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これからツキイチのペースで更新していこうと思います。
クロス×ライン
作:阪野隆平



五話 移動


 
 西暦二千二十五年一月三十日、午後五時
 帝都第六ブロック基地内の零番隊隊室


 命人に妹である椿が『有害指定生物』に襲われたと聞いて、命人から椿がどこの病院に搬送されたのかなり強い口調で柊は聞いた。

「一体、どこの病院にいるんですか!」
「落ち着きなよ、木野君」
「これが落ち着いて……」
「はい、スー、ハー」
「……スー、ハー」
「うん、うん、いいよ。落ち着いたかい」
「多少は……」
「落ち着いたところで、場所を言おうか。場所は『帝国立第六病院』だよ。車を回すようにいうから……君、運転できるよね」
「出来ますけど。隊長だって……」
「ボクが運転をしたら優秀な憲兵に引っ張られるじゃないか」
「…それもそうですね」
「あっさり、納得されるのも結構傷つくものだよ」

 どこか気の抜けた会話をして、命人は再び受話器を手に取り車の手配を済ませた。
「さ、早く行こう」
 この一年で見慣れてしまった青い瞳がせかすように言った。

軍用の車庫に着き、そこの管理兵から車の鍵を貰った。鍵を受け取った命人はその鍵を柊に渡す。その兵士に案内され、見せられた黒い車体の車は一見すると普通の車と見分けはつかなかったが、ガラスは防弾性という事に柊は気づいた。
「なんで、防弾性なんですか」
「見ただけでわかったのかい。一応、軍の車両だからね。普通のガラスよりは安全でしょ、色々とね」
 そういうと命人は助手席の扉を開けて助手席に乗り込む。柊もそれに続いて運転席に乗ったときには命人はすでにシートベルトをつけていた。柊もシートベルトをつけながら命人は言う。
「妹さんは電話によると軽傷、擦り傷だけだって。今は気を失って寝ているらしいよ。そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だって」
「少なくとも無傷じゃなければ安心できません」
 はっきりと柊は言った。柊が借りた車の鍵にエンジンをかけると、小気味いい音と振動が車内を揺らした。
「妹さんが大切なんだね」
 命人が前触れもなく聞いた。その質問に柊は迷うことなく答える。
「たった一人の肉親ですから」
「ご両親は……。言いたくなければ言わなくていいよ」
「……両親は自分が子供の頃に事故で死にました」
 短く柊は言った。別に悲しむ様子もなく淡々と事実を語る。
「自分が子供の頃、椿を、妹を祖父の家に預けて出かけたときに事故に遭った。そう祖父から聞いています。そのとき自分もまだ子供だったので悲しみはしましたけどもう過ぎたことですよ」
「そう……それは尚更心配だね」
 命人がそういうとポケットから携帯ゲーム機を取り出した。
「ここでもやるんですか」
 柊は少々呆れてしまった。こんなわずかな時間も惜しむことなく強さを求める自身の上官の姿に。
「時は金なり、だよ」
 命人がそう言ったあと車内はゲームの効果音以外は聞こえなくなった。
 車が発進し基地の軍門を通り車道に出る。外はすでに暗くなっていた。電灯の明かりで昼とは違う感じの明かりに包まれる街中を車が走る。
「『生物』が……」
「ん?」
 柊がハンドルを握りながら言葉を紡ぎだした。沈黙を破るかのように。不安を逸らすかのように。
「『生物』が街中で暴れるって、ここ最近聞いたことありませんでしたよね」
「そうだね。それに街中まで来れるって事は彼、もしくは彼女はかなり上位クラスの『生物』だよ。」

 『生物』の上位クラス。それは喰った人の皮を『被る』ことができる『生物』のことだ。人の皮を被れば人間社社会の中に溶け込み簡単に『食料』が手に入る。周りはエサだらけなのだから。だが、このことが出来る『生物』はある程度の『理性』を持つ、上位クラスの『生物』のみだ。それ以下のクラスの『生物』はなりふり構わず、本能に従い死ぬまで人を喰い続ける。
 『理性』があるかないか。
 これが上位と下位の違いだった。

「理性ある『生物』がなんで街中に?すぐに殺されることがわかっているはずですよ」
 もしかして、死にたかったのだろうか。
ある種の鼠は大量に増えすぎると集団で海に飛び込むというのを聞いたことがある。
 命人の答えは、
「……………」
 彼女もわからないというように。唯一聞こえるのは非現実の世界の効果音だけだった。
 対向車線の車のライトが二人の車内を照らした。

