挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
おお勇者よ、死んでしまうとは情けない……えっ、ならお前が行け?【長編版】 作者:黒猫時計

第二章 グランフィード編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

22/88

世界の広さを知る

 泉に飛び込んだわしらは、無事ロクサリウム大陸へ到着した。
 祠を抜けた先は、ソフィアが言っていた通り昼間だった。
 別の地であっても、空の青さはどこも変わらないのだな。世界はひと続きであるのだということが分かる。
 しかし風の匂いというものが、じゃっかん違うように感じた。どう違うのかと聞かれると、はっきりと口にすることは出来ないが。間違いなく異質異国な空気感を感じるのだ。

 しかし。グランフィードの時もそうだが、あの泉はわしを玩んでいるとしか思えんな。
 毎度のように、ごわごわパーマはストレートに伸ばされ、乾くとまた元の天パへ戻される。偶然近場で狩りをしていた旅人にも笑いものにされてしまったし。
 わし自身、そういうものだと半分諦めているが……毎回わしだけ濡れるのだけはどうにかして欲しいものだと思う。

「そういえば、なんでお前さんたちは濡れないのだ?」

 街道を歩きながら、一滴の水もかからない二人に尋ねると――各々がそれぞれの道具袋を漁り、そしてなにかを引っ張り出した。透明な衣のようだ。

「旅の祠用レインコート、ってのが道具屋に売ってんだよ」
「勇者様は買ってないのですか?」
「そんなもの初めて聞いたぞ」
「道具屋をちゃんと見ないからだろ」

 いや、まあそれはそうなのだが。それにしても、グランフィードへ向かう時にでも教えてくれればよいものを。
 わしだけバカみたいではないか。これではいつか風邪をひいてしまう!
 いや、それはそれで、強盗に襲われた時みたいにまた看病してくれるかも?
 さすがに身の回りの世話をするのに、見た目に邪魔くさい装備品は身に着けんだろうし。肌着や薄着で目の保養に……これは、役得というやつか? ――あ、
 そこで、気づいてしまった。
 そうか、クレリックがいるから風邪も治されてしまうのかもしれん。

「ソフィアよ、お前さん風邪なんかも治せるのか?」
「風邪ですか? 軽度なら可能ですけど、高熱が出ているものは無理ですね」
「よし」

 言質を取り思わず頷くと、どこか不思議そうな顔をしてソフィアが小首を傾げる。
 いや、なんでもないのだ。と断り、一つ咳払いで体裁を繕う。

「そういえばグランフィードの街で、ライアは武器屋になにをしに行っていたのだ?」
「なんだ、なにか都合の悪いことでも誤魔化そうとしてんのか?」

 不自然なやり取り直後の、いまさらな質問にそう感じたのだろう。
 そんなことはないと否定するも、どうにも疑いの晴れぬ怪訝な顔をして見てくる。少々焦りながらも言葉を繋いだ。

「いや、武器屋へ行った割には装備も増えておらんしな」
「ん~? まあいいや」

 ライアはそう言って疑うことを切り上げると、腰に二本佩く刀のうち普段よく使用している黒鞘を外した。

「刀を新調しようと思ってさ、頼みに行ったんだ。けど、グランフィードでも打ってはもらえなかったよ」
「どういう意味だ? お前さん、いつもそれで戦っているではないか」
「前に話したろ? 鋳造と鍛造の違いをさ」

 鍛造は金属を鍛えるため密度が高い、だから鋳造よりも壊れにくい丈夫な物になるだったか。とすると、

「つまりその刀は鋳造ということか」
「そういうこと。白鞘のあたしの愛刀は打ってもらったんだけど、こいつは強敵用だからあんまり使いたくないんだ」
「こんな愛い女子が頼んでいるのに作ってやらんとは……」

 わしなら二つ返事で承諾するのになぁ。女子に感謝されると嬉しいだろう? もしかしたら、めくるめくラブロマンスとやらに発展するかもしれんのに。世の中には変わった男もいるものだ。
 女嫌いなのではないか? と漏らすと、「奥さんと一緒に店に立ってたけどな」とライア。
 それを聞いて、言い知れぬ敗北感がわしの両肩を沈めた。

「それに、こいつはジパングって国で打ってもらった物だから。ここらの武器屋に期待はしてなかったんだけどさ」
「ジパング?」

 聞いたことのない国だ。おパンツなら知っとるが。
 いや、あながち間違いではないかもしれんな。女子のパンツ製造が盛んな国である可能性が高そうだ。その隙間で刀も打っているのだろう。
 ……おパンツに埋もれる国か。期待せざるを得ない。
 もしかしたらそういった風俗もあるかもしれんし、今度予習もかねて町で探してみるか。

「それで、その国はいったいどこにあるのだ?」
「海を渡った東にある島国だよ」
「海の向こうに国があるのか?」

 問うと、ライアは刀を取り落とし、口をぽっかりと開けて呆然と立ち尽くす。
 わしは落っこちた刀を拾ってやり、そっと差し出す。

「……おっさん、世界地図見たことないのかよ?」
「自慢じゃないが、ないな」
「ああ、そいつは自慢できることじゃない」

 ライアは刀を受け取ると、再び腰ベルトに佩びた。
 すると、不意にくすくすといった笑い声が耳に届いてくる。周囲に目を配ると、いつの間にやら街道に人が歩いていた。どうやら道の三叉路手前で立ち止まっていたらしい。
 幾人かがこちらを見て、小ばかにするように笑っている。

