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鮮血ノ月
作:天海リョウ



[八拾] 目を逸らす理由


 ダンっ、と室内に鈍い殴打の音が響く。

 発生の場所は女子トイレの手洗い場だ。
 私立なだけあって、その清潔さは公立やそこらのデパートのそれとは比べ物にならないくらい徹底されている。
 異臭はおろかところどころに目立つ汚れは一切見当たらず、日々の清掃にも抜かりがないという清掃員の仕事ぶりを誇張していた。
 そんな場所で、千夜は片手をつき、項垂れていた。
 
「くそっ……まともに話せるやつはいないのか、ここには!」

 親友の後押し、と聞けばそれは感心なことだと思う。
 だが、それも自分が関係していなければの話だ。

 蒼助の抱える事情など自分には関係のない事である。
 だいたいたかだが知り合って一ヶ月にもならない人間にそんな重大な話を聞かせるとは、あの男は一体何を考えているのか。
 相手を選んだというのなら、見当違いも甚だし過ぎる。
 
「見る目に関しては類は友を呼ぶってことなのか、これは………いや、その前に」

 思慮が浅かったことにおいては、自分も他人の事をいえないかもしれない。
 あの男が『蒼助の親友』という時点で、そういったまともなことを期待していたのことが大間違いだったのだから。
 
 ―――――あいつの世界になってやってくれないか。

 脳裏に甦る今しがたの言葉に、出て来るのは鉛のような重さの溜息だ。

「無茶を言ってくれるな………何も知らないで」

 思わず、振り返ってしまう。
 何故こうなってしまったのか、と。
 何もかもが自分の思う通りのそれからかけ離れてしまっている。
 過去に思い描いていた現在とはかけはなれたそこに、自分は今、途方に暮れて+尽くしているのだな、と疲れた思考で千夜は状況を分析した。
 
 本当なら―――――ここには、既に自分はいなかったはずだ。
 
 神崎陵。
 この学園で芽吹かせてしまった災厄たるその男を刈り取る。
 事件の後も、ここに残った当初の理由はそれであった。
 戦いの中で負った体調の乱れが整い次第、すぐに見つけ出してやるつもりだった。
 後始末が済めばこの場所に留まる理由はない。
 退学届でもなんでも提出して、姿を消す――――はずだった。

 しかし、想定外の出来事の連続に襲われ、それら全てをなし崩されてしまった。
 一つは自分自身が犯した決定的なミスだ。

 もう一つは――――

「………いや、違う……な」
 
 一人の男の顔を思い浮かべ、すぐさま否定し打ち消した。

 あの男が原因であるのに違いはない。
 だが、悪いのは自分だ。
 蒼助を拒みきれない自分が、本当の悪因なのだ。
 大事なところで決断しきれないばかりに、全てが狂ってこうなってしまったのではないか。
 
「………いつからだ」

 いつから、自分は選択を間違い始めたのだろうか。
 最初に間違えたのは、何処だ。

「……間違いだらけで、わからないな………」

 己を茶化すように呟き、思う。

 本当はわかっている。
 最初の、決定的な間違いは―――――あの場所、あの時点だ。
 だが、何かがそれを肯定することを拒絶し、受け付けない。
 心か。
 頭か。
 或いは、その両方が。

 どうしても、あの男を否定する事ができない。否定したくない。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 離れていた眠れない二晩の間に繰り返した問答の末でもさえ、決着がつかなかった。

