30 電気製品
フィナ達に商売を任せて出来た空き時間に俺がやっていたのは、栄養ドリンクの研究だけではない。
その一つに、孤児院への電気製品の導入があった。
日本における便利な製品の多くには、電気が必要だ。
幸いギフトの力で生み出したパソコンやスマホについては、僅かな魔力の消費だけで扱うことが出来る。
だが、それ以外にも出来れば欲しい製品は数多く存在する。
例えばヒーターなどの暖房器具や、クリップライトなどの照明器具、炊飯器やIHコンロなどの調理器具など、挙げ始めればキリがない。
だがここは異世界であり、その文明レベルは魔法による恩恵を除けば、概ね中世レベルだ。
当然電気など通っておらず、電気製品を現状では扱うことは難しい。
そこで俺は、電気製品を使用する前段階として、発電機の導入を決意した。
実際に調べてから俺も初めて知ったのだが、ネット通販サイトには発電機も普通に売っているようだ。
発電機なんて日本に居た時には使う機会など無かったから、そんなモノまで売っているのかと少々驚きだ。
肝心の値段の方はというと、安いモノだと5万円以下から、高いモノだとそれこそ300万円を近いモノまである。
正直、違いが良く分からないので悩んだのだが、結局俺は50万程の発電機を購入した。
選択理由は色々あったのだが、結局のところ仮に使えなかった場合の懐へのダメージを考慮したというのが一番だ。
まあ現状、そこまで日本円の残高を気にする必要は無いとは思うんだけどな。
「コウヤー? これ何?」
ディジーが面白いモノでも見つけたような顔で、そう聞いて来る。
「うーん、簡単に言うと小さな雷を起こす装置? かな……」
なんと説明したらいいのか分からず、とりあえずそう口にする。
「雷かぁ。ボクは雷属性の適性持ってないから良く分からないや。で、これ何に使うの?」
「これ自体で、何かが出来る訳じゃないな。まあ、上手くいったら教えてやるよ」
「はーい」
説明書やネットの解説サイトなどとにらめっこしながら四苦八苦の末、どうにか発電機の設置に成功した俺は、続いて小型の電気ヒーターを購入することにした。
補修を行ったおかげで以前よりは大分マシになったものの、やはり夜は寒い。
毛布を多めに配っていたので、凍死する心配などはないのだろうが、それでもまだ幼い子供も多いので、なるべく暖かく過ごさせてあげたかったのだ。
「わぁ、なにこれ。すごくあったかい……」
「ぼく、寒いの苦手だったから、とってもうれしいよ!」
思惑通り、子供たちは電気ヒーターを歓迎してくれた。
こういう純粋な笑顔を見せられると、まだまだ頑張りたいという気持ちになるな。
「コウヤ様、本当にありがとうございます。こんな高そうな魔法具まで下さって……」
リズリアはどうやら電気ヒーターのことを、魔法具の一種と勘違いしているらしい。
まあ、原理を知らない人にとっては、魔法具も電気製品も大して違いはないのだろう。
かくいう俺も、魔法具がどんな原理で動いているのかは知らない。
電気ヒーターの導入で特に問題が起きなかったので、俺は発電機を更にいくつか追加購入し、電気製品を一気に増やした。
それによって孤児院内には、文明レベルから考えると明らかに場違いな日本製品が数多く存在することになった。
同時に俺は子供たちに危険がないよう、電気製品の扱い方の説明なども行った。
その際に判明したのだが、子供たちのほとんどがまともな教育を受けていないせいで、文字もロクに読めないという事実だった。
日本には義務教育が有る為、識字率は100%に近い。
だがここは見た目は中世レベル。義務教育は勿論のこと、まともな教育機関が存在していない。
そうなると識字率は相応に低くなる。
まして親のいない子らが集まる孤児院では言うに及ばずだ。
俺の孤児院改革の計画書に、子供たちの教育という項目が新たに加わることになった。
◆
孤児院に電気製品の導入を成功させた俺は、次に調理場の改修に取り掛かった。
というのもいい加減、温かい料理を毎日作れる環境を整えたかったのだ。
以前やったバーベキューなども、無論美味しかったのだが、あれを毎日やるのはとてもじゃないが不可能だ。
ボロボロの壊れたかまどを撤去し、新たにIHコンロや炊飯器などを設置した。それに併せて調理台なども新しいものを購入した。
調理器具も、フライパンやお鍋など日本式のモノを色々と取り揃えた。
そして何より冷蔵庫を設置したことによって食材の保存が効くようになり、俺の手間の削減に一役買ってくれた。
正直、しょっちゅう食べ物をネット通販で購入するのは割かし大変だったのだ。
水回りの方も流し台を設置したことで、大分使い勝手が改善された。
ネット通販ではこんなモノまで売ってあるのかと、感心する。
「コウヤ様! いってきますね!」
「気をつけてな! シアンさんたちも宜しく頼むよ」
フィナたちがいつものように、ファレノ商会へと取引に向かうのを見送ってから、俺はお昼の支度へと掛かる。
改修した調理場を使い、今日からは出来立ての料理を自分たちで作って食べるのだ。
「リズリアさん。年中組の子供たちを料理の手伝いに借りてもいいですか?」
30人分の食事なので、流石に一人で作るのは大変だ。
「勿論ですよ。わたくしもお手伝いしましょか?」
「いえ、リズリアさんはちっちゃい子たちを見ていてください。こっちには10歳前後の子だけ貸してくれれば大丈夫です」
そうして、俺の元に7人の子供が集まって来た。
皆バーベキューの時に手伝いをしてくれた子たちだ。
これくらいの年齢ならば、教えればそのうち料理も出来るようになるだろう。
いずれはこの子達だけで出来るようになって貰わないと、俺が困るしな。
「何でも言って! 私がんばるから!」
年中組のリーダー格らしいリタという少女が、元気一杯の声でそう言ってくれる。
「うん。皆頼むな」
そんな風にして年中組に料理の指導などをして過ごす傍ら、今度は俺はお風呂場の設置に取り掛かった。
幸いここの孤児院には調理場とは別に水場があったので、そこを改造することにした。
恐らく孤児院に人がもっといた頃には、第2の調理場として使われていたのだろう。今は見る影もないが。
「水生成」
風呂桶を設置し、その中に魔法によって生み出した水を貯めていく。ディジーに教えてもらった魔法だ。
こういったチマチマした魔法は、前世では習わなかったので助かる。
ただ〈超魔力〉のギフトのせいで魔力の制御が難しくなっており、油断するとすぐ水を溢れさせてしまうのが難点だ。
続いてお湯を沸かすべく、炎の魔法を発動する。
「灯火」
これもディジーに教えてもらった魔法だ。
普通はお湯を沸かすにはもっと火力のある魔法が必要らしいが、俺にはこの魔法で十分だ。
魔法が暴走しないよう制御を慎重に行う。でないと、「これは余のメ○だ」状態になりかねないのだ。
暫くは俺一人でお風呂を沸かす必要があるので少々大変だが、子供たちの中には魔法の適性を持っている子もいるようなので、そういった子達を育てて、いずれは役目を代わって貰いたい所だ。
まあ、そんな面倒な事を考えるのは後回しにして、俺は湯船に浸かり日頃の疲れを癒すことにした。