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花の歌、剣の帰還 作者:天谷あきの

番外編 養父の剣を取り戻せ!

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地下街(3)

 なだらかな丘を越え、こんもりとした茂みを迂回すると、前方に人だかりが見えてきた。窪地に大勢の人間が集まっていた。大部分は男だが、女性も幾人かは混じっている。中央に空白ができていて、周囲の人間たちは皆一様にその中央を見つめてがやがやしている。

 中央には七人の男たちがいた。五人が一列に並んで、二人がそれに対峙するように向かい合っている。二人のうちひとりは石柱に腰をかけ、もうひとりは立っている。あの二人がきっと、フェリスタの言った、ガクスタとベルスタだろう。では向かい合っている五人が、ヴィード=グウェリンの養子を騙っている奴らだろうか。

 五人はいろいろな人間の集まりだった。大柄な、どう見ても三十代だろお前、と言いたい男がひとりいた。後はまあまあ十代に見えたが、まるで貴族のような優男もいたし、がっちりした体格の男もいたし、この辺りでは珍しい金髪の男もいたし、小柄な男もいた。全員に共通するのは、皆腕に覚えのありそうな雰囲気だというところだ。特に優男は――紋章入りの剣を持っているのは彼だった――細身で、デクターと同い年くらいに見えるのに、立ち姿には隙がなく、堂々と落ち着き払って見える。

「やべ、もう賭けが締められそうだぜ」

 フェリスタは五人ではなく、その周囲を取り囲む人垣の方を見ていた。大きな黒い板が置かれており、そこに書かれている文字は、どうやら倍率を表すらしい。その周囲では声高に怒鳴っている男たちがいる。フェリスタは足を速め、声を上げた。

「その賭け、俺も入れてくれ!」

 その大声に喧噪がやや収まり、五人に向かい合っている二人のうち、立っている方が振り返った。

「なんだはな垂れ小僧! 付き合いきれねえんじゃなかったのか!」
「事情が変わったんだよ、ベルスタ」

 フェリスタは堂々と歩いて行きながら、ベルスタに向けてはいたが、そこにいた全員に聞こえるような張りのある声で言った。

「五人とも偽者なのに、その中から本物を決めるなんて、茶番でしかねえだろう。ちゃんちゃらおかしくってよ」

 みんながざわつき、座っている男(立っているのがベルスタなら、こっちがガクスタだろう、きっと)が苦笑したのが見えた。ベルスタが凄んだ。

「馬鹿にしてんのか、ああ?」
「いーや、それがついそこで、本物を見つけたんだ。すまねえが、こいつも混ぜてやってくれ」

 背嚢を背負ったままのアルガスの背をどんと押して、前に突き出した。ベルスタが呆れた顔をして、周囲が馬鹿にしたようにざわめいた。そのざわめきを押さえ込むように、フェリスタの宣言が響いた。

「名前はアルガス=グウェリンだ! 俺ぁこいつに全財産賭けるぜ!」
「全財産! こりゃ大きく出たな。なあはな垂れ小僧、お前、そいつが女だって方に賭けてたんじゃなかったか」

 やっぱり賭けてたんだ、と思う。フェリスタはあっけらかんと言った。

「ああそうさ、それで、負けだってわかったんだ。こいつ男だって。それで、十六歳なんだとよ」

 十六歳、と聞いて、ベルスタが一瞬だけアルガスを見た。それからまたフェリスタに視線を戻して、鼻を鳴らした。

「こいつが男だってえ? ようはな垂れ小僧、それぁいくら何でも無理があるってもんじゃねえのか。こんな可愛い面した十六歳の男が存在してたまるもんか」

 ひどい言い草だ。デクターははらはらしてアルガスを見た。ガクスタもベルスタもじっとアルガスを見ているようだ。アルガスの瞳が更に藍を増したように見えた――けれど先程のフェリスタの忠告が効いているのか、何も言わず、むっつりとした顔のまま背嚢を下ろして上着を脱いだ。肌着まであっさりと脱ぎ捨てると、やせ細った体が現れた。周囲がどよめき、アルガスは言った。

「下も?」
「いや」ベルスタは手を上げた。「充分だ。悪かった。……どうなってんだ、俺も大損だぜ」

 勝った、負けた、と周囲の人垣の中から歓声や悲鳴が上がり、ひとしきり混乱が起こった。今すぐ払えだの、もう少し待てだのと大騒ぎだ。ややして取っ組み合いまで始まって、デクターは気後れを感じた。なんて荒っぽい世界だろう。