 あの男と、

 その出会いに、

 間違いという烙印を押し付けて踏みにじることが出来ない。
 どうしても。

 悶々とする頭の中に、再び無意識のうちに木霊した昶の言葉が、頭痛のようにその効果を発した。

「……ダメ、だ………っ」

 噛み締めた歯の隙間から零れた否定。

 それは、脳裏に張り付いて離れない先程の言葉にか。
 それとも胸の奥で高鳴る何かにか。

 それを判断することさえ厭い、千夜は蛇口を捻り、溢れ出た水を掬って顔に浴びせた。



 ◆◆◆◆◆◆



「本人は自覚していないみたいだけど―――――――後ろめたいんでしょうね、きっと」
「………はぁ」

 理事長室。
 最高責任者の部屋なだけあって、快適につくられた空間に男と女が一人ずつ。
 黒髪の悩ましいスタイルの女は黒皮の張られた立派な椅子に腰掛け、足を机に足を乗せて悠々と携帯型ゲームを。
 大柄、と済ますにはやや規格外な体躯のオールバッグにセットされた白髪の男は眼鏡の奥に目に余裕など欠片宿さず、山のように詰まれた書類を相手にひたすら機械に勝るとも思えるスピードで手を酷使している。
 両者対極的な行動に徹している中、突然呟いたのは女の方だった。
 男の作業の片手間な生返事に不快に思った様子もなく、己は己でゲーム画面を見ながら構わず続けた。

「相手が真剣であれば真剣であるほど、それに煽られ真剣に考えてしまう。それでいろんなものを再確認して、気づいちゃったのね」
「………何に、でございますか?」
「自分が今まで積み重ねてきたことがどれだけ後ろめたいことか、よ」

 ピタリ、と男の手が止まる。
 目の前の上司の怠慢により溜まりに溜まった期限間近の書類を片さなければならない、という最優先の事項すらも放って女の会話に、作業を傾かせた。

「ですが、それは………」
「仕方なかった、なんていうんじゃないわよ? それは、千夜(あるじ)に対する無礼も同じことよ」

 言葉を先取られ一度は押し黙ったが、男はすぐに言い募った。

「申し訳ございません。ですが………あの方は、今まで業を背負うことを生きることと同様に考えて、割り切って修羅の道を歩んでこられました。妥協に決して屈せず、真正面から受け止めてこられたではありませぬか………何故、今になって」
「………覚悟を持つ人間は、二通りに割れるわ。前者をあげれば――――何も持たないからこそ持てる者。心を濁すものも惑わすものも存在しない。だからこそ、何も恐れずあらゆる災禍の中にさえ突き進める………千夜はここに該当するわね」

 女の視線は手元のゲーム画面を釘づけたままだが、その目には映るそれではない何かを観ていた。
 過去か。
 そこにいる者か。
 いずれにせよ、女はここにありながら心をここではない場所に飛ばしていた。

「後者は――――譲れない大事な何かを抱え、その為ならあらゆることも厭わず恐れない者。………あのコが、今なろうとしている状態」
「黒蘭様………一恐れながらも、それと先程の話はどういう関係が……」
「あら……それは私が話し腰を折っているとでも言いたいワケ?」
「………………」
「無言で肯定してんじゃないわよ。生意気ね、このっ」

 ぽいっと投げたゲーム機が男の脳天にぶつかり、跳ねた。
 その際に角にウマいこと旋毛の位置を抉られたためか、男はその地味な痛みに暫し悶えた。
 その姿に少し気が晴れた女は、気を取り直すとばかりに机の引き出しから新たに別のゲーム機を取り出し、今度はパズルの落下ゲームを開始しながら、

「あのコの中で、今その覚悟の形が変わり始めている。いえ……変わるといよりは、まだ崩れる段階よね」
「………もう少し、わかりやすく説明していただけませぬでしょうか。前から言いたかったのですが……貴方、説明は些か理解に苦しむようにわざと回りくどく言っていませんか?」
「今更気付いたの?」

 開き直り全開の呆れの返しに絶句する男に構わず、女は自分のペースを重視して、先を行く。
 それを観て、男は目の奥から悔しさと共に込み上げて来るものをなけなしの意地と根性で塞き止める。
 泣いたら負けだ、と。
 呪文のようにそれを唱え、頭の中を満たそうとしたその時、女は何を思ったのか不意を打つように郷愁じみた声を流し出した。

「………ねぇ、覚えてるかしら。あのコが、一人である覚悟を持った日のこと。誰の手を借りずに、一人で立てる様になりたい、と言い出した日のこと……」

 その瞬間、男の中で思考が一気に切り替わった。
 先程までの恨みがましい気分があっさりなくなってしまったことには、男自身も溜息をついてしまうほどの単純さだと自覚している。
 時折見せるこう言う一面が、男が完全にこの女を邪見に仕切れない原因だった。
 
