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おお勇者よ、死んでしまうとは情けない……えっ、ならお前が行け?【長編版】 作者:黒猫時計

第七章 ネウロガンド編

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魔王城一階

 城の中へ足を踏み入れると、門はひとりでに閉じられた。
 ゴウンと重たい音がエントランスに響き渡り、両脇に伸びる回廊へと走り抜けていく。残響する音が消え去ると、魔王城は眠るようにシンと静まり返った。
 静かすぎて不気味ではあるが、魔物の気配などはいまのところ感じられない。

「まずは一階か」

 呟き、わしは五十メートルほどの奥行きのあるエントランスを眺める。
 何本もの石柱と、奥へいく間に両脇へ二カ所設けられた黒い扉。最奥には大階段があり二階へと続いていて、上り切ったところに大きな扉が設えてあるのが見える。
 特に目立つものはこれくらいか。
 中はさぞおどろおどろしいのだろうと思っていたが。大きな街の大きな館みたいで、昼間に見る魔王城の外観くらい拍子抜けだ。

「とりあえず行ってみようぜ」

 そう言って先に歩いていくライアにわしらも続く。
 段数三六ある階段を上り扉の前まで来てみると、真ん中で割り開かれる形に左右対象となっている、悪魔の顔のような浮彫がわしらを睨んでいた。
 しかしその両目に眼球はなく、ただ暗く窪んでいる。
 取っ手なども見当たらないためどのようにして開けるのだろうか。などと疑問に思い拳を作って手を突っ込むと――「どうやら何かをはめ込むようですわね」とソフィアが呟いた。

「また門番でもいるんじゃないかって心配したけど、ここは大丈夫そうだね」
「んじゃあサクサク探そっか」

 なんともみっともない格好で固まるわしの背後で、女子たちが先を促しては階段を下りていく。
 出来ればこの状況に突っ込んでほしかったが……。そろりと悪魔の眼窩から手を引き抜くと、とにかく前向きなクロエと楓に倣い、わしも「では行こうか!」と張り切って皆の背に続き階段を下りたのだ。

 一先ず、最初に目についた階下の扉を開けようとしたのが、鍵がかかっているのか開かず。
「あたしに任せろ」そう言って童子切を抜いたライアが斬り付けたが弾き返され、
「情けないわね、ちょっとどいてなさい」呆れながらも拳を強かに叩きつけたソフィアの攻撃も結果は同じだった。
「じゃあ次はわたしね」そう言ってクロエが圧縮された突風の魔法を繰り出したが、扉に阻まれた風は掻き消え、
「んじゃアタシも!」続けて大火球を放った楓の火遁もぼしゅんと弾けてなくなった。
 どうしたものかと論じ合う女子たちを横目にし、

「ふふん、わしの出番ということだな!」いいところを見せられると意気揚々と一歩踏み出したところへ――
「どうやらこの扉、外にいた鉄巨人と同じ材質で出来てるみたいだな」

 とライアが結論じみた言葉を述べた。
 まだわし攻撃してないのに! ブランフェイムを抜いたが振れず。そんな恨みがましい目線を送ると、

「じゃあやってみろよ、おっさん。開いたらハーレムにでもなんでも入ってやるよ」

 とどこか投げやりにライアは言った。
 その言葉を聞き、俄然やる気が出てくる。

「まあ開かなくてもお前さんたちはハーレムに入れるが、わしもお前さんたちに入るということも往々にしてあ――いやなんでもない」

 咳払いで一つ誤魔化し、わしは早速逆手に持った剣を背後へ回した。
 そして、「ワルドストラッシュッ!」輝く刃の剣閃を扉に向かって放ったのだ。
 しかしストラッシュは扉に当たった瞬間、外にいた甲冑の時と同様、大した傷一つ付けられずに爆散した。

