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29 バーベキューをしよう(後編)

 そして迎えたバーベキュー当日の朝。


 孤児院の敷地内に、バーベキューコンロが4台程並んでいる。

 食べる場所は、椅子だと使った後の処分に困りそうだったので、ブルーシートを地面に敷くことにした。

 ただ地面は少なからず荒れており、石ころも沢山転がっていたので、子供たちに頼んで整えてもらっていた。


 本日はファレノ商会との取引は休みだったので、フィナ達にもこっちを手伝ってもらっている。

 食材の準備だが、保存の問題が有ったのでこれからしないといけないのだ。


 俺はスマホを取り出し、事前に当たりを付けていた食材を次々と注文していく。


 メインとなるお肉は、国産牛を中心に各種取り揃えた。

 特に俺の大好物のホルモンは外せない。


 子供たちの栄養にも配慮し、当然野菜類も数多く用意している。

 この辺では見かけないモノも多く、意外と彼らの興味を引いている。


 魚介類もエビ・アワビ・サザエなど色々と取り揃えてある。

 海が近くに無いから皆食べたことないだろうし、こちらも是非味わって欲しい。


 焼き肉を食べる為のタレや、飲み物類なども当然準備した。


 食材の処理はフィナ達に任せ、俺はバーベキューコンロの方の準備に向かう。

 機材は事前に組み立てていたが、火起こしはこれからだ。


「わたしたちも、お手伝いさせて下さい」


 そんな時、ブルローズの面々がこちらへとやって来た。


「昼までに来てくれれば良かったんだが……」


 今日は商会との取引は休みだ。

 なので当然護衛の仕事も休みなのだが……。


「美味しい食べ物を御馳走になるんですから、お手伝いくらいさせて下さい」


「うむ、ただ飯ぐらいというのもなんだしな」


 俺とリズリア以外はまだ子供だ。正直その申し出は凄く助かる。


「すまないな。じゃあお言葉に甘えさせて貰おうかな」


「はい。お任せ下さい」


「じゃあ、早速だけどディジー、これに火をつけてくれないか?」


「ほいほい、灯火(フレイムトーチ)