 柊たちの乗る車の中を照らした車の中では二人の男が話している。
「これで計画は上手くいくはずだ」
「しかし、あのような手段で零番隊を動かすというのは……かなり乱暴だったのでは」
「他にいい方法があるかね。むしろ、あの程度の被害で零番隊の出動要請が来たこと自体、私は驚いているのだよ」
「……確かに私も驚きました」
「まぁ、これであの役立たずの処理も滞りなく進めば何も言うことは無いのだが……さすがにそう上手くはいかないだろう。いや、あの役立たすが予想以上の働きをしたとなると、それはそれで我々の計画は破綻だよ」
「そんな可能性があるでしょうか。あいつにはもう……」
「確かに、完全な状態とは言えないが、そのことが逆に予想外の力を引き出すことにも繋がることがあるのだよ、大尉」
 彼らの会話は当然柊たちには聞こえなかった。

 病院に着くと大勢の人でフロアが埋まっていた。決して狭い訳ではなく人が多すぎるのだ。
「『生物』が街中で暴れるといつもこうだよ」
 命人が訳知り顔にいった。
「どういうことですか」
「『生物』の中には病原菌を発生する奴もいるって事だよ。消毒をしに来たんだろうね。健康は大切だから」
 命人の言葉の内容で柊の記憶の中にヒットする事柄があった。
「【事例一『生物』空輸密輸事件】ですね」
「その通り」
 
【事例一『生物』空輸密輸事件】とは二十年前に起こった事件で、その名の通り初めての空輸密輸事件のことである。この事件は空輸密輸途中、急に暴れだした生物が輸送機から外に出て、通過途中の下の街に着地した衝撃で『生物』が死亡し、その死体から病原菌が発生。街一帯の住人全員がその病原菌によって感染死するという、『生物』密輸史上最悪の被害を出した事件であった。
 これ以後、『生物』が死ぬと病原菌が発生するという噂が蔓延し、捕殺を避けろという動物愛護団体以外の一般人の主な理由のひとつだった。
 実際には全ての『生物』が死んだときに病原菌が発生するわけではなく、この事件で死亡した『生物』の能力がたまたま病原菌を発生させるというものだったためであり、死亡した直後、この能力が暴走したためである。

「うん、二十年前、その事件のときに行った病院もこんな感じだった」
二十年前といえばまだ、柊が五歳の頃だ。その頃からすでに目の前にいる小柄な少女は軍に身を置いていたのか。
柊は耐え切れず初対面のときと同じ事を聞いた。
「一体何歳なんですか、森山隊長」
「教えない」
 答えは前と同じく短かった。
「それよりも、ここに来た理由、忘れているわけじゃないよね」
「もちろんです」
 妹である椿の安否の確認である。命人は軽傷だといったが、実際に自分の目で妹の怪我の状態を確認しないと柊は安心できなかった。
 そして、先ほどの会話で気になることがあった。もし今回死んだ『生物』が二十年前の『生物』と同じ能力だとしたら……。
「今回、死亡した『生物』の能力は?」
「溶解液を吐き出す奴だったらしい。珍しい能力じゃないよ」
 危険であることには違いないはずだが。そう柊は思ったが何も言わずもうひとつ木になっていることを聞く。
「死んでも病原菌は」
「発生しなかった。六甲が確認したから。まず、間違いないよ」
 そのことを聞いて安心したが気になる名前が出てきた。
「六甲って、確か……」
 どこかで聞いたような名前であったが、思い出せず、命人が答える。
「今君の使っている机の持ち主で零番隊の副隊長だよ」
 柊はこれまでの会話から、もしかしたらという推論を組み立てた。
「その人が今回の『生物』を倒したんですか」
 一人の『人間』で『生物』を倒したとなるとそれはもはや『人間』ではない。『生物』と同じ『化物』である。
「そうだよ。もちろん一人でね。無茶するタイプなんだよ、結構ね」
 青い瞳が少し笑った。
柊は「そういう問題じゃない」と思ったがもう何も言わなかった。こうなったら直接本人に聞いて真偽を確かめよう。
そんな考えを知ってか知らずか、命人は言葉を続けていた。
「連絡をくれたのも彼。『生物』が現れたときにたまたま、近くにいたらしくてね。彼がいなかったら被害はもっと出ていたかもしれないよ。会ったらお礼、言わなくちゃね」


気長に待っていただけると幸いです











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