第七話 ストーカー?
「さ、それより。お昼にしましょ。いい加減本当に食いぱぐれてしまいますわ。」
にっこりと笑った清ちゃん。相変わらず可愛いなと僕はぽおと見とれた。
二人きりの屋上。ここでは僕は巽ではなく勝美としていられる。
いつも張り詰めていた学校内で唯一気の抜ける場所。
だからだったのだろうか。僕は清ちゃんと僕をこっそり見ていた視線に気付かなかったんだ。
*******
「お前、女王様と知り合いだったんやな。」
放課後、授業が今しがた終わり、皆が下校の準備をする中で、後ろから声を掛けてきた茜井に僕はにっこり笑った。
「痴漢と話すことはないよ。」
「………。」
僕の笑顔に引きつった顔をする茜井。失礼な。
「………お前な。言うとるないか。あれは不可抗力。事故や事故!あんなん駅の階段でスカート短い女子高生の裾からパンツが思わず見えてしまうようなもんやろが。俺は悪うな…ぐおっ!」
帰り支度に掴んだ辞書を茜井のわき腹に叩き込む。座ったままだから力が入らず、茜井は軽くよろめくだけだ。ちっ。
「一度死んどくか?」
「殴ってからゆーな!殺す気か、あほ!」
げほげほとむせながら、わき腹を押さえる茜井から視線を外し、帰り支度を続けながら、ふと気になったことを聞いた。
「…つか、女王様ってなに?誰?」
「越前清美のこと。越前グループ総帥の孫にしてこの学園の女王様。」
「清美が、女王様。」
女王様と聞いて、思わず、アリスに出てくる意地悪な女王様を思い出す。どぎつい色のドレスのハートの女王。断じてあんなの清ちゃんとは似ても似つかない。
「どこが。どっちかと言うと王女様じゃない?プリンセス。」
王女様の言葉で連想するのはふわふわピンクのレースたっぷりのドレス。
うん、そのほうが清ちゃんには似合う気がする。可愛いなぁ。
想像して僕は思わず顔を綻ばせた。
「…げー。女王様が王女?どういう視神経しとるんや、それは。」
だが、物を見る目のない茜井はまずいものでも食ったみたいな顔をした。
「それはこっちの台詞だよ。あんなに可愛い女の子捕まえて女王様って。」
「お前がいつあの女王様と会うたかは知らんが、女王様のことは中等部の頃から有名やで。この学校は表向きこそ合議制の理事会によって運営されとるが、越前グループの完全なる傘下や。そこのお嬢さんたる女王様はこの学校では本当に女王様みたいな権力にぎっとるようなもんや。」
その言葉に、僕は屋上で清ちゃんが言っていた言葉を思い出す。
『私の周りには私の持つ財力を利用しようとする輩しか、近づいてきたりしませんでしたわ。』
なるほど。僕達は中学校は別の学校に通っていた。
僕達は地元の公立中学校。清ちゃんはこの柏原高校の付属中学だ。
僕達が同じ学校に入るのは実は高校になってからが初めてだった。
僕達と清ちゃんはお父さんの同級生のお嬢さんとして出会った。
清ちゃんはお嬢さん。僕達はいたって平凡な家庭育ち。本来接点のない間柄だが、
父親同士が高校時代の友達だったせいで、出会って、今の関係がある。
清ちゃんのお父さんも大会社の社長さんらしいが、僕達からすれば、ただの気のいい叔父さんだ。
だから正直清ちゃんが、お金持ちのお嬢さんだという、しかも日本屈指の大金持ちの孫だという肩書きのある女の子であることは今まで実感がなかった。
だが、ところ変わればと言う奴か。茜井みたいに何も考えてなさそうな奴でも、清ちゃんのことを女王様と呼ぶ事実に、清ちゃんの悲しい顔が不意に思い出されて腹が立ったから、思わず、茜井を睨んだ。
「だからなんなんだよ。親戚は親戚だろ。清美自身とは関係ないだろ?」
「なんや!いきなり怖い顔して。別に女王様がどうのと言っとるわけやないやろ。ただ、お前ら知り合いやったんやなといっただけやんか。…やっぱりあの噂は本当、やったんやろか。」
「…噂?」
キョトンとすると、茜井がこちらをちら見したかと思うと、
「小野寺と女王様が付き合おてるって噂や。」
「はあ?」
思わぬ噂に頓狂な声を上げてしまう。僕は女で、清ちゃんも女。そんなわけはない。