「…………」
「ほら見ろ、だから言わんこっちゃない」
「大技一発、無駄撃ちしましたわね。残り二回分ですわ」

 ライアとソフィアからチクチク責められる。それを傍から仕方なさそうにクロエと楓が眺めていた。
 鉄巨人は黒いスライム頼りの他力本願だったから、今度こそはかっちょいい姿をと思ったのに。
 ……それもこれも、こんなたかが扉にあのような馬鹿げた金属を使った魔王のせいだ! 絶対に許さんぞ。

 小言もそこそこに。
 エントランスから続く西側の回廊へ入ったわしらは、点々とするいくつかの扉から部屋へ入り中を物色した。
 部屋といっても寝具や調度品が置かれているわけではなく。
 ただ四角い部屋の中央に一段高くせり上がった東屋みたいなものが設置され、その真ん中に宝箱が置かれていた。色は青、というわけでロクサリウムで作った魔法の鍵が久しぶりに役立った。
 中身はHPMPを回復させるポーションだったり、ゴミのように錆びた盾だったり、柄に宝石があしらわれたナイフだったりなんかした。
 この内ナイフだけが奇抜で、丁度峰側から縦半分に切り離したような形をしている。これでは武器として役には立たんが、念のために拾っておくことにし先を急いだ。
 が、廊下を右へ折れるとその先は行き止まりだった。そしてまた一つ木で出来た扉が出迎える。

「こいつは破壊を試みるまでもねえな、ただの扉だ」
「けっこう距離あるけれど、位置的にエントランスの真裏かしら」
「なにかありそうだね」
「あの悪魔にはめる球でもあったりして」

 何が飛び出してくるか分からん故に、アダマスの盾を構えながら女子たちを背中に庇い「……開けるぞ」少し緊張しながら扉を押し開けた。
 思いの外、キィイと蝶番が大きな音で鳴いたので「ヒィイイ」とビクつき肩を竦ませてしまう。

「おっさん……」
「い、いまのは仕方なかろう、こんなおんぼろ扉を付けた魔王が悪いのだ! わしが小心者なわけじゃないぞッ。ああそうだとも、勇者なのに小心者だとかあるまじきことだろう」

 言い訳を口にしながらも、恐る恐る部屋の中を覗く。するとそこは今まで見てきたような正方形の部屋だった。
 しかし東屋みたいなものはなく。四隅に飾られた違う武器を手にする銀の甲冑が、ただ中央に置かれた台座を向いている。その台座上には燭台らしきものが立てられていた。
 近づいて見てみると、燭台にはさらに小さな台が備え付けられ、真ん中が多角形に窪んでいる。

「この形は……」
「勇者さん、間違いないよ。これってあの結界の洞窟で拾った結晶を置くんじゃないかな?」
「うむ、どうやらそのようだな」

 同じことを考えていたことが嬉しく、クロエにニコリと頷き返し、わしは道具袋から正二十面体の黒い結晶を取り出した。そして窪みに置いてみる。
 すると燭台が沈み台座の周囲が淡く紫色に輝きだす。少しして、どこか遠くからガゴンと鈍い音が響いてきた。

「なるほどね。ここがあの黒い扉を開けるスイッチだったってわけ」
「ってことは、右の廊下の方にもあるってことだねー。ここはもう用済みだし、早く向こうに急ごっか」

 反対にも同じ部屋があるだろうと指差す楓に頷いて、部屋を出ようと扉へ向かおうとしたその時。
「部屋を出るのはこいつらを倒してからだぜ――」とどこか楽しそうに声を弾ませるライアの声がした。次いでガシャリと重なり合うように四方から聞こえた金属音。
 四隅に目を配ると、それぞれ大剣に二刀の剣、斧に槍を携えた甲冑が動き出していたのだ。

「分かりやすいトラップだこと」グローブをぎゅっと押し下げて、ソフィアが二刀剣の甲冑へ歩いていく。
「魔物が出てこないから安心してたらこれだもんね」クロエは両の手先でそれぞれ違う属性の魔法陣を展開しつつ、仕方なさそうに斧の甲冑へ向かった。
「体が鈍らなくてこれはこれで有難かったり? まあしないけどさー」楓は忍刀を抜き放つと、槍を携える甲冑へ。