 ベルスタもガクスタもその乱闘には注意を払わなかった。アルガスは黙って肌着と上着を着ている。ベルスタが、フェリスタに言った。

「……はな垂れ小僧」
「おう」
「本気なんだな」
「おう」

 フェリスタは平然と答え、今の騒ぎの間に取り出していたらしい、ずしりと膨らんだ革袋を、足元において、言った。

「これ全部賭ける。玉ふたつ分くれえにはなるはずだ」
「……わあった。お前に二言がねえのはわかってるよ。しまっときな」

 ベルスタは頷き、アルガスに、顎をしゃくった。

「そん中入りな。……これ以上、名乗り出る奴はいねえだろうなあ? まさか六人も集まるとは思わなかったぜ……ったくややこしい話だよ」

 アルガスが五人の列に加わった。アルガスは一番背が低く、一番細身で、一番幼く頼りなげに見えた。他の五人は全員剣を持っていた。獲物がこん棒なのはアルガスだけだ。フェリスタに会えて、信じてもらえたのは本当に幸運だったのだと、デクターは考えていた。フェリスタは若いが、ベルスタに目をかけられているらしく、そのフェリスタが全財産を賭けるとまで言ったことで、今更ながらもあの中に加えてもらえたのだろう。

 ベルスタは六人に向き直り、声を改めた。

「じゃあさっきの続きだ。名前と年齢まで聞いたんだったな。新入りのも聞いたことだし、じゃあ、こっちの札をさらすぜ。言っておくが、抜けるんなら今の内だ。第一将軍から二度目の知らせが届いた。将軍はその養子に面識があり、戸籍も直々に渡すつもりだとさ。騙ってんのが五人なんだか六人なんだか知らねえが、財産もらう気なら尻尾巻いて帰った方がいい」

 六人の中で明らかに動揺したのがふたりいた。三十過ぎに見える大柄な男と、小柄な男だった。落ちつかなげにキョロキョロして、デクターは少々呆れた。それくらい予期してから騙れ、と言いたい。周囲から軽蔑の声が上がり、ベルスタはさっさとそのふたりを見限って、残った四人に目を向けた。アルガスもその四人の中にいたので、デクターはひそかにホッとした。

「お前らは平気なのか」
「当然だ。将軍に来ていただければ手っ取り早い話なのにな」

 答えたのは優男だった。声まで流麗で、洗練されていた。アルガスよりはるかに背が高く、すらりとした好男子だ。落ち着いた物腰で、瞳は灰色で、紋章入りの剣も持っている。人当たりがよく、育ちが良さそうだ。十六歳にしては落ち着き過ぎているようにも思えたが、育ちがいいからと言われれば、そのとおりかもしれない、と思える。

 彼は流麗な口調で続けた。

「それにどちらにせよ、将軍に名乗り出る気はないので」

 ベルスタが目を細めた。

「じゃあなんで名乗るんだ」
「財産のことなんか知らなかった。ただ地下街で認めて欲しいと思っただけだ。養父の仇を討つために流れ者になったんだが、目的を遂行するためにはここで認めてもらって仲間を募りたい」

 真摯な口調で、これは手ごわい、と思った。
 信じられないことだが、ヴィード=グウェリンは巷では、剣の腕が有名になり過ぎたためか、それともあの第一将軍の右腕という評判のせいだろうか、どうやら豪傑というか、それを通り越して英雄、というような評価を得るに至っているらしい。アルガスには不利な評判と言えた。高潔な英雄の養子にしては、アルガスはあまりに獣じみている。この中にラク・ルダ出身のものはいないのだろうか。もしいたら、あの飲んだくれのろくでなしの養子が、あの優男のように育ちが良さそうなはずがないと、思ってもらえるだろうに。

 ベルスタが他の三人に目を向けた。もうふたりも同じことを言い、アルガスも、財産はいらない、と言った。でも優男が真っ先に言っているので、二番煎じにしか聞こえないのが辛いところだ。ガクスタはうなずき、アルガスに訊ねた。

