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おお勇者よ、死んでしまうとは情けない……えっ、ならお前が行け?【長編版】 作者:黒猫時計

第二章 グランフィード編

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ターム関所

 コリン村で宿をとり、久しぶりにしこたま酒を飲んだことで二日酔いになってしまった。しかしそんな頭痛に苛まれながらも、わしらの旅は続くのだ。
 朝も早くに村をたち、次の街グランフィードを目指して街道を歩く。
 コリン村からは数時間ほど歩いた場所にあるそうだ。

「結局、この青い宝玉は村のものじゃなかったってわけか」

 血色の良いさっぱりとした顔をしてライアが言う。
 昨夜、唯一パーティーで酒を一滴も飲まなかったから、それも当然と言えるのだが。
 わしが酒を勧めても、「咄嗟な時に対応出来ないから、あたしは酒は飲まないんだよ」とさらりと返された。
 せっかくの、わしの初ボス討伐記念でもあったのに……。
 恨みがましく横目で見ていると――

「グランフィードの街で聞けば、なにか分かるかもしれないわね」

 脇からひょっこりと顔を覗かせ、ライアの持つ青い玉に視線を注ぐクレリック。
 ソフィアも酒を飲んだ、まるでわしと競うように飲んでおったのだが。
 二日酔いの様子もなくケロリとしている。かなりの酒豪だ。盗賊をしていた時に、ジャルノスに鍛えられたのかもしれん。
 美しい金髪に鮮やかな翠瞳。見た目は薄幸の美少女なのに、大食いさらには酒豪ときた。人は見かけによらんものだな……。

「そのグランフィードという街は大きいのか?」
「ええ、ウェンネルソンと比較するとおよそ三倍はありますわ」
「三倍……」

 ウェンネルソンですら、アルノームの町と比べて四倍は大きく感じたのに。
 いまから向かうグランフィードは、つまりアルノームが十二個も入るのか。

「……わしの先祖は日和見主義だったのだな」

 思わず不満が口を滑る。

「なんだよ、大きさなんか気にしてんのか?」
「だって……」
「気にすんなよ、おっさん。あたしはあの町、気楽だから好きだぜ?」

 まあ、そう言ってもらえるのは嬉しいのだが。

「わしのことも好きか?」
「はぁ? ……まあ、嫌いだったら一緒に旅とか、してねえし」

 困ったような顔を一瞬見せたが、ライアは頬を少しだけ赤く染め、そっぽを向きながら言った。
 実に愛い反応だ。内心ニマニマしてしまう。

「――ニヤニヤすんじゃねえよ、好きとは言ってねえだろッ」

 どうやら顔に出ていたようだ。
 ポーカーフェイスというものは、存外難しいものなのだな。
 しかし、照れ隠しに吠えるところも可愛らしい。

 春の穏やかな風を感じていたためか、ずいぶんと酒気も抜けてきた。
 和気あいあいと会話を楽しみ、時に怒られ、そうして舗装路をひた歩く。
 街道を歩いていて、ふと気づくことがあった。
 時折通る大きな馬車。ガラガラと車輪を回し、馬が引く荷台にはかなりの荷物が積まれている。

「あれはすべてグランフィードの交易馬車なのか?」
「ええ。ウェンネルソンは工芸品なんかも作ってますので、グランフィードへ行商に行く人も多いのです」

 アルノームとは何もかもが違うな。
 なぜか冒険者が割と多く訪れる町ではあるが、行商なんかは週に一度だし。消費税やら土地代なんかの少ない税収でやりくりし、特に宿やむにむに屋は高めに課税しているようだが、それでも国が潤っているとは言い難い。
 なにか特産品でもあれば別なのだろうがな。
 ……ちなみに言っておくが、わしが通っていたむにむに屋の代金は、別に徴税した収入からちょろまかしたものではないぞ。
 歴代の王が貯めいていたヘソクリから拝借したものである故、な?

「ん? なに見てんだ、おっさん。なにか見つけたのか?」
「あーいや、なんでもないのだ。ただ風が心地いいなと思ってな」

 はは、は、と乾いた笑いがこぼれる。
 実際、どのようにして貯めていたかも知れぬヘソクリ。そんなものを使っていたなんて言えるはずもなく。
 微妙に罪悪感を抱えながらも、つと、わしは思い出したように尋ねた。

「そういえば、馬車があるのなら使えばよかったではないか。なぜ歩きなのだ?」
「歩いた方が魔物とも戦えて、レベル上げにもなるし金も稼げるだろ」
「次の街へ着いた時に困らないためにも、そうして資金集めをしながら旅をするのです」

 旅をしてきた二人が言うのなら、そういうものなのだろう。
 そうして無事昼過ぎに、高い壁で囲まれたグランフィードの城下町の入口へ到着したのだが――

「なぜ入れんのだ?」

 門衛に止められてしまったのだ。
 長大な槍を手にした二人が槍を交差させ、通せんぼを形作っている。
 怒り顔をしている左の門衛が口を開いた。

「いま街は、ある事件により厳戒態勢を敷いている。浮浪者を通すわけにはいかない」
「誰が浮浪者だ! わしは勇者だぞ?」
「勇者がそんなみすぼらしい格好をしているわけがないだろう。分かったのなら立ち去れ」

