10話:VSシードラゴン(逃げるだけ♪)
穏やかな春の日の午後。
というのを何処かで聞いた様な気もするが、あいにく今の季節は夏だ。確かに午後だが。
「いい天気にゃー」
「少し暑いですね」
ナーエとシュヴァは甲板の上で、のんびりと喋っていた。
俺はそれを横目で見ながらうとうとしていた。
ティリとシーフィスはタコのダメージから抜け出せないでいた。
船室で寝ているが、時々「ぬるぬるは嫌だ……」とか「クロの悪魔ー……」とか謎の呻き声が聞こえる。
それでも平和な午後。
そして、それは唐突に。
『ガアァァァァァァァァ!!』
ティリはお目覚めスッキリ。シーフィスは……あれだ。起こしたくないあれだ。
ナーエ、シュヴァ、俺はそれをみた。
青色のドラゴン。確か『シードラゴン』だったか。まんまだな。
性格は凶暴で、縄張りに入ってきた者には容赦しない。ちなみに強いんですよ、ドラゴンって。
ティリとナーエは詠唱開始。やる気満々みたいだが……
「逃げますよ、皆さん」
シュヴァが言った。
「は? 何で……」
「危険だからです。シードラゴンは魔が効かないし、皮も分厚く、まず勝てる相手ではありません」
その通りだ。
シードラゴンは魔を無効化するという、とても厄介な能力を所有している。かといって物理攻撃が効くというわけでもなく、勿論攻撃力が無いとかそんな事はない。
打つ手は逃げるのみ。
「にゃー!?」
「うわっ!?」
っと、速っ!
この船が高価な物だとは聞いたが………ここまでか?
シーフィスは相変わらず眠っているし、シードラゴンは……
「とっ、飛んでるにゃー!」
ドラゴンはほぼ例外なく翼を所持。しかも速い。
この船はシードラゴンと同じぐらいの速さで逃げている…………凄いなこの船。
後はシードラゴンが疲れ果て、諦めるのを待つのみだ。が。
「ティリ、ナーエ! シードラゴンは炎を吐くから、防ぐ魔を唱えて頂戴!」
…………今のはシュヴァです。
「大いなる風の精霊よ、力の全てを守りにそそげ……」
ティリはシードラゴンの炎が威力が高いと気付いたらしく、魔力を極限まで高めるようだ。
「黒き守りの盾、ダークシールド!」
ナーエは威力の高さに気付いてはいるようだが、まあティリの魔導が間に合うとは考えにくいからな。
シュヴァが船室から出てきて、魔法を唱える。
「血よ闇よ貴様は何を求める私の命それはやれぬ代価は私が決めようさあ私に従え貴様が望むようなもの私が与えよう……」
シュヴァは契約を交わしているようだ。今する事か?
