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56 勇者たちの邂逅(後編)

 勇者ナギサがあまりにウザかったので、一遍痛い目に合わせて黙らせようと俺は決意した。

 その方が、後の交渉もすんなりと行くだろうという考えもある。


「おい。このナギサって奴にこれからお仕置きするから、お前ら邪魔するなよ?」


 ツバキもナギサの言い様に対し、大分頭に来ていたのだろう。無言で頷く。

 サトルの方は反応が無いが、まあ問題ないだろう。

 邪魔してきたなら、その時はその時だ。


「いくぞナギサ! 南宮流古武術、一の型! 太陽剣(ガラティーン)


 俺の手の中に太陽の如き輝きを孕んだ剣が生まれる。


「俺とお前の実力差を教えてやるよ」


 俺は剣を前へと突き出して構える。


「くっ、くそ!」


 ナギサが能力を使い、何かを生み出そうとしているが、それを黙って許す程俺は甘くは無い。


「はぁっ!」


 俺の放った神速のダッシュ突きが、ナギサを無慈悲に貫く。


「うぐぅっ!」


 ナギサがうめき声を上げるが、まだ終わりではない。

 俺が放った突きの後を追うように冷気の塊が、次々とナギサを襲う。


「うがぁぁ!」


 放たれた冷気が彼の全身を覆い尽くし、やがて一つの巨大な氷柱を作り上げる。

 ナギサはその中で氷漬けだ。


「南宮流古武術、奥義! 冷厳なる氷剣フリージングディザスター!」


 俺は下段から真一文字に剣を切り上げ、氷柱を粉砕する。

 南宮流にあるまじき実に華麗な技だ。


 だが、この技は見た目の派手さの割に、実の所、相手に与えるダメージは極少ないのが特徴だ。

 そう言う意味でお仕置きには向いているので、この技をチョイスしたのだ。


「ぐ、ううっ」


 氷柱から解放されたナギサは、床に座ったまま俯いている。

 そんな彼に対し、蒼い髪を揺らしながら皇女リーゼが駆け寄ってくる。


 これでナギサの鼻っ柱も少しは折れただろうか。

 ……俺も爺に何度となくこの技を食らわせられた記憶があるので、少しだけ今のナギサの姿には共感めいたモノを感じていた。


「よし、うるさいのも黙ったことだし、交渉を再開し――」


 そう言いかけた瞬間、背後から俺に迫る拳の存在に気付く。


「なんのつもりだ?」


「言っただろう? 手合わせ願いたいと……」


 サトルの拳を受け止めながら、俺達は互いに睨みあう。


「サトル、やめなさい! 日本人同士でこれ以上無意味に争うなんて馬鹿げてるわ!」


「……俺の知った事ではないな」


 ツバキの制止にも、サトルは聞く耳を持たない。


「しゃーないな。軽く捻ってやるから、掛かって来いよ」


 面倒だが一度は相手をしてやらないと、粘着されそうだしな。


「感謝する。では行くぞ!」


 こうして俺達2人の戦いが始まった訳だが、戦局の天秤は常に俺の方へと傾いていた。


「くっ、やはり強いな……」


「いやいや、お前も十分強いって」


 別に、サトルが弱い訳ではない。

 単純な武術の技量で比べれば、恐らく奴の方が一枚上手だ。

 だが、それ以上に純粋な身体能力面に大きな差があったのだ。

 これは〈肉体超強化〉のギフトが原因だろう。

 サトル自身も、相当に人間離れした身体能力を持っているが、俺のはそれを更に上回る。


「サトル。出し惜しみせずにギフトの力使わないと、勝ち目はないぞ?」


 ナギサが機関銃を生み出した能力のように、サトルも何らかの能力を女神から授かっているはずだ。

 だが今の所、それを使う様子は見えない。


「期待に応えられずすまないが、それは無理だな。俺が貰った能力は、今すぐこの状況をどうこう出来る類のモノではない」


「そうか。で、まだ続けるか?」


「いや、止めておこう……」


 サトルが拳を下し、戦いはあっさりと終わった。


「よし、じゃあ改めて交渉と行こうか、ツバキ」


 ナギサはいまだにリーゼに寄り添われた態勢のまま、下を向いてぶつぶつと何かを呟いているし、サトルは後方へと下がり、立ったまま目を瞑っている。

 そんな訳だから必然、俺の交渉相手はツバキとなる。


「……交渉って何よ?」


「大した話じゃないさ。ただ、今すぐ兵を率いて帝国に帰ってくれ。俺の願いはそれだけだ」


 俺自身は女神同士の争いになど興味は無い。

 ようは今住むアルストロメリアの街に被害が出る心配さえ無くなればいいのだ。


「……無理ね。今の帝国は侵攻策によってどうにか纏まっている状態なの。ここで何の成果もなく引き返せば、それこそ国が割れるわ」


 なるほどな。国の内部に滞る不満を、外へと向けた訳か。

 順調な侵攻作戦の裏には、そんな事情が隠れていたらしい。


「まあ事情は理解出来んでもないが、俺としてはこのまま侵攻を続けられると困るんだよな。どうすれば帰ってくれるかね? いっそこの王城でも吹き飛ばせば、それどころでは無くなるかな?」


