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45 皇子の事情

 食事を終えて一息ついた所で、トラバントが自身の抱えた事情について語り始めた。


 クーデターへと至ったその理由を。


「ここ数年かな? 枢機卿たちの権力が大きくなり、僕ら王族との間に微妙な溝が出来ていたのは確かなんだ。とはいえ、その事は父上も気付いていたし、対処にも動いていたから、大事にはなっていなかったんだ。それが……」


 ここ1ヶ月程の間に、突然前触れなく状況が大きく変化したらしい。

 枢機卿たちが、王族に対し次々と無理難題を投げかけてきたのだ。

 本来ならば、不敬罪として厳しく処断すべきだったのだろう。

 だが、国が割れる事を恐れた国王は、なあなあな対応に終始してしまう。

 そうして振り回されているうちに、裏で彼らの思惑は動いており、先日、遂にクーデターが発生し、王族が捕えられる事態になったそうだ。


「僕は枢機卿たちの態度の急変を、初めから怪しんでいたからね。勿論、その事は父上にも進言したんだけど、聞き入れて貰えなくてね……」


「だとしても、良く一人でここまで逃げてこれたもんだな」


 エイミーの話を聞く限り、王都の警戒網はかなりの厳重なようだ。

 王族のおぼっちゃまが、良く一人で抜けれたモノだと感心する。


「教国の第2皇子といえば、優れた魔法剣士として有名だものね。同時に数少ない治癒魔法の使い手としても……」


 エイミーが補足するような形で、そう説明してくれる。

 言われてみれば、トラバントの服はボロボロだったが、肉体には傷一つ無かった。

 今になって思い返せば、魔法で傷を癒したのだと分かる。


 治癒魔法は、確かに難易度の高い魔法だ。

 魔力制御が困難になっている今の俺にもほとんど扱えない。

 とはいえ、そこまで使い手が少ないほどに難しい魔法かと言われると少々疑問が残るが。


「僕一人が多少強くても、数の力の前には無力という訳だよ。こうして生き恥を晒してここまで逃げて来たのはいいけど、これからどうするか……」


「枢機卿たちの動きがどうも怪しいわね。いくら彼らが権力を持っていても、最高権力者である国王を出し抜いて、そんな大掛かりな事やれるものかしら? 何か裏がある気がするわね」


「……裏って、まさか、ルーシェリア帝国か?」


「ええ、いくら何でもタイミングが良すぎるもの。ハッキリとした根拠は無いけど、多分間違いないと思うわ。私が調査で得た帝国の情報とも合致するしね」


「……どうしてここでルーシェリア帝国の名前が出てくるんだい?」


 俺とエイミーは何となく分かりあっていたが、事情を知らないトラバントは話についてこれなかったようだ。


「魔王国としても、今、教国に無くなられるのは困るわ。コウヤ、まずは彼の事を助けましょうか」


「はぁ……。やっぱりそうなるのか」


 話がだんだん大きくかつ、面倒になって来ているように感じる。


 これもう、勇者連中を俺が暗殺した方が手っ取り早いんじゃないか?

 人殺しはあまり気乗りしないが、それで平穏な日々が戻るなら、まあそれもいいかなという気分になりつつある。

 

 ……いやいや、流石にそれは投げやり過ぎだ。こういうところは俺の悪い癖だな。


「……話がイマイチ見えてこないね。悪いが僕にも分かるように説明してくれないかな?」


「そうね、あなたにも無関係な話じゃないしね」


 それからエイミーは、少し前に俺と話しあった件について、トラバントへと説明をする。

 俺が女神ステラシオンに派遣された勇者だという事も含めて、情報共有を行った。


「なるほどね。エイミー嬢はヴァンパイアなのか。……ヴァンパイアとは皆、かくも美しい姿をしているものなのかい?」


 いや、知らないよ。俺もヴァンパイアを見たのは、エイミーが初めてだし。

 てか重要なのは、そこじゃないだろ?


