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おお勇者よ、死んでしまうとは情けない……えっ、ならお前が行け?【長編版】 作者:黒猫時計

第六章 オーファルダム編

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奪われた朽ちた神殿の財宝

「ここからさらに北へ行くと、南部の中央にデカい森が広がってる。うちが調べた限りだと、海鳴りの笛はその森の中にある神殿の宝物らしい――」

 との話を受け、わしらは夜明けとともにファルムを出立し、その森を目指した。
 オーファルダム南部中央。
 街道の分岐をひたすら北へ進むこと数時間。やがて見えてきたのは広大な森だ。背の高い青々とした木々が鬱蒼と生い茂り、どことなく毒々しく目に映る。
 薄暗い森を見やり、そら寒い何かが背筋を撫でた。

「この森の中か……。別に恐怖しているわけではないが、なんだか寒気がするのは気のせいだろうか」
「冷えた感じがするのは、この森の植物やら魔物がじゃっかんの冷気を放ってるためだぜ」
「ん、なんだ、やはりビビっているからではなかったか」

 ライアとの普通な会話が少々久しぶりなことに懐かしさを覚えながらも、なんとか戸惑うことなく平静に応答できた。
 昨夜ヴァネッサと話したことで、多少でも気が楽になったのだろうか。前向きになることはいいことだと、わしはわずかに口元を緩める。
 それはそうと、わし勇者だし?
 勇者とは勇気ある者のことを言うのだから、この程度で恐れていては務まらんだろう。アルノーム王だった頃なら分からんがな!
 冷気のせいだと納得し頷いたところで、

「神殿が動きでもしない限りは古地図通りだと思うけど。まあ、うちに付いてきてくれ」

 色褪せた地図を広げたヴァネッサが、森の入口で振り返った。
 その眼差しは不安よりも期待の方が上回っているようで。ただずっと先を見つめているようにキラキラとしている。
 この輝きを失わせてはならんな。
 了解を頷きで返し、わしらは森の中へと入る。
 先のライアの言葉通り、森の植物の中にはヒヤリとした靄を吐き出す花が点在し、魔物なんかにも氷属性を使用するものが多くいた。
 平原でよく見かける気持ちの悪い魔道士の色違いなどは、杖先が氷に覆われているもので殴りかかってきたり。地を這う鮮やかな青いトカゲはブレスを吐いてきたり。中には氷のつぶてを投げてくる骸骨の戦士なんかもいて、なかなかバラエティに富んでいる。

「まあ、わしらの敵ではないがな」

 所詮は雑魚。勇者の前にはどんな魔物であろうとも障害たり得ないのだ!
 ふはは! と笑おうとして口を開けたところへ。

「オヤジたちがいてくれて本当に助かってるよ」などと、ヴァネッサが急に礼を述べてきた。
 いきなりどうしたのか訊ねると、自分じゃこんな森の奥まで来られなかったからと呟く。
 聞けば、幾度も挑戦しようと森へは入ったらしい。しかし、奥へ行くにつれだんだんと魔物が強さを増していく。
 ただでさえ戦闘はあまり得意ではないヴァネッサは、いつも途中で断念していたそうだ。

「しかしお前さん、海賊ならば海の魔物とも戦うだろう?」
「それはそうだけど、ある程度をクルーたちが処理したら寄せ付けない速度で突っ切ることが多かったからさ」

 そこまで自分が強ければ、シーサーペントもどうにかしていた。と、ヴァネッサは少し自嘲気味に笑った。
 だからわしらの力を借りたいと願い出たのだろう。そしてそれは信頼に値すると、ヴァネッサに認められたことに他ならない!
 心が感動に打ち震え、いまにも抱きしめてやりたい衝動に駆られたが、「――お、どうやら神殿に着いたみたいだ」との言葉に、わしの願望は掻き消された。
 駆け出すヴァネッサに続き冷たい森を抜けると……、目の前に石造りの神殿が現れたのだ。
 高さはディーナ神殿とさほど変わらなさそうに見える。が、外観に大きな差異が見て取れた。
 ディーナ神殿は五階建ての宿ほどの高さを有し、列柱が階層状に並んでいて如何にも神殿模様をしていたのに対し。眼前に佇むものは石をただ積み重ね、天辺を平らに均したような正四角錐台をしているのだ。
 見上げた女子たちは「へぇー」と口々に感嘆のため息をついた。