「お前は仇を討ちたくねえのか」
「仇を討つのに、人の手を借りる気はない」
「そうかよ。――ひとりひとり答えな。仇ってのは誰なんだ」

 がっちりした体格の男と、金髪の男は、南方の辺境で蛮賊に襲われたのだと言った。
 紋章入りの剣を持つ優男は、抑えた口調で答えた。

「エスメラルダに引きこもっているエルギン王子の護衛、剣豪マスタードラだ」

 周囲がどよめいた。ベルスタが腕組みをして唸り、ガクスタは身じろぎもせずに座っている。マスタードラ、という名は、デクターも聞いたことがあった。ティファ・ルダ以前のことになるが、アナカルディアで毎年開かれていた剣術大会で、三年連続で優勝したという凄腕だ。エルギン王子が王への反感を表明して、自分の領地エスメラルダに引きこもってからというもの、マスタードラも剣術大会へは出なくなったが、その腕はヴィード=グウェリンにも匹敵するのではないかと囁かれていた。

 アルガスが優男に向き直って何か言おうとした。瞳が、光の加減だろうか、今はほとんど黒に近い色に見えた。普段は鮮烈な真夏の海のような色なのに、今は光を飲み込むほどに深い、どこまでも深い深い水の淵のような――

 ――そういえば、前にも。

 デクターが、アルガスの瞳の色が時折変わるように見える、ということをはっきり意識したのはその時だった。思い返せば、初めて会った時、デクターが女の子だと言ってしまった時にも、それからフェリスタが、偽者だと言った時にも、瞳の色の濃さが増した気がした――感情に左右されるのではないかと、不思議な考えが兆した。今、もともとの色である藍が濃くなりすぎて、獰猛な色を湛えている。けれどアルガスが何か言う前に、ベルスタがアルガスの方へゆっくりと歩みよっていた。その顔をのぞき込んで、ベルスタは言った。

「お前は」
「……」

 アルガスはベルスタを睨んだ。ベルスタは静かに繰り返した。

「お前は? 言えねえのか」

 こんな茶番に付き合っていられるかと、言うのではないだろうか。デクターは不安に駆られた。
 茶番だ。こんなの、本当に茶番でしかない。地下街に入る必要さえなければ、こんなところで自分が養子であったことを、証明して見せる必要なんかないのに。

 信じてもらうために、こんなところでさらし者みたいな目に遭わなければならないなんて、間違っている。騙る奴らなんかさえいなければ。将軍が、財産を渡すなんて言わなければ、証明なんかしなくたって。

 そしてデクターはぞっとした。証明。
 それは、なんと難しいことなのだろう。

 養子だ。だから血のつながりはない。外見での証明は無理だ。ヴィードの人となりや思い出を話してみせたって、そもそもヴィードのことを知らない人間には無意味だ。

 第一将軍をこの場に呼びでもしなければ、その力を借りなければ、自分が正当な養子だったことを証明することなんて、できないのではないだろうか。

 ――それほどに、不安定な絆でしかないのだろうか。
 と、アルガスの、静かな返答が聞こえた。

「マーセラ神殿、大神官の補佐、ムーサだ。王がやらせた」

 また周囲がどよめいた。こりゃ大きく出たなとベルスタは笑った。

「それなのにお前、他人の手はいらねえってか」
「……」
「おかしいじゃねえか。ヴィード=グウェリンは第一将軍の右腕だったんだ。王の剣で盾である第一将軍の右腕が、なんで王に殺されなきゃならねえんだ」

 本当だと、デクターは思った。ベルスタの指摘は、全く正しかった。
 アルガスの瞳が、更に濃さを増したのを、デクターははっきり見た。瞳が真っ黒になって、光さえ吸い込んでしまいそうな、暗黒の淵のように見えた。

「ティファ・ルダ侵攻を、止めようとしたんだ」

 周囲が、水を打ったように静まり返った。ベルスタが何か言う前に、優男が割り込んだ。

「良くできた作り話だ。良く調べたなって、褒めてやりたいくらいだな。――地下街の元締め殿、将軍は、ティファ・ルダ侵攻を何とか止めようと心を砕いておられた。それは本当のことだ。ティファ・ルダの使者を招いて、無血で済ませようと尽力しておられたのだ。だがティファ・ルダがそれを拒んだ。かつてのルファ・ルダのように。将軍は、侵攻を指揮せざるを得なくなった。
 養父はその頃南方の辺境の平定を任されていた。ティファ・ルダにかまけている間に蛮賊が騒ぎだしては困るから。何より、ティファ・ルダを攻めるのは養父にはあまりに酷だと将軍が判断されたためだ、養父は、ラク・ルダのシェイテル家とつながりがある。ティファ・ルダの彫師の長、ローラ=シェイテルとは戸籍上の兄妹に当たるので」

