67 再戦
「サトルさま。一体何なのです、その魔物たちは……?」
リーゼがサトルに対し、疑念の声を投げかける。だが、彼の視線は、ずっと俺へと向けられている。
下層へと階段を塞ぐように立っているサトルの周囲には、銀狼、トロール、ワーム、グリフォンといった多種多彩な魔物が控えていた。
そして何より圧巻だったのは、サトルの背後にそびえ立つ巨大なドラゴンの存在だ。
ファンタジーなどで御馴染の西洋竜チックなシルエットだが、その鱗の色は燃えるような赤だ。
「おおぅ、ドラゴンとか初めてみたわ。やっぱいるんだなぁ」
「ちょ、ちょっとコウヤっ! 何呑気な事を言ってるのよっ! あのドラゴン、普通じゃないわ!」
感心したように呟く俺に詰め寄るエイミー。
……普通じゃないと言われても、普通のドラゴンを俺は知らないからなぁ。
「それで、サトル。さっきから、道を塞ぐように立っているのは、どういう訳か、そろそろ説明が欲しいんだが……」
「……ミナミヤコウヤ。俺と戦え」
やっぱりそれが目的か。
「で、その魔物たちが、お前の力って訳か?」
サトルの力、即ち彼が女神に貰ったギフトは、魔物を従える類の能力なのだろう。
「ああ、そうだ。これが俺のギフト〈モンスターテイム〉だ」
それを示すように、彼の手ぶり一つで、魔物たちが一斉に戦意を高める。
「サトル様、一体どのようにして、これほどの数のユニークモンスターを……」
そう、サトルが従える魔物は全て、かつて戦ったシャドウウルフのようなユニークモンスター級に力を持つ魔物なのだ。
そしてドラゴンに至っては、それよりも更に強い気配を感じる。
そんな魔物たちを、一体どこで見つけたのだろうか?
「俺の能力は、モンスターをただ従えるだけではなく、強化することも出来る。もっとも従える事が出来る魔物の数は、5体と制限があるがな」
成程、普通の魔物をギフトの力で強化して、ユニークモンスター級に引き上げている訳か。
「……嘘は吐いてないわね」
ツバキが大剣を抱きながらそう言う。
……なんだかツバキがただの嘘発見器と化しているのは、きっと俺の気のせいだろう。
「要するに、従えた魔物とお前自身の力を併せて、俺を倒そうって訳か?」
「まあ、そういう事になるな。不服か?」
恐らく俺一人対多数になる事について、そう言っているのだろうが、要らぬ心配だ。
「別に気にしなくていいさ。なんなら5体と言わず、10体でも100体でも連れてくればいい」
「それで俺に勝てるならな」と言外に意味を込めつつ、俺はそう宣言する。
「感謝する。ではいざ尋常に勝負!」
気が付けば、流れで戦う事になったが、まあ別にそれはいい。
薄々こうなる予感はしていたのだ。
「掛かって来いよ。挑戦者!」
そうして俺とサトルの戦いが始まった。
「ゆくぞ!」
こちらへと物凄い勢いで駆けて来るサトル。同時にその反対側から銀狼が迫るのが見える。
2方向から迫る敵に対し、俺も武器を2本用意する。
「一の型、太陽剣! 二の型、湖の剣!」
右手に太陽の如く光輝く剣、左手には湖面のように淡い蒼光を反射する美しい剣が、魔力によって生成される。
それらをもって俺は、2方向からの攻撃を受け止める。
「ゆけ!」
俺の剣に行く手を阻まれつつも、魔物たちへと指示を下すサトル。
次の瞬間、俺の足元の地面が盛り上がり、俺はバランスを崩す。
「くそっ、ワームかっ!」
咄嗟に揺れる地面から逃れ、中空へと浮かぶ俺に黒い影が掛かる。
グリフォンだ。
鳥の翼を持つ魔物は、俺目掛けて空を翔けて来たらしい。
「くっ」
咄嗟に飛行の魔法を発動させて、その突進を回避するが、勢い余って地面へと落ちてしまう。
そこにトロールが、巨大なこん棒を振り落としてくる。
「ちぃぃっ」
地面を転がりその一撃を回避した俺だったが、そこに巨大な火炎球が飛来する。
ドラゴンが放つその攻撃に対し、回避は間に合わないと判断した俺は、防御魔法を展開する。
「ぐぅぅぅ」
全身が焼けるように熱い。
防御魔法が間に合わなかったら、流石にヤバかったかもしれない。
「くそっ、やっぱり受けは性に合わないな」
火炎球を耐えきった俺は、両手の剣を交差して構える。
「……あれでも倒れないか」
サトルが、無表情にそう呟く。
若干、声が震えている気がするので、まったく動揺していない訳ではないのだろう。
だが、まだ余裕があるな。
その表情を今から苦痛で歪ませてやる!
「さて、今度は俺のターンだ」
俺はサトルへとそう宣言し、魔力を集中させる。
「無限の剣閃、お前達に見切れるかな? 南宮流剣技、万光刃」
次の瞬間、俺の姿が掻き消えたかと思うと、サトルと魔物たちに、幾重にも連なる剣撃が降り注いだ。
「ぐはぁぁっ」
サトルを含む魔物たちは、皆一様に切り刻まれ、地面に突っ伏す。
確かめるまでもなく即死だ。
唯一、ドラゴンだけ、辛うじて耐えたようだが、全身から血を流し余命幾ばくもない有様だ。
「……あ、やべぇ。つい殺っちまった……」
痛みを受けた事で、昂ぶった感情のせいで、ついやり過ぎてしまったようだ。
流石にサトルを殺すつもりは無かったのだが……。
恐る恐る後ろを振り返ると、リーゼもエイミーもツバキも、それぞれが抗議するような視線を俺に向けている。
「あー。そのなんだ……」
何と言っていいか分からないその場の雰囲気に、俺は視線を彷徨わせる。
だが、誰もが俺をジーッと見るだけで、それ以上何も言ってはくれない。
ヤバい。マジで困った。どうしよう。
俺は足りない頭をフル稼働させて、打開策を必死に探る。
「えっ?」
そんな中、ふと強烈な違和感を感じ、俺は視線を下へと向ける。
そこには、俺の腹にいくつも剣が生えるという、不思議な光景が広がっていた。