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おお勇者よ、死んでしまうとは情けない……えっ、ならお前が行け?【長編版】 作者:黒猫時計

第六章 オーファルダム編

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海の祠の秘法

 無事、黄色のオーブを手に入れたわしらは、ヴァネッサと合流するため一旦フィッシャーマンズ・ドーンへ戻ることに。
 グリフォンの尾毛を使い一度飛んだのだが、馬車まではついてこないという事が分かり、横着せず街道を使ったのだ。
 中央都市ロスバラスから港町までは三日を要したが、中継地点にある小さな村や町で宿を取りながら、オーファルダム大陸最後になるだろう旅を皆で楽しんで馬車を走らせた。

 町へ入りレンガ造りの景観を望むと、なんだか少し懐かしさを覚えた。

「この町も久しく感じるな」
「それほど経ってないけどな」

 横合いからのさりげないライアの言葉に「それもそうだ」と頷いたところで。

「勇者様、楓とジェニーが来ましたよ」

 ソフィアに促され目を向けると、コスプレ喫茶でも見たカウガール姿のジェニーがこちらへ歩いてきていた。
 人探しならお手のものと、楓がジェニーを探しに行ってくれたのだが。
「楓、ぺろぺろさせてくれる気になった?」相変わらずテンション高めなジェニーに、「いや、だからそれは間違いなんだって……」それについていけてないゲンナリした楓の図が、またも初めて会った時のことを思い返させた。
 ここともしばらくお別れか。微笑ましい光景を目の当たりにし、ふとそんなことを想い一人しみじみとしてしまう。

「――あっ、みんな久しぶりだネ! 元気だった? って聞くまでもないか」
「うん、わたしたちは元気だよ。ジェニーも元気そうでよかった」
「まあ、元気が取り柄みたいなものだからネー。ところで、馬車を返したいんだって?」

 ジェニーの目がわしを向いたので頷き、答える。

「しばらく海に出なければならんからな。それにジェニーから借りた馬だ、お前さんに返しに来るのは当然だろう」
「そっか。旅の途中だって言ってたしネー」
「うむ。こやつのおかげでずいぶんと旅が楽になった。わしらの分まで労ってやってほしい」

 馬の首筋を撫でてやると、潤んだような瞳で見つめ返された。
 短い間だったが共に旅をした仲間。馬もそう思ってくれているのかもしれん。

「少し寂しくなるけど、仕方ないネ。……そういうことなら分かったよ。でも預かるだけだから。オーファルダムに戻ってきたら、いつでも使ってくれていいからネ!」
「うむ、かたじけない――」

 この厚意にはいつか必ず報いようと思う!
 名残惜しいが皆でジェニーに別れを告げ、そうして港に係留していた小舟まで戻った。
 塩気を帯びた風と潮騒と、賑やかな人々の声。雑多に入り混じりながらも、どこか心地よい響きに聞こえるのは、まだ後ろ天パが引かれる思いがあるからなのかもしれん。
 しかしわしは勇者だ。平和を取り戻すためにも、一刻も早く竜だか鳥だか分からん女神のペットを呼び出さなければ……。
 その前に、ヴァネッサの用事が先だがな。
 沖まで小舟を漕いできたところで、わしは道具袋からおもむろに海竜の爪笛を取り出して吹いた。
 ピィイイイイイ! と甲高い音が鳴り渡り、しばらくして水平線の向こうから海賊船がやってくる。
 全員女性ながらも屈強なクルーたちにより小舟を引き上げられ、わしらは無事海賊船に乗り込んだ。