 この優男は本当に手ごわい、とデクターは思った。ベルスタはふたりを見比べた。アルガスは、優男には何も言わなかった。ベルスタだけを見ていた。

「将軍は侵攻を指揮なんかしてない。王に、野営地に置き去りにされたんだ。ティファ・ルダとの和平交渉の真っ最中に。養父は確かに南方に向かわされていた、ティファ・ルダに難癖をつけるのさえ、我慢できる性格じゃなかったからだ。だが心配で、戻ったんだ」
「第一将軍の命令に背くような真似をする養父じゃない」

 優男が遮り、アルガスが吐き捨てた。

「養父は将軍の命令なんか、はなから聞く男じゃなかった。将軍のことが気に入ってたから、手伝ってただけだ」
「兵士がか?」

 ベルスタが言った。アルガスを見て、訊ねた。

「ヴィード=グウェリンってのは高潔な、騎士の鑑みてえな男だったっていうじゃねえか」
「ヴィード=グウェリンは」ひどく静かな声だった。「飲んだくれのろくでなしだ」

 周囲がざわめいた。
 優男が何か言う前に、ベルスタが大きな声で笑い出した。

「なんてことを言いやがる! こりゃいいや、剣豪の英雄をつかまえて、飲んだくれのろくでなしとは!」

 それは紛れも無く挑発だった。アルガスは挑発に乗らずに黙って見ていた。ベルスタはどうやらアルガスを怒らせようとし続けている、とデクターは思う。信用していないのだろう。フェリスタが『すげえ男』と言ったのに。

 ラク・ルダでの評判を言えるのは自分しかいないようだ。口を出そうとすると、フェリスタが止めた。

「お前の出る幕じゃねえよ。黙って見てな」
「……でも」
「言ったろ、ベルスタはすげえ男なんだって。悪いようにはしねえ、絶対にな。たぶん俺と同じことに気づいたんだ。見な、ガクスタなんか、もう他の奴らになんか目もくれてねえ」

 確かに、石柱に座った男の視線は、アルガスにずっと向けられていた。

「気づいた、って……?」
「ふたりはもう、お前の連れが本物じゃねえかって思ってる。だから怒らせようとしてんだ。公表されてねえ情報だが、第一将軍がいろいろ知らせて寄越したのさ。瞳の色だとかそういうもんをね。だから俺も、はじめ偽者だって思ったんだ。二年前には少女みてえに華奢だった、つったって、育ち盛りが二年経ってもまだまるきり女そっくりだとは想像もしなかったしよ、それに、養子の目の色は灰色だ。あの優男と同じに」

 アルガスの瞳は、出会った時からずっと、藍色だ。それじゃあ、と言いかける前に、フェリスタがにやりとした。

「けど怒ると藍色に変わるんだと」
「……本当にか?」
「お前も灰色になったとこ見てねえのか。俺もあいつを見かけるようになってずっと、もう一年くれえ前からだな。深い湖みてえな色だなって思ってた。あいつが騙ってるんじゃねえのなら、……養父が死んでからずっと、怒ってるってことじゃねえのか」

「……二年も?」
「それに気づいてからよくよく見てるとな、怒ると色が深くなる。見ろよ、ほら、今なんかもう真っ黒じゃねえか。落ち着いて、ガクスタの目の前で普段の灰色に戻して見せりゃ、あの優男にもなんにも言えねえだろうに」
「お前ら、ヴィード=グウェリンの養子として、この無礼な子どもに言いてえことはねえのかよ」

 ベルスタが焚き付けた。デクターは一瞬だけ、金髪の男と、がっしりした体格の男が、目を見交わしたのを見た。

「確かに聞き捨てならない。これを見逃しては、養父への雑言を見過ごしたということになるな」

 がっしりした男が口火を切り、そうそう、といいたげに金髪の男が前に出た。優男は、苦笑した。

「確かに聞き捨てならない発言だったが、養父は剣も持たない子ども相手に剣を抜けとは教えなかった」

 アルガスはそちらには注意を払わなかった。ベルスタにさえ視線を向けず、その向こうで、いまだ石柱に座ったままの、ガクスタを見ていた。ガクスタは依然として何も言わなかった。このままでは絶対に乱闘騒ぎになるのに、止めようという気はまるでないようだった。

