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異世界アパート『異世界邸』の日常 作者:カオスを愛する有志一同

魔王編

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騒々しさと困難と 【part夢】

 空に満月が輝いている。
 月光が静かな森の中へと降り注ぐ中、木々の影を走り抜ける二人の人物がいた。
「ったく……ポンコツの奴……」
「仕方なかろう。あやつとて異世界邸の住人。そう簡単にくたばらん奴じゃし、そいつが危機的状況に陥ってるということは異世界邸の住民クラスの化け物がおるということじゃ」
 そう、神久夜は貴文に並んで走りながら言う。
 貴文と神久夜は【001】の探索に出ていた。時刻は午前二時半。ちょうど連絡が来てから三十分が経過する。
 一応途中でまだポンコツが生きていれば緊急信号で連絡してくると思ったのだが、貴文の持っていたスマホはそんな信号を受信するわけもなく、静かに黒い画面を映している。
「一応、森だけじゃなくて空も探すか?」
「ううむ……空というより一度飛んでここいら一体を確認してみるかのう……」
 そういうと神久夜と貴文は足をとめ、お互いに顔を見合わせる。
 その時の二人の顔は……。
「要するに……空……飛ぶという方向でいい?」
「う、うむ……飛行能力を手に入れるとなると久々にアレをせんといけんのう」
 何故か、赤面していた。
 この緊急事態が発生している時にも関わらず、まるでなかなか煮え切らないカップルのように恥ずかしそうに顔を見合わせる二人。
 それからしばらく静寂が広がっていたのだが……。
「……流石にここでデレデレしてたら館の連中にキレられるな」
「そう……じゃのう」
「じゃあ、久しぶりに……」
 神久夜はとっと貴文の背中に飛び乗ると、尖った爪で少しだけ貴文の首筋から背中にかけて服を裂く。
 すると、貴文の背中の上部分になにやら錠前のような痣が出現する。
「久しぶりじゃから……上手くできるじゃろうか」
「気にせずにとりあえずやってみればいいと思うよハニー」
「そうじゃのうダーリン。では……」
 そう言って神久夜は鼻を鳴らすと、小さな体に纏っていた和服を崩し、胸元を顕わにする。
 お世辞にも豊満とは言えない小さな可愛らしい幼女の肌が顕わになる中、その胸元にはまるで鍵のような形をした痣が現れる。
 それを……。
「えい……!」
 体を倒れ込ませ、貴文の背中にある痣と重ねるように押し付けた。
 その瞬間……。

 辺りに激しい閃光が走る。

 貴文と神久夜の体は白い光に包まれ、一瞬見えなくなったがその僅か二秒後に彼らの立っていた場所には見たこともない一人の人物が立っていた。
 それは中性的な体つきと言えばいいのだろうか。
 貴文と同じくらいの身長をした人物。黒と白に髪色が縦に分かれており、狐のような耳と、九本の白と黒の尾を持っている。服は十二単のような鮮やかな色彩の和服を纏い、背中には赤い炎の燃ゆる光輪が浮かんでいる。
「久しぶりだ……この感覚は……」
 その人物は小さくそう呟くと、とっと地面をける。
 すると、まるで無重力の中で動いているかのように体が浮き始めた。
『やはり、この状態は心地よいのぉ』
「そうだね。ハニーを肌で感じられるからかな?」
『体そのものが同化しておろうがたわけめ』
 頭の中で神久夜は苦笑しながら、貴文に笑いかける。
 この姿は……過去異世界邸がやばい状況になった時にお互いの能力を最大限に引き出す特殊能力を発揮した時の姿。
 貴文がまだ管理人として新人だった時には神久夜と知り合った時からかなり乱用していたのだが……こののの誕生やらその他の雑務やら、体力を他のことに消耗することが多くこの技を使うことは出来るだけ少なくしていた。
 なぜならまぁ……分離した後に二人ともどっと疲れてしまうのである。
 お互いがお互いの中に眠る力を引き出し合っているような状態なので常に負荷がお互いにかかっている。
 なおその時に自動で発揮される能力としてあげられるのが、