 そういう時、女が何を思ってそうなるかは決まっていた。
 この人をからかうことだけが永い永い生を食い潰す暇つぶしとしているロクでもない女が、唯一自分以外を真剣に想うのはたった一人しかいない。
 己が敬する人を、同じように、もしくはそれ以上に想っている。
 ただそれだけの共通点が与える共感が、男にこうした損な扱いを甘んじさせてしまうのだった。

 
「忘れるはずが、ございません」

 どうして忘れることが出来ようか。
 言葉の裏にそう刻みながら、男は己の主の痛々しい記憶の一部を思い返す。

 何もかもを失った幼い子供。
 何を失ったかさえもわからない中で、少しずつその空白を埋めるように新たに何かを手に入れていこうとしていた矢先の悲劇。
 それが子供に何もかもを捨てさせた。

 それは、守るべく差し出された手だった。
 それは、或いは共に歩いていた隣人だった。
 或いは、己をいとう心でさえも。

「人が信じれなくなった……だったかしらね。馬鹿な子、初めてついたにしても出来が悪すぎる嘘だったわ……」

 そんな嘲笑の中にも、労わりの欠片の存在を男は感じれた。

「でも、それからしばらくはそのチンケな嘘だけが味方だったわね。しかも、それがあのコの覚悟を固め、維持する最大の力にもなった………なんともいえない屈辱だったわ、あれは」

 何度目かの己の汚点となった出来事だ、と男は苦いものをかみ締めるように口を絞った。
 流暢な口調だが、それは目の前の女の方とて同じことであるとわかっていた。

 大事に思われている。
 その事実は上回ることのない至上の喜びとして受け入れるべきことであった。
 だが、それは同時に何をさせてはくれないという苦々しい、もう一つの現実をも露見させた。

 常に主は一人で道を突き進んでいた。
 その隣には、誰も置かず。許さず。

 男と女はその後ろを歩き、先を往くその背中を見つめながら後に続くしかなかった。
 その後ろ姿は、立派であったと思う。
 しかし、その背中は同時に主が独りであるという象徴でもあった。
 
 見る度にそれがもどかしく。
 どうしようもなく、歯痒かった。
 そして、何よりも感じたのは己に対する無力感だった。

 それはきっと、表面上見せはしないものの彼女も同じはずだ。
 或いは己よりも遙かに強く、絶対的な力を誇る彼女の方がそれを痛感し、強く想っていたかもしれない。

「東京へきて、若干それも変わったけど、あのコの一人でいるという体勢を崩すには至らなかったわ。周りにも、出来なかった。あのコ自身も、それが出来なかった。その勇気が足らなかったからね………どっちにも」

 千夜に惹かれる人間は今までにだっていた。
 決して悪い意味だけではなく、正しい意味で千夜に近づきたいと想っていた者はいた。
 しかし、誰も彼女のその姿勢を崩すことも崩させる事も出来なかった。
 崩すに前に去らざるえなかった者もいた。
 少女に突き放される事を恐れ、行動出来なかった者もいた。
 今も尚、彼女の側に居続ける人間は後者だ。
 前者は―――――悪意を以て惹かれた人間に呑み込まれ過ぎ去った者。

 出会いに恵まれていても尚なのか。
 それとも恵まれていないのか。
 少女は、依然として一人で居続けることとなった。
 
「でも、それがここにきて―――――ようやく、崩れ始めた」

 男の眉間が無意識のうちに皺寄る。
 それを見てか、女は薄く笑った。
 何が原因か、語らずと悟ったのだろうと意味を汲みつつ、己の言葉を続けた。

「生き方を変えるって、一言で言えるもんだけど中身はそんな簡単なものじゃないわ………場合によっては、それまでに生き方でつくったモノが次の生き方に足枷となって妨げになることだってあるんだからね。……特に、あのコは常人には受け入れ難いものを一つどころか三つ四つと引っさげてるのよ? 知られてもいいなんて、相手をホイホイ受け入れることなんて出来ると思う?」
「だから………なのでしょうか」
「それだけじゃないでしょうけどね」

