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36 後始末

 シャドウウルフとの戦いから、3日程が経過した。


 そんなある日、冒険者ギルドから使いの者が俺の元へとやって来た。


「ミナミヤコウヤ様ですね?」


「はい、そうですが?」


「支部長がお呼びです。お手数ですが、冒険者ギルドまでお越しください」


 咄嗟に断る理由が思いつかなかった俺は、流されるまま冒険者ギルドへと連れていかれる羽目になってしまった。


「この奥の部屋で、支部長がお待ちです」


 良く分からないが、とりあえず目の前の扉へとノックを3回する。


「入ってくれ」


 部屋の中から中年男性の渋い声が響く。


「し、失礼します」


 それなりに広い部屋の中央にテーブルが置かれ、それを挟むように広いソファーが2つ置かれている。

 片方にはガタイのいい50前後の男性が座っており、その後ろにはサリナさんが控えていた。


「俺は冒険者ギルド、アルストロメリア支部長のルドルフだ」


「は、はぁ。どうも……」


「まあ、座ってくれ」


 促されるまま、対面のソファーへと俺は腰掛ける。


「今日はお前さんにちょっと聞きたいことがあってな。それでわざわざ来てもらった訳だ」


「はぁ。それで、聞きたい事とはなんでしょうか?」


 冒険者ギルドの支部長などというお偉いさんに呼び出される心当たりなど……、まあ無い訳じゃないな……。


「先日のシャドウウルフ討伐戦についてだ」


 案の定というべきか図星を刺されてしまい、思わずビクッと身体が震えてしまう。


「……俺は後方で治療の手伝いなどをしていただけですが?」


 どうにか平静を装ってそう返すが、


「はぁ。悪いが隠しても無駄だ。もうネタは上がっている。サリナ、話を聞かせてやれ」


 どうやら既に調べはついているようだ。


 それからサリナが語った所によると、なんでもシャドウウルフ討伐戦の聞き取りを行った際、皆が怪しい恰好をした黒髪の男が倒したと証言したそうだ。

 同時に似たような容姿の男が、物凄く良く効く魔法薬を配り、更には空を翔けながら魔物の群れを薙ぎ払ったという報告も挙がっていた。

 それらの報告を擦り合わせていった所、それらが同一人物の仕業だと判明したそうだ。


 そして、運悪く魔物の群れを薙ぎ払った俺の姿を見て反応したディジーを覚えていた冒険者がいて、そちらへも証言を聞きに行ったらしい。


「ディジーさんはコウヤさんの事を何も話しませんでしたが、私はディジーさん達がコウヤさんと仲が良い事を知っていますからね。それで直ぐにピンときました」

 

 俺と交友ある冒険者が彼女達以外いないというのもあって、あっさりと結びついたようだ。

 まあそもそもの話、マスクとサングラス程度の変装じゃ、正体を隠すには足りなかったという訳だ。


「はぁ。……そこまで知られてるなら、隠しても無駄そうですね。そうですよ。俺がシャドウウルフを倒しました」


「やはりか。……なぜわざわざ正体を隠したんだ? シャドウウルフ程の大物を倒した事が広まったなら、冒険者としての名声はうなぎ登りだぞ」


 ルドルフが首を傾げながら俺にそう問い掛ける。


「そりゃまあ、俺はあんまり自分が冒険者っていう自覚がないですからね。普通の冒険者なら名前が売れて喜ぶのかもしれませんが、冒険者として活動する気がない俺にとっては、正直何の得にもならないんですよ」