「取り消す気はねえのか」

 ベルスタが訊ね、アルガスはベルスタを見た。黒々とした瞳は、今は悲しげに見えた。

「第一将軍に聞いてくれ。俺には剣もない。戸籍も焼かれた。血もつながってないから顔も似てない。あのろくでなしの息子だったと証明できるものはなにも持ってない。――記憶しか!」

 記憶しか。それも、手のかかる、ろくでなしのお守りをし続けたという、ろくでもない記憶しか。
 デクターはそう思い、すぐに、アルガスが一度たりともそう言わなかったことを思い返していた。
 ろくでもない男だったとは言ったが、そのろくでもない男の記憶や、一緒の生活まで、ろくでもなかったとは言わなかった。一度も。

「世間の評判がどうだろうと、あいつは飲んだくれのろくでなしだった。剣の腕しか取り柄のない男だった。その上頑固で強情で、諦めも悪かった。賭博で身ぐるみはがされたのを何度も見た、あんな奴の息子を騙ろうとする物好きが、存在するとは夢にも思わなかった。俺が拾われてから、第一将軍はあいつにじゃなくて俺に給金を渡すようになった。あいつに渡しても、全部飲むかスるかしかしないからと。人間としての生き方だけはあいつに教わるなとまで言われた。聞いてみればいい。覚えているはずだ」
「……ってことだが、どうする、お前ら」

 ベルスタは味方をしてくれなかった。ものすごく説得力があったのに。
 優男は苦笑して一歩下がり、金髪とがっしりした男が前に出た。ベルスタはアルガスに訊ねた。

「取り消す気はないのか」
「ない」
「じゃあ果たし合いだ。全員ヴィード=グウェリンの養子を名乗るなら、腕に覚えくらいあるだろう。だが今のままじゃいくら何でも不公平だな。――俺の貸してやろうか」

 ベルスタが腰から剣を外したが、アルガスは首を振った。

「養父から真剣を持つのは止められてる。まだ自信がない」
「自信が?」ベルスタは笑った。「それこそ自信たっぷりじゃねえか。いいさ、じゃあ見せてみな」
 優男とベルスタが場所をあけた。三人だけがその場に残り、デクターは驚いた。

 まさかふたりがかりで、なのだろうか。
 どちらもアルガスより体が大きく、武器も真剣だ。アルガスはひとりきりで、こん棒しか持ってないのに。あんまりだと言おうとした時、フェリスタがまた止めた。

「だから黙ってろっての。お前あいつが本物だって信じてねえのか?」
「信じて……るけど」
「じゃあ黙って見てなよ。ヴィード=グウェリンは今までひとりも弟子を取らなかったそうだ。王妃と共に草原に乗り込んできた後もな、何とか弟子入りしようと、剣技のかけらでも教わろうと、躍起になったのが、草原の男の中にも何人もいたんだってよ。そいつらは――ヴィード=グウェリンが九歳の子どもを拾ったって聞いたときには、歯軋りして悔しがったんだぜ。俺ガキだったが、良く覚えてる。ヴィードってのはどんなすげえ男なんだろうって、いろいろ想像したもんだ」
「……王妃と、共に?」

 なんだそれは。初耳だった。

「ガクスタもベルスタも知ってんだよ。草原の民だからな。俺ぁそんときゃまだ生まれてなかったから実際見たわけじゃねえが――ヴィード=グウェリンってのは粗野で乱暴者でな、王妃が見張ってなきゃ草原中の誰彼とだってかまわず喧嘩を始めるような男だったんだ。飲んだくれのろくでなし、金が手に入れば全部飲む。王妃もな、ヴィードには現物しか渡さなかったんだとよ、金なんか渡したって、必要なものに使うはずがねえからってな。とりえと言えば本当に剣の腕だけだった。あいつだけが正解だ。あいつはな、たったひとりだけ、ヴィード=グウェリンのお眼鏡に適った子どもなんだ。ふたりがかりだろうと、関係なんかねえだろうよ」

「でも、何にも教わってないって言ってたんだ」
「――何ぃ?」

 フェリスタがこちらを見た、瞬間だった。
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