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ミサイル
作者:かなめ
ジャンルがわからない(笑
「どうだい、ミサイルは?」
 アッシュはラッシュに尋ねた。
 二人は兄弟だった。兄がアッシュで弟がラッシュ。富豪だった両親を早くに亡くした二人は残された豪邸で二人暮らしをしている。遺産のおかげで二人はなんの苦もなく毎日を過ごしていた。遺産は遺言どおり二人で半分に分け、自分の生活費はそれぞれが負担している。
「さてどうだろう。いよいよ飛んでくるかもしれない」
 ラッシュはラジオのつまみをカチカチと回しながらいう。
 二人の住むA国はB国と対立していた。それは次第に悪化し、B国は場合によっては核の使用も躊躇わないと宣言していたのだ。もし発射されればA国に迎撃手段はない。
 間の悪いことに二人は都市部に住んでいた。ミサイルが打たれることになれば被害は免れない。
「もしミサイルが発射されれば衛星が捕らえて、直ぐに全国に報道される。シェルターに逃げ込む時間は十分あるさ」
 そういうとラッシュは大きなあくびをして、イヤホンを耳につけた。
 アッシュは傍にある籐椅子にゆったりと腰掛けた。そのまましばらくの時間が過ぎた。春先の暖かい日差しを窓から浴びて、二人はいつの間にかこっくりこっくり舟をこいでいた。
 がばり、とラッシュが跳ね起きた。
「アッシュ! アッシュ! ミサイルだ。核が撃たれたぞ!」
 アッシュが目を覚ました。
「何だって?」
「核だ。もうすぐここへ飛んでくる」
 二人は口をぱくぱくさせてお互いを見つめたが、直ぐに部屋から駆けだした。シェルターへ向かったのだ。
 ショルターへの扉はオートロックのついた厚い鋼鉄の扉である。アッシュがふるえる手で鍵を回した。 重い扉を二人で開けると、中に飛び込み再び閉ざす。がちりと鍵が掛かった。
 しばらく二人は肩で息をしていたが、やがて「やれやれ助かった」と、安心してソファに座った。
 シェルターの中は快適に過ごせるようによく考えて作られている。ふかふかとした絨毯、落ち着いた色合いの壁紙、二人が掛けたゆったりとしたソファ。タンクに貯めてある水で隣室のユニットバスで水洗トイレも使えるし、無理をすればシャワーを浴びられるほどだ。退屈をしないように、本やゲームなどの娯楽用品も持ち込まれている。
 アッシュは情報を得るためラジカセを奥から探し出した。電池を探している間に催してきたラッシュはトイレに向かった。その間にアッシュは電池を探し出した。
 トイレから戻るとラッシュはアッシュの異変に気づいた。
「どうした? 腹が痛いのかい?」
 アッシュはそれに答えずそのまま腹を押さえて小刻みにふるえている。やがてラッシュは兄が笑っていることに気づいた。
「いったいどうしたんだ? こんなときによく笑えるな」
「こんなとき? あははははははは」
 アッシュはひとしきり笑い声を上げるとようやく落ち着いたようで、イヤホンを指さし「聞いてみたまえ」といった。
 ラッシュが耳にイヤホンを当てると、リズムの良い音楽が頭に響いた。今頃大慌てでミサイルの情報が飛び交っているはずなのに。
 ラッシュがぽかぁんと口を開けると、またアッシュが大笑いした。
「あははははは。ラッシュ、きみはどうやらとんだねぼすけのようだね」
「何、ねぼすけ?」
「そうさ、ミサイルなど発射されていないのだ。この陽気な音楽に、国中のみんなが聞きほれているだろう。しかしねぼすけのきみにはこれが警告に聞こえたのだね。夢の中で悲痛なアナウンサーの声を聞いたのだろう。あははははは」
「僕が聞いたのは夢だというのかい?」
 ラッシュは自分の早とちりに頬を染めながら訊いた。
「そうさ。ラジオがはっきり示しているじゃないか。きみがねぼすけだとね、あはははははははははは」
 アッシュはまた爆笑した。兄があんまり笑うものだから、ラッシュは恥ずかしくなってシェルターを出た。何もそこまで笑わなくても良いじゃないか、と思いながら。
      *
 扉が閉まった。
 それを見届けたアッシュは笑うのを止め、冷酷な表情になった。
 そしてラジカセのテープを止めた。

 ミサイルがA国を直撃したのは、それから十分後のことだった。


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