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おお勇者よ、死んでしまうとは情けない……えっ、ならお前が行け?【長編版】 作者:黒猫時計

第四章 イルヴァータ編

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勇者としての初戦闘

 結界を破壊したわしらは、遮るもののなくなった砂漠を真っ直ぐ歩き、城の
前へとやってきた。
 遠目では材質までは分からなかったが、先のクロエの魔法がわずかに抉った壁面を見るに、どうやら砂で出来ているらしい。パラパラと欠片が崩れ、それは途端に砂に変わってはサラサラと風に流されていく。
 ふと、わしは思いついたことを試してみたくなり崩れた壁の隣、真っ新な面へ。
 そして、炎剣ラヴァブレードを抜き構えた。

「なにする気だ、おっさん?」
「この城を壊してしまえば、中の魔物どもを倒さなくても良いのでは、と考えてな!」
「無駄だと思いますけど……」

 どうしてか呆れる二人を尻目に、勢いよく剣を振り下ろす! 炎を噴き上げる刀身は弧を描き、空を焼きながら壁を斬り付けた。
 砂の壁面に火炎が走る。しかし、わずかな傷をつけた程度で破壊するには至らなかった。

「どうなっとるんだ? わしには壊すことが出来んのか? 勇者なのに?」

 想像では、かっちょよくズッバァと切り裂けると思っていたのに。
 いと情けなし。力不足を痛感させられるな。
 がくりと肩を落としたところで、背後からため息が聞こえた。

「勇者だからってなんでも出来るわけじゃないんだぜ。そもそも、城を壊したところで中の魔物が死ぬわけないだろ」
「それに、言うのを忘れていましたけど、」ソフィアは次の言葉を強調するようにわずかに切り、「勇者様、いまレベル1ですから」

 そう、口にした。

「……は?」

 一瞬なにを言ったのか分からず、思わず聞き返す。
 レベル1です。ソフィアは間違いのないことをさらに含ませるように、再度口にしたのだ。

「意味が分からん。どういうことだ? わし、25くらいはあったはずなのだが」
「おっさんがしたのは転職だろ。クラスチェンジは上位の職になるだけだからレベルは継続。だが転職はまったく違う職になるわけだから――」
「そ、そんなバカな……」

 いままで頑張って積み上げてきたものがなくなるとは、誰が想像できようか!
 ハッ!? まさか、好感度もまた上げ直しだったり……?
 そろりと三人を見やる。唇を震わせながら、恐る恐る訊ねた。

「お前さんたち、わしのことは好きか?」
「あ? いきなりなんだよ、それがいま重要なことなのか?」
「最重要だ!」
「濃い顔で迫んな、ったく。つうか前にも言ったろ、嫌いだったら一緒に旅なんてしてないって」
「そうですわ。勇者様との旅は楽しいですわよ」
『左右に同じく。一人よりは愉快な旅だし、好きだよ』

 うーむ。ここから導き出される答えは……分からん、だ。
 至っていつも通り。あれ、いつもどおりということは、下がってはいないということなのか? なら、とりあえずはいいか。
 うむ、うむと二度頷く。

「なんだ訳知り顔で、気持ち悪いぞ」
「さ、こんなところでいつまでも喋っているわけにはいきません。早く魔物を倒しにいきますよ」
「うむ、そうだな」

 一先ずの安堵と、この先に待ち構えているであろう魔物との戦闘への緊張。
 相反する感情がない交ぜになった不思議な心持で、崩れた壁からわしらは城へ侵入した。
 ……表に設えられていた門は意味を成しとらんな。まあ、楽ならそれでいいか。

 砂の城内は中も砂だった。
 想像はしていたが、その想像を少し裏切る小奇麗さだ。なんというか、大理石のように固められていて艶々としているのだ。テカテカ光る壁面なんかは、アルノーム城よりぱっと見きれいかもしれん。
 凝った装飾は一切ないシンプルなものだが、魔物の城にしておくには惜しい気もする。わしの別荘にでも……

「おっさん、油断するなよ。ここは魔物の根城だ。雑魚も出てくるからな」
「う、うむ、分かっておる」

 いまは余計なことは考えないでおこう。忘れるところだったが、なにせわし、レベル1なのだから。
 魔物がスライム程度ならまだ油断のしようもあるが、ずいぶんと強くなってきている今日この頃。油断したら死にかねん。
 痛いのは極力避けたいからな。

