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ウルフ坂さん家の事情
作:藻川ユキヒロ


俺は今日、生まれて初めて恋文なるものをもらった。
携帯やら電子メールが中心となった昨今、このような古風な方法をとったことにも好感が持てるが、それより何より俺の心を引いたのはこの手紙の内容だ。


『Mさん(ここには俺の名前が入るが、婆ちゃんの考えたやたらと難しい字なので省略)へ、突然このようなご無礼をお許しください。でも、私はもう我慢できないのです。貴方を見るたびに胸は躍り、貴方を想うたびに涎が出ます。どうか私の中に来てください。放課後、体育館の裏で待っています。  雨流風坂 絹恵』



後半が危なっかしいこの感じ。
こんなものを送られて小躍りしない思春期真っ盛りの青少年はいまい。少なくとも俺はヤッホーイだ。
苗字がなんて読めばいいのか分からんが、この絹恵さんなるものはもう我慢の限界らしい。
俺も最初は悪戯かと思ったが、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』とも言うし、俺は一丁馬鹿になってやろうと思った訳だ。
否、男は皆馬鹿だ。
この場合の馬鹿はエロとイコールで繋がる。
俺が十七年生きてきて考え至った方程式だ。
エロのためならば命を捨てる。それが男と言うものだ。
さてと、力説しているうちに放課後、そして体育館裏についた訳だが、早く来すぎたのかまだ誰の姿を見えない。
話が飛びすぎてて訳が分からんと思うが、俺はあまり説明が上手い方ではない。その辺は勘弁してほしい。


「あの〜…来てくれたんですね。」



キタ―――――!!

神よゼウスよイエスよアッラーよブッダよ石田純一よ――――!!
ありがと―――――!!!


俺が全世界の神+1にお礼を述べながら振り返ると、そこにはべっぴんさんな女の子が一人居た。
ストレートの茶色いロングヘアーに、夏だというのにニット帽を被った可愛らしく大きな瞳がチャーミングな少女だ。
何より目がいったのはその全国女子平均値より遥か上をいきそうな胸だ。
世の女性方は不快かもしれないが、男は女性を見る際、顔より先に身体のあらゆるパーツに目がいくものだ。目がいくパーツは人それぞれだが、俺の場合は胸だっただけのこと。
どうか寛容に見逃してほしい。
しかし、想像の斜め上を見事についてきやがったなコノヤロウ。虎穴に入ったら虎児どころか金銀財宝だよ。
俺がそんな邪な(ある意味正常な)考えをしていると、少女は突然俺に向かってタックルをしてきた。
俺はアッサリ倒されてしまい、後頭部をオモクソ地面に打ちつけてしまった。
絶対タンコブできたな。


「いった――っ!一体何を………。」


文句を言おうとして開いた俺の口は、そのままあんぐりと開いていった。なんと、少女は俺に馬乗りになり潤んだ瞳をこちらに向けていた。


「ごめんなさい……でも、もう無理なの…我慢できないの……。」


いや――――――ちょっと早―――っ!!

俺達まだ知り合って数分よ!?
それなのにこんな……心の準備だって………っ!!


「イイニオイ……。」

いやいやいやいやいやいやいやいや!
待て待て待て待て待て待て待て待て!!
そんな幸悦とした顔でこっちを見ないで!!
せめて、もっと暗いところで……。
俺が大混乱しているうちに、絹恵さんは俺の制服のネクタイをとり、ボタンを外し始めていた。
ああ……俺は今から生まれ変わるのか…。

さようなら、昔の自分。
さようなら、『エロ紳士同盟』の同志、『人妻の佐田』と『洋物の河口』。
『ブルセラのM』は一足先に行って待ってるぜ………。


「初めてなの……優しくして…。」


俺は覚悟を決めてそう言うと、目を閉じた。
彼女の紅い唇が俺の首元に降りてくる。
そして……唇が俺に触れた………。






























ガブッ









ギャニヤアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!?


