真昼の星のその下で(2/2)PDFで表示縦書き表示RDF


番外編を一つに纏めることにしました。
前のものは削除いたします。

闇の眼 光の手 第1章終盤辺りの番外編です。本編をお読みいただいた後、お読みくださいませ。
本編の展開からは考えられない軽さです……要注意。
真昼の星のその下で
作:碧檎



ある意味平和な生活


 ハリスでの生活が始まって数日。

 僕は日に日に弓にのめり込んでいた。
 そうしてしばらく基礎を固めた後に、ようやく的場に立たせてもらえるようになったのだ。
 弓の良いところは、体格差を気にしなくてよいところだった。僕は歳の割に小柄だったので、その点がとても気に入った。
 剣だと接近戦である限りどうしても体の大きさが優劣を付けてしまう。
 弓であれば、多少引ける弓の強さは変わっても、威力には大差がなかった。
 当たることが出来ればだが。
 トリマンに言わせると、僕は中中筋が良いらしく、今までに変な癖を付けていないだけ、きれいな型で弓が引けるのだそうだ。

「本当に筋がいいぞ。お前。後半年もすれば、立派に実践で役に立つ。……おい、スピカ、さぼってるんじゃねーぞ」

 スピカは的場に入ったはいいが、端の方でぼんやりと弦を弾いている。

「ほら、ちゃんと数をこなせ」
「……トリマン、今日は、僕、調子が悪くて。どうしても弓を引く気にならない。もう戻っていい?」
 よく見ると確かに具合が悪そうで、ぼくは心配になった。
 スピカは昨日から的場に上がったばかりで、昨日は数本引いただけで、それ以降は剣の稽古に向かっていた。

「……弓は向いていない気がする……」

 昨日スピカは僕に向かってそう言っていた。
 なんだか様子がおかしいので、理由を聞いたが、首を振って黙り込むだけだったのだ。


 僕は心配だったので、スピカについて部屋に戻った。

「どうしたんだよ」
「……シリウスには分からない」

 スピカはぼそっとつぶやいた。

「あたしは弓はだめだと思う……。痛くてだめ」
「どこかけがしたのか?マメがつぶれたとか」

 僕はスピカの手を覗きこんだが、多少マメはあったが、そこまでひどいことは無い。僕の方がひどいくらいだ。

「ちがうの。痛いのは、胸。……多分アザになってると思う」

 スピカは左胸に手を当てると憂鬱そうに言った。

「もう我慢できなくって」
「どうして、そんなとこにあざなんか……まさか、誰かに乱暴されたんじゃ」
「ち、ちがうっ。だからさっきから言ってるじゃない、弓のせいだって。……矢を放つときにね、弦が胸に当たるの……あーあ、もう私、剣だけに集中しようっと」

 僕は思わずスピカの胸を注視したが、きちんと布を巻いているため、凹凸は見当たらない。

「私も、平らになってるから大丈夫かと思ってたんだけど、だめだったみたい」

 僕の視線を感じてか、スピカはそう言った。

「しょうがないな、僕からもトリマンに頼んでみるよ」



 その夜のことだった。
 スピカが夜中にうなり声をあげ出して、僕は眼を覚ました。
 スピカの手が異常に熱い。
 僕はちょっとためらったが、衝立の向こう側へ回り込み、スピカの様子をうかがった。
 スピカは苦しそうに胸を抑えて唸っている。
 左胸か。
 打ち身から熱が出たのかもしれない。
 僕はスピカの側に寄ると、彼女に声をかけた。

「スピカ。大丈夫か?」
「……シリウス……。痛い……熱くてたまらない」

 僕は頷くと、レグルスのところへ向かった。


「レグルス」

 小声で、部屋の中の彼に呼びかける。

「ん……シリウスか。どうした?こんな夜中に」

 レグルスは驚いた様子で、布団から飛び起きる。

「スピカが、熱を。弓の弦で打ち身を作って、どうもそれが原因みたいだ」
「……ひどそうか?」
「ひどく辛そうだ」

 僕が言うと、レグルスは少々慌てた様子で、髪をかきあげた。

「明日まで軍医が戻らないんだ。たまたま子供が熱を出したらしくて……」
「分かった。とりあえず、冷やさないと」

 僕はそう言うと、洗濯室へ向かい大量の布を、あと井戸から水を汲むと部屋まで戻った。
 レグルスは、先に部屋についていて、スピカの服を脱がせようとしていた。
 すでに汗でびっしょりで、体に張り付くくらいになっていた。
 スピカは猛烈にいやがり、体を丸くして抵抗していた。