 元勇者のあの青年を、この場に連れてきてやりたいところだな。本物なのか今となってはよく分からんが、あれでも勇者だったのだぞ?
 それにこの輝かしい鋼の剣と盾が見えんのか。鎧は確かに煤汚れの目立つ革の鎧だが……。ゴブリンキングを倒した勇者を蔑ろにするとは!
 悔しくて、「ぐぬぬ」と一人唸っていると、ソフィアが一歩踏み出した。

「事件とは穏やかではありませんね。以前はそのまま入れた気がしますが……。お話を伺ってもよろしいですか?」
「これはシスター、ご機嫌麗しゅう」

 なんだこの門衛は。ソフィアが話しかけた途端にいきなり低姿勢、赤い顔をしながら十字なんかを切りおったぞ。

「それが最近、夜中に強殺が――」
「おい、それは他言するなって言われてるだろ」
「あ、ああすまん、つい癖で」

 どんな癖だ。シスターへの懺悔か?
 こいつは昔なにか悪いことでもしたのかもしれんな。怪しいやつめ。

「ごほん! とにかく、旅人はここを通せません」
「旅人が入る方法はないのかい?」

 ライアも前へ出ると、今度は右の門衛がデレッと表情を崩した。
 いったい何なのだ、こいつらは。

「いや、入る方法がないわけじゃないんだけど」
「教えてくれないか?」
「は、はい! ターム関所で通行証を貰ってきてくれれば」

 わしのライアをいやらしい目で見おって。
 きっとこやつの脳内では、今ごろライアは赤い鎧を破壊され、白い肌着に手をかけられ、無理やり引っ張られて豊満なおっぱいを露出させられているに違いない!
 たとえ妄想の中でも、そのオパーイに手を触れることは許さん! その妄想を掻き消してくれるッ!
 わしは懐に手を突っ込んだ。

「おい貴様! ゴールドカードはわしの手元にあるのだぞ! 勝手な妄想をするんじゃない!」

 ババーン! と勢いよく取り出したるは金ぴかのカード。わしの栄光でもある自慢の一品。これでこやつも身の程を知るだろう。真に触れていい男が目の前にいることに打ち震えるのだ! うはははははッ!

「恥ずかしいからやめろ」
「――はい」

 声を低め、いまにも斬り殺さんとする眼光が飛んできた。わしは頭を垂れ速攻で謝る。
 見れば門衛がちびりそうな顔をして震えていた。もしかしたら尿漏れしているかもしれん。あとでオムツを薦めてやろうと思う。
 ちなみにわしは大丈夫だ。ライアは優しい女子だからな。なんだかんだで許してくれることを知っている。
 だからこれもポーズなのだろう。上手いこと事を運ぶためのな。

「じゃあ、関所で通行証もらってくるよ」
「お、お気をつけて」

 ガクブルしながら手を振る門衛に見送られ、わしらはここから西にある関所へ向かった。目視でも確認できる位置にあるため、時間もかかるまい。
 というか、普通は街道を道なりに行けばあるものではないのか? 不便な建て方をしおって。
 内心文句を垂れていると、タームの関所へ着いた。

 割と小奇麗なレンガ造りの建物だ。簡素な屋根がついているだけで、これでは風が強い雨の日なんかは降り込むだろうが。一様、関所なのだろう。
 街が近いため、ここで寝泊まりするわけではないだろうから、これでもいいのかもしれんが。
 ボロい木の机に突っ伏している男を見つけ、わしは声をかけてみた。

「おーい、起きとるか?」
「ん、ああ? 誰だ、お前は?」

 胡乱気な目でわしを見上げてくる男。むわりと漂ってきた呼気は酒臭い。
 その足元には酒瓶が二本、空の状態で落ちている。

「酔っとるのか、まあよい。わしは勇者だ。グランフィードの通行証を貰いに来たのだが」
「勇者ぁああ? そうは見えないが……ああ、どうでもいいや。通行証だな。そこらへんに転がってるから勝手に持ってけ」

 言うだけ言って、男は再び机に突っ伏しいびきをかき始めた。

「よいのか、これは?」
「まあ、持ってけって言ってんだから、いいんじゃないのか?」
「そうですね。ここで足踏みしてる時間も惜しいですし」

 わしらは男の足元を探し、通行証らしき紙切れを三枚見つけた。
 そうしてグランフィードへ戻り、門衛に見せ、無事許可を得ることが出来たのだ。

 わしだけなぜか手荷物検査をされたが。
 ……そんなにわしは勇者に見えないのだろうか?
 見下されている気がして悔しくなったので、やはりオムツを薦めてわしは街入りした。
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