いや、でも今の僕は巽で、男で。その巽の彼女である清ちゃんも僕の彼女に表向きはなるわけなのか?それに入学式からこっちよく一緒にいるから、そう言う噂がたったっておかしくはないわけで…。
思わず考え込んでしまった僕に、茜井がなぜか確信を持ったように頷いた。
「そっかー。果ては逆玉かー。」
「あほ。」
僕は教科書をつめ終えた学生鞄をあほの頭に叩き込む。重量級の教科書や辞書を備えた学生鞄は真心を捉え、直撃して、茜井がうずくまる。
「つつつつつ!」
痛みに言葉もない茜井。流石に突っ込みとしては入れすぎたかと思ってすずめの涙ほどの同情心を口に乗せる。
「よければいいのに。」
「それが、殴った相手に対することばくわぁ!なんか俺に恨みでもあるんか!」
怒鳴る茜井に、僕はにっこりと笑った。
「いや、別に。僕もそんな狭量な男であるつもりはないんだよ。うん。昼間のことも未だに怒っているわけじゃないし。」
「思いっきり恨んどるやん!それ!」
茜井の突っ込みに、僕は頭の後ろを掻いた。うっとうしいな。
「それよりさ、茜井。お前、僕になんの用なわけ?」
昼間に蹴り倒したのになぜか茜井は清ちゃんとの昼休みのあと、時間があれば僕に話しかけようとする。それをことごとく無視していたのだが、いい加減うっとうしい。僕は暇ではないのだ。
「いい加減本気でうっとうしんだけど。」
「…お前。本気で口悪いな。」
「大きなお世話だよ。」
「まあ、ええわ。そう、俺はお前に聞きたいことが…。」
「僕に答える義務はないよね。」
僕は茜井の台詞を最後まで言わせず、鞄を持ち上げ、立ち上がった。
そのまま、教室を出て行こうとする僕に茜井がしつこく追いかけてくる。
「ちょっ!待ちや!なあなあ!お前さ。部活。もう決めた?」
背が違うので、歩を緩めず歩く僕に、茜井は小走りについてくる。…本気で、うっとうしい。
「…なんでそんなこと茜井に言わなきゃいけないわけ?」
「もし決めてないんやったら俺と同じ部活入らへん?サッカー部!」
話を聞こうよ、まったく。いい加減にしてくれ。
僕は立ち止まって茜井を振り返って怒鳴った。
「何で僕がお前と同じ部活に入らなきゃいけないわけ?それもサッカー部ぅ?」
僕の剣幕に茜井が驚いたような顔をした。
だが、予想外な男だ。茜井。驚いたポイントが僕の思ったものではなった。
「…お前、その恵まれたガタイで文化部にでも入るつもりか?もったいない!」
こけてもいいだろうか。いやそれだけは僕のプライドが許さない。
「そう言う問題じゃないだろ!」
「せやかて、そう言う問題やろ?柏原といったら運動部、サッカー部くらいしか強ないし。」
「強くなくても他にも運動部があるだろ!」
「えー。他の部活は入ったかて、あんま活躍は出来へんと思うで。まあ、個人技の陸上とはやったらお前ならそこそこ活躍できそうやけど、地味すぎるやろ。」
陸上が地味とは偏見もいいところだ。地味で悪かったな。僕は中学時代に陸上をやっていたんだ。だが、茜井は僕のことなどお構いなしに話し続ける。
「せやかてチーム競技やったら卓球もバスケもバレーも弱小すぎるで。柏原ははっきり文科系のクラブが強いからな。運動部はどこも弱い。」
僕はいらいらする。そこまで球技系のいろいろ出てきているのに、なぜ肝心のものが出てこないのだろう。
「僕は野球部に入るんだよ!だから、サッカー部に入らない。わかった?」
きっぱり言うと、なぜか茜井が変な顔をした。驚いたかと思うと、頭おかしい人を見たみたいな哀れみを帯びた視線。…なんだよ、非常に失礼だな。
「…なんだよ。」
「いや、小野寺。大丈夫かと思って。」
心底心配そうな顔をされて、さらに傷つく。…茜井の癖に生意気な。
「だから何が…。」
「知らんのか?柏葉に」
一拍置いて茜井が爆弾発言をした。
「野球部はないで?」
なんか冒頭中途半端ですんません。
前回書ききれなかった部分の追加。
暫くしたら前の話に追加してずらします。
読みにくくてすんません。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。