 ・天之羽衣あまのはごろも(飛行能力)
 ・完無双璧かんむそうへき(能力無力化)
 ・神人之体しんじんのたい(身体能力大幅向上)

 以上の三つの能力が常に発揮される。それに加えて他にも能力が発揮されるものがあるのだが……まぁ今回は使わないだろう。
 今回使うのは、常に発揮されない任意で行う系統の能力。
「千里眼……」
 貴文が目を閉じると、その瞬間周囲の光景がクリアに変わる。
 未だの木々の間を登り空へと向かっている最中であったが、周囲の気配や状況に感覚が敏感になっていく。
 その中で、
「……ん? 何だあれ……」
 木々の上へと辿りつき、町の状況が見える位置まで登ったあたりで貴文の視界に異様なものが映る。
 それは……山の麓の光景。
 山の麓には普通の町が広がっている。普通とは何かと聞かれれば色々と説明が難しいのだが、簡単に言うと異世界邸クラスの問題児ではない人々が暮らしている。
 その麓の町が……。
「白蟻……か?」
 白蟻の群れに襲われていた。しかも普通の白蟻ではない。異常なサイズに膨れ上がった白蟻。コンクリートやら他の諸々やら食い漁っている。
「何だあの白蟻……どう見ても普通じゃないな……」
(普通じゃないどころか大事じゃろう。あのポンコツが接触したのはあれ関連のようじゃな)
「そうだね……」
 見るからに異常の塊のような白蟻の姿をした化け物の群れ。これはどうやらいつもの異世界邸だけの問題どころでは済みそうにない。
 糞……こちとらだいぶ寝不足だというのに。貴文は唇を噛みながらも麓に向かって飛び立とうとする。
 その時だった――。
「――っ!?」
 突然視界の隅に一筋の矢のような軌跡が見える。それは凄まじい速度で空中を駆け抜けるとこちらに向かって走り抜けていった。
 髪を止めていた留め具がその時に砕かれ、金色の破片が宙を舞う中、貴文と神久夜の視線はその突然の急襲を行ったものへと移る。
 【千里眼】のアビリティで視力と感知能力が引き上げられた二人には木の影にいたそいつがはっきりと見えた。
 それは……人の姿をした白蟻だった。いや、違う、人の姿に化けた白蟻と言えばいいのだろうか。
 それは細身の体に機械義手のような腕。白い装甲に包まれた体に青い髪を持った触覚の生えた男。外見はイケメンの部類に入るが、その体から放たれる匂いは確実に人のモノではない。
 白蟻……虫のような匂いがした。そして、そいつの表情は無機質で考えの分からない虫のような顔であった。
「……誰だ……」
 はらりと前髪が目にかかる中、貴文はその人物に問う。
 しかし、
【GTYON……】
 そいつは答えず、義手のような白い装甲に覆われた腕をこちらに向ける。
 次の瞬間。
『キるゆぅウ?……』
「――なっ」
 まるで幼い子供が発するような高い声を発したかと思うと、その義手は大きく展開される。
 手を覆っていた装甲は立てられるように開き、その中から黒い金属質の銃口のようなものがいくつも並ぶ。それはそのまま手の周りをまわるように回転するとそのまま無数の弾丸を吐き出した。
 銃口から吐き出された銃弾はそのまま空中を飛び廻ると、こちらにむかって一直線に降り注ぐ。
 だが、こんな攻撃をまともに喰らうわけがない。
瞬身之功しゅんしんのこう!」
 貴文と神久夜は素早くスキルを発動させる。その瞬間、彼らの背後の光輪が時計に書き換わり、高速で回転する。
 瞬身之功。自分の一分間を周囲の一秒間に置き換える技。分かりやすく言えば……。
「高速移動……」
 空中に足を踏みしめると、小さく空間にひずみが現れ、そのまま貴文は走り出す。まるで空中を駆け抜けるように目標の人物の元へと走る。
 その時に貴文は見た。
 スローで走る弾丸の姿を。
「……白蟻……?」
 空中を駆け抜けていたのは鉄の玉ではなく、白蟻の群れであった。よく考えればこの姿になっている時に身につけている自分の装備は普通の弾丸では貫通もしなければ砕くこともヒビを入れることもできない。
 空中に走っている牙をむき出しにした白蟻の群れ。こいつらが髪飾りをかみ砕いたのか……。
 どうやらこいつらは異世界邸にいる連中よりもたちが悪そうだ。
 異世界邸の奴らは本気で戦ったとしても自分の身につけている服が破かれたりはしない。彼らに砕かれないような特別な素材の服を使っているからだ。
 今のこの姿の装備はその何千倍も強い装備。それが……。
(まともに当たったらやばそうじゃのう……)
「それな……」
 身に受けてからでは遅い。よくラノベやアニメでダメージを受けてから焦る主人公がいるが……負傷した時点でもう既に不利な状況に立っているのだ。貴文はそんな馬鹿な真似はしない。
 戦うなら本気で。遊びならば手を抜こう。だが、先ほどの攻撃は確実に頭を狙ってきていた。
 反応しなければ殺されていた。ならば……これは戦いだ。
 貴文は目標の背後に回ると腕を大きく引き絞るように後方に回す。
月突狐王つきつきこおう……」
 そんな小さなつぶやきと共に紫電を纏い始める両腕。後方の光輪が勢いよく回転し、炎を噴き上げる。
 そして……。
【ZADRUAAAAA!!】
 両腕によって放たれる突き出し。それは目標の背中を捉えると、衝撃が貫通し、旋風を巻き起こす。
 両腕に蓄積された紫電が解放され、ビームよろしく出現した力の奔流に敵は飲み込まれていく。
 だが……。
「……やばいな……」
 貴文は顔をしかめた。
(こいつ……やばいのう……ここは引くぞい)
 光の濁流が視界を覆う中、二人はすぐに「避難」という選択をする。
 それは何故か……。
【ZIIKKK……】
 白く染まった視界の中、一つの人影が出現する。
 それは……。
 あの攻撃を受けても傷一つ負っていない敵の姿。
「まじかよ……本当にお前誰だよ。名前を名乗れ!!」
 貴文は距離を取るとその人影に向かってそう叫んだ。
 すると、その青年は答えた。
『ぼボぼくは……アリ……蟻天……ショウ? な、ナラク……』
 首をパキパキと動かして、壊れた機械のような声で告げたそれは、いびつな笑みを浮かべた。

