18 デポトワール商会
デポトワール商会を名乗る男たちの来訪があったその夜、皆が寝静まったのを確認してから俺は一人孤児院を抜け出す。
孤児院での作業が終わった後、俺はルーイヒの元を訪れデポトワール商会について話を聞いていた。
「部下にはあの連中には関わるなと言っていたのですが、儲け話に乗せられて買い取ったようです。勿論、その部下には厳正な処分を下しましたよ」
「そうか。奴らについて知っている情報を教えて欲しい」
「そうですね。……評判はかなり悪い連中ですね。脅しまがいのやり口で、土地を安く買い取ったりなんてのは日常茶飯事で、それ以上の事も裏では色々とやっているとの噂です」
そう言ってルーイヒが、デポトワール商会についての噂を語ってくれた。
それによると脅迫や詐欺などは序の口で、殺人を含めた犯罪行為にも手を染めているらしい。
確たる証拠こそないが、彼らと敵対した商人などが幾人も変死を遂げているらしい。
「コウヤ様も気を付けた方が宜しいですよ。連中どんな手を使ってくるか分かりませんし……」
ルーイヒが心配そうな表情を浮かべそう言うが、それを俺は軽く流す。
「忠告感謝するよ。近づかないように気を付ける為にも、連中の拠点を教えてくれないか」
「くれぐれも近寄らないよう気を付けて下さいね。デポトワール商会の場所は――」
ルーイヒから聞き出した情報を元に、夜の闇を駆け抜けてデポトワール商会へと向かう。
街の中心部にある大きな建物の前へと俺は立っていた。
「ここがデポトワール商会か……」
いつも通っているファレノ商会程ではないが、なかなかに立派な建物だ。
それもあくどい事をやって稼いだ金によるものだと思えば、怒りしか湧かないが。
建物の中を窺えば、もう深夜だというのに明かりが灯っている。
一応軽く事情は本人たちからも聞きたいと思っていたし、好都合だ。
女神様から貰ったチート能力の一つ〈静寂空間〉を発動する。
建物全体が不可視の結界で覆われる。
これで、どんなに騒ごうととも、外に気付かれることは無い筈だ。
「ちょっと邪魔させてもらうぞ」
俺は閉じた扉を蹴破って、建物内へと突入する。
「な、なんだっ! てめえはっ!」
「ここを何処かわかってんだろうなぁ、ごらぁ!」
異変に気付いた連中が、俺を取り囲む。
どいつもこいつも悪そうな奴ばかりで、俺は逆に安心感すら覚えた。
「てめえは昼間のっ!」
どうやら俺の事を覚えていた奴もいるようだ。
ま、俺の方は覚えてなどいないが。
「お前たちは俺の穏やかな日々に茶々を入れやがった。その罪は万死に値する。と言いたい所だが、今限りで商会を解散してこの街から去るなら見逃してやる。さあ、選べ!」
俺は奴らへと向けて大声でそう宣言する。
「ああん、何舐めたこと言っとんのじゃ、われぇ!」
連中の一人が、威圧するような声を上げながら俺へと迫る。
「息が臭い。近寄るな」
俺は右手を無造作に振るい、その男弾き飛ばす。
大の大人が、まるでピンボールのように跳ねて壁にぶつかる。
「……な、なにしとんじゃわれぇ!」
その様子を見た他の連中が一斉に俺へと向かって来た。
中には刃物を持った奴の姿も見える。
「最初からそうしろよ。愚図な奴らだな」
そう吐き捨て、俺は回し蹴りを放つ。
それだけで、連中は一斉に吹き飛んだ。
「く、くそっ、先生を呼べっ!」
連中の一人が建物の奥へと消えていく。
まあ構わない。どの道お前ら全員、俺からは逃げられないんだからな。
「やれやれ、騒がしいですね。なんの騒ぎですか……?」
少し待つと、そんな言葉と共に陰気な雰囲気の男が現れた。
紺色のローブを纏い、手には杖を持っている。
如何にも魔法使いといった装いの中年男性だ。
「何者か知らねぇが、ソンブル先生が出て来たからにはお前はおしまいだぜ! 先生はビショップランクの冒険者だ。そこらの餓鬼が勝てる相手じゃねぇよ!」
冒険者、ねぇ。
やっぱ異世界と言えば、冒険者の存在は必要不可欠だよな。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺はソンブルという名の魔導師と対峙する。