「珍しい形の神殿ね。初めて見たわ」
「神殿って言ったら、ディーナ神殿しかイメージにないもんね」
「少なくともジパングにはない形かなー。それにしてもさ、ずいぶんおんぼろだけど、大丈夫なのコレ?」

 楓の不安の言葉も最もだと思う。
 積み上げられてはいるものの、ところどころ石が抜けていたり、植物がそこかしこから顔を出していたりと古めかしい感じは否めない。
 それにずいぶんと傷も目立つ。剣で斬り付けたような跡や、ブロックが破砕していたりと様々だ。

「うちもまさかここまで荒れてるとは思わなかった」

 そう呟いたヴァネッサは、何かを危惧するように表情を曇らせる。
 それを見て皆思ったのだろう。
 これはもしかすると盗掘の跡なのか、と。
 だがしかし、まだ見てもいないのに諦めるのは早いだろう。昔起こった戦争の跡なのかもしれんしな。そう思ったわしは皆を鼓舞することにした。

「お前さんたち、なにを暗い顔をしとるんだ。ないと決めつけるのは尚早ではないか? とにもかくにも、まずは検分してからだろう」

 声をかけると、だれともなしに「それもそうだ」という話になり――皆口々に、わしにしてはいいことを言うと零す。
 褒められているのかは微妙だが。
 一先ず、テンションを取り戻した皆と共に神殿の麓まで歩く。そして各自、怪しいものがないか周囲を探ることにした。
 遠目では分かりづらかったが、近づいてみて気づいたことがある。

「入口が見当たらんな」

 普通は一階部分に入口を設けると思うのだが。ぐるりと一周回ってみてもそれらしき物が確認できなかった。
 その代わりといってはなんだが。
 神殿広場に入って来た時正面だと思っていたその真反対に、頂へと向かう上り階段を見つけた。
 早速一番身軽な楓が五段飛ばしくらいで階段を飛び上がり、何かないかを確認しに行く。
 わしは真下からそれを見上げ、忍び装束から覗く光沢が眩しいブルーのおパンツを眺めた。
 役得、眼福。
 このまま顔の上にでも降ってこんかなー。なんて思っていると――楓が急に尻を突き出し、何かを覗き込むような恰好をした!

「ぶふぉっ! いかんいかんいかんー! このアングルは心臓によろしくないぃいい!」

 久しぶりに刺激的なものを見て、拳を握り思わず興奮していたら。
「なに一人でエキサイトしてんだ。なんか見つけたみたいだぜ」と、ライアからチクリと刺された。
 しかし考えてみれば、覗き込むということは確かにそういうことなのだろう。

「楓よ、なにか見つけたのかー?」

 問うと、周囲を探索していたソフィアとクロエが戻ってくる。
 ちょうどそのタイミングで楓は飛び降りてきて、ズシャッ! とかっちょ良く着地を決めた。

「楓ちゃん、なにか見つけたの?」
「うーん、何かっていえば何かだね」
「もしかして海鳴りの笛を見つけたのか?」

 期待からか前のめるヴァネッサをチラリと横目にすると、楓は小さく首を横に振った。

「あそこ、階段の途中が台地になっててさ、小さな部屋があるんだけど。なんか石で出来た椅子に鎧着込んだ骸骨が座ってたんだよねー」
「骸骨? そいつは魔物か、ただの骨か?」
「分かんないけど、なんか大口開けて気持ちよさそうに寝てるみたいだったよ――」

 その場所を見上げた楓に釣られて目を向けると。
「あーよう寝たよう寝た。口開けて寝てたからか顎が外れそうだ」なんて声が聞こえてくる。
 少しもしない内にガシャリと音を鳴らしながら、鎧を着た骸骨戦士にそっくりな骨が階段に姿を現した。

