番外:赤髪白眼の少女と、黒髪黒目の少年
あの少年に初めて会ったのは、私も少年も五歳の時だった。
とても鮮明に、覚えている―――。
〜〜〜
私の名は、シェンラ。シェンラ=コールス。
この町に引っ越してきた。
そして、隣はクレフォミア家。高位貴族の家だ。
高位貴族は、自分達の立場を鼻にかける奴が多いから、私は嫌いだ。
……私の両親みたいに。
挨拶にも行こうとせず、家で研究をし始めた二人を横目に、私はまだ新しい匂いのするリビングを出た。
すぐに罵声、金切り声、ビーカーや試験管などが割れる音が聞こえてきた。いつもの事だ。
廊下を通って、玄関のドアを開けた。少し肌寒い空気に当たり、思わず身震いする。
新しい自分の部屋まで駆け、積まれた、私の荷物が入った箱の中からコートを引っ張り出す。
それを着て、外に出た。
真っ白な石で組まれた道には、ゴミ一つ無い。
この町は、雑誌でも結構良く見かけた。毎年、【美しい町】ナンバーワンに輝く。
町の名は、【シラニア】。
しばらくふらふらと歩くと、広場に子供達が集まっているのを見かけた。
彼らは私に気付くと、何かを話し合い始めた。
……私の、髪の毛と目の色の事だろう。
鮮血の様な赤い髪に、気持ち悪い白い目。
色素欠乏症、アルビノと呼ばれるもの。
それだけなら、こんな色にはならないが―――。
色素転換。
瞳には魂が、髪の毛には力が宿ると言われている。
そして、深い関わりがあるという……。
例えば一組の夫婦が居たとして、二人とも緑の髪に青い目を持っていたとする。
すると。
家系に関係なく、青い髪に緑の目をした子が生まれる事があるのだ。
瞳と髪の毛の色素が入れ替わる事により、こんな事が起こる。
私は、アルビノに色素転換が入った子。
両親は金髪に青目の、そこにでも居る夫婦。
金髪の場合、色素転換はありえないとされている。
色素転換はそう珍しい事ではない。
……アルビノ。
これの所為で、両親はそれを直す研究を始めた。私は誰からも好かれない。直そうとする理由は、こんなガキ、恥ずかしいから。
……私は、虐められてばかりだ。
どうせ、ここでもそうだろう。
「あれ?」
幼い声がして、私は振り向いた。
そこには、少年がいた。
漆黒の髪、漆黒の両目。風で髪の一房が舞い上がり、太陽の光が透けて、その部分は美しい白銀に見えた。
どこか鋭い目は、猛禽類を思わせる。しかしそれは、下がった目尻と、笑顔のおかげでそう目立たなかった。
「引っ越してきたの?」
そう聞いてくる少年は、何だか大人っぽく見えた。
でも、裏表のない、子供っぽい顔。
何だか面白いぐらい矛盾していて、私は笑ってしまった。
少年が、気付いてにっこりと笑う。
「目の前の人が笑顔だと、何だか楽しくなるよね!」
そこでふと、気付く。
「……私が怖くないの?」
「どうして?」
「目、怖いでしょ。私の目。皆、怖いって言うよ。気持ち悪いよね」
本心だった。
何だか、とても幼い言葉つなぎになってしまった。
「そんな事ないよ? 綺麗じゃない。真っ白で、この町や、天使様の翼みたいだよ!」
―――。
その一言に、いくらでも救われた気がした。
「あ、わかった!」
「え?」
「綺麗なのに、【誰かに染められてしまいそうで、】怖い」
頬が熱くなるのを感じた。
ワンピースの裾を握りしめる。
「……子供っぽくないね、君」
呟いていた。
「あはは、よく言われるよ。貴族だからって、魔法とか勉強させられるんだよ。僕は剣の鍛錬とか、皆で外で遊んでいたいのに」
「……私も、勉強とか、させられた」
話相手は、色んな施設の研究員で、大人ばかりだった。
「一緒だねっ! 一日二時間もだよ? 毎日毎日」
……。
普通の貴族の子供は、十時間ぐらいが平均的だけどね。
そう伝えると、少年は目を大きく見開いた。
「嘘!? そんな……。そんなに勉強してたら、カビる!」
カビる!?
私はおもいっきり噴出した。
「お母さんもお父さんも厳しいのに……。もっと厳しいの? 他の貴族って」
「どんな感じなの?」
「賞味期限切れたの食べると怒る。別にお腹壊したりしないのに。……あ、昔、蛙食べて高熱で三日寝込んだの、まだ心配なのかなあ……」
「普通、食事はメイドや使用人、コックが、栄養や量の配分を考えて作る。他に間食とか食べると……ううん、いつも執事とかがついていて、そんなもの食べさせてくれない」
「ええ!? 全然違うなあ……」
少年の表情の変化はとてもめまぐるしく、見ているこっちは凄く面白い。
「あ、そういえば、名前は?」
「……シェンラ=コールスだよ」
「僕は、リオ=クレフォミア。よろしくねっ!」
「……あ……」
優しく差し出された手。
その瞬間、私の中の警戒心諸々は全部吹っ飛んでしまった。
その手をしっかりと握る。
少年はふわりと微笑んだ。
「この町のお友達、第一号は僕だね!」
「……うんっ……」
涙が滲んできて、クレフォミアが慌てる。
「え、えっと、ご、ごめん! 泣きやんで! 僕、何か気にさわるような……」
「違うの。ごめん、ありがとう。友達なんて初めて。ありがとう、クレフォミア」
「クっ!?」
クレフォミアが驚いた。
「何でそんな型っ苦しいの!? リオって呼んでよ!」
「え、でも」
「ね! シェンラ!」
名前を呼ばれた瞬間、私の中の色々な物が沢山あふれ出してきた。
そんなつもりは無いのに、ぼろぼろぼろぼろ涙が零れる。
「あわわ!?」
「ごめっ……あ、ありがとうっ、【リオ】……!」
それを皮切りに、私は大泣きし始めた。
ワンピースの裾をしっかりと握りしめ、空を向いて、叫んで、泣き出した。
人が沢山出て来て私を慰めてくれた。嫌な顔をしたのは、私の両親だけ。
リオがリオの両親に怒られて、私に謝ってくれた。
子供達がリオをからかっていた。
「本当にごめん、シェンラ!」
「……っち、違う、のっ……ありがとう、あり、がとっ……ひ、っく」
「シェンラ……」
「ご、ごめ……め、わく、かけてしま、って……皆さん、ごめ、なさい……」
周りの人達が、驚く。
「何を謝る必要があるんだ?」
「大体いっつも暇だし」
「暇じゃなきゃ来ないって」
「子供は泣くもんだ!」
「何かしたんだろ、リオ」
「リオ、責任取れよ! 女の子泣かしたんだからな!」
「僕っ!? やっぱり僕なの!?」
「……あ、ははっ……」
―――この町は。
―――とても素敵な、美しい町だ―――。 |