「あの、わしはどうすれば……」
「おっさんは結晶の回収でもしてろ」

 言いながら、ライアは大剣の甲冑と相対する。
 まあ四人がそれぞれ一対一で戦うのなら、わしはお邪魔虫だろう。素直に従い、わしは台座の結晶を取り外した。
 かすかに響いた擦れるような音を合図に、皆の戦闘が始まる。
 大剣を振りかぶった魔物の一瞬の隙をつき、ライアは一足飛びですぐさま間合いを詰めると「――刃閃、三の太刀……疾風迅雷!」童子切を抜刀し払い抜けた。
 血振りの動作ののち納刀すると、無数の斬撃が宙に刻まれ、そのとおりに甲冑はバラバラになった。以前見た疾風剣の強化版といったところだろう。

 二刀の魔物と対するソフィアは、斬りつけてきた剣をことごとく避けると、強打をその都度叩き込んでいく。べこべこに鎧を凹ませていき、やがて敵の動きが鈍くなる頃、「――レイジングスレイブ!」両手を床に叩きつけた。
 すると光り輝く無数の刃が床から突出し、二刀の魔物を激しく突き上げる。剣を取り落としだらりと四肢を垂れると、魔物は完全に沈黙した。

 ひと際動きの遅い斧の魔物から距離を取っていたクロエ。左手の青い魔法陣から「ジェイルグレイシャー――」踏み出した甲冑の足元へ氷の魔法を放ち、下から徐々に氷漬けにしていく。そして頭まで氷中に閉ざされた瞬間「――グランデルストンプ!」右手の黄色の魔法陣を解き放つと、魔物の頭上にゴツゴツした巨大な岩石が現れ落下、そのまま押しつぶす。粉々に砕け散った氷の中に、鎧の欠片が見て取れた。

 槍持つ魔物の突きを躱し、そのまま横薙ぎに振られた槍の柄に飛び乗った楓は、そこから跳躍して甲冑の背後を取った。逆手に持った忍刀を自身の脇から背に向かって押し込み、魔物の背中に突き刺す。鎧を貫いた刀を抜くと順手に持ちかえ、流れるような動きで半回転し袈裟に斬り付け、さらに上段に振り上げた刀を鋭く下ろして両断した。真っ二つに割れた魔物は槍を手にしながら倒れ、先の三体とともに光の粒子となって消えた。
 本当にあっという間だ。道具袋に結晶を入れるのも忘れて見惚れてしまった。

「さてと、片付いたことだし、向こうに行ってみよー」

 勝利したことに誰もなにも言わず、あっさりとして部屋を出る。
 しかしそうだな。こんな雑魚を倒したくらいで勝利に酔うような女子たちではなかった。
 それから。右の廊下の先でも同じように黒い結晶を用いると、どこかで重い音がして、またしても甲冑四体との戦闘になった。
 わしのやることは変わらず、結晶の回収だ。
 一度見ているため、今度こそは戦闘中に道具袋へちゃんとしまうことが出来た。……だからなんだという話ではあるが。
 途中の部屋でも、明らかに呪われていそうな禍々しい剣だったり、細剣などの
アイテムを回収し、それからエントランスへ戻る。
 すると、攻撃してもびくともしなかった黒い扉が完全に両方とも開いていた。
 中の小部屋にはそれぞれ赤く丸い球が安置されていた。それを携え三六段を上り、扉に彫られた悪魔の眼窩へと球をはめ込む。
 すると目が鈍く輝き出し、ゴォオオオと不気味な音を響かせて鉄扉が奥へ向かって開いた。
 まるで体内へわしらを飲み込まんとしているかのように。

「……次は二階だな。お前さんたち、心の準備は良いか?」
「その準備が必要なのはおっさんだけだぜ」
「私たちなら大丈夫ですわ」
「勇者さん、行こう」
「いざ二階へー!」

 頼もしい女子たちに頷き、わしは皆の存在を背中に感じながら悪魔の体内へと足を踏み出したのだった。
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