「ん? なんかにおうと思ったら人間だったか。……ハッ?! うち一体はオーク!? ――いや違うな、人間か。忌々しい豚臭さがあまりしない」
「またずいぶんと失礼な骨だな」

 つい先日倒したワイルドリザードと変わらんではないか。人をオークなどと。
 それに豚臭さなど、少しでもわしからするわけがないだろう。
 こいつは斬り捨て案件かもしれん。
 そう判断し、ブランフェイムを鞘から抜こうと柄を掴むと――、

「ハハハ、待て待て。そう焦るな。私は正確には魔物ではない」と骸骨は信じられないことを口にした。

「どの口が言うのだ」
「見て分からんのか、この口だ」

 骸骨は自身の口元を、骨ばった文字通りの骨の指で示し、カタカタと口を鳴らした。
 あらゆることが笑えんギャグにしか見えんな。
 しかし魔物ではないとは、一体どういうことだろうか。

「……お前さんが魔物ではない証拠がどこにある? 油断させてわしらを襲うつもりかもしれんだろう」
「ならば貴様が人間である証拠はどこにある? 豚臭さを消したオークではない証明をしてみせよ」

 ぐぬぬ、また人を豚呼ばわりとは。
 オーファルダムにはそんなにオークが蔓延っているのか。というかみんな忌避しているように思えるが。
 いまはそんなことは関係ないな。どうにかしてこの失礼な骸骨にわしが人間であると知らしめてやらねば!
 なにかないかと真面目に考えようとしていた矢先。ヴァネッサが一歩前へ進み出て、階段でふんぞり返る骸骨に訊ねた。

「もしかしてお前、ラムルズ王か?」
「ん? 私の名を識っている貴様は、もしかして愛しの王妃か?」
「いや違う」

 きっぱりと否定された骸骨は、「ハハハ、冗談だ。皆が生きているわけがないからな」そう言ってカタカタと歯を打ち鳴らして愉快げに笑う。
 わしはそんな骸骨を放ってヴァネッサに問うた。

「あやつ、本当に王なのか?」
「ああ、調べてる時に記述を見たことがある。三百年前に滅んだヨール王国の首都がここにあったんだよ」
「如何にも。私がヨール最後の王、ラムルズである!」

 骸骨は剣先の欠けた長剣を抜き、天に掲げながら威風堂々告げた。
 たしかに勇壮な感じが伝わってこなくはないが……。
 懐疑的な眼差しを向けていると、骸骨は剣をしまい、唐突に身の上話なぞを始める。

 ヨールはオーファルダム南部をほぼ全域、支配地域にするほど強大な王国だった。自然豊かで富にも溢れ、人々も幸せに生活していた。
 このままずっとそんな国として繁栄していくものだと思っていた。
 しかし、ラムルズの時代。
 突如として凶悪な魔物が現れたのだそうだ。それすなわち、世界に魔王が誕生したということに他ならない。
 その時代にもやはり勇者と呼ばれるものが存在した。しかし、その助けは間に合わず、ヨール王国は滅びることになる。
 その時国を襲った軍勢の大半が、オークたちだったそうだ。

「私は死の間際、側近の魔術師に呪いをかけるよう命令した。もしもオークが再びこの地を踏み、我が財を奪いに来るようなことがあったなら。それを守るために今一度戦い、今度こそ勝利するためだと」

 そして時は流れ、つい半年前。
 オークたちが再びやってきたそうだ。ラムルズは呪いにより目覚め、応戦した。
 しかし、オークの圧倒的な力の前では骨身など非力。志を同じくする兵士たちも共に立ち上がったが、勝利することは叶わなかった。

「神殿の周りには、その際戦ってくれた我が愛しの兵士たちの骨が無数に埋まっている。私は王である証の王冠を失い、財宝もオークたちに奪われ。こうして貴様たちが来るいまの今まで不貞寝していたというわけだ」

 肺などないだろうに、ラムルズ王は大きなため息をついた。
 話を聞く限り、嘘を言っているようには思えんな。
 それと同時。わしには思う所があった。

「お前さんは、民を大切に思っているのだな」
「王であるならば当然のことだ。民があっての国なのだから……ん?」話の途中、ラムルズ王はなにか気づいたように小首を傾げ、「貴様が頭上に戴いているのは、王冠ではないか?」と指摘する。