「クロ、頼みます! 右眼の魔力を貸して下さい!」
代価に俺の魔力を使おうとは。確かに勇士の瞳の魔力は無尽蔵だが。
俺は眼帯を外す。どんどんシュヴァが契約を交わそうとしている……闇血の魔神へと俺の魔力が取られていく。
『代価は確かに受け取った』
闇血の魔神が姿を現す。黒い長髪と紅い目をもつ、青年のような姿。
『これより我は、そなたの永遠の従僕となろう』
…………。永久契約か。
精霊ではなく、魔神との契約……あまり褒められる事ではない。精霊より遥かに扱いが難しいからだ。
しかも闇血の魔神といえば良い噂がほとんど無い。威力とか、能力はかなり高く、ただ魔導を使うだけならまあそれなりに使えなくもない。
というか、ただでさえ永久契約をする人間は少ないのだ。永久契約をすると、いくら魔力消費が少なくなるとはいえ、勝手に精霊達が具現化したり出来るからだ。
永久契約した精霊などはもう、他人がその魔導だけを使おうとしても……魔力が大量に必要だ。
プラス、その精霊等の許可も必要。
永久契約する時は精霊達と交渉する。それに納得したという事は、欲しい物を貰ってその主人のために尽くすという事。
精霊達は忠誠心が高いというか……。まあつまり永久契約した人物以外、その精霊等を使う事はほぼ無理だという事だ。
「盾を作って下さい」
シュヴァが闇血の魔神に命令を下す。
『あー? ドラゴン潰せばいい事じゃねーか。俺の生にあわねえしよ。しかも名前をつけてもらわねーと、働けないぜ』
名前は精霊達にとってもっとも欲しい物。力を上げる魅惑のプレゼント。魔力よりも欲しいだろうが、この闇血の魔神は欲張りだからな……。
「ではポチ。炎を弾く盾を作って下さい」
『ポッ、ポチぃ!?』
ティリは唖然とした。ナーエは噴出した。俺は笑ってしまった。
シュヴァってネーミングセンス皆無だな。
強くはなるけど。
「タマの方が良かったですか?」
『も、もうちょっと他にねえのかよ!?』
やばい、面白い。ナーエは腹を抱えて爆笑しているし、ティリは笑いを堪えながら魔力を高めようと必死だ。
「ウィンドマジックシールド!」
ティリが風の防御魔法を使用した。
………ドラゴンどうした?
シードラゴンは、背中に人を乗せていた。炎を吐いたらそのドラゴンの体は揺れ、その人間は落ちてしまうだろう。
「…………ん」
よーーーく聞くと、人物は何か喋っているらしい。
「………………か」
……。分からない。目を凝らしても………。
「シュヴァ、船を止めて欲しいにゃん」
「え?」
シュヴァが困惑する。
「あ、後ダーリン。……シーフィスを起こしてきて欲しいにゃん☆」
俺は笑いながら首を振る。
「ナーエ、何でだ?」
「ドラゴンの背中に男の子が乗ってるにゃん」
「はっ!?」
乗っているのは少年なのか。しかし何故?
「ワーキャットの5感を舐めないで欲しいにゃん。少年は「すいません」「食べ物を分けてくれませんか」と言っているにゃん」
そうなのか? ……ああ、一応食べ物とかはシーフィスの許可が無いとな。
船が止まった。ドラゴンが追いつき、少年が姿を見せる。
10代前半ぐらいだ。青い髪と緑の目を持っていた。
「ごめんなさい、無理を承知で言っているんですが、食べ物を分けてくれませんか?」
少年特有の高めの声だ。…………。いや、何でもない。
「どうしたんだにゃん?」
「その……親に船の上から、捨てられまして……」
全員沈黙。……重っ……。
「そ、そのドラゴンはどうしたんだよ?」
「昔から魔物使いの才能があるっていわれてたんです。そんな調子で、ドラゴンとかとも話せて……だから年齢相応にならなかったんだと思います。そのせいで捨てられるなんて、まったく嫌な世の中ですよね……」
確かに大人びているな……。
「……これからどうするのですか?」
「ドラゴンと芸……って駄目ですかねー……」
………………。
「連れていってあげたいけど……にゃん」
「リーダーの許可が必要だよなぁ」
「シーフィスを起こさないといけませんよね……」
『無許可でいいだろう』
沈黙。
「え、でも……」
少年が言う。
『シーフィスがこんな事断るとは思えんし大丈夫だ』
「ま、そんなに酷い人では無いですし……」
「決定だな」
「にゃん♪」
決まりだ。
「でも、悪いですよ」
少年。
「子供が遠慮するもんじゃねえよ」
「ドラゴン使いなんて頼もしいも良いとこにゃ〜」
「私も似た様な事言われましたね」
ナーエがぎくりとする。
「こ、言葉の綾にゃ!」
「冗談ですよ、そんなにムキにならないで下さい」
「ははっ」
ティリが笑う。俺も笑う。
そして少年、『ベリアーノ=ミシェルヴィオン』が仲間になった。ちゃららちゃっちゃらー♪ |