「二人とも、往来のど真ん中で恥ずかしい会話はやめてくれるかしら?」

 頬を赤く染め、ソフィアがジトッとした目でわしらを睨んでくる。
 その視線からは呆れや憐みのようなものを感じたが、ソフィアのこういった表情はけっこう珍しいから、わしは自身のみっともなさよりも嬉しさをより感じてしまう。

「ソフィアよ、恥ずかしいのか?」
「ええ、聞いているだけで羞恥心を感じてしまいます」
「そうか。わしは女子を辱める罪深い男だったのだな」
「まああながち間違ってねえよ。無知ほど罪深いものはないって言うしな」

 はぁ、とため息をつくソフィア。
 そしてピッタリとしたズボンの尻ポケットから、折りたたまれた紙を取り出した。四つ折りにされたそれを広げて見せてくる。

「ここが勇者様のアルノーム、そして三つの山脈を越えた先にあるグランフィードです」

 指された場所を目で辿る。
 地図の南にちょこんとある小さな領土がアルノームで、隔てるように山を間に挟んだ先がグランフィードだそうだ。ざっとアルノームの三倍はデカいではないか。しかもそれが陸続きとは……。きっと先祖は喧嘩に負けたのだろうな。
 というか、アルノームとグランフィードを合わせると、まるでクロワッサンのような形をしていて面白い。こうして地図を眺めているだけでも、楽しいかもしれん。
 そこからソフィアの指は移動し、海を渡って陸地を飛び、地図の北西へ。

「そしてここが、いま私たちが立っているロクサリウムですわ」

 示された場所を、そしてロクサリウムの領土の大きさを見て目を瞠った。
 思わず指で輪っかを作り、いくつ分かを当てはめていく。
 なんと、アルノーム領とグランフィード領を合わせたものが、六つも入るではないか。

「んで、ここがジパングだ」

 ライアが横から手を出して、指でその場所を示す。
 東の大洋に浮かぶ島国らしい。切っ先を折った幅広の刀を斜めに置いたようなイメージだが、領土的にはアルノームとどっこいくらいか? かなり小さな国らしい。

「世界は広かったのだな……」

 わしは地図をのぞき込み、ほかにも見てみた。
 ジパングを起点に海を東へ渡ると、北と南に伸びるさらに大きな大陸がある。目を戻し西を見ると、長い陸地が続き、ロクサリウムの南の湾の下に、一部が黒塗りの大地があることに気づく。

「この黒い部分は印刷ミスかなにかか?」
「そこは暗雲垂れ込めてて、よく分かってない場所みたいだな」
「噂によると、魔王の城があるとかないとか」

 見て分かる大陸の大部分が険しい山のようだ。白い色で塗られているから標高は高いのだろう。
 しかも黒い部分は確認が取れていないという。これは怪しい。

「わしらの目的はこの黒いところになるのか」
「そういうこった」
「けど、今のままではきっと勝てません」
「そうだな、あたしらもクラスチェンジして力付けてかなきゃ」
「クラスチェンジ?」

 またも聞き慣れない言葉を耳にする。
 この短時間でいろんな情報が脳内を錯綜し、混乱しそうになってきた。

「俗にいう転職ってやつだよ。神殿がロクサリウムにあるんだ」
「そこで別のクラスになったり、いまの職の上位職へ成り変わることが出来るんです」
「なるほど。わしが真の勇者になれるのだな!」
「おっさんの場合はまず勇者にならなきゃだろ」

 その言葉に引っ掛かりを覚え、つと尋ねる。

「わしが勇者でないと?」
「なんでキョトンとしてんのか知らないけどな。そんなスケベな勇者がどこの世界にいるんだよ」
「勇者だって男なのだぞ? スケベ心くらい持ち合わせておるだろ。勇者でなくても、わし男の子だもん」
「だもん、じゃねえよ。いい年したおっさんが気持ち悪い。それに弱すぎるんだよ」
「それに関してはなんも言えんな」

 少しでも反省を見せようと頭を垂れると、ガサガサと音が聞こえた。見ればソフィアが、ため息をつきながら地図を片付けようとしているところだった。
 わしは精髄反射的に、咄嗟にその手を掴んでしまう。

「どうされたんですか?」
「えっ! いや、その地図わしにくれんかなー、なんて思っちゃったり」
「道具屋に行けば売ってますよ?」

 さも当然のように答えるソフィア。まあそうなるだろうなと思ったが。
 尻ポケットで温められた地図が欲しいだなんて言えるはずもなく……。
 わしは高速で思考を働かせ、咄嗟に言い訳を考える。

「いやいや、旅の案内もいた方がよいだろう? だからわしが地図を見てだな――」
「この変態め」

 背後から、ライアの冷水のような言葉が浴びせられた。
 それがきっかけで、ソフィアはわしの思惑を看破。
 結局、ソフィアの匂い付き地図を手に入れることは、叶わなかったのだった。
 悶々とした夜をどうにかしようとしたが、やはり邪なのはいかんな。うむ。

 涙で頬を濡らしながら、わしは街道を北へ行く。
cont_access.php?citi_cont_id=560088392&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