「――よおみんな、元気にしてたか?」

 相変わらずの上半身黒ビキニ姿のヴァネッサが、じゃっかん窮屈そうなおぱーいを揺らしながら問うてきた。小麦色の美味しそうな肌が大変眩しい。

「わしらは大事ないぞ。そういうヴァネッサは大丈夫だったか?」
「うちなら大丈夫さ。けどオヤジ、少し丸くなったんじゃないのか? 前からこんなだったか?」

 顎に手を添え上から下から眺めてくる。なんだか気恥ずかしくなり、少しだけ尻がむず痒くなった。

「大して変わっとらんと思うが。泊まった宿の料理が割と高カロリーだったからかもしれんな」
「止めたのにソフィアと張り合って食うからそうなるんだろ」

 呆れた顔をするライアの横で、「まったくですわ」と無謀であることを強調するように呟くソフィア。
 ピザやら肉料理が食べ放題だったためか、少し調子に乗って食べ過ぎた気はする。味は普通だったが、食べられる時に食べておかねば、いつ食えなくなるか分からんしな。と、いつぞやソフィアも同じことを言っていたことを思い出し、つい笑ってしまう。
 そんなわしに「もう少し体を気遣えよな」と注意してくる女子たちへ反省の弁を述べつつも、ヴァネッサに視線を転ずると――、ライアのことを優しい眼差しで見つめていた。
 それに気づいたライアが一つ確かに頷いたことで、わしはふと下船する時のやり取りを思い出した。
 今となってはあの時の意味が分かる。ライアの過去を感づいていたヴァネッサ。皆に打ち明けても「大丈夫だ」と呟いたこと。そして過去を話したことで呪縛から解放されたライアを見ての今のやり取りなのだろう。
 言葉に出ていなくとも、「大丈夫だったろ」「ああ」そんな風なやり取りであることが容易に想像出来た。
 見えなくとも確かな絆で結ばれているのだな、とほっこりした気持ちになる。
 と――、

「そういえば、伝説に語られる岩礁というのは見つけられたのかしら?」

 思い出したようなソフィアの言により、ヴァネッサの当初の目的を皆が思い出した。
 オーク共から取り返した海鳴りの笛、それをこの世界のどこかにある岩礁付近で吹くと祠が現れる。そこには反魂の秘法が納められているという話。妹の魂を呼び戻すために、その伝説の岩礁を探しに行っていたのだと。
 するとヴァネッサはニッと白い歯をこぼすと、「ああ」と自信ありげに頷いた。

「寒いからって理由で北の海には行ったことがなかったんだけど、そうも言ってられないからさ。ってわけで見に行ったら、それらしき岩礁を見つけたよ。端から行ってればこうも時間かからなかったかな」

 ヴァネッサは肩を竦めると、自嘲気味に苦笑いをこぼす。
 皆は気遣い、笛がなかったら結局同じだからと肩を叩いて励ました。
 それを横目に、

「北の海か――」

 ぽつりと呟き、わしは一人、まだ見ぬ世界に想像を膨らませたのだ。


 ザザー、ザザーと海賊船が海原を切る。
 フィッシャーマンズ・ドーンから西へ航路をとり、しばらくして船は面舵へ切られた。遠心力で転がり船外へ投げ出されそうになったがなんとか持ちこたえ、方向感覚はよく分からんが北へ向かって進んでいるのだなと、なんとなくだが理解する。

「……少ししたら気温が一気に下がる、防寒着用意しときなよ」

 船長室へ入ったと思ったら、少しもせずに出てきたヴァネッサ。
 先ほどまでは着ていなかった黒いファー付きロングコートなぞを着込みながら、ふとそんなことを言い出した。
 肝心なビキニがコートで隠されてしまい、一人心の中で咽び泣く。

「そんな便利な物、わしは持っとらんが?」
「本当かよ!? 北海の寒気はかなり冷たいんだけど……」そこでなぜか言葉を切り、ヴァネッサはわしをジッと見つめてきて、「まあ、オヤジなら大丈夫か。そんだけ蓄えてれば」
「人を越冬するクマみたいに……」

 大して否定しようのない事実にちょっと困惑。
 まあ、マスコットだというのなら一向に構わないのだがな。
 しかしどうしようか。そう頭を悩ませていたところ、「大丈夫だよ」とクロエが言った。

「冷気のレジスト魔法なら、全員分わたしが張るし」
「おっ、そいつは助かるぜ」
「実は私も、防寒着までは考えてなかったのよね。まだ時期的に早いし」
「アタシもお師匠んとこに置きっぱだから、助かるよ。ありがとうクロエちゃん!」