 かたん、とゲーム機を机上に置いた。
 パズルが積み重なって行くゲーム画面から外された視線は、宙を越した何処かに放られていた。
 
「………一人で生きるのも、誰かと生きるのも難しい。楽に生きる事など出来やしないということをわかった上で………あのコはどう選択するか。こればっかりは、私たちが口出しする問題ではないわ。答えとは常に明かされることではなく、明かすもの。与えられるものではなく、見つけるもの。……出題者や横で聞いててわかった者が与えるのではなく、問われた本人が見つけるのよ」
「黒蘭さま………」
「私は信じるわよ? 私が見守り、守って来たコが、これからもそうするに値する者であると。あんたはどーする?」
「わ、私とてっっ」
「だったら、さっさとさっきから御留守中の手を動かしてくれなーい? それ、全部今日の三時までに提出待ってもらってる書類なんだから」
「なっっ!? 何故貴方は毎度毎度ギリギリになって提出期限を明かすのですか!!!」
「そりゃぁ………あんたを信じてるから?」
「何ですかその信憑性皆無の疑問系な返答は!! わざとですかっ? 一体何処までがわざとなのですか!?
「紙面から目ぇ離して喚きながらも高速でペンを走らせるとか面白い光景を生み出してくれるあんたのイジリ甲斐を信じてるのはほんとだから早くやって。あと二時間もないわよぉ〜」
 
 ぬおおおおっと若干泣きが入った唸り声をあげる男の神がかったスピードの動きとその奮闘ぶりを鑑賞しつつ、女は既に思考を別のものへと切り替えていた。
 もう一人の、生き方の選択を迫られている男のことに。

「さて……どうするのかしらね」

 彼は気づくことができるだろうか。
 そして、全てを知った上でそれらを受け入れることができるだろうか。

 己が見込み、大いに期待する男の為す『応え』がはっきりと読めない状態を、女はひどく楽しく感じて微笑った。



 ◆◆◆◆◆◆



 ぴちょん。

 幾筋と顔面を流れ、離れた一滴が洗面台を跳ねてか弱く音響いた。
 何度も顔に水を浴びせた。その冷たさが滲みて、己の荒れる精神を鎮めるまで、何度も。
 前髪が滴るのも構わず繰り返した結果、先程よりも頭の中で燻っていた熱は収まりをみせるようになった。

「………はぁ」

 しかし、漏れる息はいまだ熱い気がした。
 完全に落ち着きを取り戻した、とはいえない。
 奥に奥に、と渦巻くモノを無理やり押し込めただけに過ぎなかった。

 だが、それでいい、と千夜は満足していた。
 まともに向き合うことだけは避けられれば、それさえ出来れば構わなかった。

「………どうするかな」

 ふと思い浮かび、新たに対峙したのは今日の下校後だった。
 蒼助にはつい、今日は帰ると言ってしまったが、ああなっては帰れるはずもない。

「………仕方無い、また暫くホテル巡……―――――」

 口にかけた言葉が、唐突に思考が停止すると同時に途切れる。
 脳内の作業を滞らせた原因は、不意に浮かび上がった一つの疑問だった。

 何故、そんなことをする必要が在るのか、と。
 
 寧ろ帰るべき要素が溢れている。
 家には自分の不在に不安を募らせて睡眠を削る妹が待っていて、自分の身体の為にもこれ以上の無理はよくない。
 家に帰れば、蒼助がいるだろうが、危惧するようなことは無いと先程わかった。
 正確な根拠はないが、あの男はきっと約束は守る。
 いろいろ裏切られたが、それだけは信じてもいいと千夜は思う。

 危険がなくなったにも関わらず、我が家に帰りたくない。
 そう思うこの感情は一体何なのだろうか。

「何で………俺は、」 
 
 零れ落ちる答えを探す言葉を、脳裏を過る言葉が遮った。


 ――――意識してくれてるのか?


