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41A コウヤという青年(後編)

 そんな感じで僕はコウヤと良好な関係を保っていたが、それとは関係ない所で問題が噴出し始めていた。

 時を同じくして王都では、星光教会(エトワールエグリーズ)の権力が急速に拡大しており、その影響がついにこの街にもハッキリと出始めていたのだ。


「アルメヒ様、どうやらまた塩の搬入が遅れている模様です」


「そうか……。教会も困ったものだね」


 星光教会とは、ここ神聖教国ステラシオンの国教"星光教"の元締めたる組織であり、国家成立への関連が深く、国内では非常に大きな権力を持つ。

 ただこれまでは、星光教会の教皇を国王が兼任するという制度のお蔭もあり、国王への権力集中に一役買っていたのだが、近年では教会幹部である枢機卿たちが力を持ち始めており、そのパワーバランスが崩れてきていた。

 その結果、王都の政情が不安定になっており、この街にも物流などの面において、近頃その影響が表面化し始めたのだ。


 これは僕の個人的見解に過ぎないが、彼ら枢機卿らの行動の裏には、ルーシェリア帝国の意向が透けて見えるように思える。

 彼らの行動は一見無意味なように見えて、巡り巡ってかの国の利益へとなっているように思えてならないのだ。

 それでなくても、かの国は我が国にとって仮想敵国なのである。

 南のルーナプレーナ諸国連合や東の魔王国ビフレストとは、良好な関係を結べていることからも、現状では唯一の敵対国と言っていい。


 ルーシェリア帝国の立場からすれば我が国が混乱するだけでも、利益があるのだ。

 関与を疑うのは当然であるともいえる。


 とは言えアルストロメリアの街は、どちらかと言えば国の中心から南寄りの位置にあり、北にあるルーシェリア帝国の情報は然程入ってこない。

 どれだけ疑おうとも、僕に取れる手段はほとんど無かった。兄に対して注意を促すくらいが精々だ。

 あとはただ一商人として、物流を安定させる事に尽力する他ない。



 そんな不安定な情勢の中、ついに王都で大きな事件が起きた。

 なんとクーデターが発生したのだ。

 その結果は伝え聞いた所、国王以下、王族たちは一人を除き皆捕縛されたそうだ。

 残る一人である第2皇子も行方が分からないらしく、王都は混沌とした状況に陥っているらしい。


 これほどの国家の存亡に関わるような重大事にも関わらず、マトモな情報が僕の元にほとんど入ってこないのは、王都そのものが現在、封鎖状態にある為だ。

 商人たちの出入りも禁止されており、物流にもかなり悪影響が出始めている。

 

 その上で折り悪く、ここアルストロメリアの街はそれとは別の危機に直面していた。


 近くの"魔の森"にユニークモンスターの発生が確認されたのだ。

 平時ならば、貴重な資源の採取地として重宝される魔物の領域も、ユニークモンスターが現れると途端に危険地帯と化す。

 ユニークモンスターは魔物たちを率いて街や村を襲う為、非常に危険なのだ。

 過去を遡れば、ユニークモンスターの発生によって滅んだ街など、いくつも存在する。早急な対処が必要だ。


 現在、アルストロメリアの街に滞在しているルークランク冒険者は3チーム。

 数としては問題ないが、彼らの階級はいずれも★1(シングル)だ。

 一まとめにルークランクといっても、階級が違えば実力に差はある。

 ルークランクでは、それが特に顕著なのだそうだ。


 冒険者以外の戦力としては、領主直属の騎士団が存在する。

 彼らは専業騎士として日頃から訓練を重ねている為、練度は十分に高く決して弱くはない筈なのだが、それでも噂に聞くユニークモンスターを前に、果たしてどこまで戦えるのか疑問は残る所だ。

 

 結局、商人である僕には、物資の支援程度しか出来ることは無い。

 あとは戦い赴く皆の頑張りに期待する他ないのだ。


 ◆


 そうして冒険者と騎士団の健闘を祈りつつ、王都の政変への対処に頭を悩ませていた僕の下に、耳を疑う報告が入って来た。

 なんでもコウヤと思しき人物が、ユニークモンスターを一人で一方的に屠ったという。

 更に別の報告では、空を飛んでいた、強力な炎の魔法で魔物を一掃した、異常な程に効き目の高い治癒薬を大量にばら撒いた、などという話もあった。どこまで本当の話なのかは分からないが、ただ一つ言えるのは、コウヤがトンデモナイことを仕出かしたのだという事だけだ。


「何をやっているんだ、コウヤ!」


 それらの報告を聞いた僕は、周りに部下の眼があることも忘れて思わずそう叫んでしまった。

 ここまでハッキリと感情を声に乗せたのは、久しぶりかもしれない……。


「もっと詳しい情報を探ってきてくれ。それから出来れば、その効き目の高いという治癒薬とやらを手に入れてきてくれ」


 すぐさま平静を取り戻した僕は部下達に指示を下し、再び頭を回転させる。

 考えなければならない事が、また増えてしまった。

 まだまだ忙しい日々が続きそうだと、僕は溜息をそっとついた。


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