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33 異変

 ここ最近の俺はなかなかに忙しい日々を送っていた。


 孤児院再建の為、斉藤さんに指示された事項の調査をしたり、子供たちの料理の面倒を見たり、お風呂を沸かしたりとやる事が山積みの毎日だった。

 目まぐるしい日々ではあったが、フィナも孤児院の子供たちも皆幸せそうにしており、それを見守る俺自身も十分な満足感を得ていた。


 だが、そんな幸せな一時を邪魔する事件が起きる。


 それは普通と何ら変わりのない、いつもの昼下がりの事だった。


 ゴーン、ゴーンと遠くから鐘の音が響いて来る。

 街外れのこの孤児院まで届くのだから、相当に大きな音だ。


「……なんでしょうか?」


 丁度近くにいたリズリアが不安そうな顔でこちらを見つめてくる。


「なんだろうな?」


 その音は一向に鳴りやむ気配がない。

 俺は作業の手を止め、立ち上がる。


「リズリア、ちょっと様子を見てくる。念のため、子供たちは全員孤児院の中へ」


「分かりました。コウヤ様もお気をつけて」



 鐘の鳴る方へと俺は駆けて行く。

 どうも方向的に、発信源は冒険者ギルドのようだ。


 俺が冒険者ギルド前の広場へと到着した時には、既にそこには人だかりが出来ていた。


「何があったんだ?」


 俺は手近な男にそう尋ねる。


「なんでも"魔の森"で、魔物の大量発生があったらしくてな。その一部がこの街に押し寄せてきているらしいんだ」


 魔の森とは、この街アルストロメリアの近くにある魔物の領域のことだ。

 魔物の領域には、数多くの魔物が生息しており放っておけば、そこから溢れた魔物が近隣の街を襲うこともある。

 ……とはいえ、それはこの街の冒険者ギルドも当然承知の話だ。

 冒険者達によって、定期的に間引きが行われており、そんな事態にはならない様に対処しているはずなのだが……。


「なんだってそんなことに……?」


「さあな、それより前だ」


 その言葉に前へと視線を向ければ、サリナさんが立っていた。

 その後ろには、ギルド職員らしき人達が控えている。


「冒険者の皆様! 突然のお呼び立て、申し訳ありません。しかしながら、事態は急を要しております」


 そう言って現状を語り出す。


 なんでも、魔の森で異常な魔物の増加が見られるという報告が入って来たらしい。

 そこまでは既に聞いた話だったが、そこからが先が本番だった。

 ギルドによって依頼された冒険者が様子を探りにいった所、ユニークモンスターの発生が確認されたそうだ。

 ユニークモンスターとは、魔物の変異種であり、通常の魔物より遥かに強大な力を持つ。

 その上、周囲の魔物を統率し、街や村などを襲う性質を持つそうだ。


 今回発生したユニークモンスターは、狼型の魔物の大型変種で、影のような黒い体躯であることから、"シャドウウルフ"と呼称されることになったそうだ。

 そしてシャドウウルフは現在、魔物の大群を率いてこの街へと侵攻中らしい。


 ここまで聞いた段階で、俺は人混みからそーっと抜け出し、孤児院に帰ろうとしていたのだが。


「この事態を重く見た冒険者ギルドは、この街の冒険者全員に対して緊急特別依頼を発布することを決定しました。これは強制依頼です。拒否すれば冒険者資格をはく奪することになります。そうなれば当然、冒険者カードも没収となります」


 明らかに脅しの混じったその言葉に、立ち止まらざるを得なかった。

 強制依頼のことは、一応サリナからの説明で聞いてはいたが、同時に20年以上使われていない死んだ制度だとも言っていた。


 くそっ、騙された!


 冒険者資格自体はどうでもいいが、冒険者カードを没収されるのは結構キツイ。

 あの中にはかなりの額を入金してあるし、それでなくても現在のファレノ商会との取引額の大きさから、無くなるとかなり不便になるのは明白だ。


 とはいえ、サリナの焦燥たっぷりの声色から判断するに、彼女に俺を騙すつもりが無かったこともまあ分かる。

 流石にこの状況で暴れる程、俺も餓鬼じゃない。

 結局、俺は足を止めて、サリナの言葉に再び耳を傾ける事にした。


「シャドウウルフの討伐は、ルークランクの冒険者チームの皆様にお願いすることになります」


 確かこの街には、ルークランクの冒険者チームは3つあったはずだ。


「質問だ」


「なんでしょうか、アレクさん?」


 アレクとは確か、ルークランク冒険者チーム"黎明の剣"のリーダーを務める男の名前だったはずだ。

 まだ若いながらも威風堂々としたその佇まいからして、多分間違いないだろう。


「僕らでシャドウウルフを倒すのはまあいい。だけど、その前に立ち塞がる魔物の大群はどうするんだ? さすがに10人ちょっとじゃ相手をしきれないぞ?」


 どうやらシャドウウルフを倒す自信はあるらしい。

 まあルークランクで手に負えなければ、この街は普通なら終わりだ。

 嘘でもそう言わざるを得ないのかもしれない。


「そのご心配はご尤もです。ですがご安心を。露払いは騎士団の皆さまが引き受けてくれました」


 騎士団とは、一言で言ってしまえばアルストロメリアの領主お抱えの軍隊の事だ。

 突出した強さの持ち主はいないものの、個々人の平均値は高く、冒険者でいうところのナイトからビショップランクくらいの実力はあるらしい。

 それに加え、集団戦闘の練度の高さは評判高いとのことだ。


 それだけの実力を持っているなら、露払いだけで満足しなさそうなもんだが、余程上がしっかりしているのだろうか。


「……なるほど、それならば納得だ」


「ではルークランクの皆様は作戦の打ち合わせがありますので、あちらへお願いします。残りの方々への依頼はこれから説明します」


 それからビショップランク以下の冒険者に与えられる役割がサリナの口から語られる。

 それらを大まかに纏めてしまうと、半数近い人数がシャドウウルフ討伐部隊の援護と退路確保に向かい、残りがアルストロメリアの街の防衛戦を敷き魔物の侵攻を防ぐという作戦だ。


 まだノービスランクの俺は、防衛線の後方に配置されることになった。

 面倒なことに巻き込まれたと憂鬱な気分になりつつも、渋々俺は戦場へと向かうのだった。


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― 新着の感想 ―
少し、主人公の思考にイライラしますm(_ _)m
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