「私の考えとしては、教国をトラバント皇子に纏めてもらって帝国に対抗して、その隙にコウヤに勇者を倒して貰おうと思うのだけれど」


「なぁ、魔王国は動いてくれないのか? 一応、帝国とも国境を接しているんだろう?」


 魔王国ビフレストは、その北西の一部の領土でルーシェリア帝国と接している。

 もっとも山脈で区切られている為、直接戦力を送り込むのは難しいのかもしれないが、それでもやれることはいくらでもあるだろう。


「そうしたいのは山々なんだけどね。あの国の戦力は、訳あって迂闊に動かせないのよ。……せめて先代様がいてくれたら違ったんだけどね」


「ルーシェリア帝国をほっといたら、大陸全体が不味いんだろ? それよりもヤバい事があるのか?」


「……ええ、そうなのよ。だから、余程のマズイ状況にならない限り、なるべく教国の戦力だけで対処して欲しいのよ」


 その理由を聞きたかったのだが、それを尋ねる前に話が次へと移ってしまう。


「教国を纏めると言っても、今現在、確実に味方と言える貴族は数少ない。何か宛てはあるのかな、エイミー嬢?」


「ええ、この街の領主ならきっとあなたの力になってくれるわ」


「そう言い切る根拠はなんだ?」


 クーデターが起こり王族が捕えられた今、各地の領主が王族と枢機卿たち、そのどちらに付くかの判断は非常に難しい所だ。

 下手な相手に頼れば、そのまま枢機卿たちへと身柄を売られかねない。


「この街の領主であるアルストロメリア家は、先代魔王様の子孫に当たる一族で、今も魔王国と深いパイプを持っているわ。そんな彼らがルーシェリア帝国の浸透を受けている可能性はかなり低いと見ていいわ。私自身も一応現領主とは面識があるし……」


「それは初耳な話だね。しかし、だとすると王族とアルストロメリア家は縁戚関係にある訳か……」


「そういう事になるわね」


 どうやら教国の王族もまた、魔王国の先代魔王の血を引いているらしい。

 もっともその事実は、王家の秘匿事項の一つらしいが。

 既に知っていたらしいエイミーはともかく、俺に聞かせていいのかそんな話?


「……他の貴族達を頼るよりは、まだ安心出来そうだね。では、早速この街の領主の元へと出向くとしようか」


「待って。ここの領主そのものは信用できるとは思っているけれど、その周りまでが全部そうとは限らないわ。接触には慎重を期した方がいいと思うのよ」


「なるほど。エイミー嬢の仰る事ももっともだね。だが、ならばどうしようか?」


 2人が思案顔となる。


「……それなら、俺の知り合いの商人に相談してみるか? アイツなら色々と物知りだし、顔も広いから何かいい案があるかもしれない」


 俺の脳裏にアルの顔が浮かぶ。

 アイツならまず間違いなく領主とのコネも持っているはずだと俺は確信している。


「その商人は本当に信用出来るの?」


「ああ。利益に聡い奴だし、俺が皇子様に付くと知れば、まず味方してくれると思う」


 実の所、この一件について俺は、面倒だなとは思っていても危機感は特に感じていなかった。

 ルーシェリア帝国の3人の勇者とやらが、どんな能力を貰っていようとも、正直、俺と同じ世界からの召喚者相手に負ける気など微塵も無かった。

 俺は馬鹿で、考えなしの人間かもしれないが、こと戦闘に関しては絶対に近い自信がある。

 元々の実力に加え、女神様からギフトを大量に分捕った事で、もはや俺に対抗できる存在など、一人を除いて思い浮かばない。


 そして、そんな俺の戦闘能力の高さについては、アルも大体把握しているはずだ。

 少なくとも冒険者ギルドで聞いた限りの話については、全部知っていると見るべきだろう。

 それに、アルとの付き合いももう短くは無い。なので、戦闘以外の俺の能力についても、色々と知って来ているはずだ。

 

 そんな事情とアルの性格を鑑みれば、まず彼が俺と敵対するような道を、選ぶ事はないと判断出来る。

 

「……コウヤは僕の味方に付いてくれるのかい?」


 若干不思議そうに、トラバントが首を傾げてそう尋ねてくる。


「あー、まあな。そっちのが収まりが良さそうだしな」


 聞いた話を総合すれば、トラバントに教国を纏めさせて、帝国に対抗させるのが、一番面倒が少ないように思える。

 それに、見た感じそう悪い奴でも無さそうだし、拾ったのも何かの縁だろう。

 ……それにここで手を貸さなくても、どうせ近い将来に巻き込まれるのは、目に見えている。

 だったら、積極的に動いて、さっさと事態を収拾すべきだと俺は判断した。


「そうか。君程の実力者が味方になってくれるなら、心強いよ」


 トラバントの前では、まだ実力は見せていない筈だが、優秀な魔導師だと言ってたし、多分魔力量から察しているんだろうな。


「じゃあ早速、その商人に話をつけてくるから、その間は2人はここでゆっくりしておいてくれ」


「ああ、分かった。コウヤ、頼んだよ」


 そう言って俺が建物の外へ出ると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「コウヤ様! こ、この子が敷地に倒れて……」


 またか……。本日3度目の出来事に、いい加減呪われているんじゃないかと、溜息一つ吐いてから俺はフィナの元へと向かった。


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