 そんなわしの危惧などおかまいなしに、魔物どもは現れた! もう少しくらい空気を読んでくれてもいいだろうに……。

「勇者様、きますよ!」
「わしはまだ死ねんのだ!」

 咄嗟に武器を構える。
 現れた雑魚(いまのわしからしたら強いのだろうが)は杖を持った魔道士だ。ぶよぶよの体に皺くちゃの頭。見るからに気持ち悪い。メタボはメタボでも、わしの方がはるかに愛嬌があるというもの。
 しかしこやつも強いのだろう。どのような攻撃をしてくるか分からん。
 百科事典は地形が変わる以前の魔物の情報だったらしく、こんな魔物は掲載されていなかった。
 とりあえずはロクサリウムの上級装備を着用している。城の壁に小傷しか付けられなかったために、相当ステータスも落ち込んでいるだろうとは思うが。それでも多少は健闘出来るはずだ。
 わしはやれば出来る子なのだから。そう、絵本で読んだ、

「YDK! YDKなのだ!」
「意味の分かんねえこと叫んでないで、防御にだけ専念してろ。くるぞ!」

 魔道士は、のし棒を大きくしただけのようなダサい杖を掲げた。
 その先で、一瞬赤い魔法陣が広がる。
 あれは――

「おっさん、前に出ろ!」
「ま、任せるのだ!」

 死にはしないかとビクビクしながらも前に出る。
 戦闘では敵にダメージを与えるか敵からダメージを受けるかしないと経験値が入らない。ボスまでに少しでもレベルを上げておかなければ、役に立てんからな。
 そのことを考えての前に出ろ、なのだろう。
 わしもそれを分かっている、から前に出るのだ!
 杖先から放たれたのはもちろん火の玉だった。腹に抱えるほどの大きさではあるが、なにも問題はない。
 わしは炎剣を縦に構えて立つ。真っ向から火の玉を受け止めると、焔の剣が球を鋭く切り裂いた。しかし真っ二つに割れた瞬間に爆発。
 左右からの炸裂音が耳をつんざく。
 しかし大丈夫。わしが着ているのはフレイムメイルだ。火炎に対する抵抗力は高い。炎剣との相乗効果によりダメージはほぼ皆無。

「よし、おっさん下がれ。ここからはあたしたちの番だ!」

 言われた通り、クロエのいる後方まで下がる。
 ライアが雄牛の角のように刀を構えると、ソフィアも合わせて拳を構えた。
 クロエは詠唱を開始。青い魔法陣が足元に広がり、周囲を冷気が取り巻いていく。

「いくぜ!」

 ライアの掛け声を合図に、各々攻撃を開始。
 競うように飛び出した二人が、共に突き技を繰り出すために駆ける。
 まずライアの突進技。以前ゴブリンに放った疾風剣だ。無数に切り裂かれ悲痛に呻く魔道士は、杖を床に突き立て体を預けては戦意の喪失した目をこちらに向けてきた。
 そこへソフィアの時間差による無慈悲な追撃が。「ふっ」と小さく息を吐きながら、一切の無駄のないモーションで脇腹をぶん殴り魔道士の後方へ抜ける。殴打された魔物は激しく咳込んだ。
 魔道士の足元に冷気の靄が発生したと思った次の瞬間――巨大な氷柱が突如突き上げて敵を串刺した。
 光の粒子となって消えた魔道士の、杖だけがそこに残された。

「お前さんたち、さすがだな」
「おっさんとはレベルが違うからな。これからだろ」
「勇者なのですから、そのうち固有技を覚えますわ」

 それもそうだな。この戦闘で2に上がったが、まだ2だ。もう少し先かと思うと気が逸るが、焦ってはいけない。
 急いてはことを仕損じるだったか? そんなことわざとやらも聞いたことがあるしな。

「ボスまでには一つくらい覚えたいものだな」

 そう洩らし、先を行こうとしたところで、ふと視界に入った先の杖。
 ……別にいらんが一様は戦利品。貰っておくことにしよう。
 道具袋にダサい杖を納め、わしらは迷路のように入り組んだ城内を、ボスのいるであろう最上階を目指して歩いた。
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