 ***

「――っ!?」

 突然の悪寒にこののは目を覚ます。時間を見るとまだ深夜。いつも起きている時間よりも圧倒的に早い時間。
 だが、こののの全身はぐっしょりと汗で濡れており、胸元が爛々と赤く輝いていた。
「何……何なの……」
 こののは戸惑いながらも、自分の胸元を見てみる。
 するとそこには……一つの錠前のような痣が浮かびあがっていた。
「痣……こんなのあったっけ……」
 見覚えのない痣に混乱するこのの。しかし、その痣から一つの声が響く。
【このの……聞こえるかの】
「……母さん?」
 そこから響いてきた声は聞き覚えのあるもの。自分の母親である神久夜の声だった。
【少し今やばいことになっておる。館の皆に戦闘に備えよと伝えてくれんかの】
「え? 何? 何がどうなってるって?」
【もう連絡が取れん。よろしく頼むのじゃ】
 そういうと響いていた声は途端にやむ。それと同時に痣が消えていき、静かな空間だけが広がっていく。
 残されたこののは……。
「何なのよ……うちの両親は……」
 いつものように愚痴をこぼしながらも立ち上がり、服を着替え始める。
 全く……相変わらずの両親だ……。
 いや、違うな。

「何でうちばっかりこんなことになるのよ……」

 この混沌のたまり場ともいえるこの館が原因だ。
 何故……この館にはこんなにもカオスな状況が集まるのだろう。
 胃がきりきりと痛み始めたのをかんじたこののは大きくため息をついた。
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