28 バーベキューをしよう(前編)
時間軸が元に戻ります。
研究も商売も今の所大きな問題は起きておらず、孤児院の子供たちも健やかに日々を過ごしている。
一見何もかも順調そうに見えるかもだが、決して不満が無い訳では無い。
その最たるものが食事だ。
現在俺達の食事は、主にネット通販で購入した食品類で賄っている。
初めのうちは特に缶詰などの冷食類に頼っていた。
一口に缶詰といっても、色々とある。
サバの煮物やドライカレー、フルーツなど、その種類は豊富だ。
「わあ、ぼく、魚なんて初めて食べた」
「これ、すごく甘くて美味しいよぅ……」
当初は、子供たちからの評判もかなり良かった。
大抵の缶詰は、味付けがしっかりしており、その辺が受けたのだろう。
こっちの食べ物はどれもこれも妙に味付けが薄いからな。
だがそれはあまり長くは続かなかった。
「ぼく、あったかいものが食べたいな……」
そんな声が子供たちの間から、上がり始めていた。
「こら、わがまま言うんじゃありません! すいません、コウヤ様……」
リズリアがそう言って謝罪をするが、子供たちの言うことももっともだ。
いや、俺自身も正直そう思っていたのだが、何かと忙しくてつい手抜きをしてしまったのだ。
そこで、次に俺が手を出したのが、カップ麺だ。
現在の孤児院の設備で作れる暖かい食事が、その時の俺にはこれしか思い浮かばなかったのだ。
健康面を考えてこの札は切りたくなかったのだが、やむを得まい。
せめての抵抗として、野菜類をトッピングに追加する。
「わあ、コウヤ様。これ凄く美味しいですねっ! スープがすごく濃厚で後をひきます……」
子供たちもカップ麺に大分喜んでいたが、一番喜んでいたのはフィナだった。
中でも特に味噌味のモノが好きらしい。
思えば宿屋暮らしの頃から、たまに屋台などで温かいモノを食べていたとはいえ、基本冷食中心だったのだ。
どうやら大分我慢をさせていたらしい。
ごめんよ、フィナ。
カップ麺ばかりだと、いくら種類を変えても栄養が偏りそうだったので、缶詰などと併せて食べることにした。
ここ最近の孤児院の食事事情はこんな感じだったのだが、フィナ達に取引を任せたことで余裕が出て来たことで、ここ最近、俺の中の食事に対する欲求が表面化してきたのだ。
孤児院で、自分たちの手で暖かい食事を作ればそれが一番なのだが、生憎、孤児院の調理場のかまどが破壊されており、とても料理など出来る状況では無かった。
リズリアに聞いた所、やったのはデポトワール商会の連中らしい。
くそっ、あのバカ共。もっと徹底的にボコって置けば良かったっ!
まあ過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
それよりも大事なのは今だ。
という訳で、俺はバーベキューをすることにした。
幸いこの孤児院、敷地だけは無駄に広い。
皆で仲良く食事を取るスペースは十分確保できるはずだ。
そうと決めたらあとは行動あるのみだ。
スマホでネット通販サイトを開き、すぐさま必要な道具を次々と注文していく。
「コウヤ様、今度は何をなさるんですか?」
積まれていく段ボール箱の山を不思議に思ったのか、フィナがそう尋ねてくる。
「バーベキューだよ」
「ばーべきゅー、ですか?」
良く分からないという顔をしているので、説明をしてあげることにする。
「野外で炭火を使って、お肉などを焼きながら食べる事を言うんだよ」
ちなみに、これはネットで調べていて後から知った事なのだが、バーベキューの本来の定義では、お肉などを全て焼き終えてから食べる事を指すらしく、俺が言ったようなお肉を焼きながら食べる行為は、分類としては焼肉になるそうだ。
まあここは異世界だし、日本とは違った意味でも別に問題ないんじゃないかな? ないよね?
「お肉をそんなに沢山食べるのなんて、ちょっと想像がつかないですけど、すごく楽しみですね!」
金色のツインテールがぴょこぴょこと左右に揺らしながら、フィナがそう言う。
楽しみにしてくれているようで何よりだ。
同じ話を、リズリアや孤児院の子供たちにもしておく。
「そんな。いつもお世話になっているのにそんなことまで……。本当に宜しいのですか?」
リズリアはそう言って遠慮がちだったが、子供たちは喜んでいたので問題はないだろう。
折角なので、ブルーローズのメンバーやアルにも声を掛けておく。
「そうですね。折角のお誘いですし、お言葉に甘えましょうか」
「やったー、お肉! お肉!」
ブルーローズの皆は来てくれるらしい。
「ディジー! 嬉しいのは、分かったから引っ付くな!」
胸が当たっているんだよ! とは流石にいえず、シアンが引き離してくれるまで、妙な気分のまま我慢する羽目になった。
「……お誘いは嬉しいんだけど、最近ちょっと忙しくてね。どうにも時間が取れそうにないよ。落ち着いたら、また誘ってくれると嬉しいな」
そう言うアルは、明らかにやつれた表情をしていた。
最近は取引をフィナたちに任せることが多く、ファレノ商会に余り顔を出していなかったので知らなかったが、どうやら今は非常に忙しいらしい。
詳しい話は聞かなかったが、何やら王都の方がきな臭いことになっており、その余波で色々とあるらしい。
アルが大変なのにはちょっと同情するが、まあ俺には関係ない話だ。
直ぐにその事を俺は忘れ、バーベキューの準備へと戻る。
「コウヤ様、この子達にも手伝わせて下さい」
リズリアが、10歳前後の子供たちを連れてやって来た。
そうだな。彼らも随分と元気になってきたことだし、少しずつ仕事を割り振って行かないとな。
まだしばらくは無理だろうが、いずれは孤児院には自立して貰いたいと思っているのだ。
その為の具体的な方策も考えないとな……。
「ああ、助かるよ。皆、頼むな」
俺は屈んで子供たちに目線を合わせて、そう微笑みかける。
「はい! 任せて下さい!」
うん、元気一杯の返事だ。
それから、年中組の子供たちの力を借りつつ、準備は進んでいった。