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59A リーゼの思惑(後編)

 今後の方針を話し合っていたわたくし達の前に、突如現れたのは女神ステラシオンが遣わした勇者でした。

 そして彼はナギサを一蹴してしまう程の実力者でした。


「うん? ああ、俺の名前はミナミヤコウヤ。まあ、今は只のコウヤだな」


 勇者の青年は、名をコウヤというそうです。

 如何にも異世界人らしい名前だなと、わたくしは思っただけなのですが、ツバキとサトルの2人にとっては、どうやら違ったようです。

 特にサトルなどは、明らかに目の色が変わっていましたから。


「おい、コウヤと言ったか? お前、本当に"ビッグスマッシャー"の孫なのか?」


「あ、ああ、不本意ながらな」


「なるほど。これは楽しくなってきた。"ビッグスマッシャー"の孫もかなりのやり手だったと噂に聞いている。ここは一つ手合わせ願おうか」


 何に対しても無関心なサトルがまさかこのような反応を見せるとは、予想しておりませんでした。

 わたくしの内心が驚愕に大きく揺れます。


「いやいや待て待て。俺はお前らと戦いに来た訳じゃない。ただちょっと話を聞かせて欲しいだけだ」


 ですがコウヤにその願いを却下されて、どこか拗ねているような表情で黙るサトルの姿はとても新鮮のモノでした。

 その様子が「ちょっと可愛いな」と思ったのは彼には内緒です。


 その後、今度はコウヤとツバキがやり取りを始めますが、その中でまたナギサが馬鹿の事を言いだします。


「うるさい! 女神様の言葉は絶対なんだ! 大体、この国の連中がいくら死のうが僕の知ったこっちゃない!」


 いくらなんでもこれは、勇者が吐いていい台詞ではないでしょう……。

 なんだか頭が痛くなってきました。

 そして、その台詞はどうやらコウヤの怒りを買ってしまったようです。


「おい。このナギサって奴にこれからお仕置きするから、お前ら邪魔するなよ?」


 表情こそ変わらないものの、声に怒りが滲み出ています。


 そうして、コウヤとナギサの戦いが始まりました。

 いえ、それは戦いと呼ぶにはあまりに一方的でした。


 コウヤが太陽のように眩い光の剣を、その手に生み出します。

 そしてその剣を構えた途端、彼の全身から神秘的なオーラが溢れ出すのを感じました。

 

 一体、何を見せてくれるのでしょう。

 

 本来味方であるナギサの応援も忘れて、わたくしはコウヤの一挙手一投足に全神経を集中させます。

 

「はぁっ!」


 コウヤが洗練された動作で突きを放ち、ナギサを貫きます。

 その所作一つとっても十分魅力的だったのですが、それは始まりに過ぎませんでした。

 コウヤの突き軌道に沿って、魔力で生み出された冷気の塊が後を追うようにして、ナギサへと突き刺さっていきます。

 その様子は正に、氷の舞踏と呼んでいいものでした。

 その美しい光景に、わたくしは思わず言葉を失います。


「うがぁぁ!」


 ナギサが無様な声を上げるのも構わず、冷気が彼の身体を蹂躙していきます。

 そしてそれはやがて、一つの巨大な氷柱を生み出しました。

 外見だけは高得点なナギサがその中に鎮座する姿は、さながら氷の彫刻品ようであり、見る者の感動を誘います。


 ですがそんなわたくしの気持ちなど察する事無く、コウヤはその氷像をあっさりと光の剣によって砕きます。

 不均等な氷の欠片がいくつも辺りを舞い、コウヤの剣から放たれる光を反射する様子は、本当に神秘的な光景でした。


 しばらくその余韻に浸っていた私ですが、ふとナギサの存在を思い出し、彼の元へ駆け寄ります。


 コウヤの華麗な技の前に、完全敗北したナギサは下を向いて俯いています。

 そのあまりに無様な姿を目の当たりにして、私もようやく現実へと帰ってきました。


 そして、気付きます。

 あのコウヤという勇者をここで始末しないと、わたくしの計画の大きな障害になるという事を。


 そして、決断しました。

 ナギサを犠牲にしてでも、彼を始末しようと。

 

 そう考えたわたくしはナギサへと近づき、寄り添う振りをして、こっそりと彼に囁きます。


「ナギサ様、コウヤがあなたを見下して笑っていますよ?」


「ナギサ様、コウヤがあなたは本当に男なのかと聞いてきましたよ?」


 そんな風にして、俯くナギサへとコウヤに対するヘイトを誘発する言葉を、ひたすら掛け続けます。

 それでもしばらくは無言だった彼ですが、やがてぶつぶつと何かを呟き始めます。


「馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって。僕は男だ。女じゃない。馬鹿にしやがって……」


「ナギサ様。ここでコウヤを始末しないと一生馬鹿にされたままですよ?」


 わたくしは、コウヤたちの様子を窺いつつ、ベストなタイミングを狙って、ナギサをそう煽りました。

 そしてその効果は劇的でした。

 

 ナギサが焦点の定まらない目のまま、ふらふらと立ち上がると、何か巨大な物体を生み出しました。

 それが果たしてな何なのかはわたくしには分かりませんでしたが、ただかなり危険な物である事はすぐに察しました。

 わたくしは、ナギサの行動がコウヤにばれないよう結界を張りつつ、同時にいつでも防御魔法を発動できるように身構えます。


「コウヤぁぁ! 死ねぇぇ!」


 ナギサがその物体を掲げて、コウヤへと特攻していきます。

 

 わたくしの狙いは見事に嵌ったようで、その時のコウヤは完全に油断していました。

 その為、明らかに彼の対応は遅いものでした。


「うぉぉぉ!」 


 それでも流石は勇者というべきなのでしょうか。

 ナギサの奇襲の一撃を、見事に捌ききります。

 ですが、それは別の大きな隙を生むことにも繋がりました。


「死ねぇぇ!!」


 ナギサの生み出した魔法具が火を噴き、コウヤを襲います。

 そして遂にコウヤに対し、痛手を与える事に成功しました。

 

「あはははっ! やった! やったぞ!」


 このまま一気に押し切れば……。そう思うわたくしを尻目に、追撃も行わずにナギサが狂ったように笑い出します。


 ……こんな時まで、本当に使えない男ですね。

 こんな男に少しでも期待したわたくしが馬鹿だったのでしょう。


 その後、傷を負った事で怒り狂ったコウヤの反撃は、ツバキがギフトの力を用いて防いでくれたおかげで、どうにか事なきを得ましたが、あれは正直恐ろしかったです。

 もともとこちらの勇者たちと比べてもズバ抜けて高い魔力を持っているのは分かっていましたが、それでも彼の全力の一撃があそこまでだとは。

 予想以上のコウヤの強さに、わたくしはただ戦慄するばかりです。


 なので尚更、折角のコウヤを倒すチャンスを不意にしたナギサの事が、わたくしは許せません。 

 ですが、コウヤという大きな障害との相打ちならともかく、ただ使い捨てるには惜しい駒ではあります。

 

 この後、ナギサの活用法とコウヤへの対処、その2つにわたくしは頭を悩ませることになったのです。


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