妖怪談義
雨が上がった、昼下がり。
公園の中で、二人の子供が遊んでいた。
「俺、傘の化け物ー!」
「じゃー、僕は一反木綿」
「先手必勝、食らえ、傘ビぃぃぃぃム! ズビビビビ」
「ぐわー、やられたー。と、見せ掛けて、それは僕の残像だ!」
「なんだと!」
「一反木綿は幽霊だから全ての攻撃が躱せるのだ」
「は? それは汚いって。俺の傘ビームは、どんな敵にだって当たるっつーの」
「じゃあ、一反木綿は死んでー、次にその弟子の天狗が現れたー!」
「おおー、来たな、天狗!」
「そして天狗鼻ミサイルー! ドガガガガガ」
「うお、つぇぇぇええええええ! でも耐えた!」
「えー、傘は細いんだから、そんな強くないよー」
と、子供が遊んでる所に、大きな傘を持った男が近寄っていった。
「君達、ちょっといいかな」
「ん、何?」
「うん、まずね、傘の化け物っていうのは居ないよね。正しくは、傘化け、金おばけ、もしくは唐傘小僧というじゃないかな。それと流石にビームは出さないと思うよ。天照大神や瑜伽大権現等の神書には目映い後光が画かれている事が多く、それも見方を変えれば光線になるから漫画的技法の元になったという人もいるけど、だからと言って科学技術の予言をしたという根拠はなく、むしろ一説には曼荼羅や真言の影響だと見る人もいるし」
「は?」
「ああ、それと、一反木綿は幽霊ではなく、付喪神の一種だと考えてる人もいるよ。また百鬼夜行に似た姿が同行しているから、魑魅魍魎の1つ判断する人もいるけど、断定は出来ないね。ただ、やはり一反木綿は水木しげる先生が作り上げた部分が多いだけに、何とも表現しにくいものになってしまったのさ。飛んでいるのかさえ、怪しいものだよ。それと天狗の鼻ミサイルーは頂けないなぁ。天狗の鼻は神様の印とも言われていてね」
「おっさん!」
子供が大声を上げたので、男は喋るのを止めた。
「な、何?」
「横からしゃしゃり出てきて、ウッサイんだよ。何なんだ、お前は」
「いや、俺は間違いを正してあげようかと思ってさ。どうせ遊ぶなら、リアルっぽい方が楽しいだろ」
「……お前、大人の癖にバカだなー」
「バカ?」
「そんな夢がない事を言ってるから、お前はツマンネー大人になってんだよ。こっちは真剣に遊んでるんだから、邪魔するんじゃねーよ」
「……あ、はい。すいません」
子供に言われた言葉がショックだったのか、男は項垂れたように公園を後にした。
傘を手にしていた男がトボトボと歩いていると、背後から女性に声を掛けられた。
「よう、どうしたんだい?」
「雪女か」
「随分としょぼくれてるねぇ」
「ああ、子供に夢がないと言われてしまってね」
「はははは。私達妖怪は存在が夢みたいなのに、子供から夢が無いと言われちゃ無様な話しだねぇ」
「俺も、そう思うよ。唐傘小僧として耳が痛いわ」