 皆口々に礼を述べる。
「お安い御用だよっ」ポンと胸を叩いたクロエが魔法を唱えると、わしらに薄い被膜のようなものを張った。
 皮膚の上に空気の層が重なっているかのような感覚で、まだ暖気のはずなのだがまるで室内にいるような普通の感じ。
 それは海に流氷が浮かび始めても変わらず、すでに寒気なのだろうが冷たさも感じなかった。
 魔法というのはやはり便利なものだな。

「それで、件の岩礁ってのはどこにあるんだ?」
「こうも氷が多いと見つけにくいわね」
「座礁しないか、ちょっと不安になるよね」
「ま、その時はその時っしょ。なんとかなるって」

 北の海へ入って十数分。
 甲板から方々へ目を向け、各々が海を眺めて口々に呟く。
 海上にはまとまった氷の塊がところどころに浮かび、大きなものだと普通に乗り移れそうなものまであった。
 これではどこに岩礁があるのか分からない、たしかに多少不安が過ぎったが。
 ヴァネッサの確信めいた表情を見て、心配することはないのだなと安堵する。

「もう少ししたら見えてくるはずだ。歪な形してるからな」

 その言葉通り、やがて見えてきた岩礁はまるで剣山のように尖り海面へ突出していた。
 見るからにただの岩ではない。
 船は念のため岩礁から三十メートルほど離れた場所で停まり、わしらは船首甲板からそれを望んだ。

「オヤジ、海鳴りの笛を吹いてくれ」
「うむ」

 ヴァネッサに促され、わしは道具袋から宝石で装飾された角笛を取り出して、一息に吹いた。
 すると、ひと吹きしかしていないにもかかわらず、笛はメロディを奏でたのだ。その旋律はどこか物悲しく、優しいが哀切漂うまるでセイレーンの歌声の様だった。
 ……絵本に書いてあっただけで、実際に聞いたことはないが。
 笛の音色が最後の一音まで静かな海に吸い込まれ、しばらくすると。

「――な、なんだこの地震は?」

 突如、ゴゴゴゴゴ――と地鳴りのような音がし、海面が波打つと同時、岩礁に向かって渦を巻き始める。
 渦の中心に位置する岩礁はそれに吸い込まれるような形で下がっていき、代わりにせり上がってきたのは、真っ黒い石で出来た小さな祠を乗せた島だった。
 地鳴りが止むと、海面から三メートルほど顔を出す、直径にしておよそ二十メートルほどの小島が形成されたのだ。

「おお……本当に出てきたな。これがヴァネッサが言っていた伝説の?」
「ああ、間違いない。反魂の秘法が納められてるっていう祠だ」

 息を呑み、どこか緊張した面持ちで祠を見つめるヴァネッサ。
 船首の縁へ歩いていく背に、わしらも付いて歩く。
 そして船を寄せるように指示を出し、飛び下りれる位置までやってきたところで、皆一斉に船から飛んだ。
 女子たちが綺麗に着地を決める中、わし一人みっともなく転がる。それに対して、大して笑いもなかったことが逆に恥ずかしい。
 一つ咳払いで誤魔化し、わしは扉の付いた祠へと歩いていく。すぐ手前で立ち止まると、おもむろにヴァネッサに振り返った。

「ヴァネッサよ、この扉はお前さんが開けるのだ」
「いいのか?」
「うむ。反魂の秘法はお前さんのものだからな」
「オヤジ……、ありがとう」

 噛みしめるようにそう口にし、頭を下げた。
 長年苦労し伝説を追い求め、その伝説にようやくたどり着いたのだ。喜びもひとしおだろうと思う。
 早く妹に逢いたいと、その気持ちが急かせるのだろう。扉をなかなか開けられずまごついていたヴァネッサは一度深呼吸すると、手を震わせながらも取っ手に手をかけ、静かに扉を開けた。
 瞬間、眩い光が拡散し、思わず目を覆う。眩む目を開け、祠の中身がそれと認識できるまで数秒を有した。

