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17 招かれざる来訪客

本日更新2回目です。

 翌日朝早く、荷物をリアカーへと載せて、フィナと2人で孤児院へと向かう。


「コウヤ様。今日はどのようなご予定なのですか?」


 フィナが俺の顔を覗き込むようにして、そう尋ねてくる。

 かつてはくすんでいた金色の髪が、今は艶を取り戻している。

 その姿は13歳の少女らしいピュアな魅力に溢れていた。


「まずはあのボロボロの建物の補修だ。とりあえず俺達が住めるようにしないとな」


 いずれ建物そのものを建て替える予定だが、今はあるものを使えるようにするしかない。


「多分力仕事も多いから、孤児院の子供たちの力はあまり当てに出来ない。フィナ、頼りにしているぞ」


「は、はい! 任せて下さいコウヤ様っ!」


 俺の言葉に何故だかフィナが嬉しそうに答える。

 言ってしまえば俺は扱き使う宣言をしただけなのだが、素直なフィナはいい風に受け取ったらしい。

 まあ気分良さそうにしているのに、水を差すのも何だし黙っておくことにする。



「お待ちしておりました。コウヤ様」


 まだ朝の7時という早い時間にも関わらず、リズリアが孤児院の入り口で待ち受けていた。

 ちゃんと食事を摂ったおかげか、その姿は昨日よりも元気そうに見える。


「もう朝食は食べたのか?」


「わたくしは既に済ませております。子供たちは今食べている所です」


「そうか。今日はやる事が山積みだからな。早速、俺達は作業に取り掛かる。年長の3人にも食事が終わったら俺ところに来るよう伝えてくれ」


 なんやかんやで孤児院の建物はかなり大きい。

 軽い補修だけでも、今日1日で終わるか微妙な所だ。


「分かりました。それでわたくしはどうすればいいでしょうか?」


「リズリアは子供たちの面倒を見ないとダメだろう?」


「……ですが」


 リズリアが食い下がろうとするが、俺は手ぶりで押し留める。


「気にするな。それに小さな子供に邪魔された方が余程困る。それを見張る人間は必要だ」


「……分かりました。何かあればいつでも声を掛けて下さい」


 複雑そうな顔をしつつも、俺の言う事に納得したのだろう。

 大人しくリズリアは引き下がってくれた。


「そうさせてもらう。じゃあフィナ行くぞ」


「はいっ!」


 フィナが妙に張り切っているように見える。

 俺は彼女のそんな姿を見て、なんだか微笑ましい気分になる。


「よし、じゃあ張り切ってやるかっ!」


 そう言って、孤児院の補修作業を開始した。

 まずは、そこかしこに散見される穴を塞ぐことから始める。

 俺はフィナへと作業の指示を出しながら、片手でスマホを操作し注文する。

 工具などは昨日のうちに準備していたが、板などの補修材については現地で注文した方が運ぶ手間を考えると楽なのだ。


「お、遅くなりましたっ!」


 息を切らしながらティアナがやって来た。

 それに少し遅れて、ロイドとスノウもやって来る。


「来たな。そうだな……ティアナとロイドは、外の壁の補修を頼む。フィナとスノウは床の補修をしよう」


 俺は建物を出たり入ったりしながら4人それぞれの作業を見守りつつ、適宜指示を出していく。

 まあ指示を出す俺を含め全員が素人だから、それ程効率は良くないだろうが、それでも徐々にだが作業は着実に進んでいく。


 お昼に休憩と食事を挟み、作業を再開した俺達だったが、そこに邪魔が入る。


「おーおー餓鬼どもが、いっちょまえになんかやっとるのう」


「こんなボロ屋。直すより壊した方がいいんとちゃうか?」


 如何にも柄の悪そうな男たちが、敷地内へとズカズカと入って来る。


「なんだ、お前ら?」


 丁度外にいた俺は、そいつらの進路に立ち塞がるように前へと立つ。

 怯える表情を見せる子供たちに、手ぶりで建物内へ逃げろと指示を出す。


「なんやあんさん?」


「ここのオーナーだよ」


「ほう。てことは、あんさんがここを買い取ったちゅう奴か」


 男たちのリーダー格と思わしき男が、一歩前へと進み出てそう言う。


「あんさん悪いことは言わん。わいらにここを売りなはれ。そうやな今なら100万Gで買ったるわ」


 2000万Gで買ったのを、その20分の1で売れだと?


「はぁ?」


「あんさん、デポトワール商会を前にして、その態度はちょっと無いんやないか?」


 デポトワール商会……。どこかで聞いた名前だな。

 

 確か、ルーイヒの部下がこの孤児院を買い取った商会の名がそれだった気がする。

 要するに、孤児院の権利をだまし取った連中ってことか。


「もう一度言うからよう聞きいや。100万Gやるから、ここをワイらによこせや」


「はぁ、寝言は寝ていえよ」


 男の余りにバカバカしい発言と態度に、思わずそう返す。


「なんやわれぇ。舐めとんのかっ、ごらぁ!」


 後ろにいたデカい男がそう叫びながら、建物を蹴りつける。


 おいっ、折角補修した箇所がまた壊れたじゃねぇか!


 つい殺気混じりに俺がその大男を睨み付けると、そいつはビクッと体を震わせて後ずさる。

 そんな部下の行動に対し、リーダー格の男は手ぶりで制止する。


「まあ、落ち着けぇや。……なあ、あんさん。もうちょい殊勝な態度とらんと、うちの若いものがあんさん達に何するか分からん。まあ、また来るから、考えとってくれや」


 それだけ言って、男は後ろへと振り向き去っていく。

 他の男たちもそれに追従している。

 それを俺は黙って見送った。



 途中トラブルはあったものの、その後は順調に進み、夕暮れ時になった頃には一通りの作業は完了した。

 外の壁に空いた穴は、ざっと見た感じ全て埋まっている。

 まあ素人仕事なので見た目は悪いが、それでもこれで隙間風などの心配は無くなったはずだ。

 中の床についてはまだ全部ではないものの、踏んだだけで抜けそうな箇所は粗方補修は完了した。


「ありがとうございます、コウヤ様。おかげで隙間風に震える心配がなくなりました」


 この辺りの気候的に凍死する心配はないのだろうが、それでも夜はそれなりに冷える。


「あー気にするな。俺自身の為でもあるしな。それにこれはただのその場凌ぎにし過ぎない。いずれ建て替えが必要だろう」


 そもそも基礎からして、ボロボロなのだ。日本だと間違いなく建築基準法に引っ掛かる。

 まあ、ここの建物に日本の建物のように大地震を想定した設計が必要かは不明だが。

 その辺はおいおい調査していく事にしよう。


「それから昼間の人たちについてですが……」


 リズリアが心配そうな表情で俺を見つめる。


「ああ、あの連中か。大丈夫だ。対処方法はちゃんと考えてる。心配の必要はないよ」


 リズリアだけでなく、他の子供たちにも聞こえるよう大声でそう言う。

 これで少しは安心してくれるといいのだが。


 やれやれ、俺の楽しい異世界ライフに水を差すような真似をした罪は重い。

 その報いは受けさせてやるよ。


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