首元に走った激痛に目を開けると、そこには俺の首に噛みついている美少女の姿があった。
あまりの痛みと予想外の光景に俺は暴れて抵抗した。
こんなに必死になったのは久しぶりだ。


「イタタタタッ!!何これ!?離して!!こういうプレイ!?こういうプレイ!!?」


俺が首元から彼女を引き剥がそうと頭を押したら、勢い余って彼女のニット帽を脱がせてしまった。
すると、その下には俺をさらに混乱させるものが現れた。ピョコピョコと、本来人間にあるはずがない場所に犬のような耳がついていたのだ。
よく見ると、スカートの裾からフサフサした尻尾がこんにちはしている。
もう俺はメダパニ状態である。



「ふむぅぅぅぅぅ……。」


唸り声を出しながら俺を離そうとしない少女。
今起こっている状況を把握できないまま抵抗する俺。
一進一退(?)の攻防を続けるなか、突然、何処からともなく笛の音が鳴り響いた。


「ギャアアアアアア!!」


その音を聞いた途端、少女は俺から離れ、頭を抑えてのたうちまわり始めた。
次々起こる理解不能な出来事に俺は一人唖然としていた。


「またこんなことして……まったく姉さんは…。」


首に付けた鈴が音を立てながら揺れる。
其処に現れたのはまたしても美少女だった。
少々つりがちな目に、茶色い髪でショートカットの少女が凛とした顔で其処にいた。


「どうもすいません。姉がご迷惑をおかけしました。雨流風坂 絹恵の妹で、一年B組の雨流風坂 綿子です。」


深々とご丁寧にお辞儀をする少女を俺はマジマジと見た。
俺としたことが……今年の新入生にこんなめんこい娘が入学していたとは……迂濶だった…。
じゃなくてっ!!


「あの娘は一体何なんだ!?いきなり噛みついてくるし!可愛いし!!え〜っと……ウルフゥザカさん?」


「ウルフザカです。伸ばさないでください。」


「とにかく!説明を要求する!!」


俺が捲し立てると、少女は溜め息をついて説明を始めた。


「察しの通り姉は人間ではありません。」


いや、そんなの全然察してなかったんだけど……。


「正確には半分人間ではないんです。姉は、人狼と人間のハーフなんです。」


ジンロウ……?またしても聞き慣れない言葉である。


「要するに狼人間のことです。」


ああ、ケンのことね。


「我が家は父が人狼で母は人間なんです。そしてその間に生まれたのが私達姉妹と言うわけです。」


「ということは君も………?」


「いえ、私はただの人間として生まれました。何故か姉だけが……。」


はぁ…と俺は気の抜けた返事をする。
理解できたようなできないような。


「姉は半分が人狼のため、ついついその習性が出てしまうんです。」


「習性……って?」


嫌な予感がMAX。


「人肉を喰らうことです。」


的中。
つまり俺はついさっきまで命の危機に晒されてたってこと?
俺はその場にヘタリこんだ。


「ご安心ください。普段はコンビーフを与えてその飢えを抑えていますから。最近はすっかり忘れてましたけど。」


そんな大事なこと忘れんな!!


「ん…んん……アレ?」


そうこうしていると、雨流風坂(姉)が目を覚ました。ややこしいから『絹恵さん』と呼ぼう。


「綿子ちゃん……どうしてココに?」


小首をかしげながら、耳をヒクヒクさせるその姿に、俺はさっきまでこの娘に殺されそうになっていたことをすっかり忘れ去っていた。


「姉さん!また人を食べようとして!駄目じゃない!!」


『また』?って何よ。


「うう〜…だって……美味しそうだったから…。」


こんな可愛い娘に『美味しそう』とか言われて喜ぶべきか否か………。


「そんなことばっかりしてたらまた転校しなくちゃならなくなるわよ!それでもいいの!?」


綿子ちゃんが小声で『後始末も大変だし……。』と呟いたのはこの際黙殺しよう。


「でも…でも……。」


「でもじゃありません!」


なんかお母さんみたいだな。


「今度したらまたこの笛鳴らすからね!」


そう言って、綿子ちゃんは金色の小さな笛を見せつけた。


「ひぃ!お願い!それだけは勘弁して!!」


絹恵さんは涙目になりながら綿子ちゃんにすがりついている。
相当あの笛は効くらしい。
こうして、絹恵さんは俺を食うことは出来ず、綿子ちゃんに引きずられながら去っていった。
俺はというと、その場にポツンとつっ立ったままだった。



―――――
――――
―――
――




その次の日、俺のクラスに絹恵さんがやって来た。
なんでも、昨日のお詫びに弁当を作って来てくれたらしい。
しかも、一緒に食べようというお誘いまで。
俺はクラスメート達の羨望と嫉妬の眼差しを受けながらノコノコと教室を出て屋上に来たのだが………。


「待って!お弁当は!?お弁当食べにきたんだよね!?ね!!?」


「うんそうだよ……お願いM君……大人しく私のお弁当になって!!」


そう言って飛びかかってきた絹恵さんに、俺が悲鳴をあげるのと、笛の音が鳴り響くのはほぼ同時だった。














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