「スピカ、恥ずかしがってる場合じゃないだろう」

 レグルスが必死で言うが、スピカは半分意識が飛んでいる状態で、力を緩めようとしない。

「参った……」

 僕はスピカの側によると、彼女の肩を抱き、耳元で言った。

「スピカ、着替えるだけだよ。あと布を取って楽にしよう」

 僕の声に、ふっとスピカが眼を開けつぶやく。

「シ、リウス」

 そして、あまりに素直に僕に体を預けたので、レグルスが、恐ろしい眼をして僕を見た。

「どういうことですか……まさか、あなた」

 レグルスは取り乱しているようで、言葉が以前のように戻っていた。

「ち、ちがう。誤解だ」

 僕にも理由は分からなかった。
 しかし、今のうちになんとかしないとと焦って、スピカの服のボタンを外していくと、レグルスが憤慨した様子でそれを止める。

「私がやります」

 しかしレグルスが手をかけようとすると、スピカはやはり抵抗するのだった。
 僕の立場がどんどん悪くなっていく……。やましいことは何も無いにも関わらず。
 やがてレグルスはあきらめ、僕に任せることにした。

「非常時です。仕方ない」

 僕は彼女の上着を脱がせると、毛布をかけて、下に巻いている例の布を解きにかかった。
 ……緊張するな……。
 レグルスがじっと見ているので、間違っても触ったりできない。
 ようやく解き終わったのはいいが、今度は、別の問題に直面した。

「あの……誰が冷やすんだ?」

 僕とレグルスは互いに見つめ合った。

「あの様子だと私には出来ないのでしょう……」

 恨めしげに僕を見ると、レグルスは大きなため息をついた。

「二人ですることも無い。私は戻ります」

 娘のプライバシーを尊重したのか、レグルスはあきらめたように立ち上がった。

「いいですか、『看病』ですよ。忘れたら、分かってますね」



 毛布を左胸の上まではだけると、僕は絞った布をその上にそっと乗せた。
 スピカの左胸は本当に紫色に腫れ上がっていて、見ていられないほどに痛々しかった。
 しかしその反面、隙間から少しだけ覗く右胸は白く、ろうそくの光に照らされて妖しく影を作っていた。
 ……あの少年のようなスピカがこんな体を持っているなんて、誰も信じないだろうな。
 ぼくは自分だけがそれを知っていることに、なんとなく優越感を感じた。
 その晩、僕は眠い眼をこすりつつ徹夜で、額の布と、左胸の布を交換し続けた。
 僕は衝動を抑えようと必死で気を散らした。
 そういう気分になるだけで、あの闇がやってくることは僕には分かっていたのだ。


 翌日、僕が水を替えにいっている間に、スピカは目覚めたようだった。
 そうして、僕を見ると、むくりと寝床から起き上がった。
 毛布を体から滑り落としながら。

「!!!!」

 固まる僕をみて、スピカは不審そうにしたが、ふと目線を下に落とし、自分の今の姿を知った。

「きゃあああああああああ!!」

 凄まじい叫び声が辺りに響き、僕は焦った。
 バタバタと足音がして、人が集まる気配がした。

「スピカ、とりあえず隠せ!!!!」

 スピカは動転していて、とてもその姿を取り繕う余裕が無かった。
 間に合わない!
 僕は慌てて、スピカに飛びつくと、毛布とともに寝床に押さえつけた。


「え、えっと……」

 部屋を覗きこんだ先輩騎士たちの好奇心でらんらんとした視線に、僕はたじろいだ。
 ……この状況は、つまり。
 悲鳴を上げるスピカを押し倒す僕。

「ちがうんだ!」


 その後、僕が謹慎処分になったことは言うまでもない。


女子が弓道をするときは、胸当てというものをつけます。
これをしないと、本気で痛いです。
不思議なことにいくら胸が無くても当たるんですね。
その辺からのネタでした。
別のところに置いておいたのですが、あまりに日の目を見ないので。

お目汚しすみません。






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