを考えると、相当複雑な代物だったのだろう。
A:解析の結果を列挙します。1番重要そうな部分は解析不能でしたが……。
・『勇者』が死ぬとその力は祝福の残骸に移り、『勇者』の死体から離れる。
・祝福の残骸は『勇者』に引き寄せられ、『勇者』だけが取り込むことができる。
・祝福の残骸を取り込んだ『勇者』の能力・祝福は強化される。
・祝福の残骸は勇者の「ステータス」、「スキル」、「その他」に分けることができる。
・分割した祝福の残骸の内、「その他」の詳細解析は不可能だった。
・「スキル」はユニークスキルである。
この解析結果から色々と見えてくるものがある。
まず、1つ目から3つ目だ。勇者が死ぬとその力は祝福の残骸に移り、他の勇者に取り込まれる。そして、祝福の残骸を取り込んだ勇者はその力を増す。これはつまり、勇者は数を減らすほど1人1人の能力が高くなるということだろう。
ここで気になるのが魔族との戦力差だ。召喚されたときに他の連中の祝福を確認し、多少は成長したはずの日下部のステータスを見た。そして、魔族の四天王2人と接触し、呪印も含めたステータスを見た。どう考えても間違いなく魔族の方が強かったのだ。これからの成長を考えても到底及ばないほどには……。
『勇者は数を減らすほど1人1人の能力が高くなる』ということを合わせて考えると、勇者側は最初からある程度数を減らすのが前提だったのではないかと思うんだよな。普通なら異世界から人を召喚するのに800人は多すぎると思うし……。しかし、この前提条件があるとなると話は変わってくる。
まあ、女神のリソースに限度があり、800人に分割する代わりに1人当たりの能力が低くなってしまったことを補うため、という可能性もあるんだけどな。
そして、恐らくこの事を魔王は理解している。
理由は簡単、未だに勇者と魔王の全面戦争が起きていないからだ。
ラスボスの魔王が魔王城で大人しくしていなければいけない理由はない。勇者召喚が公になっているのだから、まだ弱い勇者なんて魔王にとっては格好の餌食じゃないか。
しかし、今のところ魔王、いや魔族が行っているのは暗躍だけである。ロマリエ然りゼルベイン然り表立って行動せず、あくまでも人間・勇者の力を削ぐことに終始していた。
魔王も最終的に人数を減らして強化された勇者には勝てないことを理解しているということだろう。
魔王が勇者に勝つには、人間種族自体の力を減らしたうえで、出来るだけ同時に勇者を全滅させるしかないわけだ。条件が厳しすぎるな、魔王には勝ち目なんてほとんどないじゃないか。
まあ、俺としては学校の連中が何人死のうが、魔王が負けることを約束されていようが、やることは何にも変わらないんだけどな。というか、魔族の軍勢も俺と関係ない場所で行動している分に関しては無視だし……。目についたら倒すけど。
次は4つ目からだな。祝福の残骸は「ステータス」、「スキル」、「その他」に分けられ、「その他」は解析不能だったと……。
A:はい。「その他」が祝福の中心なのでしょう。『勇者に向かっていく』、『<生殺与奪>で奪えない』などの性質はここに含まれると考えられます。
勇者たちの洗脳が祝福によるものだったら、それも「その他」に含まれるんだろうな。
で、次の「スキル」がユニークスキルっていうのは、どういうことだ?
A:基本的に祝福と祝福の残骸は同じものと考えてください。勇者の中にある時は祝福、勇者が死んで外に出た時は祝福の残骸です。
たったそれだけの違いだったのか。
A:勇者になるとまず「ステータス」が上がります。そして、一般的に祝福と呼ばれている「スキル」を取得します。この「スキル」はほぼ完全に「ユニークスキル」です。よって、分解した後なら<生殺与奪>で扱えるようになります。
は?