 最早当たり前のようになっていてほぼ忘れかけていた王冠を外し、わしは見つめた。

「これはわしがアルノーム王であった証。だが今となっては……」
「アルノーム? 聞いたことがない国だな。それはそうと、なにか訳ありのようだが?」

 問うてきた王に、わしは今までの経緯を簡潔に説明した。
 王でありながら城から叩き出され、勇者をする羽目になったこと。しかし魔王により世界が危機的状況にあることを知り、腹を括って本当の勇者になったこと。
 そして今は旅の最中で、仲間とともに世界中に散らばるオーブを探して回っていること。さらにここへは別件で、海鳴りの笛を探しに来たのだと話した。

「海鳴りの笛、か。確かにここにあった。しかし、オーク共に奪われてしまって今はない。すまない」

 かくりと頭を垂れる王。哀切漂って見えるのは、相手が骨しかないからだろうか……。
 わしは無理を承知で願い出る。

「ラムルズ王よ。そのオークを倒し、海鳴りの笛を取り戻した暁には、その笛をわしらに譲ってはくれんか?」
「笛をか?」
「わしらにはどうしても必要なのだ」

 ふーむ、と逡巡し、王は腕を組んだ。
 真剣な眼差しで見上げていると……。ややあって小さく頷き「分かった。貴様たちにやろう」と承諾してくれた。

「ラムルズ王よ、感謝する」
「なに。財に違いはないが、いまの私にとっては必要ないからな。それにだ、死してなお勇者の手助けが出来るのなら、これほど喜ばしいこともない。過去、国が救われなかったとしてもだ」

 骸骨なのになんと心が広い王だろう。
 王であった頃の自分と比べると、自身が酷く矮小で情けなく思えてくる。
 なんだか見上げる骸骨が急に神々しく見えてきて、目を細めて眺めていると、「――その代わりと言ってはなんだが……」少し遠慮がちに王が呟く。

「貴様のその王冠を私に譲ってはくれないか?」
「この王冠を?」
「そうだ。今まで被っていた物がないと酷く頭が落ち着かなくてな。私がオークにやられた時、あの豚が無理やり頭に押し込んだために王冠が壊れたのを見たから、たぶんもう豚共は破棄しているだろうし。私はこの神殿広場から外には出られん呪いがかかっている。故に町へ作りに行くことも出来ん。というわけで、海鳴りの笛と物々交換ということでどうだろう?」

 ラムルズ王の言葉に、わしも逡巡する。
 この王冠は、唯一残るわしがアルノーム王であった確かな証だ。
 今までずっと被ってきた、誇りの一部でもある。
 そう簡単に手放せるようなものではない。……はずだった。
 勇者の証を取りにアルノームへ戻った、あの日までは。
 決め手は門衛だ。
 こともあろうに、示した本物の冠を偽物だろうと切って捨てた。正直、あれからどうでもよくなった。だから勇者になる決心に結び付いたと言っても過言ではない。
 過去との決別、か。
 未練がましくいつまでも保持しているよりは、ここらで一切を捨て去ってしまうというのも悪くはないだろう。
 ラムルズ王ならば大切にしてくれそうだしな。
 わしは心を決め、はっきりと頷いて見せた。

「わかった、この王冠はお前さんに譲ろう」
「そうか。私の方こそ感謝する」

 階段を上がり、わしはアルノームの王冠をラムルズのつるつるの頭に載せてやった。
 骸骨ではあるが、これはこれで良く似合っている気がする。
 他人の頭にアルノームの王冠がある。見慣れはしないが未練もない。
 満足げに歯を打ち鳴らしたラムルズは、わしに感謝を述べながら再び石の椅子に腰かけた。

「オーク共はオーファルダムの北部にいる。貴様たちの無事を私は心から祈っているぞ」

 そう告げると、今まで話していたのが嘘のように、王はもの言わぬ屍となり果てる。
 森閑とする森の中。
 民を想う心優しき王の最期を、わしは間近で看取ったのだった。
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