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52A 勇者3人

 その場の勢いで皇帝を殺した僕だったが、帝国の皇女リーゼの働きによって、騒ぎは素早い幕引きとなった。

 だが……。


「私が皇帝の座を引き継ぐことになりましたので、ナギサ様には皇配となって頂きたく……。本当はナギサ様に皇帝になって頂きたいのですが、帝国の法にて、皇帝となれるのは皇族の血を引く者に限られておりますので……」


 いつの間にか話が大事になっている。

 なぜ僕がリーゼと結婚することが決定事項として扱われているのだろうか?


 〈ルートテンプテーション〉の力はあくまで魅了するだけであり、その相手を完全に制御することは難しい。

 今回の1件で僕はその事を思い知ることになった。

 

 ……とはいえ、リーゼに対しそう不満がある訳ではないし、皇配という地位も悪くはない。

 僕はリーゼの提案を受け入れることにした。


 

 正式な発表など諸々は後回しとして、僕はルーシェリア帝国の皇帝リーゼの事実上の婿として扱われることになった。

 さっそく僕はリーゼを閨へと誘い、彼女の純潔を散らす事にした。


 本当ならば、女神様に僕の初めては捧げたかったのだが、まあリーゼで我慢しようと思う。

 雰囲気も容姿もどことなく女神様に似ているので、代用品として考えればそう悪くはない。


「ああっ、お止めくださいっ、ナギサ様っ!!」


 口では抵抗の言葉を発していても、身体はそうでもない。

 やはり〈ルートテンプテーション〉の力は素晴らしいと思いつつ、僕はリーゼの肢体を貪る。


 その後も夜の度に、僕は閨にリーゼや他の女性貴族や騎士などを呼び寄せ、肉欲に耽っていた。

 

 ああ、勇者になって良かった。ありがとう女神様。

 


 そんな中、僕以外の2人の勇者が相次いで召喚された。

 彼らは僕同様に、女神ステラルーシェ様からルーシェリア帝国の救済と敵国たる神聖教国ステラシオンの討滅の使命を帯びた者達だ。


 僕はそんな彼らを玉座に座って迎えることになった。

 その隣にはリーゼが、微笑を浮かべて立っている。

 本来ならば逆なのだろうが、リーゼがそうすべきだと言って憚らなかったのだ。


「僕は君と同じく、女神様よりこの地に遣わされた勇者ナギサだよ」


 最初にやって来たのは、僕と同じ男性の勇者だった。


「俺の名はサトルだ。この場合、勇者サトルとでも名乗った方がいいのかね」


 やる気の感じられない声で、サトルはそう呟く。


「もしかして君は日本人なのかな?」


 連れてこられた勇者は、黒髪黒眼に眼鏡を掛けた純日本人顔の男性だった。

 理知的ながらも男らしさも感じられるその容姿に、僕は内心で嫉妬を覚える。


「ああ、そうなるな。そういうあんたは、ふむ……良く分からないな」


 僕の日本人離れした容姿に、考え込むような表情を浮かべている。


「こんな成りでも、一応君と同じ日本人だよ。ちなみ一応言っておくけど、僕は男だからね」


 僕の言葉に対し一言「そうか」と発しただけで、それきりサトルは黙り込む。


「サトル。君には勇者として、神聖教国ステラシオンの討滅に力を貸して欲しい」


「……まあ、それもいいかもな」


 どうでも良さそうな口ぶりで、サトルがそう返事をする。


 まったく女神様から与えられた使命を、一体なんだと思っているのか!

 僕は内心でそう憤るが、流石にそれを表に出すことはしない。

 僕以外の勇者が、どのような能力を女神様から与えられているのか不明なのだ。

 能力の詳細も分からないうちに、敵対するのは流石に不味い。


 釈然としない思いを胸に抱きつつも、どうにか勇者サトルの協力を取り付ける事が出来た。



 それから更に後日、今度は女性の勇者が召喚されてきた。


「始めまして。僕は女神ステラルーシェに遣わされた、勇者ナギサだよ」


 腰ほどまである長い黒髪をポニーテールで括り、如何にも勝気そうな眼をした女性だ。

 顔立ちも女神様とは違うタイプであり僕の好みとは違うが、かなり整っている。


「ええ、初めまして。私の名は、ツバキ。女神ステラルーシェに遣わされし、勇者ツバキよ」


 女性の勇者とは、僕にとっても好都合だ。

 早速〈ルートテンプテーション〉の力を使い、彼女を僕の支配下に置こうと試みる。


「っ! あなた、私に何かしようとしたわね!?」


 僕が能力を使用した瞬間、ツバキはバックステップで一気に後ろにさがる。


 まさか、僕の能力をレジストしたのか!?


 これまでそんな事態に遭った事が無かった為、僕は困惑してしまう。

 まさかこの能力、勇者には効かないのだろうか?


「い、いや。誤解だよ。ほらっ」


 ともかく僕は自身の無実を証明するように両手を掲げて、何も持っていないことを示す。


「嘘ね……。だって、この子がそう言っているわ」


 気が付けば彼女の手には、美しい装飾で飾られた大剣が握られていた。

 その大剣が、何かを警告するかのように点滅している。


「私が女神様から授かった能力〈ソードオブコンビクション〉の前に、一切の虚偽は通用しないわ」


 彼女が剣身を愛おしそうに撫でながら、自身の能力について語る。

 彼女が女神様から与えられた能力は、嘘を裁く剣を生み出す能力。

 あらゆる嘘がその剣の前では暴かれるし、暴いた嘘を断罪する力が備わっているらしい。

 なかなかに面倒な能力である。

 これでは彼女の前では、一切の嘘が許されない。


「わ、悪かったよ……。もう2度とこんな真似はしないと誓う」


 これは本当のことだ。

 原因は不明だが、能力が利かないと分かっている相手に、もう一度使う程僕は馬鹿じゃない。


「……2度目は無いわよ? 次何かあれば、問答無用で叩き斬るわ」


 まったく、おっかない女性である。

 勇者サトルといい、勇者ツバキといい、僕以外の勇者は変な奴らだ。

 女神様にも何か考えがあっての事だとは思うが、それでも若干不満を抱かずにはいられなかった。



 その後、皇帝リーゼとその皇配である僕を中心として、ルーシェリア帝国は纏まっていった。

 詳細は僕も良く知らないが、リーゼが相当に頑張ったようだ。


 対して敵国たる神聖教国ステラシオンは現在、リーゼの指揮の元、様々な裏工作によって半ば分裂状態にある模様だ。

 帝国が国力では教国に劣っていたのも、もはや過去の話。

 いよいよ教国を滅ぼし、その領土を女神様へと捧げる日が近づいてきたのだ。


 唯一の不安要素は、女神ステラルーシェ様の不肖の妹たる邪神ステラシオンが教国に招いた勇者の存在だが、こちらには勇者が3人も揃っている。

 そいつが多少強かろうと、勇者3人で当たればきっと問題はないだろう。

 

 そして遂に戦いの火蓋は切られた。


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