39A フィナの決断
今回の話は、フィナ視点でお送りしております。
わたしはフィナ。
コウヤ様の奴隷、でした……。
つい先日、コウヤ様に連れられて奴隷商会と出向き、奴隷の証である首輪を外されました。
長い間ずっとそこにあった首輪の感触の喪失感は、コウヤ様との絆が失われたことを意味しているようで、とても怖く感じました。
「安心してくれ。フィナを捨てるつもりなんかないから」
そんなわたしを見てコウヤ様は頭を撫でながら、そう慰めてくれました。
勿論、頭ではコウヤ様がそんな事をするような方ではないと分かっているのです。
それでもわたしは、コウヤ様の奴隷で無くなったことが悲しかったのです。
では、なぜわたしはそんな風に思ったのでしょうか……?
普通ならば奴隷からの解放はまず喜ばしいことの筈です。
むしろ多くの奴隷の方は、それを目標に頑張っていると思います。
かくいうわたしも、コウヤ様に買われる以前はそう思っていました。
少し冷静になり、落ち着いてから私は考えを整理します。
そうするとある結論が浮かび上がってきました。
……きっとわたしはコウヤ様に甘えていただけなのでしょう。
コウヤ様は奴隷に対して、酷い扱いは一切しません。
というよりも他の人と全く同じ様に扱います。
コウヤ様はわたしの眼から見て、凄く魅力的な男性です。
見た目も黒髪黒眼と若干地味ながらも整った顔立ちをしていますし、何よりその器の大きさが素晴らしいです。
厭々ながらを装いつつも、困っている人を見捨てないその姿がとても素敵です。
そのせいもあり、周りの女性からも人気があります。
特にディジーさんと、リズリアさんは明らかにコウヤ様に好意を抱いているのが見て取れます。
そしてそれはわたしも同じだったのです。
今更ながらに、そんな事実に気が付きました。
ですがわたしはまだ幼く、コウヤ様からも女性として見られていない事はまずもって明らかです。
そんなわたしが唯一他の女性たちに誇れたのは、コウヤ様の所有する奴隷がわたし一人だけだったという事。
見方を変えれば、コウヤ様にとって特別な存在で合ったと言う事でした。
……振り返ってみればわたしの心の内は、そんな空しい考えに染まっていたのです。
多分コウヤ様は、そんなわたしの内心に気付いていたのでしょう。
今の関係を続けていたらわたしの為にならないと、そう考えて私を奴隷から解放したのだと思います。
なら、わたしも甘えを捨てて、コウヤ様の隣に立つ為に、きっと変わる必要があるのでしょう。
まずは、コウヤ様の庇護下から抜けだし、自立しなければいけません。
コウヤ様に養ってもらっているうちは、きっとコウヤ様と同じ目線の高さで物事を見れないと思うから。
それからわたしは、ブルーローズの皆さんやティアナちゃん達に今後のことについて相談をしました。
そして決めました。
「コウヤ様! わたしはティアナちゃん達と一緒に冒険者になります!」
コウヤ様に指摘された通り、冒険者という職業に興味があったのは事実です。
それに昔家族を失った時に、自分の無力さに打ちひしがれた事もありました。
だからそう言った意味でも、冒険者は打ってつけの仕事なのです。
「そうか……。焚きつけといてなんだけど、無理だけはするなよ」
わたしの宣言に、嬉しそうな、だけど心配そうな複雑な表情をコウヤ様が浮かべています。
「はい! ただわたしが冒険者として働くことになると、ファレノ商会との取引が……」
「その辺は心配しなくていいよ。孤児院の新建屋関連で忙しかったのそろそろ落ち着いてきたし、しばらくは俺が商会の方に顔を出すことにするから。それに孤児院の子供達の中に自分がやってみたいって子もいたし、その子に教えながらまあユルユルやっていくよ」
「そう、ですか……」
自分で辞めると言っておきながら、引き留められないことに対し、軽い苛立ちを覚えてしまう自分に腹が立ちます。
こんなことじゃダメです。もっとしっかりしないと……。
「フィナ。これまで色々手伝ってもらって本当にありがとうな。まあこれからも住む家は一緒だし、まあそのなんだ。……フィナは俺の妹みたいなもんだからな。何かあったらいつでも頼ってきていいからな?」
「……妹、ですか」
分かってはいましたが、やはり女性としては全く見て貰えていません。
ですが、わたしは今成長期の真っただ中です。
直ぐに大きくなって、きっとコウヤ様を見返してみせます!
「コウヤ様! だーい好きですっ!」
わたしは、そう言ってコウヤ様の腕に抱き着きます。
手始めにディジーさんが良くしているのを真似してみました。
「お、おう。俺も大好きだよ、フィナ」
好きの意味がわたしの求めているものとは、若干異なりますが、今はこれで満足しておきます。
ですがいずれ……。
こうして、わたしはコウヤ様から自立すべく、冒険者として生きていくことになったのです。