 なんならついでに帝国まで乗り込んで、そっちの王城も吹き飛ばしてやってもいい。


「何よそれ。脅しのつもり?」


 大剣を構え、警戒心を露わにするツバキ。


「脅しもまた交渉術の一つってことさ」


 まあ俺は他の交渉術なんて知らんがな。


「しかしまあ、本当に困ったな。さて、どうするか……」


 流石の俺も、本気でそんな真似を実行する程、血迷ってはいない。

 脅しが駄目なら、果たしてどうするか……。


「コウヤぁぁ! 死ねぇぇ!」


 そんな思考の海に耽っていたせいか、ナギサの動きに反応が遅れてしまった。

 ナギサが翳すの両の手の上には、巨大な爆弾らしき物体が存在していた。

 いや、いくら油断していたとしても、流石にあんな大きな物体の生成を見逃す筈はないのだが……。


「くそっ!」


 ナギサの取った行動は、まさかの自爆攻撃である。

 俺一人なら対処は余裕なのだが、爆弾の威力によっては、城に隠れているエイミーの身が危ない。

 俺は、ナギサが投げつけてきた爆弾へと突進してそれを捕まえ、同時に抑えていた魔力を解放する。


「うぉぉぉ!」


 魔力で生み出した風の力で爆弾を包み込み、爆発の威力を抑え込む。

 予想以上に威力が高い爆弾らしく、抑えるのにかなり手間取ってしまった。


「はぁっ、はぁっ。くそっ、いきなり何て真似しやがる!」


 俺が抑えていなければ、ナギサ自身も巻き込まれていた筈だ。

 なんて奴だと思っていたが、ナギサの攻撃はまだ終わっていなかった。


「死ねぇぇ!!」


 突然の事態の対応で体力を消耗した俺を、今度は重機関銃の斉射が襲う。


「ぐぅぅぅ」


 咄嗟の出来事に防御魔法が間に合わなかった俺は、回避しようとするが、僅かに間に合わず右足を撃ち抜かれる。

 流石の〈肉体超強化〉でも、防ぎきることは叶わなかったようだ。

 右足がボロ雑巾のようになっている。


「くそがぁぁ!」


 ここまでの痛みを味わったのは、この身体に生まれ変わってからは初めてだ。

 俺の怒りのボルテージがぐんぐん上昇していく。


「あはははっ! やった! やったぞ!」


 俺に1撃を与えた事で満足したのか、狂ったように笑い続けているナギサ。

 そんな奴の姿を前に、俺は全身の血液が沸騰するのを感じる。

 半ば無意識のうちに、俺は魔力を掌へと集中させていた。


「死ねやぁぁ! 火炎奔流バーンストリーム!!」


 そんな叫びと共に、俺の掌から強大な炎の渦が放たれる。

 以前使ったのとは、訳が違う。全力全開の一撃だ。すなわち○イザー○ェニックスだ。

 巨大な炎の渦が不死鳥と化して、ナギサへと向かう。


「〈アブソリュートイージス〉!」


 だが、俺の放った魔法は、ナギサへとぶつかる直前に、不可視の壁に衝突してあっさりと消える。


「なぜ、邪魔をする! ツバキ!」


「……こんなのでも、一応、女神様に遣わされた勇者よ。殺させる訳にはいかないわ」


「邪魔するなら、お前もろとも消し飛ばすぞ?」


「無駄よ。この〈アブソリュートイージス〉の力の前には、どんな攻撃も通じはしないわ」


 俺の全力の一撃をあっさりと無効化したのだ。

 ハッタリではあるまい。

 そして魔力をある程度使い、身体が軽くなったことで、俺の頭も僅かだが冷えてきた。


「……今日の所は引くとしよう。こっちの要求は伝えた通りだ。それを踏まえた上で、良く考えてから次の行動を決めてくれ」


 あの防御は厄介だが、ずっと張っていられるわけでもあるまいし、俺の優位は変わらない。

 長期戦で押し切っても良かったのだが、他の2人はともかく、ツバキとは話が通じる以上、それは避けた方がいい気がする。


 何より、今の俺はナギサへの怒りで、冷静な判断が出来そうもない。

 ここは一旦、仕切り直しにした方がいいだろう。


「……分かったわ」


 ツバキが頷いたのを確認してから、俺は踵を返す。


「……待て」


 この場を去ろうとする俺の背中に声が掛かる。


「なんだ、サトル?」


「ミナミヤコウヤ。次は、俺の全能力を駆使して、お前を倒させて貰う」


 実力差は十分に見せつけたと思うんだがな。


「……まあ、頑張ってくれ」


 それだけ言って、今度こそ俺はこの場から離れることにする。

 右足が使い物にならない為、飛行魔法を発動して玉座の間から飛び去っていく。

 その途中で隠れているエイミーを拾いに向かった。


「コウヤ!? どうしたの、その傷!」


 エイミーが俺の右足を心配そうに見つめる。


「大丈夫だ。それよりさっさとずらかるぞ」


「ええ。でもその足で動けるの?」


「大丈夫だ。大して動く必要はないからな。……〈転移門〉!」


 俺はそう言ってギフトの力を発動した。ゆらゆらと揺れる半実体の扉が目の前に出現する。

 このギフトは、設置した門の間を行き来する能力だ。

 門同士の設置距離に制限が存在する為、アルストロメリアの街に居た時は使う機会が無かったが、今みたいに遠出した時には大変便利な能力だ。

 俺とエイミーは2人揃ってその揺れる門を潜り抜ける。


 こうして俺たちは、王城から脱出し孤児院へと帰還したのだった。


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