22 冒険者登録(後編)
冒険者登録をする事になった俺は、サリナさんに渡された紙に必要事項を記入をしていく。
幸い記入事項も、名前や現住所などごく基本的なものばかりで、特に引っ掛かる事も無く書き終え、サリナさんに紙を手渡す。
「……特に問題はありませんね。では最後に、魔法適性の検査を行いたいと思います」
「すいません。魔法適正の検査というのは?」
「魔力量と所持属性の2種類を測ります。魔力量は言葉そのまま、扱える魔力の量を示した値です。一般に千を超えれば、魔導師としてやっていけると言われていますね。魔法適性をお持ちの方は少ないので、魔導ギルドの方から調査を依頼されているんですよ」
うーん、一般的な魔導師がどんなモノか分からないから、反応に困るな。
せめてデポトワール商会に雇われていたソンブルの奴が、どのくらいの魔力量なのか分かれば、ある程度は推測できるのだが……。
「所持属性ですが、火、水、氷、土、風、雷の6属性のうち、どの属性に適正があるかを調べます」
若干引っ掛かる箇所もあったが、この世界の魔法の常識を知らない為、今ツッコミを入れるのは止めておくことにする。
「では、この水晶に手をかざして下さい」
魔法陣が刻まれた板の中心に、掌の内に納まらない程の大きさの水晶玉が嵌っている。
その周りには、ビー玉サイズの小さな水晶玉が6つ等間隔に並んでいる。
言われた通り俺は、中心の大きな水晶玉へと向けて手をかざす。
すると、魔力を吸われていく感覚と共に、水晶玉が輝き始めその中心に数字が浮かび上がる。
同時に周りの小さな水晶玉6つ全てが、それぞれ違った色の輝きを帯び始めた。
魔力が吸われていくつにつれ、浮かび上がった数字の桁がドンドンと増えていく。
やがて魔力の吸出しが止まり、同時に水晶玉の数字もその動きを止めた。
「これは……」
そう呟くサリナの表情は、どこかひきつっているようにも見えた。
「これは、どういう結果なんでしょうか?」
水晶玉の中心には0の数字がいくつも並んでいるだけで、魔力量がいくらなのか俺には判断が付かない。
周囲の小さな水晶玉の輝きから、多分俺は6属性全てに適正があるのだと言う事は予想がつくのだが。
「すいません。魔法具の故障のようです。代わりを持ってきますので、少々お待ちを……」
水晶玉を回収すると、サリナが部屋から去っていき、暫くすると、先程のものより若干大きいサイズの魔法具を持ってきた。
「こちらに手をかざして下さい」
先程と同じ動作を繰り返す。
魔法具のサイズが大きい以外は、先程と何一つ変わる所はない。
「……」
結果も同様に、水晶玉の中心に0が並んでいるだけだ。
「お、恐らく、コウヤ様の魔力量が多すぎて、ここにある魔法具では検査が出来ないモノと思われます。申し訳ありません」
そう言って、サリナが頭を下げる。
魔力量が多すぎるというのには、心当たりがある。〈超魔力〉のギフトだ。
というかそれが原因でまず間違いないだろう。
あれは本来、勇者と呼ばれる人間だけが持つはずの能力だ。規格外でも当たり前と言うべきだろう。
「それで、冒険者登録の方はどうなるんでしょう?」
「それについてはご心配ありません。ただ、冒険者カードの魔力量記載の欄が、空白になるというだけです」
「成程、じゃあ然程問題ありませんね。ところで、所持属性についても分からないんでしょうか?」
自身の推測が正しいのか、確認のつもりでそう尋ねる。
「いえ、それは判明しております。火、水、氷、土、風、雷、全ての属性にコウヤ様は適正をお持ちです。……これはハッキリいって快挙です!」
申し訳なさそうな顔から一転、瞳を爛々と輝かせるサリナ。
「全属性に適性をお持ちの方など、私初めて見ました! ルーク級の冒険者の方でも、全属性の方などまずいないですから……」
全属性がいないことに俺は引っ掛かりを覚えるが、今はそれを口に出すのは止めておいた方がいい気がする。
「ちなみに普通の魔導師はどのくらいなんですか?」
代わりに俺は、無難な質問をサリナさんへと投げかける。
「そうですね。魔力量を千超える方でも、そのほとんどが1属性しか適正を持たない方ばかりですね。3属性以上に適正をお持ちの方は、今までに数名しか見た事がありませんね」
どうやら俺の全属性へと適性というのは、かなり凄い事のようだ。
うーむ……。
「コウヤ様、ちゃんとした魔力量を知りたいのでしたら、お手数ですが冒険者ギルド本部まで出向いて頂ければ、多分計測できるかと思います。あそこにはルーク級以上の魔導師用の測定魔法具がありますから」
「その冒険者ギルド本部ってのは、どこにあるんですか?」
「本部は、迷宮都市ラビランヴィルにありますよ」
迷宮都市か。
また気になるワードが出て来たな。あとでアルにでも尋ねることにしよう。
「……コウヤ様。これほど魔法の素質がお有りなのに、なぜ剣士なのですか?」
そう言えば、記入用紙にそんな項目があったな。
「あー、まあ、一応ずっと剣術をやって来たからね」
俺が前世で使っていた技術は、果たして剣術と言っていいのか自信は無かったが、魔導師よりは多分近いだろうと思い、なんとなくそう書いたのだった。
「……それはなんとも勿体ないお話ですね。気が変わって魔導師の道を進むのでしたら、ご連絡下さい。魔導ギルドへの紹介などもさせて頂きますよ!」
「そうですね。その時はお願いします」
この場はさらりと流すことにする。
魔導ギルド自体には興味はあるが、今は何かと忙しい。
落ち着いてから、またゆっくりと考えるとしよう。
「では、これで手続きは完了です。お疲れさまでした」
サリナから冒険者カードを受け取り、俺は出口へと向かう。
「……って! 違いますよ! 俺はここに依頼をしに来たんです!」
そうだ俺は冒険者になる為ここに来た訳じゃない。
フィナ達の護衛を雇う為に来たのだ。
危うく本来の目的を忘れかけていた俺だった。
大変申し訳ないのですが、執筆時間確保の為、勝手ながら感想返しは一旦停止致します。
感想そのものには全て目を通しますので、引き続き感想頂ければ大変嬉しいです。
その辺のことを活動報告にも書きましたので、良ければそちらも御覧下さい。