 言葉が並んだ瞬間、頬で熱が一気に高まった。

「……っ、違う!」

 荒々しい声色で否定を吐き、千夜は衝動的に頭を振った。
 しかし、一度冷めたはずの熱は一向に収まりをみせない。
 頭がおかしくなりそうだ。

 ここにいてはいけない。
 何処でもいい。
 ここではない何処かへ行きたい。
 あの男から離れたい。

 後先など考える余裕は千夜にはもはや一切残されていなかった。
 ――――故に、気付けなかった。

「―――――終夜千夜さん?」

 背後からの声。
 何処か刺々しい。
 
 
 考えもしていなかった出来事に、千夜はハッとして振り返る。
 そこには、見覚えの無い女が三人。

 誰だ。

 そう思いながらも、千夜は向こうの観察に入った。
 念入りに施した化粧は女たちの顔を見事に美しく飾り立てて、大人びさせていた。
 とても真面目といった感じではなく、遊んでいますと姿で語っている。
 このやたらと発している上から目線で見ているような雰囲気からして、おそらく三人とも揃って上級生だろう。

 観察を終え、千夜が自然と次に移ったのは疑問だった。
 彼女らと面識はない。
 そんな彼女らが自分に何の用で声をかけたのだろうか。
 そもそも何故、名前を知っているのか。
 疑問が積まれていく。
 しかし、相反して解答の要素となりえるものは一切わからない。

 

「やっと、つかまえた。会えるのに二日もかかるなんて思わなかった」
「教室にいないと思ったら、こんなところにいたんだ。先輩として言わせてもらうと、サボり、良くないよー?」

 女たちは状況を飲み込めない千夜に、軽口を放ってくる。
 彼女らの開口に、千夜は思考の世界から我に返った。

 疑問に気をとられて、千夜は向けられている視線に対し意識を向けるのが遅れた。

 込められているもの。
 どう感じ取っても決して友好的なものではないそれは、彼女達が内に秘めるこちらへの感情そのものであった。

「ねぇ、暇してんなら私たちにちょっと付き合ってくれない?」

 己にかけられる言葉は、どれだけの毒を含んでいるのか。
 考えるまでもなく、そして知る必要も無い。
 今すべきことは探求ではなく、彼女たちとの関わりを回避することだ。

 長年培われた危機的判断が、千夜にそう告げた。
 疑念など持たず、従う。
 今までそうしてきたように、千夜は今回もそれを選んだ。
 
 女たちの言葉など聞こえなかったかのように、千夜は目を伏せてその横を何事もなく通り過ぎようと前へ出た。

 ――――しかし、千夜はここで重大なミスを犯していた。
 
 ここまでにかなりの神経を削り、注意力の散漫した千夜は観察と対処に対する考慮を怠った。
 女達の高圧的な雰囲気は、他者を従属させ、踏み躙ることを当然としてきた者であるから発するものであること。
 そして、それらを当然としてきた彼らは自らが見下げる存在が従わないことを頑として良しとせず認めない。

 故に、彼らは――――

「――――すかしてんじゃねぇよ、バーカ」

 どんな挑発も無視して振り切るつもりでいた千夜を、予想を上回る出来事が襲った。
 女達の横を通り過ぎようとした並んだ瞬間に、それは起こった。

「―――っっっ!!!?」

 右腹部に炸裂するような衝撃。
 思わず息が止まったその直後、自然と膝が床に落ちた。 
 次に後を追うように意識が堕ち始める。

 完全に堕ちる寸前、ここで千夜は己の失態に気付いた。
 
 征服者を気取る彼らは、己への他者の服従を絶対として妄信している。
 故に、彼らは――――手段も選ばず、いかなる方法をも用いる、と。

 しかし、後悔する時間は残されていなかった。
 地面の上を身体が打つと同時に、千夜は意識を手放した。




復活、天海。
お騒がせしましたー。
約束していたゴールデンウィーク期間スタートですね。とりあえず、一話アップです。

中間パートでの奴らのことだが、マジで学園の経営者。資金は黒い方が巧妙な手口を行使して株でよその大企業潰したりして荒稼ぎしているが、書類とか細かいところは全部白い巨人さんが押し付けられている。
高速で死にそうな思いで黒が溜め込んだ大量の書類を毎回片付けているが、一枚一枚の字は超達筆。さりげに几帳面だからどんなにきつくてもそこは譲れないそうな。

終盤、なんか危険な匂いを残して終わりましたが。
王道的展開が待っていると予感した人、貴方はわかっていらっしゃるな。
ところで、ふと思ったのですが、ありきたりと王道の違いって何なんでしょうね。

それではまた明日。











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