A:祝福ではない、ただのユニークスキル<加速>として使うことができます。
マジかよ……。
A:イメージとしては「ステータス」と「スキル」を「その他」が覆っていると考えてください。「その他」の中にあったから「スキル」が奪えなかったのです。勇者の中に「その他」があったから、分解できなかったのです。勇者が死に、むき出しとなった祝福の残骸の「その他」を分解してしまえば、「スキル」は入手できるのです。スキルを見てください。
進堂仁
省略
その他
<幸運LV1><迷宮支配LV10><加速LV- new>
マジだよ……。
本当に祝福じゃなくてスキルの欄に入っているな。
さすがにポイント割り振りによる増殖は出来ないみたいだけど……。
A:祝福の場合、他の祝福の残骸を取り込むと自身の祝福が強化されます。そのため、祝福を複数持つことはありません。
ふむ、つまり祝福相当のスキルを複数持つには、<生殺与奪>を通す必要があるってことだな。
日下部の祝福ってことで若干抵抗はあるが、使えるものは気にせずに使って行こうと思う。
早速<加速>を発動してみる。
周囲の景色が若干暗くなる。
俺は釣りをしているので動かない。マリアは釣りをしているので動かない。ドーラは俺の膝の上で動かない。
……うん、釣りの最中に発動しても、何も意味がないね。
15秒経ったら周囲の明るさが元に戻った。制限時間は祝福の時と同じようだな。
結局、新しいスキルである<加速>は放置して、釣りを続けることにした。
マリアの<釣り>スキルはレベル2になっていた。早いよ。
これは屋敷に戻って、皆に祝福の残骸と<加速>の件について伝えた時の反応である。
「おー、あの使っている勇者がまともだったら普通に優秀だったスキルが手に入ったのね!」
ミオが辛辣である。
日下部の<身体強化>スキルが高かったら、かなり強力だったはずだからな。
「つまり、祝福持ちの勇者を殺して祝福の残骸を回収すれば、仁様の強化につながるのですね」
マリアが危険である。
考えなかったわけではないが、ソレを目的にして同じ学校の人間を殺して回るというのは、色々と終わっている気がする。
「すいません。有用かもしれないですけど、私は元祝福なんて使いたくありません……」
さくらが重症である。
ある程度は吹っ切れたみたいだが、それでも元祝福のスキルを使うほどには良くなっていないみたいだ。
「食事中にそのスキルを使えば、今までよりも短い時間で食べることができますわね。私に下さいませんこと?」
セラが阿呆である。
いくらなんでも、真っ先に思いつくのが『早く食べられる』と言うのは、腹ペコキャラをこじらせすぎだと思う。
《zzz》
ドーラは寝ている。
大体、『魔王についての考察』あたりで俺にもたれかかってきて寝始めた。
余談ではあるが、マリアが配下を使って勇者殲滅計画を立てていたので、軽く止めておいた。
俺が回収しすぎると、勇者対魔王に差し支える可能性もあるからな。
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あの人は今
ミドリ:仁の従魔、ドリアード
ルセアから『神薬 ソーマ』の発注が多く、少し疲れ気味。
ミドリ《眠い……》
カスタール冒険者組:8名の奴隷冒険者、Sランクを目指す
クラン「セイバーズ」を設立。
クラン設立目的で受けた依頼により、Aランク試験の条件を半分以上クリア。
クロード「いよいよAランクの大台だね」
ノット「俺、鍛冶やってるから受注依頼数少ないぞ……。やべえ……」
シシリー「大丈夫だよ~。皆待ってくれるから~」
ルセア:仁の奴隷、第2の信者、元女王騎士
アドバンス商会の版図を広げるために画策中。メイド長業務もやっているので、実はかなり忙しい。
ルセア「商会をある程度広げたら、次は教会を……」
サクヤ:カスタール女王、のじゃロリ(余所行き)
ニノやカトレアなど、今まではいなかった同年代の友達が出来て嬉しい。
ニノ:奴隷メイド少女料理長、信者
アドバンス商会のおかげで、各地の料理のレパートリーが増えて嬉しい。
カトレア:エステアの王女、超絶美人で有名
仁の屋敷にこっそり入り浸っている。友達と一緒に美味しい料理が食べられて嬉しい。
ニノ「こっちがカスタール風、こっちがエステア風のお好み焼きなのです」
サクヤ「うまー!エステア風もうまー!」
カトレア「本当においしいですね」
ユリーカ:蘇生者、記憶消滅
Cランク冒険者。植物系の魔物を狩ることで有名になっている。
ユリーカ「除草、除草……」
ミラ:元人間の吸血鬼
仁の屋敷でメイドをしたり、音楽隊活動をしたりと充実した毎日を送っている。
フィーユ:元ガーフェルト公爵令嬢、音楽家
音楽が出来るので幸せ。メイドにも充実感を覚えてきた。
ミラ「掃き掃除は苦手ですねぇ。胸で下が見えないですからぁ……」
フィーユ「……(自分の胸を見ながら)」
恐竜の卵:幼女(確定)、変身有り(確定)、ティラノ(確定)
ティラノを倒した直後にポップしたタマゴ。やっぱりティラノになります!
タマゴ「中から音が聞こえてくる。もうすぐ生まれそう!」
ポテチ:ミオの従魔、ヘタレ犬
時々ミオが背中に乗ってくるのが、実は結構な負担になっている(ヒント:成長期)。
ポテチ「く、くーん……」
シンシア:探索者
カレン:探索者
ソウラ:探索者
ケイト:探索者
ルージュ:探索者
ミネルバ:探索者
キャロ:迷宮保護者
3章終了時点から特記事項無し。
放置しっぱなしの設定を回収するアト諸国連合編です。
別名、○物○編です。
それと、みんな大好きSYOKAIが出来ました。そりゃあ、作るよね。
でも主人公はノータッチ。旨みだけ吸います(外道)。