 ディジーの指先に、小さな炎が揺らめく。

 その炎が炭火へと移動し、火が起こる。

 バーベキューである意味一番大変な火起こしが、一瞬で終わってしまった。


 うーむ。やはり魔法は便利だ。

 俺も早く魔力の制御をどうにかしないと……。


 ブルーローズの皆の加勢もあり、バーベキューの準備は恙なく完了した。



「じゃあ、孤児院再建の門出を祝して、バーベキュー大会を始めたいと思う! 食べ物は沢山用意したから、皆、今日は好きなだけ食べていってくれ!」


 ちなみに理由は後付けだ。

 ただバーベキューをするよりは、何か騒ぐ理由があった方がいいかなと思っただけだ。


 こうして異世界生活初のバーベキュー大会は始まった。

 早速、俺は食材を焼きに向かう。やり方に慣れた俺が率先して、焼く係に回った方がいいだろうという判断だ。

 他の台には、フィナや年長組がバラバラに向かっている。

 彼らには事前にバーベキューのやり方を説明して、焼く係をお願いしている。


「わーお肉だ!」


「こらっ、騒がないの!」


 俺が網の上に肉を並べていくと、子供たちの間から歓声が上がる。


「まあ、落ち着け。お肉は沢山あるから……」


 ジュウジュウと肉の焼ける音と、香ばしい匂いが辺りを包む。

 タレの入った皿を握り締めたまま、子供たちがギラギラした視線をこちらへと向けている。


「よし、こっちの肉はそろそろ食べてもいいぞ」


 小さい子から順に、皿へと肉を入れてやる。


「ねぇ、ボクのは?」


「バカ、子供たちが先だ」


 ディジーがもの欲しそうな目で、こちらを見ているが、軽く切り捨てる。


「おいしー!」


「なにこれ、すごいー!」


 お肉を食べた子供たちから、喜びの声が上がる。

 奮発して高級肉を買った甲斐があったというものだ。


「うむ。これは、本当に美味しいな。このような柔らかい肉は中々食べれないぞ? それにこのタレもいいな。甘さと辛さが絶妙に調和していて、肉の味を引き立ている」


 ラクルが、神妙な顔つきで肉を頬張りながら、そんな評論じみた言葉を口にしている。


「あ、ラクル、ずっるー! ねぇ、コウヤ、ボクにも早く食べさせてよー!」


「はいはい、ほら」


 丁度焼けた牛肉をラクルの皿に放り込む。


「むぅ。なんかコウヤさ、ボクの扱い雑くない?」


 ディジーが顔を膨らませながらそう言う。


「そうか?」


 気のせいだろ? と軽く受け流し、再び食材を焼くことに専念する。

 次々と焼けていく食材たちを、栄養バランスを考えながら振り分けていく。


 ふと、他の台の様子を見てみれば、フィナも年長組の子供たちも焼くのを頑張ってくれているのが見える。

 ただ、人数が多い為、彼ら自身はほとんど食べることが出来ていない。


「コウヤ……。もしかしてまだ全然食べてなくない? 焼くの変わろっか?」


 かくいう俺自身も、まだ何も食べてはいない。それに気づいたのか、ディジーがそのような提案をしてくる。


「いや、お客さんなんだし、今日はゆっくりしていってくれ」


「何遠慮してるんだよー。ボクとコウヤの仲じゃないっ! いいからいいからっ」


 どんな仲だよ! と内心でツッコミを入れつつも、折角の好意を無下にするのも、なんだったのでお言葉に甘えることにする。


「では私も満腹になったことだし、子供たちと交代することにしよう」


 ラクルがそう言って、フィナの方へと向かう。

 丁度他の台も見れば、同じようにシアンやセキたちが、焼く係を交代してくれている。

 ブルーローズの面々には本当に感謝だ。


「ディジー、これを焼いてくれ」


 俺は取って置いたホルモンの入ったパックを手渡す。


「なにこれ?」


「ホルモンだ。一言で説明すれば、臓物って奴だな」  


「ええっ、そんなの食べるの!?」


 そんなのとは、なんだ。俺の好物なんだぞ!


 ぶつくさ文句を言いながらも、ディジーがホルモンを焼いてくれる。


「……」


 俺は無言で、それを噛み締める。

 ふわふわとした感触のそれらは、噛み締める度にうま味が口の中一杯にほとばしる。


「ああ、やっぱり最高だ……」


 焼けたホルモンを次々と口に入れていく。

 ああ、至福のひと時だ。


「……それ、そんなに美味しいの?」


 そんな俺の様子を見ていたディジーが、ホルモンに興味を示してきた。


「ああ、凄く美味しいぞ。ほら」


 そう言って俺はディジーの口の中に、ホルモンを放り込んでやる。


「……不思議な食感だねぇ。うん、美味しいよ!」


 うんうん。ホルモンの美味しさが伝わったようで何よりだ。


 そんなことを考えていると、ふと視線に気づく。

 そちらを見れば、フィナが悲しそうな、何かを求めているような複雑な表情を浮かべて立っていた。


「どうした、フィナ。これ食べるか?」


「は、はいっ!」


 ディジーにしたのと同じ様に、フィナの口にもホルモンを放り込んでやる。

 どうやらそれで正解だったらしい。

 物凄く嬉しそうな表情でホルモンを噛み締めている。


「むぅ……」


「どうした、ディジー?」


「コウヤって、もしかして天然?」


「いや、そんなことは無いと思うが……」


 急にどうしたんだろうか。

 何か俺、変な事でもしたか?



 そんな感じで、和やかな時間は過ぎていった。


 後片付けをフィナたちに任せ、俺は色々と手伝ってくれたブルローズの面々を見送る。


「本日は楽しい席にお招き頂き、ありがとうございました」


 シアンが、一歩前に出てそう頭を下げてくる。


「いや、お客様なのに、色々と手伝わせてすまなかった。ホント助かったよ」


 片付けも手伝いを申し出てくれたのだが、これ以上客にさせるのは気が引けた為、固辞させてもらった。


「どれも食べた事がないような美味しいモノばかりで、得難い経験でした。特にあの貝というのですか? あれは凄く美味でした」


「私はやはり肉が美味かったな。あれほどのモノは、高位冒険者でもそうそう有り付けないぞ」


「ボクもやっぱり肉だね!」


 シアンは貝が、ラクルやディジーは肉が、特にお気に召したようだ。


「わたしは野菜が美味しかったわ。あんなに新鮮な野菜は、久しぶりに食べたしね」


 セキは、野菜ばかりを食べていたようだ。

 エルフは野菜好きというのは、ホントのことらしい。


「皆が楽しんでくれて良かったよ。また明日から護衛の方、宜しくお願いするよ」


「コウヤー! ボクは?」


「ああ、ディジーも研究の手伝い頼むよ」


「うん! 任せてよ!」


 そうして彼らに別れを告げて、俺も片付けへと戻る。

 準備や片付けは大変だけど、それでも大人数でこうやって騒ぐのはやっぱり楽しいな。


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