 むしろ悪目立ちして、厄介事を呼び込みそうな気がする。


「ふむ……。それ程の実力があるのに、勿体ない話だな。だがだったら何故あんな目立つ真似をしてまで、シャドウウルフを倒したんだ?」


 勢いで行動した為、あんまり自覚が無かったが、どうやら俺の行動は相当に目立っていたらしい。

 ……確かに思い返せば、少々派手だったと思わなくもない。


「……中々倒した報告がこないから、焦れてつい、って感じですね。討伐隊だけで倒せそうなら、手を出すつもりは無かったですよ?」


 そんな内心は出さないように意識しつつ、しれっとそう答える。


「……成程。では何故、討伐隊だけでは倒せないと判断したんだ?」


「だから、倒した報告が来ないから――」


「倒すのに時間が掛かっているだけとは思わずに? 報告では何やら確信を持った動きで、シャドウウルフに向かっていった様子だったそうだが?」


 ううっ。思った以上に色々調べている。

 なんとなくだがギフトの力で状況を把握していたことを話すと、益々面倒な事になりそうな気配がある。


「……まあ、そこは勘って奴ですよ」


 かなり苦しい言い訳だが、これで押し通すことにする。


「……まあいい。本題から少しズレたな。今日お前を呼び出したのは、シャドウウルフのドロップアイテムの扱いについてだ」


 ルドルフがそう言って説明を始める。

 シャドウウルフからのドロップアイテムが、どうやらかなり高額の代物だったらしく、その配分をどうするかを俺に聞きたいそうだ。

 なんでも討伐隊に参加した冒険者から、俺への分け前が必要ではないかという声が挙がっているらしい。

 自分の取り分が減りかねないのに、そんな事をワザワザ言うのは、高位冒険者としてのプライドなのだろうか?

 本来ならば、褒め称えるべき所なのだろうが、今回ばかりは余計なお世話と言わざるを得ない。


「どうする? お前さんが名乗り出れば、それなりの分け前が貰える筈だが?」


「うーん。そうすると俺の名前が知れ渡っちゃう訳ですよね? なら遠慮しときますよ」

 

「そうか、ちなみにだが、名乗り出ればこれくらいは貰えるはずだ」


「うっ……」


 そう言ってルドルフが見せた紙に書かれた数字は、俺の心を揺り動かすだけの力があるものだった。


「……正直心惹かれますが、止めておきます。平穏な生活が一番なので……」


 思い返せば、一歩間違えれば自ら平穏を崩しかねない行動を、何度も取っていたような気がする。

 幸いにも今の所は大事に至っていないが、今回の件で十分に反省して、今後の行動は慎重を期す必要がある。

 ……ただでさえ俺は、すぐ頭に血が昇って実力行使に出てしまいがちだからな。よくよく気を付けるとしよう。


「そうか。お前さんがそう言うなら、今回の件は該当者不明ってことで処理しておく。ただ一つ忠告しとくぞ。お前さんの持つ力は強力だ。いずれ運命が嫌でもお前さんを表舞台へと引き摺り出すぜ? 覚悟しとくんだな」


 運命なんて曖昧な言葉、と切り捨てるのは簡単だが、ルドルフの目にはそうさせないだけの不思議な力が宿っているように感じられた。

 俺はただ黙って、コクリと頷き返す。


「お前さんに聞きたいことはまだいくらでもあるが、今は何かと忙しい時期だ。今日はここまでにしておくとしよう」


 俺を気遣ってなのか、追及するのは止めてくれたようだ。

 見た目はあれだが、中身はそう悪くない人らしい。


「コウヤさん、本日はお忙し中どうもありがとうございました。コウヤさんが冒険者として活躍する日をお待ちしておりますね」


 サリナが、そんな言葉を最後に投げつけつつ、ギルドの外まで見送ってくれる。


「サリナさん。俺は冒険者として働くつもりは無いよ。……そりゃあ勿論、降り掛かる火の粉があれば振り払うさ。だけどそれだけだ。それ以上の事を俺はするつもりはない」


「そうですか……。もしかして私が冒険者登録を勧めたことを恨んでいますか? その所為で強制依頼で冒険者として表に出ることになりましたし……」


 強制依頼の説明について、成り行き上仕方なしとはいえ騙した結果になった事を、どうやら気にしてくれているようだ。


「いや。どの道住んでいる街が襲われたんだ。遅かれ早かれ俺は動いたよ。だからその件は気にしなくていい」


 あの時は正直ちょっと恨んだけどな。と内心で思いつつもそれは言葉には出さない。

 

「はい。私もあの判断を後悔はしておりません。そのお蔭で結果として、街に被害が出るのを防げたようですしね」


 さっきまでの暗い表情から一転、すぐさま表情に明るさを取り戻すサリナ。

 強い女性だな、そんなことを内心で思いつつ、サリナに別れを告げて俺は孤児院へと帰って行った。


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