「――これは」

 ヴァネッサの落胆するような気のない呟きが耳朶を叩く。
 扉の中にあったのは、翼を広げる竜を模った彫像の上に乗せられた銀色の宝玉だったのだ。そう、わしらが今まで集めてきたオーブ、それに相違ないと思う。

「……伝説は、やっぱりただの伝説に過ぎなかったってわけか」
「ヴァネッサ……」
「まあ、うちも薄々そんな気はしてたんだ。魂を呼び戻すなんて都合のいい話、あるわけないだろってね」

 いつもの豪快で闊達な姿は鳴りを潜めている。
 それでもなんでもない風を装っているが、その背が震えていることにわしは気づいていた。

「それに、カトリーヌは海の藻屑となって消えたんだ、遺体も見つかってない。禁忌の復活魔法でも、たぶんどうしようもないだろ。反魂の秘法さえあればどうにかなる話でもなさそうだしね。だから――」

 わしはそれ以上聞いていられなくなり、言葉を遮るようにしてヴァネッサの肩にそっと触れた。
 はっとして振り返ったその瞳には、いっぱいの涙が溜まっている。
 その悲痛な表情に、皆口を噤みただ見守るしか出来ないでいた。

「……オヤジ」
「泣きたければ、気の済むまで泣くといい。悲哀を押し留めてばかりいては、いつか心が壊れてしまうぞ」

 いつか読んだ絵本の主人公がそうだった。被る悲しみを心に留めて生き続け、そうしてやがて壊れた心は元に戻ることはなかったのだ。
 それを心配し口にしたのだが。
 しかし、ヴァネッサは小さく首を横に振り「大丈夫さ」と言った。

「カトリーヌが死んだ時に、散々泣いたからな。それに、これで諦めもつくってもんだよ」

 そう言って涙を拭うと祠に向き直り、中から竜の彫像ごとオーブを取り出す。

「ほらオヤジ、受け取れ。こいつはアンタのもんだ」

 差し出されたアイテムを受け取ると、ヴァネッサはいつものように白い歯を見せて笑った。

「いいのか?」
「反魂の秘法じゃなかったんだ、もううちには用済みだよ。けど、オヤジたちはそいつがないと魔王のところまで行けないんだろ? だったらいいに決まってる。世界を救う手助けが出来るんだ、妹もあっちの世界で褒めてくれてるだろ」
「……そうか」

 わしは頷き、ありがたく道具袋へ銀のオーブを収めた。
 正対するヴァネッサに、もう哀切の表情はない。晴れ渡る青空のように澄み切った瞳をしている。
 ん~と伸びをすると、仕切りなおすように「さて!」と声を上げた。

「んじゃ行くか!」
「行くとは、どこへだ?」
「そんなの決まってるだろ。その玉はめ込みにだよ」

 その言葉に、場にいる皆が「えっ!?」と驚きの言葉を発した。

「ヴァネッサはこいつを嵌める場所を知ってんのか?」
「ああ。岩礁を探してる時に知らない島を見つけてさ。上陸してみたら、島の中央に神殿があったんだよ。その中に魔法陣が刻まれてたんでよく見てみたら、六芒星の頂点が丸く窪んでたのさ。魔物の声が聞こえたから長居は出来なかったけど、たぶんあそこで間違いないだろ」

 六芒星、ということは頂点は六つ。
 現在手にしているオーブも計六つ。おそらくそこで間違いない。

「探す手間が省けましたね」
「これでネウロガンドまで行けるんだ……」
「魔王かー、どんなやつなんだろ」

 期待と不安、そんな感情を吐露する女子たち。
 ついに伝説の聖獣を呼び出せるところまで来た。瘴気の向こうにあるだろう魔王城まであと一歩だ。
 わしは浮かれることなく、真面目な顔をしてヴァネッサに向き直る。

「わしらをそこまで連れて行ってくれるか?」
「もちろんだ!」

 気持ちのいい返事をし、わしらを船に乗せてヴァネッサは再び舵を取る。
 目指すは伝説の聖獣が眠る島、その神殿だ。
 吹く海風が、晴れ渡る青空が、わしらの行く先を開いてくれているような、そんな気がした。
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